概要情報
| 事件番号・通称事件名 |
東京都労委令和5年(不)第37号
飛鳥交通第六不当労働行為審査事件 |
| 申立人 |
X組合(組合) |
| 被申立人 |
Y会社(会社) |
| 命令年月日 |
令和7年4月8日 |
| 命令区分 |
全部救済 |
| 重要度 |
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| 事件概要 |
本件は、2回の団体交渉における会社の対応が不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
東京都労働委員会は、会社が第1回団体交渉で約束した文書回答をその後行わず、第2回団体交渉でその理由について合理的な説明をしなかったこと等について、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、(i)組合が令和5年3月20日付けの要求書に係る団体交渉を申し入れたときは、文書による回答を提示して誠実に応じなければならないこと、(ⅱ)文書の交付及び掲示等を命じた。 |
| 命令主文 |
1 会社は、組合が令和5年3月20日付けの「要求書」に係る団体交渉を申し入れたときは、文書による回答を提示して誠実に応じなければならない。
2 会社は、本命令書受領の日から1週間以内に、下記内容の文書を組合に交付するとともに、同一内容の文書を55センチメートル×80センチメートル(新聞紙2頁大)の白紙に楷書で明瞭に墨書して、会社の従業員が見やすい場所に10日間掲示しなければならない。
記
年 月 日
X組合
執行委員長 A1殿
Y会社
代表取締役 B1
令和5年5月17日に開催された貴組合との団体交渉における当社の対応は、東京都労働委員会において不当労働行為であると認定されました。
今後、このような行為を繰り返さないよう留意します。
3 会社は、前項を履行したときは、速やかに当委員会に文書で報告しなければならない。 |
| 判断の要旨 |
○令和5年3月20日及び5月17日の団体交渉における会社の対応は、不誠実な団体交渉に当たるか否か(争点)
1 会社は、「団体交渉において、文書で回答しなければならない義務はなく、本件で組合が求めた事項について、文書回答をすることが不可欠な事情はない」と主張する。
しかし、本件においては、令和5年3月20日の第1回団体交渉において、会社の部長B2が、組合の要求書の4項目の要求事項全部について、文書回答することを約束している。しかも、部長B2が、営業車30台の減車について、組合に承諾書への押印を求めたのに対し、組合の委員長A1は、「要求書の要求事項1から4までの全部について文書の回答をもらえるのであれば、押印することはやぶさかではない」と述べ、部長B2は、「それはお約束させていただきます」と答えたという経緯があり、このやり取りを踏まえ、組合は、第1回団体交渉終了後、その場で営業車30台の減車に係る承諾書に押印している。
このような事情を考慮すれば、会社は、組合の要求書の4項目の要求事項全部について、特段の事情が認められない限り、文書回答をする義務があったというべきであり、第1回団体交渉における約束を覆した会社の対応は、極めて問題といわざるを得ない。
2 会社が、令和5年5月17日の第2回団体交渉において、文書回答ができない理由として述べたのは、「本社に確認したところ、回答は口頭で行うよう指示があった、口頭ではいくらでも回答するが、基本、文書では出さない」というものであり、第1回団体交渉における約束を覆したことを正当化するような合理的な理由とは到底認められない。
会社は、「グループ会社の他の労働組合には文書での回答をしておらず、組合にも他の労働組合と平等に誠実な労使対応をしている」とも主張するが、他の労働組合に文書回答を行っていないとしても、グループ会社と各労働組合との交渉内容や経緯は異なり得る以上、団体交渉の状況によっては、文書回答が必要な場面が生じることはあり得るのであり、本件において第1回団体交渉における約束を覆す合理的な理由とはいえない。
3 第2回団体交渉において、組合は、文書回答を求める理由について、文書でないと何も証拠が残らない、文書でないと労使の担当者同士の間の話で終わってしまう、文書にしておかないと、後から団体交渉の出席者より上席の者に覆されるおそれがある、何かと状況が変化し、二転三転する業界なので、手続として文書での回答をお願いしたいなど、それ相応の事情を説明している。
また、現に一度口頭でなされた約束が、その後、合理的な理由も示されず覆されたとみられなくもない本件の経過からすれば、組合の懸念には相応の理由も認められることにも鑑みると、少なくとも本件では、会社は、仮にどうしても文書による回答ができないのであれば、組合の上記各事情を踏まえて、団体交渉における会社回答の提示の在り方を模索し、組合との合意を得る努力をするべきであったといえる。
4 要求書の要求事項3の賃金改定については、会社が令和4年11月12日などに賃金改定についての協定書案の同意を求めたのに対し、組合が回答書を提出して、同意できない理由を示した経緯があり、第2回団体交渉において、会社は、いわゆるコロナ禍の時、乗務員の賃金保障をしてきた結果、赤字を返済していかなければならないなどと述べ、乗務員の賃下げにならない程度で会社に配分することに協力してもらえないかということだと説明したのに対し、組合は、それは我々には賃下げとしか思えないと述べ、ただ口頭で厳しい厳しいと言っても分からないので、きちんと文書で根拠を示して、我々を説得して欲しいと述べた。この組合の言い分には相応の理由があり、この件について、ロ答のみの説明で済まそうとした会社の対応は、組合との合意を模索する姿勢に欠けていたとみざるを得ない。
5 会社は、「組合の要求事項について、会社が口頭で回答をしようとした際に、むしろ組合側が、会社による口頭での回答を拒絶し、繰り返し文書での回答を求めた」とも主張する。
このことに関して、第2回団体交渉において、会社側の弁護士B3が、「もう少し詳しく回答できるように準備をしてきた」と述べたのに対し、委員長A1が、「要求事項についてのT営業所長の口頭での説明は、これまでの会社のスタンスと同じ概要の説明であり、組合が求めているのは、根拠を示した回答らしい回答である、それを文書で取りまとめていただきたい、文書でないと、委員長A1とT営業所長との間の話で終わってしまう」と答えたやり取りが認められる。このやり取りからは、会社による口頭での詳しい回答を委員長A1が拒絶したようにみえなくもないが、委員長A1の真意は、根拠を示した回答を求めることにあり、その上でそれを文書で交付してもらいたいと要望するものであったとみるべきであり、組合が文書回答案の代替案〔注後出7参照〕も提案していたところからみても、文書でないなら口頭での回答も不要であるとして、会社による口頭での回答を拒絶したとまではいえない。2回の団体交渉を通じて、組合が会社による口頭での回答を拒否したという事情は特に認められず、組合は、会社による口頭での回答を受けつつも、それで終わりにせず文書での回答を出すように求めていたのであるから、会社の主張は採用することができない。
6 会社は、第2回団体交渉において、組合に対し、団体交渉を録音したり、書記が記録を取ることではだめなのかと質問したり、口頭でも交渉がまとまることはあるのではないかと述べたり、会社側の責任のある方々と一緒に話をすれば、信ぴょう性が高いのではないか、会社の責任ある立場の者がそろった中での口頭での回答として、信用して交渉を進めてもらえないかと述べるなどの発言も行っているが、組合は、いずれに対しても、文書回答が必要である旨を答え、会社の提案を退けている。
しかし、第2回団体交渉において、組合が、文書回答を求める理由について、それ相応の事情を説明しているにもかかわらず、会社は、文書回答ができない合理的な理由を説明していないことなどからすれば、組合が、文書回答を行わないことを前提とする会社の上記提案を受け入れなかったのも無理からぬことである。
7 第2回団体交渉は、文書回答の代替案として、組合の書記次長A2が、「団体交渉の録音を起こして、それに出席者全員が署名したものを団体交渉議事録として残すのであれば、文書回答でなくてもよい」と述べたのに対し、部長B2が、「それも含めて、ちょっと検討させていただきます。」と答えたところで終了した。しかし、会社が、その後、組合の上記代替案を検討した形跡はなく、令和5年5月27日に、組合が、会社に対し、同日付けの「団体交渉回答確認書」を交付して上記代替案についての会社の回答を求めたにもかかわらず、会社は、組合に回答していない。このような対応からも、組合との合意を模索する姿勢に欠けた会社の姿勢がうかがわれる。
8 このように、①第1回団体交渉において、会社が、組合の要求書の4項目の要求事項全部について、文書回答することを約束し、それを受けて組合が、会社が要望した営業車30台の減車に係る承諾書に押印したという経緯があるにもかかわらず、会社は、第1回団体交渉における組合の要望した文書回答を行うという約束を覆したこと、②第2回団体交渉において、組合が、文書回答を求める理由について、会社が翻意するおそれがあることなど、それ相応の事情を説明しているにもかかわらず、会社は、文書回答ができない合理的な理由を説明していないこと、③賃金改定に係る説明や、文書回答の代替案の検討において、組合との合意を模索する姿勢に欠けた会社の姿勢がうかがわれることなどからすれば、令和5年5月17日の第2回団体交渉における会社の対応は、誠実さに欠けるものであったといわざるを得ない。
したがって、令和5年3月20日の第1回団体交渉における会社の対応は、必ずしも不誠実であるということはできないが、会社が、第1回団体交渉で約束した文書回答を、その後本社からの指示でできないとし、そのことを議題として開催された同年5月17日の第2回団体交渉で、文書回答ができない理由について合理的な説明をしなかったこと、さらには、第2回団体交渉で検討するとした組合の代替提案についての回答を行わなかったことは、不誠実な団体交渉に当たるといわざるを得ない。 |