概要情報
事件番号・通称事件名 |
東京都労委令和5年(不)第72号
インタラック関東北不当労働行為審査事件 |
申立人 |
X組合(組合) |
被申立人 |
Y1会社・Y2会社(併せて「会社ら」) |
命令年月日 |
令和7年3月18日 |
命令区分 |
棄却 |
重要度 |
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事件概要 |
本件は、①Y2会社が令和5年7月10日付けで組合が申し入れた団体交渉に応じなかったこと、②同年7月26日及び8月30日の団体交渉におけるY1会社(Y2会社の子会社で、地域会社)の対応が不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
東京都労働委員会は、申立てを棄却した。 |
命令主文 |
本件申立てを棄却する。 |
判断の要旨 |
1 Y2会社は、組合員Aの労働組合法上の使用者に当たるか(争点1)。Y2会社がAの労働組合法上の使用者に当たる場合、Y2会社が、令和5年7月 10日付けで組合の申し入れた団体交渉に応じなかったことは、正当な理由のない団体交渉の拒否に当たるか(争点2)。
(1)雇用主以外の事業主であっても、その労働者の基本的な労働条件などについて、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にある場合には、使用者に当たると解されるところ、本件において、Y2会社が、Aの基本的な労働条件などについてそのような地位にあったと認められるかにつき、以下検討する。
(2)Aは、平成30年5月から令和4年3月まで、Y1会社〔注 Y2会社の子会社で、5つある地域会社の一つ〕に外国語指導助手(以下「ALT」)として勤務していた。同年11月、Y1会社が退職後のAに対し、令和5年度のALTの応募に関するメールを送付したため、Aはこれに応募したところ、令和5年3月8日、Y1会社は同人を不採用とする旨通知した。
(3)そして、Y2会社は、ALTを採用して地域の学校に配属する事業において求人募集や採用活動は行っておらず、Aの令和5年度の求人への応募に関するやり取りは、飽くまでもAとY1会社との間で行われたものであり、そのほか、Y2会社がAの基本的な労働条件などについて雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的に支配決定することができる地位にあると認めるに足りる事実関係の疎明はない。
なお、組合は、①当委員会に係属中の別の不当労働行為救済申立事件でY1会社の社員B1が対応していること、②Y2会社が申立外の労働組合と労働協約を締結した際にY1会社を含む地域会社5社を代表して押印したことをもって、Y2会社とY1会社は実質的に一体であり、Y2会社は団体交渉の当事者であると主張する。
しかし、これらの事実が認められたとしても、①組合の主張によれば、当該事件では会社ら外地域会社数社が被申立人となっているところ、B1は上記被申立人らの補佐人として対応しているにすぎず、また、被申立人らの補佐人となった経緯も不明であること、②Y2会社がどのような経緯で当該労働協約に押印したかは不明であり、当該労働協約の内容をみても、その内容自体は、Y2会社とY1会社とが事実上一体であることが認められるようなものではないことから、Y2会社の使用者性や団体交渉の応諾義務の根拠になるとはいい難い。
(4)以上のとおり、組合が主張する根拠からは、直ちに、Y2会社が労働組合法上の使用者であると認めることはできず、他に、労働組合法上の使用者に当たることを基礎づけるような事情は認められない。
(5)したがって、その余の事情について判断するまでもなく、Y2会社が本件団体交渉に応じなかったことは、正当な理由のない団体交渉の拒否には当たらない。
2 令和5年7月26日及び8月30日の団体交渉におけるY1会社の対応は、不誠実な団体交渉に当たるか(争点3)。
(1)団体交渉の交渉員について
組合は、会社らの代表者が団体交渉に出席しなかったことが不誠実な団体交渉に当たると主張する。
しかし、団体交渉に関して、使用者側の交渉担当者の人選は、原則として使用者が自由に決定できるものであり、組合が希望する者が交渉に出席しないことをもって、直ちに不誠実であるとはいえない。そして、Y2会社は組合員Aとの関係で労働組合法上の使用者には当たらないため、団体交渉の応諾義務はない。そこで、Y1会社は、適切な交渉員を団体交渉に出席させたといえるかにつき、以下検討する。
第1回及び第2回団体交渉のY1会社の出席者である3名の社員は、いずれもALTの雇用を担当している労務関係の部署の者である。
そして、Y1会社は、第1回団体交渉で、団体交渉の議題であるAの雇用問題について、当時Aに連絡した本人である講師管理責任者B2に確認を取りながら、Aに連絡したものの雇用に至らなかった経緯を説明している。他方、組合は、会社らに対し、代表取締役の出席を繰り返し求める一方で、代表取締役が出席しなければならない具体的な理由を説明することはなく、Y1会社の社員3名が交渉員として不適切である具体的な根拠を説明することもなかった。
なお、組合は、上記の3名について、「第1回団体交渉で名刺も持参せず、所属部署や立場を明らかにせず、委任状の原本も送付されていなかったため、Y1会社から正式に委任されていた者か否か曖昧であった」と主張する。確かに、上記3名は、第1回団体交渉に名刺を持参しておらず、また令和5年7月7日付けの通知書の画像をメールに添付する形で組合に送付した事実に争いはない。しかし、Y1会社は、第1回団体交渉に先立って、メールで3名の氏名及び所属部署を通知しているところ、一般に、交渉員の身分を明らかにし、正式に団体交渉の出席を委任されている旨を通知する目的で作成された文書は、原本を提出しない限り、その本来の目的が果たせないとはいえない。加えて、第1回団体交渉におけるB2の役職についてのやりとりからも、Y1会社が出席者の立場を明らかにしなかったなどの事情は認められない。
以上のとおり、Y1会社は、不適切な交渉員を団体交渉に出席させたとはいえず、また、組合の要求に応じて交渉員の身分を明らかにしていたといえる。
なお、組合は、「会社ら外地域会社数社が被申立人となっている当委員会に係属中の別の事件において、Y1会社のB1が対応していること、会社らは実態として一体であるため、Y2会社が団体交渉の当事者ではないとする会社らの主張は虚偽に当たるとともに、Y1会社の社員3名の団体交渉における対応は非弁行為に当たる」とも主張するところ、①Y2会社はAとの関係で労働組合法上の使用者には当たらないこと、また、②Y1会社は適切な交渉員を団体交渉に出席させたといえることからすると、組合の主張は採用できない。
(2)社印の持参及びそれに関連する発言について
組合は、第1回団体交渉で、Y1会社は労働協約を締結する際に必要な印鑑を持参せず、「はじめから労働協約を結ぶ気はない。」などと述べたと主張する。
確かに、Y1会社が第1回団体交渉に社印を持参しなかった事実に争いはなく、また、第1回団体交渉でY1会社が、今日は労働協約を締結することは考えていない旨の発言をしたことが認められる。
しかし、①団体交渉の議題はAの雇用に関する事項であること、②組合とY1会社とは第1回団体交渉以前に何らの交渉もしておらず、この交渉が初回であったことに鑑みると、Y1会社が第1回団体交渉の場で労働協約などの合意を結ぶことを想定していなかったとしてもやむを得ない。
さらに、Y1会社は、労働協約をその場で締結できない理由について、「仮に締結することになった場合は一旦持ち帰って検討しなければならない、弁護士にも確認する必要がある」などと述べていることから、労働協約を締結する意思がなかったが故に、社印などを持参せず、また、「今日は労働協約を締結することは考えていない」旨の発言をしたものとは認められず、かかる対応が不誠実なものであったとまではいえない。
(3)組合が要求する資料の提出について
ア 組合は、Y1会社は極端に文字が小さく判読できない勤怠記録の資料を提出したり、必要確認資料の提出について期日を守らなかったりするなどの不誠実な対応を繰り返していると主張する。
そこで、組合の資料開示要求に対し、Y1会社がどのように対応していたか、以下検討する。
Y1会社は、組合の資料開示要求に対して、以下のとおり対応した事実が認められる。
①組合が、Y1会社の出席者3名が交渉員として適格であることを証明するため、委任状を提出するよう要求したところ、Y1会社は代表者名義の通知書の画像データをメールに添付して送付し、本件団体交渉を出席者3名に委任したこと、出席者の氏名、所属部署及び役職を明らかにした。
②AがY1会社で勤務していた全期間である平成30年5月から令和4年3月までの勤怠記録を提出した。
③令和4年11月にY1会社がAに送付したメールについて、一度は本人に確認すればよいと述べたものの、結果として新規メールに当該メールを添付する形で提出し、さらに組合の求めに応じ、当該メールをそのまま転送する形で再提出した。
④AがY1会社で勤務していた全期間である平成30年5月から令和4年3月までの賃金台帳(平成30年6月支給分から令和4年3月支給分まで)を提出した。
イ また、組合は、上記アの②の勤怠記録について、Y1会社は極端に文字が小さく判読できない書面を送付したと主張するが、Y1会社は、8月29日の組合の指摘を受け、その翌日には瑕疵のない資料を提出したことなどから、会社の上記対応が不誠実であったとはいえない。
(4)以上のとおり、Y1会社は、代表取締役が交渉権限を委任した交渉員が団体交渉に出席してAを雇用するに至らなかった経緯を説明しており、組合の要求した資料の提出にも応じており、組合が求める会社らの代表取締役が出席しなかったことで、団体交渉に支障が生じたとは認められない。したがって、令和5年7月26日及び8月30日の団体交渉におけるY1会社の対応は、不誠実な団体交渉には当たらない。
3 以上の次第であるから、本件申立てに係る各事実は、いずれも労働組合法第7条に該当しない。 |