労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  群馬県労委令和5年(不)第3号・第4号・第5号
上州貨物自動車株式会社不当労働行為審査事件 
申立人  X合同労働組合(組合) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和7年3月21日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、(1)会社による①組合が求める就業規則等の不交付、②組合員A2の作業に係るビデオ撮影、③就業規則の懲戒処分に関する規定の改定、④組合のビラ配布に係る従業員への事情聴取、⑤当該事情聴取の事実を把握した経緯に係る組合に対する説明要求、⑥組合が賠償反則金の賃金控除に関する労使協定の無効を主張したことへの回答、⑦A2及び組合員A3に対する自宅待機命令、(2)⑧a所長B2によるA2に対する(LINEメッセージ送信による侮辱・名誉毀損を原因とする)損害賠償請求訴訟の提起、b所長B2による(当該送信行為に係る侮辱罪・名誉毀損罪での)A2の刑事告訴、及び会社による(街宣活動等に係る業務妨害罪での)A2の刑事告訴、(3)会社による⑨aA2及びA3に対する配置転換命令、b当該配置転換に関する会社従業員の陳情書提出への関与、⑩A2の残業に係る扱い、⑪A3に対する「訓戒」の懲戒処分が不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 群馬県労働委員会は、②及び④について労働組合法第7条第3号、⑦及び⑨aについて同条第1号及び第3号、⑪について同条第1号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、(ⅰ)配置転換命令がなかったものとしての取扱い、原職又は原職相当職への復帰、特別手当相当額の支払、(ⅱ)懲戒処分がなかったものとしての取扱い、(ⅲ)文書交付を命じ、⑧について、訴訟提起は憲法第32条の裁判を受ける権利の行使として尊重されるべきで、労働委員会が公的判断をもってこれを制限することは慎重であるべきであるが、その行為が使用者に帰責するといえる場合で、例えば権利の濫用に当たるなど特段の事情があるときは、不当労働行為に該当する余地がある(犯罪被害者が自らの権利を守るための重要な手段である刑事告訴についても同様)などとした上で、いずれも不利益取扱い及び支配介入に当たるとすべき特段の事情があるとして、労働組合法第7条第1号及び第3号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に文書交付を命じ、その余の申立てを棄却した。 
命令主文  1 会社は、組合の組合員であるA2及びA3に対する令和5年5月26日付け配置転換命令をなかったものとして取り扱い、両名をT営業所の原職又は原職相当職に復帰させ、当該配置転換命令がなかったならば支給されたであろう特別手当(T営業所に所属し、かつ、高速道路を利用する運転業務に従事する従業員を対象に年一度支給される手当で、同日付けの配置転換後から両名がT営業所の原職又は原職相当職に復帰するまでの間に支給されるものをいう。)に相当する額を両名に対して支払わなければならない。

2 会社は、組合の組合員であるA3に対する令和5年7月27日付け懲戒処分をなかったものとして取り扱わなければならない。

3 会社は本命令書受領の日から1週間以内に、次の内容の文書を組合に交付しなければならない。
年 月 日
X組合
執行委員長 A1様
Y会社        
代表取締役 B1 ㊞
 当社が行った下記の行為は、群馬県労働委員会において、労働組合法第7条第1号又は第3号に該当する不当労働行為であると認定されました。今後、このような行為を繰り返さないようにします。
 また、下記3の自宅待機を命じたことについてはなかったものとして取り扱い、今後これによる人事上の不利益な取扱いはしません。
 1 貴組合の組合員であるA2氏に対して令和4年11月23日から同年12月20日までの間に6回にわたり、車両点検作業のビデオ撮影を行ったこと。
 2 令和5年1月9日頃に、貴組合が行ったビラ配布に係る事情聴取をT営業所の従業員に対して行ったこと。
 3 貴組合の組合員であるA2氏及びA3氏に対して、懲戒事由の有無の調査のためとして令和5年3月24日付けで自宅待機を命じたこと。
 4 貴組合の組合員であるA2氏に対して、T営業所長B2が、令和5年5月19日付けで侮辱・名誉毀損を原因とする損害賠償請求訴訟を提起したこと並びに当社及びT営業所長B2が、侮辱罪・名誉毀損罪等で刑事告訴をしたこと。
 5 貴組合の組合員であるA2氏及びA3氏に対して、令和5年5月26日付けで配置転換を命じたこと。
 6 貴組合の組合員であるA3氏に対して、令和5年7月27日付けで訓戒の懲戒処分としたこと。

4 会社は前各項を履行したときは、速やかに当委員会に文書で報告しなければならない。

5 組合のその余の申立てをいずれも棄却する。 
判断の要旨  1 団体交渉拒否(組合が求める就業規則、賃金規程、労使協定書等の不交付)について(争点①)

 使用者には就業規則等を常に労働組合に交付する義務はなく、また、組合は、要求事項との関係でこれら書面の全部の交付を求める具体的必要性を示したとはいえないから、会社の行為は、団体交渉拒否(誠実交渉義務違反)に当たるとはいえない。

2 支配介入について

(1)T営業所長B2(以下「所長B2」)らによる、令和4年11月23日以降6回にわたる、A2の車両点検作業のビデオ撮影(以下「本件ビデオ撮影」)について(争点②)

 本件ビデオ撮影には相当性や必要性を認め難く、動作研究や指導が目的との会社の主張も信用できない。組合に加入したA2に対する差別的な嫌がらせ行為であり、会社が組合弱体化を企図して行ったもので、労働組合法第7条第3号の支配介入に当たる。

(2)令和4年11月28日付けの就業規則の懲戒処分に関する規定部分の改定について(争点③)

 当該改定は、(処分対象が拡大したり、より重い処分が可能になったとはいえないことなどから)組合員に対する懲戒処分等をするために行われたとは認められず、組合活動の萎縮等を企図したものとはいえないから、支配介入には当たらない。

(3)会社従業員2名による、T営業所の他の従業員に対する組合のビラ配布に係る事情聴取(以下「本件事情聴取」)について(争点④)

 ビラの配布直後(令和5年1月9日頃)に、所長B2の指示により従業員2名がビラを受け取った従業員に事情聴取をしたことは、会社の組合活動に関する警戒感を示すもので、会社が組合又は組合の行為に悪感情を持っているという印象を従業員が抱く等の可能性があった。そして、労使関係に様々な対立が生じている中で、本件事情聴取を行い、安全管理や施設管理に直接関係がないビラの回収を指示したことも考慮すると、会社は反組合的な意図又は動機に基づいて本件事情聴取を行ったといえる。
 これらから、会社の行為は、労働組合法第7条第3号の支配介入に当たる。

(4)会社が、組合宛て令和5年2月6日付け回答書(以下「5.2.6回答書」)により、本件事情聴取の事実を把握した経緯について説明を求めたことについて(争点⑤)

 会社の5.2.6回答書の文言からは、組合に対する情報提供を非難するような内容は読み取れず、また、組合に応諾を強制するような文言は含まれないことなどから、組合活動に制約的な効果を及ぼすものとは認められず、支配介入には当たらない。

(5)組合による(運転車両の修理に係る)「賠償反則金の賃金控除に関する労使協定」の無効の主張に対し、会社が5.2.6回答書により「(賠償反則金の)返金対応をした場合は適正な損害賠償を請求する」旨回答したことについて(争点⑥)

 会社の回答は、会社の立場からは当然ともいえる内容で、理不尽な脅しとはいえず、また、会社は、「裁判例等を参考に適正額の請求」をする旨を回答しており、曖昧で、恣意的な裁量により金額が決められるものとも思われない。そして、回答内容が、従業員にとって不利益変更となったり、従業員に不安を与える結果となったとしても、会社が、従業員に組合に対する反感を抱かせる目的で意図的に当該回答を行ったとは認められない。
 したがって、会社による回答は、支配介入には当たらない。

3 不利益取扱い及び支配介入について

(1)会社が、A2及びA3に対して、A2が令和5年3月7日に会社従業員にLINEでメッセージ(以下「本件メッセージ」)を送信したこと及びA3が就業中に他の従業員に「雇用契約をするな」と述べたことを理由に、懲戒事由の有無の調査のためとして同年3月24日付けで自宅待機命令を発したことについて(争点⑦)

 当該自宅待機命令には、待機期間中の賃金の扱いや行動制限から、不利益性が認められる。
 当該命令は懲戒事由の有無の調査のためとして発令され、調査の対象は、①就業中の、他の従業員に対する、組合加入の勧誘、雇用契約の更新への不応諾の働きかけ及び所長B2に対する侮辱的な言動を内容とするLINEメッセージの送信(A2)、②就業中の他の従業員への「雇用契約をするな」との発言(A3)である。
 しかし、雇用契約の不利益変更の事実〔注 従前は無期とされていた契約期間が1年の有期に変更されたこと〕を他の従業員に指摘することには意義があり、不当な目的があったとはいえず、また、LINE送信の業務への影響や、発言の態様などをも考慮すると、両名に重大な服務規律違反があったとまではいえないから、自宅待機に合理性があったとは認められない。
 これらから、当該自宅待機命令は労働組合法第7条第1号の不利益取扱いに当たり、また、同条第3号の支配介入にも当たる。

(2)所長B2が、令和5年5月19日付けでA2に対して(本件メッセージの送信行為について)侮辱・名誉毀損を原因とする訴訟(以下「本件訴訟」)を提起したことについて(争点⑧a)、並びに会社及び所長B2が、(同年3月27日のT営業所前での街宣活動及び事務室での申入れについて)侮辱罪・名誉毀損罪等でA2を刑事告訴したことについて(争点⑧b)

 会社は、「本件訴訟の提起及び刑事告訴は正当な法的手続の履践であり、不当労働行為とされてしまえば、権利救済を不当に制限することとなる」と主張するので、検討する。

ア 所長B2による本件訴訟の提起について(争点⑧a)
 憲法第32条では、「何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪われない」と規定されており、所長B2が損害賠償の訴えを提起することもまた、権利の行使として尊重されるべきで、労働委員会が公的判断をもってこれを制限することは慎重であるべき。
 しかし、この権利といえども無制限に保障されたものではなく、憲法第28条において、いわゆる労働三権が保障され、労働組合法において不当労働行為救済申立ての制度が設けられている趣旨からして一定の制約に服すべきこともあり得るのであって、その行為が使用者に帰責するといえる場合で、例えば、権利の濫用に当たるなど、特段の事情があるときは、不当労働行為に該当する余地があるというべき。

(ア)会社への帰責性
 ①所長B2は使用者の利益代表者に近接する職制上の地位にある者に該当し、②本件訴訟は自宅待機期間が終わる直前の、刑事告訴と同時期に提起されたことを併せ考慮すると、本件訴訟の提起は、B2が会社の意思に従い、あるいはその意を体して行われたと判断でき、会社に帰責する。

(イ)正当な労働組合活動といえるか
 本件メッセージには、契約締結について強く抗議し、他の従業員に注意喚起するという目的が認められ、正当な労働組合活動の範囲を逸脱するものではない。
 訴状において、所長B2に対する侮辱・名誉毀損行為として摘示された表現(「詐欺の手口」、「所長B2にだまされてはいけません」及び「あのウソつきで、ワンマンでやりたい放題の所長B2の奴隷にされてしまいます」など)について、契約期間の変更に係る説明なく有期雇用契約書に署名したA2の立場からは、強い抗議と他の従業員への注意喚起を発信するためのメッセージとして正当な労働組合活動の範囲内といい得るもので、その表現も著しく不穏当とまでは評価できない。
 以上のとおり、本件メッセージの内容は、組合の立場からみた事実認識又は意見表明と認められ、所長B2の社会的評価を著しく損なうとまではいえないから、本件メッセージの送信行為は、正当な労働組合活動から逸脱しているとまではいえない。

(ウ)提訴の目的
 本件訴訟の提起は、内容や時期などを考慮すると、真に権利救済を求める目的というよりは、会社が、不当労働行為意思に基づいて、組合に対する対抗措置として、組合に圧力をかけることを主目的に行われたと判断せざるを得ない。

(エ)その他
 本件訴訟の被告となることは、それ自体が心理的な負担となり、組合活動が萎縮するとともに、応訴のための時間や費用等など実質上の負担が生じる可能性が高い。
 また、会社は、「民事・刑事を問わず調停、仲裁や訴訟等の当事者となったとき」に懲戒処分を科すという特異な規定によって、A2に対し懲戒処分を下せる状況にした。

(オ)これらを考慮すると、所長B2による本件訴訟の提起は、会社に帰責し、正当な労働組合活動の故をもって行われた不利益取扱い及び組合活動に対する不当な介入に当たるとすべき特段の事情があるといわざるを得ず、労働組合法第7条第1号の不利益取扱い及び同条第3号の支配介入に当たる。

イ 会社及び所長B2による刑事告訴について(争点⑧b)
 刑事告訴は犯罪被害者が自らの権利を守るための重要な手段であるから、前記イ本文において訴訟の提起について述べたところと同様に考えるべき。

(ア)刑事告訴や事情聴取によって、A2は心理的負担を負い、時間的拘束も受けることで、組合活動に支障が生じ、他の組合員にとっても組合活動を萎縮させ得るものといえる。

(イ)所長B2による刑事告訴について
 当該刑事告訴は、B2の職位や組合に対する主導的役割に鑑みると、会社に帰責し得るものであり、また、本件訴訟の請求原因と同一事実を告訴事実とし、訴訟提起と同時期に行われている。そして、本件メッセージの送信行為は正当な労働組合活動の範囲を逸脱したとまではいえず、そして、B2による刑事告訴は、不当労働行為意思に基づき組合に圧力をかけることを主目的として行われ((ウ)についても同様)、刑事告訴の趣旨を逸脱するものと評価し得る。

(ウ)会社による(業務妨害罪での)刑事告訴について
 ①T営業所前での街宣活動や事務室での申入れは、不当労働行為である本件自宅待機命令への抗議等を目的に行われ、②街宣活動は組合活動として通常認められるもので、申入れの態様も制止を振り切ってT営業所内に侵入したといった事情も認められないことから、正当な労働組合活動の範囲を逸脱したとはいえない。
 また、街宣活動や申入れは組合活動として行われ、事務室での申入れでは組合執行委員長A1が主に発言等を行い、A2は数分同席したにすぎないにもかかわらず、会社がA2のみを刑事告訴したことは合理性を欠く。
 これらを考慮すると、会社による刑事告訴についても不当労働行為の成立を認めるべき特段の事情があると評価できる。

エ 以上から、所長B2がA2に対して本件訴訟を提起したこと並びに会社及び所長B2がA2を刑事告訴したことは、労働組合法第7条第1号の不利益取扱い及び同条第3号の支配介入に当たる。

(3)会社が、令和5年5月26日付けで、A2及びA3に対して(本社営業所やO営業所への)配置転換を命じたこと(以下「本件配置転換」)について(争点⑨a)

 本件配置転換には、通勤時間の大幅な増加(A3)、特別手当の不支給(A2・A3)という不利益が認められ、また、会社が組合員を嫌悪し、不当労働行為に当たる自宅待機命令からの一連の流れとして、T営業所における影響力を削ごうとして行った不利益取扱いに当たり、これにより、組合活動の萎縮及び組合弱体化を企図したといえるから、労働組合法第7条第1号の不利益取扱い及び同条第3号の支配介入に当たる。

(4)本件配置転換に関する従業員の陳情書提出への会社の関与について(争点⑨b)

 組合は、(本件配置転換に先立つ令和5年4月初頭に、T営業所の従業員20名が作成した)陳情書などと題する書面の提出は、会社又は所長B2の指示によりなされたなどと主張するが、それを認めるに足る疎明はなく、支配介入があったとは認められない。

4 不利益取扱いについて

(1)組合加入通告後におけるA2に対する残業差別について(争点⑩)

 A2の令和4年11月18日付け組合加入通告によって、同人の残業手当の支給状況に差異が出たとまでは判断できず、不利益取扱いには当たらない。

(2)会社が、A3に対して、令和5年7月27日付けで訓戒の懲戒処分(以下「本件懲戒処分」)を行ったことについて(争点⑪)

 本件懲戒処分は、A3が行ったT営業所周辺における街宣活動及びT営業所への立入りが本件自宅待機命令に反したことを理由とするが、当該命令は不当労働行為に該当し、それがなければ本件懲戒処分の対象である違反行為は発生しなかったといえるから、当該命令を前提とする本件懲戒処分に合理的な理由は認め難い。また、自宅待機命令書において示された(懲戒事由の有無に係る)調査の対象として街宣活動やT営業所への立入りを加えたことを会社がA3に告げたという疎明はなく、A3に弁明の機会は与えられておらず、本件懲戒処分は手続の面からも相当性に疑問がある。
 さらに、本件懲戒処分までの経緯を考慮するに、当該処分には会社の不当労働行為意思が認められる。
 これらから、本件懲戒処分は労働組合法第7条第1号の不利益取扱いに当たる。 

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