労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  東京都労委令和4年(不)第35号
日本自動車運転士労働組合東京支部不当労働行為審査事件 
申立人  Xユニオン(組合) 
被申立人  Y労働組合支部(法人) 
命令年月日  令和7年4月22日 
命令区分  全部救済 
重要度   
事件概要   本件は、法人が、組合が申し入れた、法人の分会に雇用されていた組合の組合員A2に対する配転又は退職の要求、ハラスメントなどを議題とする団体交渉に応じなかったことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 東京都労働委員会は、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると判断し、法人に対し、(ⅰ)団体交渉応諾、(ⅱ)文書の交付及び掲示等を命じた。 
命令主文  1 法人は、組合が令和4年2月8日付けで申し入れた団体交渉に応じなければならない。

2 法人は、本命令書受領の日から1週間以内に、下記内容の文書を組合に交付するとともに、同一内容の文書を55センチメートル×80センチメートル(新聞紙2頁大)の白紙に、楷書で明瞭に墨書して、法人事業所の従業員の見やすい場所に、10日間掲示しなければならない。
 年 月 日
X組合
 運営委員長 A1殿
Y法人        
執行委員長 B1
 貴組合が令和4年2月8日付けで申し入れた団体交渉に応じなかった当法人の対応は、東京都労働委員会において不当労働行為であると認定されました。
 今後、このような行為を繰り返さないよう留意します。

3 法人は、前項を履行したときは、当委員会に速やかに文書で報告しなければならない。 
判断の要旨  1 法人は、組合員A2との関係で労働組合法上の使用者に当たるか(争点1)

(1)組合員A2との雇用契約の締結当事者となったのは、法人ではなく法人のT分会(以下「T分会」)であったことは当事者間に争いがなく、A2は、T分会の分会長の指示の下に業務を行っていたのであるから、A2の労働条件を直接決定し、同人への業務上の指揮命令を行っていたのはT分会であるとみることができる。

(2)しかし、法人とT分会との関係について、①T分会は法人格を有しない一方で、法人は独立した法人格を有し、厚生労働大臣から許可を受けて、T分会を含む六つの分会及び東日本事務所において労働者供給事業を行う事業主体であること、②分会長を含むT分会の組合員は、同時に法人の組合員であること、③法人はT分会を労働者供給事業所として申請し、労働者供給事業の許可を受けており、T分会では法人が供給先事業者と締結した労働者供給契約に基づき労働者供給事業を行っていたこと、④T分会の分会長は、労供事業所の責任者として法人が許可を受けた労働者供給事業に従事し、法人から給与名目の金銭を支給されていたことから、法人の被用者といえること、⑤A2は、事業所長であるT分会の分会長の指示の下、事業所であるT分会において、会計事務や電話対応、帳簿作成などといった労働者供給事業に係る配車業務の補助を行っていたのであり、法人が行う当該事業に関する事務作業を行う労働者であることから、A2の労務提供先は法人であると評価できること、⑥T分会は法人の決定に抵触した行為を行うことができない上、法律上、労働者供給事業は無料で行う旨規定されており、T分会は法人から支給を受ける分会活動費以外に独自に収入を獲得する機会を有していないと推認できることなどの事情が認められる。
 加えて、①A2に対する退職要求を決定した令和3年10月1日の分会運営委員会には、法人の役員でもある法人執行委員B2も参加していたこと、②分会運営委員会では、A2の退職又は東日本事務所への配転を決定したところ、東日本事務所は法人直轄の事業所であることから、T分会の一存では上記配転を決定できないといえ、法人執行委員B2が法人としての立場で上記運営委員会に関与していたと推認できること、③前分会長B3とA2との間のトラブルの際、(当時の)法人執行委員長B4が分会運営委員会に出席し、両者の勤務が重ならないように決めて問題解決を図ったこと、④法人は、分会長B5に対する統制権限を有していることなどの事情に鑑みると、法人はA2の労働環境について、直接の雇用主であるT分会と同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することが可能であったと評価できる。

(3)以上から、法人は、A2との関係において、労働組合法上の使用者に当たる。

2 法人が組合員A2との関係で労働組合法上の使用者に当たる場合、組合が令和4年2月8日付けで申し入れた団体交渉に法人が応じなかったことは、正当な理由のない団体交渉の拒否に当たるか(争点2)

 前記1のとおり、法人はA2の労働組合法上の使用者である。
 そして、令和4年2月8日付けの団体交渉申入書及び要求書に記載された団体交渉の議題であるA2に対する解雇通告の撤回や労働条件の改善、分会長B5によるハラスメントの問題などは、いずれもA2の労働組合法上の使用者が応じるべき義務的団体交渉事項であり、特にハラスメントの問題は、T分会の団体交渉担当者である分会長B5自身が一方当事者であって、前分会長B3とA2との間のトラブルの際には法人執行委員長B6が関与して問題解決を図った事例もあり、統制権限を有する法人の関与が必要となることが強く想定されることから、法人は、組合が令和4年2月8日付けで申し入れた団体交渉に応じる義務があった。
 そして、①令和4年1月12日の第1回団体交渉後の経緯によれば、組合側が法人に対して、分会長B5は「当事者なので解決できないと思う、法人として解決に向けて取り組んでほしい」と伝えたにもかかわらず、法人副執行委員長B6は、「飽くまでもT分会が雇っている書記の問題である、T分会は独立採算制であり法人の下部組織ではないため口出しできない」などと発言していたこと、②組合とT分会との間で令和4年3月25日に第2回団体交渉は行われたものの、法人は、当該団体交渉について、法人としての対応を行っていなかったことに加え、③法人が、本件申立て後も団体交渉を拒絶したこと自体は一貫して争っていないことを併せて考慮すると、法人は、組合が令和4年2月8日付けで申し入れた団体交渉に一切応じていなかったことは明らかである。
 以上から、組合が令和4年2月8日付けで申し入れた団体交渉に法人が応じなかったことは、正当な理由のない団体交渉拒否に当たる。 

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