労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  東京都労委令和3年(不)第56号
フジクラ不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和7年2月18日 
命令区分  棄却 
重要度   
事件概要   本件は、(1)令和2年9月28日付け又は10月28日付けの団体交渉申入れに対する会社の対応、(2)会社が、①組合の執行委員長A1が解雇無効の判決確定後に会社に復職した際に、同人を申立外C会社へ出向させたこと、②その際、A1の賃金月額を48万6,400円としたこと、③その後、前記①の出向を解除していないことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 東京都労働委員会は、申立てを棄却した。 
命令主文   本件申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 組合が、会社に対し、令和2年9月28日又は10月28日付けで団体交渉を申し入れた事実があったか否か(争点1)
 当該事実があったと認められる場合、会社の対応は、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか否か(争点2)

(1)「令和2年9月28日、会社に対して団体交渉申入書(以下「本件団体交渉申入書」)を社内メール便で送付し、また、同年10月28日、委員長A1が会社監査役B2と面会した際に提示して回答を求めた」旨の組合の主張について

 そのような方法による本件団体交渉申入書の送付又は提示が可能であったとは認められるが、そのことを直接裏付けるに足りる客観的な証拠はない。

(2)「令和2年9月30日にA1が会社社長B1と面会した際、会社が団体交渉による復帰の清算などを進めると回答した」との組合の主張について

 面会において、A1は、自身が組合の執行委員長であることや本件団体交渉申入書について何ら言及しておらず、社長B1は、A1の復職に伴う精算に関して、担当窓口を伝え「相談いただきたい」旨を発言したにすぎない。

(3)本件団体交渉申入書の協議事項である「A1の解雇復帰に伴う労働条件」等に係るA1又は組合と会社とのやり取りについて

 ①本件出向〔注 会社が、令和2年10月1日付けでA1が会社に復職した際に、同人を申立外C会社へ出向させたこと〕前後において、A1は、C会社取締役(会社常務執行役員)D1や会社人事部グループ長B3との間で面談を行い、A1の個人名義で作成された文書を提出して自身の要求内容を伝え、②令和3年4月から6月にかけては、A1と会社人事部長B4との間で、A1のC会社における業務や健康保険証の交付等に関するメールのやり取りが行われている。
 一方、組合は、前記のA1と会社監査役B2との面会後、令和3年8月30日付団体交渉申入書(以下「3.8.30団体交渉申入書」)を送付するまでの間、会社に対して文書により本件団体交渉申入書についての回答の督促や再度の団体交渉申入れをしたことはなく、また、3.8.30団体交渉申入書には本件団体交渉申入書に関する記載はない。
 そして、令和3年9月10日に組合が会社に送信した、団体交渉の進め方に関するメールには、①A1と会社との個別の面談で人事部から回答がなかった事項が今度は団体交渉での要求事項に変わる旨や、②人事部との個別の面談でA1から提出している資料について、書面回答をA1宛てに行うよう求める記載がある。

(4)これらを踏まえると、組合が会社に対して令和2年9月28日又は10月28日付けで団体交渉を申し入れた事実があったと認めることはできない。
 そして、争点1の事実があったとは認められない以上、争点2については判断を要しない。

2 会社が、A1に対し、①A1が令和2年10月1日付けで会社に復職した際にC会社へ出向させたこと(以下「本件出向」)、②その際同人の賃金を月額48万6,400円としたこと及び③その後本件出向を解除していないことは、同人が組合員であることを理由とする不利益取扱い及び組合運営に対する支配介入に当たるか否か(争点3)

(1)本件出向は、組合員であることを理由とする不利益取扱い及び組合運営に対する支配介入に当たるか否か

ア 別件訴訟〔注 A1が会社を相手方として、C会社に出向して勤務する義務の不存在、会社との労働契約上の地位の確認等を求め、平成28年7月13日に東京地方裁判所に提起した訴訟〕に係る経緯から、会社は、その確定判決における「A1の解雇は無効であり、平成28年出向は有効である」との判断を踏まえて、解雇から復職するA1を解雇前の職場であるC会社へ出向させたとみるのが自然である。

イ 「出向先のC会社にはA1のこれまでのキャリアや能力を活かせる業務がなく、同人はC会社の事業計画を知らされておらず、会社はA1に具体的な課題目標を提示できていない、A1を出向させる業務上の必要性はない」旨の組合の主張について

(ア)C会社は、会社の100%子会社として設立された障害者雇用促進法に基づく特例子会社であり、Y会社グループが障害者の雇用義務を果たせるように、障害者を雇用し、構内の緑化及び清掃等の事業を営んでいる。また、同社の令和2年度の運営計画では、実施目標である「実施・サービスの拡大」の内容として、「S事業所の受託業務の拡大」が定められている。

(イ)別件訴訟において、東京高等裁判所は、「平成28年出向が発令された頃、C会社において新規事業の立上げへ力の発揮を期待することができる従業員をC会社に配置する業務上の必要性があったことは否定し難く、A1はC会社において求められる知識、経験及び能力を備える者に合致した者であったと評することができる」と判断しており、この判決は、最高裁判所により令和2年8月に確定している。
 本件出向の初日(令和2年10月1日)、A1は、C会社社長D2と業務に関する面談を行った。その後、C会社取締役D1がC会社の新規事業の企画検討についてA1に業務指示を出すようになり、令和3年1月から3月までの間、D1とA1との間で、新規事業の検討等に関するメールのやり取りが行われている。

(ウ)新規事業の企画検討業務について「会社から指示された業務の実態は昆虫の飼育や放射能に汚染された堆肥の調査など実現不可能な業務を指示するものであった」旨の組合の主張について

 令和3年2月頃、取締役D1が、A1に対して「S事業所内の落ち葉などの堆肥化又は燃料化や、昆虫の養殖ができないか」と検討を指示したことは認められるが、D1の指示は、C会社と同じ敷地内に所在する会社S事業所が抱える課題の解決に資する新規事業等の検討を求めるもので、落ち葉などの堆肥化や昆虫の養殖は新規事業の検討対象として例示したものであるから、組合の主張は採用できない。

(エ)これら事情を踏まえると、①A1は、本件出向後、少なくとも、C会社における新規事業の企画検討がA1の業務であると明確に指示を受けており、②当該業務は、Y会社グループの障害者雇用の促進を図るというC会社の設立目的や令和2年度運営計画に合致するもので、別件訴訟の東京高裁の判決における、A1に係る上記(イ)の判断にも沿うものであった。そして、A1がC会社取締役D1に提出した報告書の記載などからすると、A1自身も、新規事業の企画検討が自身の業務であると認識して、業務に従事していたといえる。

(オ)よって、①本件出向時点において、出向先のC会社にA1のキャリアや能力を活かせる業務がなかったとはいえず、②会社がA1に課題目標を提示していなかったともいえないから、本件出向に業務上の必要性がなかったとはいえない。
 なお、本件出向後にA1に対して殊更に運営計画を知らせなかったとは考え難く、仮に、そうであったとしても、取締役D1のA1にする指示状況からすると、そのことをもって、本件出向に業務上の必要性がなかったとはいえない。

ウ 「組合結成以来、長期間にわたり組合と会社とは対立し、緊張関係にあり、この間の会社の対応から組合に対する嫌悪は明らかである」旨の組合の主張について

 平成26年5月の組合結成後、会社が、組合員A2及びA3(以下「A2ら」)及びA4にC会社への出向を通知すると、A1を含む会社の複数の従業員による就業規則の周知義務の違反に係る労働基準監督署への申告や、当委員会に対する平成26年8月21日付け前件申立て(都労委平成26年不第77号)も行われており、組合と会社とが対立関係にあったことをうかがわせる事情が認められる。
 しかし、平成27年12月に会社がA2らの訴訟代理人に対してA1及び組合員A4の復職先の希望を尋ねた後、組合らと会社との間で労使協議が行われたことがうかがわれ、その後、令和28年2月23日にA2らと会社との間に裁判上の和解が成立し、前件申立てが取り下げられている経過からすると、平成27年末から28年2月頃にかけて、労使関係には一定の変化があったことがうかがわれる。
 その後、A2らは組合を脱退し、A1が組合の執行委員長に就任し、平成28年5月2日、組合は会社に団体交渉を申し入れたものの、団体交渉は行われなかった(A1が通勤災害に遭って負傷したために開催が困難であったと推認される)。そして、A1と会社との別件訴訟が係属していた(令和2年8月までの)間、組合と会社との間にやり取りはなく、当該訴訟において、A1は、自身が組合員であることや組合活動を行っていたことに関する主張は行っていない。また、組合が会社に対して令和2年9月28日又は10月28日付けで団体交渉を申し入れた事実は認められない。
 以上の経過からすると、本件出向当時、会社が組合を嫌悪していたことが明らかとはいえない。

エ これらから、本件出向は、組合員であることを理由とする不利益取扱い及び組合運営に対する支配介入には当たらない。

(2)会社が、本件出向時のA1の賃金月額を48万6,400円としたことは、組合員であることを理由とする不利益取扱い及び組合運営に対する支配介入に当たるか否か

ア 「組合結成後、A1の賃金が減額され続けている」との組合の主張について

 別件訴訟において、東京高裁が、人事総務部分室へ異動した後のA1の賃金について、平成26年4月から28年3月までの賃金の改定〔注 53万7,000円から48万6,000円に減額〕が権利の濫用としてその効力を有しない旨を判決中で判断していることからすると、組合の主張に理由がないとはいえない。しかし、同じ判決の中で、A1の解雇時における賃金月額は48万1,500円である旨判断されていることなどから、会社が、A1が解雇されていた期間中の賃金額は同人と会社との間で司法上決着しているとして、確定判決が判断した上記金額を基に本件出向時の賃金を決定したことには相応の理由がある。

イ 「会社が一方的にA1の役割等級を管理職の最下位である6Eとし、人事評価を低位なものとして賃金を48万6,400円に下げており、不利益取扱いに当たる」旨の組合の主張について

 A1の職級は、平成29年4月の新人事制度の導入に伴って職級「P1」から役割等級「6E」に変更されたが、その際、賃金月額は48万1,500円から変更されておらず、会社が本件出向に際してA1の役割等級を低くすることで賃金が低下したとはいえない。
 そして、A1の復職時の賃金月額48万6,400円は、別件訴訟においてA1の解雇時の賃金月額と判断された額を4,900円上回っていることから、確定判決で解雇時の賃金月額とされた金額が人事評価の影響により減額されたともいえない。

ウ 以上のとおり、会社は、本件出向時のA1の賃金月額について、別件訴訟の確定判決が解雇時の賃金月額と判断した金額を基に若干上乗せして決定したというべきで、会社が、本件出向時のA1の賃金を48万6,400円としたことは、組合員であることを理由とする不利益取扱い及び組合運営に対する支配介入に当たらない。

(3)本件出向を解除しないことは、組合員であることを理由とする不利益取扱い及び組合運営に対する支配介入に当たるか否か

ア A1のC会社への出向期間は、本件結審時点において、平成28年6月1日の出向から数えて約8年(解雇から復職までの期間を含む)、令和2年10月1日の本件出向から数えて約4年が経過している。
 もっとも、会社の出向規程では、出向期間は原則3年間とされているものの、出向目的の達成状況などにより、出向期間を延長又は短縮することがあると明記されている。そして、令和4年4月1日時点で、会社の全従業員3,144名中380名が出向し、そのうち出向期間が4年以上の者が163名、出向期間が10年以上の者が53名という運用実態からすると、本件出向を解除しないことが会社において不自然な取扱いとはいえない。
 また、組合は、「出向期間を延長するためには対象従業員の同意が必要であるにもかかわらず、会社はA1の同意を得ていない」旨主張するが、会社の就業規則、出向規程及び会社とC会社とが締結した出向に関する協定書には、出向の延長に従業員の同意を必要とする旨は規定されていないことなどから、採用できない。

イ 「令和2年10月の本件出向後も誠実な団体交渉が行われず、組合を軽視又は嫌悪するような姿勢で出向延長が続いている」との組合の主張について

 本件出向後の労使関係について検討するに、①令和3年8月30日に組合が団体交渉を申し入れた後、組合と会社との間で、本件、A1のC会社における業務や解雇からの復帰に伴う精算などに関して、令和6年6月13日まで合計9回の団体交渉が行われ、また、②会社は、組合が団体交渉前に文書で会社の回答を示すよう繰り返し求めていたことを受けて、本件出向を解除しない理由、A1のC会社における業務や解雇からの復帰に伴う精算などに関する会社の見解を文書で回答するなどしている。
 (会社の個々の回答内容をみると、組合が不十分であると指摘することに理由がないとはいえないと思われる場面もあるが)これら会社の対応からは、少なくとも組合との団体交渉を避けようとしたり、団体交渉での説明を拒もうとするなどの組合嫌悪をうかがわせる事情は認められない。
 また、組合との交渉が始まる前後で、A1にC会社における業務遂行を求め、本件出向は解除しないとの会社の態度に変化はみられないが、そのことだけをもって、直ちに、会社に組合を軽視又は嫌悪する姿勢があったとはいえない。
 以上から、第9回団体交渉に関する会社の対応については令和6年8月13日の別件申立て(都労委令和6年不第36号)が係属中であることを踏まえても、会社が、組合を軽視又は嫌悪するような姿勢でA1のC会社への出向を延長し続けていたと認めるに足りる疎明はないというべきである。

ウ 「会社がA1からの出向解除の要求を認識していながらこれに応じず、社長D4(注令和4年4月就任)との週1回の面談だけがA1の業務となり、A1は面談の日以外はC会社に出勤しておらず、会社はA1を会社の組織から排除して必要のない出向を継続させている」旨の組合の主張について

 この間の事情をみるに、社長D4は、A1が週4日の在宅勤務を行っていた期間を含めて、A1に対し、元社長D2や元社長D3(注令和3年4月就任)と同様に、各種規程の整備や新規事業の企画検討についての業務指示を行っており、社長D4の指示に基づいてA1が業務を遂行することがあったといえる。
 これらの事情と、令和4年度から6年度までのC会社の運営計画において、Y会社グループの障害者雇用率の確保がC会社の最大のミッションであり、障害者が働く業務の拡大等が中期計画を達成するための課題とされていることとを照らし合わせると、同社において各種規程を整備し、また、新規事業を企画立案するために会社がC会社に従業員を出向させる必要性は、社長D4の就任後においても存在していたことがうかがわれる。
 加えて、本件出向後の令和3年6月頃から、A1が、個人又は組合の執行委員長として、会社関係者とのメールや文書のやり取りにおいて、C会社にはA1の仕事がないなどの旨を繰り返し表明していたことから、会社が指示したC会社における業務をA1に実際に遂行させることには困難があったとみられ、週4日の在宅勤務を行うという状況が生じたことについて、会社の対応には無理からぬ事情もあった。
 よって、A1が週4日の在宅勤務を行っていたことから、直ちに、会社が組合を嫌悪する不当労働行為意思の下に本件出向を解除していないとまではいえない。

エ したがって、会社が、本件出向を解除しないことは、組合員であることを理由とする不利益取扱い及び組合運営に対する支配介入には当たらない。

3 以上から、本件申立てに係る事実は、いずれも労働組合法第7条に該当しない。 

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