概要情報
事件番号・通称事件名 |
東京都労委令和4(不)第62号
スリーエスコーポレーション不当労働行為審査事件 |
申立人 |
X組合(組合) |
被申立人 |
Y会社(会社) |
命令年月日 |
令和7年3月4日 |
命令区分 |
全部救済 |
重要度 |
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事件概要 |
本件は、①会社が、アルバイト労働者である組合員10名の正社員登用に係る組合の申入れを拒否したこと、②団体交渉において、会社が当該申入れに応じない理由を述べた時の社長B2の発言が不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
東京都労働委員会は、①について労働組合法第7条第1号及び第3号、②について同条第3号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、①組合員であることを理由に正社員登用を拒否してはならないこと、②組合員を正社員に登用しない理由が団体交渉における組合員の態度や言動であるなどと発言して、組合の組織運営に支配介入してはならないこと、③文書の交付及び掲示等を命じた。 |
命令主文 |
1 会社は、組合の組合員であることを理由に、組合員の正社員登用を拒否してはならない。
2 会社は、組合の組合員を正社員に登用しない理由が団体交渉における組合員の態度や言動であるなどと発言して、組合の組織運営に支配介入してはならない。
3 会社は、本命令書受領の日から1週間以内に、下記内容の文書を組合に交付するとともに、同一内容の文書を55センチメートル×80センチメートル(新聞紙2頁大)の白紙に、楷書で明瞭に墨書して、会社の本社並びに各支社、支店及び営業所の従業員の見やすい場所に、10日間掲示しなければならない。
記 年 月 日
X組合
中央執行委員長 A殿
Y会社
代表取締役 B1
貴組合からの組合員の正社員登用を求める令和4年7月11日の申入れに対し、同年8月2日の団体交渉において当社が上記の申入れを拒否したこと及び上記の申入れに応じない理由を述べたときの当社の発言は、東京都労働委員会において不当労働行為であると認定されました。
今後、このような行為を繰り返さないよう留意します。
4 会社は、前項を履行したときは、速やかに当委員会に文書で報告しなければならない。 |
判断の要旨 |
1 組合が、令和4年7月11日に、会社に対し組合員10名(以下「本件組合員ら」)の正社員への登用を申し入れた(以下「本件申入れ」)のに対し、会社がそれを拒否したことは組合員であることを理由とした不利益取扱い又は組合に対する支配介入に当たるか否か(争点1)
(1)会社の当時の社長B2は、令和4年8月2日の団体交渉(以下「本件団体交渉」)において、①本件申入れを受け入れることは考えていないと述べ、「この7年間の組合員の対応や言動を見ると、会社に対する協力的な気持ちというものが見えず、むしろ、会社を敵というか嫌っているというふうに感じており、社員として迎え入れることは到底承知できないという判断である」と表明している【発言①】。
一方で、社長B2は、会社を取り巻く状況や事業の見通しを踏まえて、本件組合員らが所属するF部門からの正社員登用は考えていない旨をも述べており、会社は、本件審査手続において、正社員の新規採用を予定しておらず、アルバイト労働者の正社員化に安易に応じることは困難であり、市場情勢などを踏まえ、正社員登用する考えはない旨を主張している。
(2)そこで、会社における従業員数の推移を見ると、平成25年9月に正社員90名、アルバイト労働者53名の合計143名であったところ、令和4年9月には正社員53名、アルバイト労働者41名の合計94名となっており、平成25年9月以降、正社員数は減少傾向にある。また、この約9年間に正社員に登用された者は令和元年の2名にすぎない。
これらからすると、①平成29年に会社のアルバイト労働者が組合に加入し、分会を結成する前から、会社の正社員は減少傾向にあり、また、②本件団体交渉の当時、会社が本件組合員ら10名を直ちに正社員に登用できたとは考え難く、アルバイト労働者の正社員化に安易に応じることは困難であるという会社の主張には相応の理由がある。
(3)しかし、会社が正社員登用制度を設けている中で、正社員への登用を求めるアルバイト労働者に対し、組合員であることを理由に正社員登用を拒否し、協議や検討を行わないとすれば、それは、組合員であるが故の不利益な取扱いに当たるというべき。
そこで、本件団体交渉における、本件申入れを受け入れられない理由に関する社長B2の発言をみるに、組合が、「一番の理由は会社に対する批判的で非協力的な態度ということだが、組合員の日常業務の中でそういう場面があったのか」と尋ねたのに対し、社長B2は、過去の団体交渉において「こんな信用できないような会社」といった会社を批判する発言があったことを指摘し、「愛社精神があったらもっと協力的で、そんなに激しく会社が批判されることがありますか、正直に感じたのは敵視されているなということである」と述べた【発言②】。また、団体交渉の終盤においても、組合が「要するに、団体交渉の中での態度っていうことですからね」と述べたことを受けて、「言動とかね」と述べている 【発言③】。
これら発言には、組合嫌悪の情をあらわにしたものがあったといわざるを得ず、会社を取り巻く市場情勢等に言及していることを踏まえても、本件団体交渉において会社が本件申入れを拒否した最大の理由は、分会結成以降の労使関係において、組合員が会社の意に沿わない態度や言動を見せたことにあるとみるべきで、組合員であることを理由に本件申入れを拒否したと評価するほかない。
そして、会社が本件団体交渉において本件申入れを拒否したことにより、組合は、想定していた「正社員化に向けた詳細な協議」を行うことができなくなり、本件組合員ら一人一人が正社員登用制度の定める各要件を満たしているか否かや、直ちに正社員登用を行うことが困難であるとしても将来的に正社員として登用される可能性について、会社と協議を行うこともできなくなったとみるべき。
(4)会社は、本件申入れを拒否した理由として、本件組合員らは限定された職務にしか従事しておらずスキルが限定されていることや、本件組合員らの年齢についても主張するが、これらを理由に本件申入れを拒否したとみることはできない。
(5)以上を踏まえると、本件申入れに対し、会社がそれを拒否したことは、組合員であることを理由とした不利益取扱い及び組合の組織運営に対する支配介入に当たり、労働組合法第7条第1号及び第3号に該当する。
2 本件組合員らの正社員への登用に係る組合の本件申入れに対し、本件団体交渉において、会社がそれに応じない理由を述べた時の社長B2の発言(以下「本件発言」)は、組合活動に対する支配介入に当たるか否か(争点2)
(1)まず、社長B2の発言①(上記1(1))は、会社の代表取締役社長が、団体交渉の場において、組合員の面前で、組合と会社との労使関係が始まった時からの年数に言及の上、従前の労使関係を通じて見られた組合員の態度や言動が、会社を敵視し、嫌っているように感じられたことから組合員を正社員に登用しないという見解を表明するものであり、組合嫌悪の情をあらわにしたものと評価するほかない。
そして、社長B2の発言②(上記1(3))や発言③(同)からすると、社長B2は、会社が組合から敵視されていると感じている旨の発言や、組合員を正社員にできない理由が組合員の態度や言動である旨の発言を複数回行っており、本件団体交渉全体を踏まえても、本件発言が一時の感情に流されての発言であるとは考え難く、本件発言は、組合に対する社長B2の心情を率直に吐露したものとみるべきである。
(2)会社は、「組合が会社における正社員の働き方を『労働の誇りときょう持を奪っている』と評価してきた中で、正社員登用を求める本件申入れに経営者が戸惑いを感じるのは無理からぬところがあり、団体交渉の場で労働組合に対して会社への協力姿勢を有するよう求めることは許容されるべきである」旨を主張する。
確かに、本件申入れの直前まで組合員から正社員登用を求める要求がなかったことなどの経緯をも踏まえると、組合からの本件申入れに会社が戸惑いを覚えたとしても、理由がないとはいえない。
もっとも、社長B2は、本件団体交渉において、「組合活動とは関係のない日常の業務においても、組合員が会社に協力的と思えないことがあった」旨を述べ、①会社が受注した、リフォームを1週間で完了させる業務の件、②タイムカードの紙から電子への切り替えの件及び③シフトの提出時期を早める件を指摘している。
しかし、これらに関する本件団体交渉でのやり取りを見ると、社長B2が指摘した件について、組合員が会社に対応を求め、対案を示したことにはそれぞれ相応の理由があることがうかがわれ、しかも、上記①から③までの3件に関する組合員と会社との協議のうち、少なくとも③は団体交渉において話し合われており、上記のような組合員の態度や言動を正社員に登用しない理由として指摘する本件発言は、組合員が団体交渉をはじめとする労使間の協議に参加して発言することへの威嚇的効果を有し、組合活動を阻害するものであり、問題があるといわざるを得ない。
(3)これらから、本件団体交渉における社長B2の本件発言は、組合嫌悪の情をあらわにしたものであるとともに、本件組合員らを正社員に登用しない理由が団体交渉などにおける本件組合員らの態度や言動である旨を述べることにより、組合活動を阻害するものであり、組合の組織運営に対する支配介入に当たるというべきであるから、労働組合法第7条第3号に該当する。 |