概要情報
| 事件番号・通称事件名 |
東京都労委令和5年(不)第31号
中央ケネル事業協同組合連合会不当労働行為審査事件 |
| 申立人 |
Xユニオン(組合) |
| 被申立人 |
Y事業協同組合連合会(法人) |
| 命令年月日 |
令和7年5月13日 |
| 命令区分 |
全部救済 |
| 重要度 |
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| 事件概要 |
本件は、法人が、組合員A2の解雇等を議題とする団体交渉後、再度の団体交渉の申入れに応じないことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
東京都労働委員会は、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると判断し、法人に対し、(ⅰ)適切な資料を提示して論拠を説明するなどして、団体交渉に誠実に応じなければならないこと、(ⅱ)文書交付等を命じた。 |
| 命令主文 |
1 法人は、組合が令和5年3月26日付け及び4月12日付けで申し入れた団体交渉に、適切な資料を提示して論拠を説明するなどして誠実に応じなければならない。
2 法人は、本命令書受領の日から1週間以内に、下記内容の文書を組合に交付しなければならない。
記
年 月 日
Xユニオン
執行委員長 A1殿
Y法人
代表理事 B
貴組合からの、令和5年3月26日付け及び4月12日付けの団体交渉の申入れに応じなかった当法人の対応は、東京都労働委員会において不当労働行為であると認定されました。
今後、このような行為を繰り返さないよう留意します。
3 法人は、前項を履行したときは、当委員会に速やかに文書で報告しなければならない。 |
| 判断の要旨 |
1 令和5年2月10日、法人は組合員A2に対し、主位的に懲戒解雇とし、予備的に普通解雇(以下、併せて「本件解雇」)とする旨の通知を行い、同年3月16日、組合と法人とは、本件解雇等を議題とする団体交渉(以下「本件団体交渉」)を行った。
本件団体交渉後、組合が、法人に対し、複数回にわたり団体交渉の申入れを行ったところ、当該申入れを拒否した法人の対応が正当な理由のない団体交渉拒否に当たるかについて、以下検討する。
2 本件団体交渉に際して、法人は、組合に対し、本件解雇に至る経緯に関する文書を事前に送付し、本件団体交渉においても、就業規則を交付するとともに解雇事由に関する法人の見解を説明しており、組合も、法人の説明を受けて、結論は受け入れられないとしながらも本件解雇に至る経緯について一定の理解を示しているといえることから、法人は、本件団体交渉において、一定程度の説明を行い、合意達成を模索していたものと認められる。
しかし、本件団体交渉において主として議論の対象となったのは、5件の解雇事由のうちの1件である(法人が運営するCクラブにおける168万5990円の)所在不明金に関するもののみであり、残余の4件の解雇事由については相応の議論が展開されていたとは認められず、所在不明金に関する解雇事由についても議論が尽くされていたとは認めることができない。
3 本件団体交渉において、組合が、法人に対し、本件嘆願書〔注 職員2名が連合会に対し、「一人の職員」が、Cクラブの不正な入出金を行っていた、同僚や上司への誹誇中傷などの行為を繰り返しているなどとして、職場内の環境改善と当該職員の厳正な処分を求める旨を記載した嘆願書〕の開示を求めていたところ、①本件嘆願書の内容は、本件解雇に至る経緯を説明する上で重要な資料であったものと認められること、②法人は、作成者の意向を踏まえて開示を検討する旨を述べ、組合も、本件嘆願書の開示の条件や方法について柔軟に応じる姿勢を示していたといえること、③法人も、本件嘆願書を秘匿する必要性が高かったものと認識していたとまでは認め難いことを勘案すると、条件や方法は議論の余地があるとしても、法人が組合に本件嘆願書を開示することにより、本件解雇について、更なる議論が展開される可能性があったものとみるのが相当である。
4 ①本件団体交渉において、組合は、法人に対し、A2の労働時間管理の問題点を指摘するとともにA2のタイムカードの開示を求め、法人も、組合からの指摘を受けて、法律に従った対応を執る旨を述べていたこと、②組合は、本件団体交渉後の団体交渉申入れに際して、A2の時間外労働の点に言及しており、A2の時間外労働についても交渉議題としていたものとみるのが相当であることからすると、組合と法人との間では、A2の時間外労働に関する議論が尽くされていたとは認められない。
5 本件団体交渉後の団体交渉申入れにおいて、組合は、法人に対し、退職金規程の開示を求めていたことから、上記申入れはA2の退職金支給を交渉議題としていたものとみるのが相当である。
そして、法人の退職金規程では、3年以上勤続した職員には退職金を支給するものとされているところ、A2の勤続期間は、本件解雇時において3年を超えていたことなどから、組合と法人との間では、A2の退職金支給に関する議論が尽くされていたとは認められない。
6 法人は、「本件団体交渉において、組合が本件組合行為〔注組合が持参した連合会が発行する証明書のひな形について、重要書類であるとして返還を求め、抗議を続ける法人に対し、組合の執行委員長(当時)が「頭来たから」と述べ、当該ひな形を投げ付けた行為〕を行ったことから、今後、法人が組合との間で団体交渉を継続することは、法人の関係者が、誹謗中傷や身体的な危険にさらされる可能性が高く、実益がないどころか危険であるというべき」と主張する。
この点、団体交渉は、労使間の信頼関係の下に行われるべきで、また、労働組合法第1条第2項ただし書において「いかなる場合においても、暴力の行使は、労働組合の正当な行為と解釈されてはならない。」と規定している法の趣旨に照らせば、本件組合行為は容認できないものであると評価せざるを得ないが、一方で、①組合は、本件組合行為について速やかに謝罪をしていたこと、②法人の交渉員も一時的に会場を退出した後に団体交渉に復帰し、その後は特に団体交渉が中断されたことはうかがわれないこと、③将来行われる団体交渉の場でも組合が同様の行動に出る蓋然性が高いことを的確に疎明する証拠はないことなどの事情を併せて考慮すると、本件組合行為が行われたことをもって、以後の団体交渉に応じない理由となるほどの危険があったとまでは認められない。
7 法人は、「本件の調査手続においてA2のタイムカードを含めて提出し得る全ての資料を提出していること、準備書面において本件解雇に至る経緯やその有効性について十分な説明を行っているのであって、本件の調査期日が、労働委員会における委員を交えた団体交渉であるというべき性質のものであり、法人は、求められた事項について説明及び資料提出を行っている」と主張する。
しかし、使用者が労働者の代表者と直接交渉する団体交渉と、労働委員会の審査手続とはその制度や目的が異なり、労働委員会における主張立証活動をもって、団体交渉における説明等に代えることはできないものであるから、上記各資料の証拠提出の事実をもって、法人が団体交渉において誠実交渉義務を尽くしたということはできない。
8 以上から、本件団体交渉以降、法人が団体交渉に応じなかったことは正当な理由のない団体交渉拒否に当たり、労働組合法第7条第2号に該当する。 |