労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  京都府労委令和5年(不)第2号
宝池自動車教習所不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和7年6月19日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、会社が、①新設した職務給(検定手当を除く)を組合員に支給しないこと、②高齢者講習指導員としての定年後再雇用を希望する執行委員長Aに対し、資格取得に必要な研修を受講させていないこと、③運転適性検査指導員資格を取得したAら6名の組合員に対し、当該指導業務に従事させていないこと、④令和4年5月20日に「団体交渉報告」と題する文書(以下「本件文書」)を職員室に掲示したことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 京都府労働委員会は、④について労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、(ⅰ)当該文書の撤去、(ⅱ)文書掲示を命じ、その余の申立てを棄却した。 
命令主文  1 会社は、直ちに、令和4年5月20日に職員室に掲示した「団体交渉報告」と題する文書を撤去しなければならない。

2 会社は、本件命令書受領の日から1週間以内に、下記内容の文書を縦1.5メートル、横1メートルの白紙に楷書で明瞭に墨書し、会社の従業員の見やすい場所に10日間掲示しなければならない。
 年 月 日
X組合
 執行委員長 A様
Y会社        
代表取締役 B1
 当社が2022年5月20日に職員室に「団体交渉報告」と題する文書の掲示を行ったことは、京都府労働委員会において、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為と認定されました。
 今後このような行為を繰り返さないようにいたします。

3 組合のその余の申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 賃金規程第11条第6項の規定に係る本件申立ては、労働組合法第27条第2項の申立期間内に行われたものといえるか(争点1)

 会社においては、賃金規程が令和3年3月21日に改定され、それ以降、非組合員には同規程第11条第3項の職務給が支給され、組合の組合員には当該職務給(検定手当を除く)が支給されないこととされたが、上記改定に基づく非組合員と組合員との相違が具体的に実現するのは、同年4月以降の毎月の賃金支給日における組合員に対する職務給の不支給の際である。このことに加え、上記相違に関しては継続して交渉が続けられていたことも踏まえれば、上記改定と組合員に対する毎月の職務給の不支給は、継続して行われる一括して一個の行為とみるべきであり、「継続する行為」に当たる。
 そして、上記毎月の職務給の不支給は、本件申立て時(令和5年7月12日)において継続しているのであるから、賃金規程第11条第6項の規定に係る本件申立ては、労働組合法第27条第2項の申立期間内に行われたものである。

2 会社が、令和3年3月21日に賃金規程に第11条第6項の規定を置いたこと及びそれ以降の同規程第11条第3項第2号から第13号までに規定する資格を有する組合員に対する前各号所定の職務給の不支給は、労働組合法第7条第1号の不利益取扱いに該当するか(争点2)

(1)賃金規程第11条第6項において、所定内労働時間が1,950時間の従業員すなわち組合員に対しては、同条第3項の職務給(検定手当を除く)が支給されない旨が規定されており、確かにこの条文だけをみれば組合員に不利益であるとも解される。
 しかし、会社においては、平成23年以降、複数の賃金体系が併存しており〔注〕、それぞれ年間所定労働時間、基本給及び諸手当について異なる定めがされてきた。このような経緯を踏まえれば、労働組合法第7条第1号の不利益性を判断するに当たっては、特定の手当の有無を捉えて不利益性の有無を論じることは相当でなく、組合員と非組合員に適用されている賃金体系の全体、すなわち年間所定労働時間の違いも含めた賃金ⓐと賃金ⓓの全体を比較検討して判断すべきである。

〔注〕会社においては、平成22年、同23年及び令和3年に賃金体系の見直しが行われ、採用時期や新賃金体系への同意の有無により、結果として、組合員6名には賃金ⓐ(平成22年までの賃金体系で、年間所定労働時間1,950時間)が、非組合員には賃金ⓓ(令和3年に導入された賃金体系で、年間所定労働時間2,085時間)が適用されている。

(2)そこで、賃金規程の内容を検討すると、基本給(第7条)、年齢給(第8条)及び勤続給(第10条)については賃金ⓐと賃金ⓓでその支給額を区別しており、このうち年齢給及び勤続給については教習指導員と事務員との違いにより、賃金ⓐが優位である場合と賃金ⓓが優位である場合がある。また、第11条の職務給の一部については支給を賃金ⓓに限定していたが、年齢加給(第9条)及び調整給(第12条)のように賃金ⓐに限定しているものもある。
 賃金ⓐと賃金ⓓでは、そもそもの年間所定労働時間について1,950時間と2,080時間という差があることも考慮すれば、賃金ⓐと賃金ⓓは、どちらかが有利であるとは判然と断じ得るものではない。また、団体交渉の経緯を踏まえれば、組合員に賃金ⓐが適用されるのは、これらの団体交渉の結果であるとも解される。以上の点を考慮すれば、会社が賃金規程に第11条第6項の規定を置いたこと及び組合員への職務給の不支給は、労働組合法第7条第1号の不利益取扱いであるとすることはできない。

3 会社が、委員長Aに対し、高齢者講習指導員資格を取得するよう業務命令を行っていないことは、労働組合法第7条第1号の不利益取扱いに該当するか(争点3)

(1)令和5年1月16日、委員長Aは高齢者講習指導員資格の取得を希望したが、会社から同人を高齢者講習指導員として再雇用する予定がないため資格を取得させることはないと告げられた。会社においては、定年後再雇用者は高齢者講習指導又は送迎、清掃及び整備のいずれかの業務に従事するとされており、高齢者講習指導に従事するには資格を取得する必要があること、本件申立て時においては、高齢者講習指導と送迎等とでは賃金に差があったことからすれば、高齢者講習指導員資格を取得するよう業務命令を受けることができないことには、相応の不利益性がある。

(2)この点、会社は、上記業務命令を行っていない理由として、①委員長Aには事故が多いこと及び②会社においては高齢者講習指導員の有資格者が充足していることを主張しており、以下検討する。

(3)委員長Aには事故が多いとの会社の主張について
 会社は、その根拠として会社は、教習指導員ごとの、平成15年から令和5年までの21年間の事故件数をまとめたものを挙げるが、委員長A以外の教習指導員の就業期間については明らかではなく、単純に累積事故件数を比較して同人は事故が多いとすることには疑義がある。また、既に高齢者講習指導員として再雇用されている者と比較して著しく委員長Aの事故が多いとの主張立証はなされておらず、逆に、会社が、同人に業務命令はしないと伝えた際に、その説明として同人に事故が多いとの説明をしなかったことも併せ考えると、会社の主張には疑問が残る。

(4)高齢者講習指導員の有資格者が充足しているとの会社の主張について
 令和4年5月に、C自動車教習所の廃業に伴い、会社は、高齢者講習指導員資格を有する5名を含む8名の従業員を新たに雇用したことにより、令和5年1月16日の委員長Aとの定年後再雇用の面談の際には、有資格者は既に充足していたと解される。
 この有資格者の充足について、上記面談の際に委員長Aに説明しなかったことについては、やや適切性を欠く面があると思料するが、高齢者講習指導員の有資格者が充足している以上、経費をかけてまで、更に有資格者を養成しないということには、会社経営の観点からいえば合理性があるといわざるを得ない。

(5)以上から判断すると、会社が、委員長Aに対し、高齢者講習指導員資格を取得するよう業務命令を行っていないことは、経費をかけてまで更に有資格者を養成しないとの経営判断によるものであり、これを委員長Aが組合員であることを理由とするものと認めることはできない。

4 会社が、令和5年2月に掲出された運転適性検査指導員資格講習会の案内に応募した委員長Aら6名の組合員に対し、同資格取得後に運転適性検査指導業務に従事させていないことは、労働組合法第7条第1号の不利益取扱いに該当するか(争点4)

 運転適性検査指導業務の実務経験は、高齢者講習指導員資格を取得するために必須であることから、これに従事できないことは、相応の不利益性がある。
 しかし、1日当たり3名で足りるところ既に高齢者講習指導員を有する者が20名いる現状においては、6名の組合員を運転適性検査指導業務に従事させていないことには合理的理由があり、加えて1名の非組合員についても当該業務に従事させていないことからすると、会社が6名の組合員を同業務に従事させていないことは、組合員であることを理由として行ったものとはいえない。

5 本件文書を職員室に掲示したことに係る本件申立ては、労働組合法第27条第2項の申立期間内に行われたものといえるか(争点5)

 会社は、掲示は単発的な1回的行為であると主張する。
 しかし、本件文書は、その掲示が継続する間はその表現内容がこれを見る者に到達し続けるものである上、また組合が掲示の撤去を繰り返し求めているにもかかわらず掲示を続けていることも踏まえると、本件文書の掲示は「継続する行為」に当たるというべきである。そして、本件文書は審問終結時点においてもなお掲示され続けているのであるから、本件文書の職員室への掲示に係る本件申立ては、労働組合法第27条第2項の申立期間内に行われたものである。

6 会社が、本件文書の職員室への掲示を行ったことは、労働組合法第7条第3号の支配介入に該当するか。(争点6)

 本件文書の内容について、会社は、(同年5月28日開催の)団体交渉の結果を報告するものにすぎないと主張する。
 しかし、組合と会社は令和2年10月以降、賃金体系の統一につき団体交渉を続けたにもかかわらず、合意に至っていない経緯を踏まえれば、本件文書にある「一方で、新賃金体系へ移行を希望される旧賃金体系の職員を拒否するものではありません。会社の意向に賛同し、新賃金体系へ移行して頂くのであれば、喜んでお受けいたします。」との記載は、労使交渉を通じて賃金問題を解決しようとする組合の交渉方針に介入するものであり、労働組合法第7条第3号の支配介入に該当するといわざるを得ない。
 この記載に関しては、「賃金ⓐの従業員から賃金ⓓに変更したいと申出があったときに、組合員であることを理由に賃金ⓓに変更できないことが不当労働行為に当たることから、会社の姿勢を念のために確認したにすぎない」と会社は主張する。しかし、会社は、団体交渉においても、賃金体系の統一に関して、「組合員個人と個別に話したい、そうしないと解決しない」旨の発言をしていることを踏まえれば、本件文書の上記記載の意図は、組合との団体交渉では妥結できないため、組合員との個別交渉を求めるものであると解さざるを得ない。 

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