労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  広島県労委令和6年(不)第3号
メインストリーム不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y法人(法人) 
命令年月日  令和7年6月27日 
命令区分  全部救済 
重要度   
事件概要   本件は、法人が、組合員A2が法人の職員から受けたとする誹謗・中傷等を団体交渉事項とした団体交渉の要求(以下「本件団体交渉要求」)に応じなかったことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 広島県労働委員会は、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると判断し、法人に対し、(i)団体交渉応諾、(ⅱ)文書の手交及び掲示を命じた。 
命令主文  1 法人は、組合が令和6年5月30日付けで申し入れた団体交渉に対して、本命令書受領の日から2週間以内に応じなければならない。

2 法人は、本命令書受領の日から2週間以内に下記内容の文書を組合に手交するとともに、縦1メートル、横1メートルの大きさの白紙に明瞭に記載し、M特別養護老人ホーム正面玄関の職員が見えやすい場所に2週間掲示しなければならない。
 年 月 日
X組合
 委員長 A1様
Y法人     
理事長 B
 当法人が、貴組合の申し入れた団体交渉に応じなかったことは、広島県労働委員会において、労働組合法第7条第2号に当たる不当労働行為であると認められました。
 今後は、このような行為を繰り返さないようにいたします。 
判断の要旨  ○本件団体交渉要求に対する法人の対応は、労働組合法第7条第2号の不当労働行為に該当するか(争点)

1 本件団体交渉要求における議題について

 本件団体交渉要求における議題は、令和6年5月30日付け団体交渉要求書(以下「本件団体交渉要求書」)によれば、議題①の「1 A2さんに対するいわれなき誹謗・中傷について」と議題②の「2 掃除だけではなく介護業務に付(ママ)けること」であった。
 そして、議題①は労働者の職場環境の改善に関する事項であり、議題②はA2が従事する業務の内容に関することであるから、いずれも組合員の労働条件その他の待遇に関する事項であり、また、使用者である法人において処分可能であることから、義務的団体交渉事項に当たる。

2 法人の対応は団体交渉拒否といえるか

(1)ア 法人が組合に対し、団体交渉を拒否し又は組合の本件団体交渉要求に応じない旨の意向を明示的に表明したことはうかがわれない。

イ しかし、本件救済申立てに至る経過等をみると、組合は法人に対し、本件団体交渉要求書等を郵送して議題①及び議題②に係る令和6年6月10日開催日の団体交渉を申し入れたが、法人がこれに応じて同日に団体交渉が行われることはなかった。
 また、審問における組合代表者の供述からすれば、組合と法人の間で同年6月21日を団体交渉実施の代替日としたことが認められるところ、同日に団体交渉は行われていない。
 そして、組合は同年7月1日に当委員会に対し、本件団体交渉要求に応じること等を調整事項とするあっせん申請を行ったが、当委員会のあっせんの諾否の確認に対し、法人は一旦応じる意思を示したものの、その後あっせん開催日の日程調整に応じず、実質的にあっせん手続を拒否したものとして同年8月9日に打切りとなった。そのため、同年8月16日、組合は本件救済申立てを行ったものである。

ウ なお、法人は、本件救済申立て後に組合から追加でなされた団体交渉の要求にも応じていない。さらに、本件審査手続においても、全ての調査及び審問の期日に出席せず、当委員会の度重なる促しにもかかわらず主張・立証を一切行っていない。

エ 上記経過のとおり、組合の本件団体交渉要求に対して、団体交渉は現実に行われていない。さらに、法人の対応をみても、法人が本件団体交渉要求に応じようとする姿勢であったとは認められない。

(2)加えて、労働組合法の趣旨からすると、使用者は、労働組合が申し入れた団体交渉に誠実に応じることが求められるから、団体交渉の実施予定日が都合が悪く出席できない場合には、代替日を提示したり先の見通しを明らかにするなど、団体交渉の実施に向けて誠実な努力を行うことが求められると解される。
 しかし、組合と法人の間で団体交渉実施の代替日とした令和6年6月21日に団体交渉は行われておらず、その後、法人が、別の代替日を提示するなど団体交渉の実施に向けて誠実な努力を行ったと認めるに足る事情は見当たらない。
 なお、仮に、組合と法人の間で同日を団体交渉実施の代替日としたことが認定できないとしても、代替日が決まっていないのであれば、団体交渉の実施に向けてなおさら法人は誠実に努力することが求められるが、このような努力を行ったと認めるに足る事情は見当たらない。
 したがって、いずれにしても法人の対応は不誠実であったというべきである。

(3)以上のとおり、本件団体交渉要求から本件救済申立てまでの約2か月半の間に団体交渉は全く行われておらず、本件団体交渉要求に対する法人の対応が不誠実であったことも踏まえると、法人が本件団体交渉要求を拒否していることは明らかである。

3 団体交渉を拒否したことに正当な理由があるか

 法人は、本件審査手続において、団体交渉拒否の理由について何ら主張も立証もしていない。また、証拠及び審査の全趣旨に照らしても、法人による本件の団体交渉拒否を正当化する特段の事由も認められない。
 なお、本件団体交渉要求における議題が義務的団交事項と認められる以上、法人は団体交渉の場で、組合の要求事項に対して、法人の回答や主張等を具体的な根拠に基づいて丁寧に説明しなければならないのであるから、仮に法人がA2への対応や業務指示等に問題がないと考えていたとしても、そのことが団体交渉を拒否する正当な理由を根拠付けることにはならない。
 したがって、法人が組合との団体交渉を拒否したことに、正当な理由は認められない。

4 結論

 以上からすると、法人は、本件団体交渉要求に応じる義務があったにもかかわらず正当な理由なくその義務を果たさなかったものであり、このような法人の対応に酌むべき事情は見当たらない。したがって、本件団体交渉要求に対する法人の対応は、正当な理由のない団体交渉拒否として、労働組合法第7条第2号の不当労働行為に該当する。

5 付言
 なお、付言するに、法人は、本件審査手続外において審査委員宛てなどの文書を当委員会に送付している。当該文書には、「本件は労使の問題など存在せず雇用関係の問題ではないことから、労働委員会規則第33条第1項第5号及び同項第6号に基づき本件救済申立ての却下を求める、団体交渉拒否には正当な理由がある」旨の記載がある。
 しかし、仮にこれらの見解が本件審査手続の中で主張されたものであったとしても、以下のとおり、その主張には理由がない。

(1)申立ての却下を求める主張があったと仮定した場合について

ア 労働委員会規則第33条第1項第5号に基づき申立ての却下を求めるとの主張があったと仮定した場合について、申立ての内容から直ちに「組合の主張する事実が不当労働行為に該当しないことが明らかなとき」に当たるとはいえない。

イ 労働委員会規則第33条第1項第6号に基づき申立ての却下を求めるとの主張があったと仮定した場合について、請求する救済の内容の「本件団体交渉要求に誠実に応じること」は、「請求する救済の内容が、法令上又は事実上実現することが不可能であることが明らかなとき」に当たらない。

(2)団体交渉拒否には正当な理由があるとの主張があったと仮定した場合について

 前記3で判断したとおりである。 

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