労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  東京都労委令和4年(不)22号
LT不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和7年3月18日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、①会社が、組合員A2をC施設の管理者として任命せず、同施設の事業廃止をしたこと、②令和3年6月30日に組合員A4を、同年8月31日に組合員A2、A3及び同A5(以下「A2ら」)をそれぞれ解雇したこと、③A2及びA3の兼業先に対し、勤務実態についての照会を行ったこと、④第1回から第3回までの団体交渉(以下「本件団体交渉」)における会社の対応、⑤会社が、組合の第4回団体交渉に係る申入れ(以下「本件団体交渉申入れ」)に応じなかったこと、⑥第1回及び第2回団体交渉等において、A4に対して、解雇を争う場合は懲戒処分の手続を進めるとしたことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 東京都労働委員会は、③について労働組合法第7条第3号、⑤のうちA4の社会保険料についての議題に応じなかったことについて同条第2号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、文書交付等を命じ、その余の申立てを棄却した。 
命令主文  1 会社は、本命令書受領の日から1週間以内に、下記内容の文書を組合に交付しなければならない。
 年 月 日

X組合
委員長 A1殿
Y会社        
代表取締役 B1
 当社が、①令和3年8月17日に貴組合の組合員A2及び同A3の兼業先に対して勤務実態の照会を行ったこと、②貴組合から同年10月28日付けで申入れのあった団体交渉のうち、組合員A4の社会保険料についての議題に応じなかったことは、東京都労働委員会において不当労働行為であると認定されました。
 今後、このような行為を繰り返さないよう留意します。

2 会社は、前項を履行したときは、当委員会に速やかに文書で報告しなければならない。

3 その余の申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 会社が、組合員A2をC施設の管理者として任命せず、令和3年8月31日にC施設の事業を廃止したこと(以下「本件事業廃止」)は、A2が組合に加入したこと及び正当な組合活動をしたことを理由とする不利益取扱い並びに組合の運営に対する支配介入に当たるか(争点1)

(1)経緯をみるに、代表取締役B1(以下「社長B1」)は、令和3年5月10日頃、訪問看護事業を行うC施設の管理者B2が常勤でないことや、C施設が法定の人員基準を満たしていないことを知り、そして、5月末にはB2が退職し、法令上必置とされる管理者が不在となり、この時点でC施設は、そのまま施設を運営すれば法令に抵触する状態にあった。その後、社長B1は、組合員A4及びA2らが組合に加入する令和3年6月5日以前の5月28日から29日にかけて、上記の事情を理由に挙げて、C施設の事業を休止することをA4及びA2らに伝えている。
 これらから、会社が、何らかの反組合的意図をもって本件事業廃止を行ったとみることは困難である。
 また、C施設で中心的役割を担うはずの管理者B2はA4との確執により退職し、社長B1がC施設の運営を一任していたA4には解雇を通告したことで、B1がC施設の事業を再開させるには非常に厳しい状況下にあった。
 さらに、当時の会社の決算報告書からすると債務超過で多額の固定負債があり、経営状況は必ずしも良好ではなかったことがうかがわれ、事業再開の見通しが立たないまま休止の状況を継続すれば本業であるデイサービスに影響を与えかねないとして、会社が本件事業廃止を決断したことには、無理からぬ事情があったというべき。

(2)組合は、「令和3年9月から常勤となるA2を管理者に任命すれば、C施設の事業存続は可能であった」と主張するが、会社が、A2を管理者B2の後任の職責を担える人材として評価していたとみることは困難であり、また、管理者の任命は、職員の管理能力その他様々な要素を考慮して会社が判断するものであるから、会社がA2を管理者に任命しなかったとしても、そのことが直ちに不当労働行為意思に基づくものとはいえない。

(3)社長B1が第3回団体交渉(令和3年8月4日)で「もしやるんだったら(組合員以外の)外部の人間を入れて一からのスタートです」などと述べたことについて、組合は、「団体交渉を忌避し、組合を排除した後に外部の人間を管理者に据えて事業の再開を図ろうとする会社の不当労働行為意思に基づくもの」と主張する。
 しかし、当該発言については、今回のもめ事を一旦収束させるとともに事業計画を一から立て直してからでないと再開できないといった意思の表明とみる余地もあることから、当該発言のみをもって、会社が、組合嫌悪の意思により本件事業廃止を決定したとみることはできない。

(4)これらから、本件事業廃止は、当時の状況から無理からぬ事情があったとみられ、会社が、本件事業廃止を行ったことは、不当労働行為に当たるとはいえない。

2 会社が、令和3年6月30日にA4を、8月31日にA2らをそれぞれ解雇したことは、同人らが組合に加入したこと及び正当な組合活動をしたことを理由とする不利益取扱い並びに組合の運営に対する支配介入に当たるか(争点2)

(1)A4の解雇

ア 会社がA4の組合加入を認識した令和3年6月5日以前の5月28日に、社長B1とA4は面談し、B1は、解雇する旨を伝えた上で、C施設を5月31日をもって休止すること、7月より退職してもらうこと等を記載した通知書を手交した。このことから、会社は、A4の組合加入以前から、既に同人を解雇する決断をしていたといえる。

イ これを踏まえ、改めてA4の解雇を巡る経緯を検討する。
 社長B1は、令和2年10月、A4にC施設の開設の準備業務を指示していたが、C施設は、運営を開始して間もないうちに人員基準割れ及び管理者の欠員という法定の要件を満たさない状況となり、法令遵守の下で運営することが不可能な状況に陥ったばかりでなく、B1は、そうした重要な事実をA4からの報告ではなく自らが調べて認識した。そして、社長B1は、全幅の信頼を置いていたA4の仕事ぶりに問題があることを認識するとともに、管理者B2からもA4の仕事ぶりや業務の進め方はC施設を私物化しているとの話を聞いたことにより、A4の組合加入以前に同人を退職させる意思を固めていたといえる。

ウ そうすると、令和3年5月28日の面談では、社長B1は、A4の勤務態度を問題視しつつも、A4に対する感謝の念もあるためか、C施設の事業の休止のみを理由にしてA4に穏当に退職してもらおうとしたとみられるが、同人がこれを争ってきたため、B1が認識している事実を同年6月25日付回答書(以下「3.6.25回答書」)に記載してA4に退職を求めたものとみられるから、「会社が、A4の組合加入を知って懲戒解雇に変更した」とする組合の主張は採用できない。

エ これらから、会社がA4を解雇したことは、同人が組合に加入したこと及び正当な組合活動をしたことを理由とする不利益取扱い並びに組合の運営に対する支配介入には当たらない。

(2)A2らの解雇

 会社は、C施設の事業休止を決めた段階で、A2らに対し、令和3年6月以降の勤務については白紙とするよう求めるなどしており、A2らの組合加入前の時点で、既にC施設の事業が継続されない場合には、A2らの雇用を継続しないと考えていたことがうかがえる。
 そして、A2らの解雇は本件事業廃止を理由とするところ、それには会社として相応の事情があり、不当労働行為に当たるとはいえない。したがって、A2らの解雇は、不当労働行為に当たらない。

3 会社が、令和3年8月17日にA2及びA3の兼業の勤務先に対し、勤務実態についての照会を行ったこと(以下「本件兼業照会」)は、A2及びA3が組合に加入したこと及び正当な組合活動をしたことを理由とする不利益取扱い並びに組合の運営に対する支配介入に当たるか(争点3)

(1)会社は、本件兼業照会について、「A2及びA3が会社以外の事業所で兼業として勤務することに関し適正な手続を経ているか否かを確認するために行った」旨を主張するが、既に解雇することを通知している両名に対して、本件兼業照会を行う必要性や合理性を認めるに足りる事情は、およそ認められない。また、組合の反対を押し切ってまで行う必要性を認めるに足りる主張も会社からなされていない。
 組合は、文書で、本件兼業照会の照会内容、法的必要性、休業補償との関連性等について質問したが、会社の令和3年8月12日付回答書には、A2らに対する休業補償の履践の前提として必須である旨の記載があるのみで、具体的な回答を行っていない。そして、休業補償の履践に当たって、本件兼業照会が真に必須であったと認めるに足りる事情はうかがえない。仮に、会社が、休業補償の金額に異論があるのであれば、会社の見解を示して組合と協議すべきであったといえる。
 そうすると、会社は、組合と協議することなく、むしろ組合が反対しているにもかかわらず、必要性及び合理性の乏しい本件兼業照会を一方的に行ったことになるから、会社の行為は、組合の運営に対する支配介入に当たる。

(2)一方で、本件兼業照会によってA2ら及びA3に対し不利益が生じたことや、本件兼業照会が休業補償を実施することになったことに対する組合員らへの報復であることについて、これを認めるに足りる具体的な疎明がなされていないことから、本件兼業照会は、組合員であること又は組合活動を理由とした不利益取扱いに当たるとまではいえない。

4 C施設の事業休止又は廃止、A4の解雇を議題とする本件団体交渉における会社の対応は、不誠実な団体交渉及び組合の運営に対する支配介入に当たるか(争点4)

(1)A4の解雇を議題とする協議について

 本件団体交渉において、会社は、A4の解雇理由について、根拠となる資料を示したり、証拠がなくとも自らの見解を可能な限り説明をしており、証拠の不存在が原因で交渉が行き詰まりの状態であったともいえるから、この議題についての会社の対応が不誠実であったとはいえない。

(2)C施設の事業休止及び事業廃止を議題とする協議について

 本件団体交渉において、会社は、C施設の事業休止及び事業廃止について、それを決断した経緯や理由について資料を示しながら相応の説明を行っているといえる。

(3)以上のとおり、会社は、本件団体交渉において、A4の解雇及びC施設の事業休止ないし廃止について、相応の説明を行っていると評価できるから、本件団体交渉における会社の対応が、不当労働行為に当たるとはいえない。

5 会社が、本件団体交渉申入れに応じなかったことは、正当な理由のない団体交渉拒否及び組合の運営に対する支配介入に当たるか否か(争点5)

(1)組合は、令和3年10月28日に「社会保険料の負担」、「不当労働行為」及び「解雇」を議題として本件団体交渉申入れを文書(以下「3.10.28申入書」という。)で行い、これに対し会社は、同年11月5日付回答書(以下「3.11.5回答書」)を組合に送付し、本件団体交渉申入れを拒否している。

(2)そこで検討するに、「不当労働行為」について、3.10.28申入書には説明が何もなく、何をもって不当労働行為とし、何について交渉したいのかが判然としない。会社は、3.11.5回答書でその旨を組合に伝えているが、組合は、これに回答していない。
 また、「解雇」について、会社は、その必要性、相当性については、会社は資料を提示するなどして相応の説明を行っており、解雇理由の中には、証拠の不存在によりこれ以上論議しても平行線で行き詰まりの状態にあったものが認められる。会社は、3.11.5回答書で、組合の見解を求めているが、これに対し、組合は応答していない。
 そうすると、これらの議題について会社が応じなかったとしても、直ちに正当な理由のない団体交渉拒否に当たるとはいえない。

(3)一方、「社会保険料の負担」については、会社は、3.11.5回答書で、3.10.28申入書で組合が記載している経過は、事実と相違しており、社会保険料の催告の撤回には応じられないなどの認識を説明しているが、労使間で事実関係の認識が異なるのであれば、これまで団体交渉で協議をしていなかった新たな労働問題であることも踏まえ、正に団体交渉で協議すべき事項であったといえ、これについて、会社が団体交渉を拒否したことに正当な理由は認められない。

(4)以上のとおり、本件団体交渉申入れのうち、「社会保険料の負担」の議題については、これを拒否する正当な理由は認められないから、会社がこの議題に係る本件団体交渉申入れに応じなかったことは、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるが、会社は会社なりの見解を示しており、会社が、本件団体交渉申入れを理由もなく無視したり、殊更に軽視したとはいえないから、組合の運営に対する支配介入に当たるとまではいえない。

6 会社が、3.6.25回答書並びに第1回及び第2回団体交渉において、A4に対して、解雇を争う場合は懲戒処分の手続を進めるとしたことは、組合に加入したこと及び正当な組合活動をしたことを理由とする不利益取扱い並びに組合の運営に対する支配介入に当たるか(争点6)

組合は、「会社がA4の懲戒解雇を示唆したことは組合に加入して団体交渉を申し入れたことに対する報復であり、解雇撤回を求める組合活動を阻害するものである」旨を主張するが、前記2で判断したとおり、社長B1は、A2の組合加入前に、既に勤務態度に問題があると認識し、A2を退職させる意思を固めていたとみられる。
 3.6.25回答書には、A4に対し、「直ちに懲戒解雇とすれば労働者の再就職先にも障害をもたらすと思料されたことから、その不利益を回避すべく退職勧奨の方途を選択した。」と記載されているところ、この趣旨は、会社としてはA4に懲戒解雇事由があると認識しつつも、穏当な方法で同人に退職を促そうとしたものとみられるから、そうした発言や説明が、同人の解雇撤回を求める組合活動を阻害するために行ったものであるとまでは評価できない。
 したがって、会社が、3.6.25回答書並びに第1回及び第2回団体交渉において、A4に対して退職勧奨し、これに応じない場合は、懲戒処分の手続を進めるとしたことは、不当労働行為に当たるとはいえない。 

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