概要情報
| 事件番号・通称事件名 |
東京都労委令和4年(不)第82号
シェーンコーポレーション(配転等)不当労働行為審査事件 |
| 申立人 |
X1組合・X2支部(組合ら) |
| 被申立人 |
Y会社(会社) |
| 命令年月日 |
令和7年7月1日 |
| 命令区分 |
一部救済 |
| 重要度 |
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| 事件概要 |
本件は、会社が、①組合らが労働協約によるストライキ予告を行った時刻が前日の午後11時57分であったことについて抗議することなどを記載した文書を組合らに送付したこと、②組合員A2に対し、レッスンの担当スクールを変更したこと、③人事考課制度においてストライキを欠勤として取り扱ったこと、④組合員A3の令和5年4月の昇給額を1,000円としたことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
東京都労働委員会は、③について労働組合法第7条第3号、④について同条第1号及び第3号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、(ⅰ)ストライキを欠勤とした取扱いをなかったものとし、その場合の昇給額が既実施の昇給額を上回る者についての昇給額の遡及是正と賃金差額の支払、(ⅱ)文書交付等を命じ、その余の申立てを棄却した。 |
| 命令主文 |
1 会社は、令和4年4月1日に導入した人事考課制度に基づく人事考課において、X1組合及びX2支部の組合員らが実施したストライキを欠勤とした取扱いをなかったものとし、ストライキを欠勤として取り扱わなかった場合の昇給額が、既に実施された昇給の額を上回る者については、昇給時に遡って昇給額を是正するとともに、是正した昇給額に基づく賃金支給額と既に支給した賃金額との差額を支払わなければならない。
2 会社は、本命令書受領の日から1週間以内に、下記内容の文書を組合らに交付しなければならない。
記 年 月 日
X1組合
執行委員長 A1殿
X2支部
執行委員長 A2殿
Y会社
代表取締役 B
当社が、貴組合らの組合員らが実施したストライキを人事考課制度上の欠勤として取り扱ったこと及び貴組合らの組合員A3氏の令和5年4月の昇給額を1,000円としたことは、東京都労働委員会において不当労働行為であると認定されました。
今後、このような行為を繰り返さないよう留意します。
3 会社は、第1項及び前項を履行したときは、当委員会に速やかに文書で報告しなければならない。
なお、第1項に係る履行報告においては、昇給額を是正した者の氏名、是正した昇給額及び支給した差額賃金額を明らかにした表を添付しなければならない。
4 その余の申立てを棄却する。 |
| 判断の要旨 |
1 令和4年2月6日、会社が、組合らに対し、組合らが同日に行ったストライキ(以下「本件ストライキ」)に係る予告を行った時刻が2月5日午後11時57分(以下「本件予告時刻」)であったことについて抗議することなどを記載した文書(以下「本件文書」)を送付したことは、組合らの運営に対する支配介入に当たるか否か
(1)組合らは、「本件労働協約には、ストライキの予告時刻に関する定めはなく、会社が本件文書を送付したことは、組合活動を萎縮させるものである」と主張する。
確かに、本件労働協約には、ストライキに係る予告の期限については特に定めがないのであるから、組合らが本件予告時刻に予告を行ったことは、直ちに本件労働協約に違反すると解されるものではなく、また、一般に、ストライキは、労働者が使用者の正常な業務運営を阻害することによって経済的圧力を掛けることにその意義があることからすると、ストライキの実効性確保のために、本件予告時刻にストライキ実施の予告を行うこと自体は必ずしも不合理とまではいえない。
しかし、会社の事業内容からは、①組合らの本件予告時刻は会社の営業時間外であり、会社が本件予告時刻にストライキ実施の予告を受けたとしても、会社が本件ストライキ実施を認識するのはその当日になるものと推認できることに加え、②本件ストライキを実施する組合員の代替講師の配置等の手続に困難が生じ、場合によっては代替講師によるレッスンが実施できず、会社の顧客である生徒等から苦情の申入れを受けるなど、会社にとっては、組合らの本件ストライキ実施により業務運営に一定の支障が生じることが容易に推測できる。これらからすると、会社が、組合らに対し、本件予告時刻について、ストライキの開始前に予告する旨を定めた本件労働協約の趣旨に照らして誠実な対応ではないとして抗議の意思を表明し、より早期の予告を求めること自体には一定の合理的理由があると認められる。
(2)そして、①本件ストライキ実施に対する会社の対応は、組合らのみを名宛人として本件文書を送付したのみであり、別途組合員らに何らかの働き掛けを行った事実は認められず、会社が、組合らに対し、本件文書を送付することにより、組合員以外の従業員に組合らへの加入をちゅうちょさせたり、組合らの求心力を低下させる効果をもたらすものとまではいえないこと、②本件文書の趣旨は、組合らが本件ストライキを実施すること自体を非難するものではなく、主として本件予告時刻に対して抗議の意思を表明し、より早期の予告を求めることを目的としていたとみるのが相当であり、記載内容も「許しがたい」などの一部不穏当な表現は存在するものの、全体的にみれば比較的穏当なものであるといえること、③組合らは、本件文書の送付後も、しばしばストライキ実施前日の深夜やストライキ実施直前に予告を行った上でストライキを実施しており、本件文書の送付によって、組合らの活動に一定の影響を与えたとはいえないことを併せて考慮すると、会社が、組合らに対し、本件文書を送付したことは、組合らの運営に対する支配介入に当たるとまではいえない。
2 令和4年8月27日、会社が、組合員A2に対し、9月3日以降、土曜日のレッスンの担当スクールをR校からT校に変更する(以下「本件配置転換」)旨の通知を行ったことは、正当な組合活動をしたことを理由とする不利益取扱い及び組合らの運営に対する支配介入に当たるか否か
会社が、組合員A2に対し、本件配置転換を行った経緯を検討すると、①A2は、令和4年8月時点において、毎週土曜日に会社のR校にてレッスンを担当していたところ、4年3月から7月までの間、ストライキの実施により、8回にわたり同校におけるレッスンを行わなかったこと、②8回にわたるストライキ実施の予告時刻とA2のレッスン開始時刻とが比較的近接しており、会社において代替講師の手配に一定の困難が生じたと考えられること、③レッスンが行われなかったことについて、生徒の保護者が会社に対して苦情を申し入れたこと、④4年9月以降、R校において土曜日にA2のレッスンを受講する生徒が存在しなくなったことが認められる反面、会社が、A2の担当生徒に対して不当な働き掛けを行うなど、本件配置転換に当たり、不当な動機を持っていたことを推認させる事情は認められない。
加えて、①会社が、A2に対し本件配置転換を行ったのは、R校において土曜日に同人のレッスンを受講する生徒がいなくなったためと考えられるところ、本件配置転換を行っていなければ、会社が、同人について、土曜日にレッスンを担当させない状態を放置したとの評価を受けかねないと考えられること、②本件配置転換によりA2が土曜日にレッスンを担当することになったT校は、同人が水曜日にもレッスンを担当しており、通勤時間もR校との比較において大差ないこと、③雇用契約書及び就業規則には配置転換に関する規定が存在することなどの事情を併せて考慮すると、会社が、A2に対し本件配置転換を行ったことは、正当な組合活動をしたことを理由とする不利益取扱い又は組合らの運営に対する支配介入に当たるとまではいえない。
3 会社が、組合員らが実施したストライキを、令和4年4月1日から導入した人事考課制度において欠勤として取り扱ったことは、組合らの運営に対する支配介入に当たるか否か
(1)会社は、令和4年4月1日から、講師の基本給について七つの評価項目を設け、考課期間における評価に応じた昇降給を行うPRP(Per formanc e-related pay)制度を含む人事考課制度(以下「本件人事考課制度」)を導入した。
この制度では、評価項目のーつとして、欠勤回数が挙げられているところ、ストライキ実施を理由とする不就労の場合は全て欠勤として取り扱われる一方で、有給休暇を取得した場合には、本件人事考課制度における欠勤として取り扱われることはなく、また、病気による不就労の場合は、医師の診断書を提示するなどの手続を履践することより、本件人事考課制度における欠勤として取り扱われない場合があり得るものとなっている。
(2)また、本件人事考課制度の運用状況を検討すると、①A3の4年4月から11月までの人事考課の結果は合計パーセンテージが67%であるところ、会社が、A3のストライキ実施を理由とする欠勤を本件人事考課制度における欠勤として取り扱うことがなければ、欠勤回数は0回、合計パーセンテージは75%、結果として昇給額は月額1,000円ではなく2,000円となること、②A2の4年8月から5年3月までの合計パーセンテージは52%であるところ、同じく、欠勤回数は0回、合計パーセンテージは67%、昇給額は0円ではなく月額1,000円となること、③A4の5年2月から9月までの合計パーセンテージは70%であるところ、同じく、欠勤回数は2回、合計パーセンテージは72%、昇給額は月額1,000円ではなく2,000円となること、④会社は、講師の欠勤について、㋐令和4年は528日のうち39日、5年は715日のうち161日について、それぞれ有給休暇を取得したことにより、㋑令和4年は81日、5年は715日のうち118日について、それぞれ講師が医師作成の診断書や医療費の領収書を提出するなどの手続を履践したことにより、それぞれ本件人事考課制度における欠勤扱いとは取り扱わなかったものの、組合員らのストライキの実施に伴う欠勤については、令和4年及び5年の全てについて欠勤扱いとしたことが認められる。
(3)ア 以上の本件人事考課制度の内容及び運用状況を踏まえると、本件人事考課制度における欠勤の取扱いについて、憲法第28条が保障するストライキ実施を理由とする不就労の場合について、有給休暇の取得による不就労の場合との比較に加え、病気を理由とする不就労との比較においても不利益な取扱いがなされているとみざるを得ず、かかる不利益な取扱いを正当化する合理的理由は認められない。
イ 加えて、①組合らが実施したストライキは、本件労働協約を遵守するものであり、組合員の経済的地位の向上を図ることを目的とし、態様も労務不提供にとどまるものであって比較的穏当なものであるといえ、正当な組合活動であるとみるのが相当であること、②組合らは、本件人事考課制度の導入以前から断続的にストライキを実施しており、これに対し、会社は、本件人事考課制度に関する団体交渉において組合らのストライキを問題視する趣旨の発言を行うなど、組合らのストライキ実施を牽制する姿勢を示していたこと、③会社が、組合員らが実施したストライキを本件人事考課制度において欠勤として取り扱うことにより、組合員らは恒常的に基本給の昇給幅が抑制されることからすると、組合員らが受ける不利益の程度が小さいものとはいえないこと、④本件人事考課制度の導入開始前後の比較において、X2支部の組合員数に相当程度の減少傾向がみられることなどの事情を併せて考慮すると、本件人事考課制度の導入経緯に関する会社の主張(1年間を通じて同じ担当講師が生徒のレッスンを担当することが望ましく、皆勤の講師を積極的に評価すること等)を踏まえてもなお、会社が、組合員らが実施したストライキを本件人事考課制度において欠勤として取り扱ったことは、組合らの組合活動に対する萎縮効果を招くものであるといえ、組合らの運営に対する支配介入に当たる。
4 会社が、A3の令和5年4月の昇給額を1,000円としたことは、正当な組合活動をしたことを理由とする不利益取扱い及び組合らの運営に対する支配介入に当たるか否か
上記3のとおり、A3の令和4年4月から11月までの本件人事考課制度に基づく人事考課について、会社がストライキ実施を理由とする欠勤を本件人事考課制度における欠勤として取り扱うことがなければ、同人の昇給額は月額1,000円ではなく2,000円になっていたものであるから、会社が、A3の令和5年4月の昇給額を1,000円としたことは、労働組合法第7条第1号本文にいう「不利益な取扱い」に当たる。
そして、上記3(3)イ及びロの①から④までの各事項、並びに、会社が、組合員らが実施したストライキを本件人事考課制度において欠勤として取り扱ったことは、組合らの運営に対する支配介入に当たること(上記3)などの事情を併せて考慮すると、会社がA3の令和5年4月の昇給額を月額1,000円としたことは、正当な組合活動をしたことを理由とする不利益取扱いに当たるとともに、組合らの運営に対する支配介入に当たる。 |
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