労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  東京都労委令和5年(不)第14号
OZ不当労働行為審査事件 
申立人  Xユニオン(組合) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和6年12月17日 
命令区分  全部救済 
重要度   
事件概要   未払賃金の支払等に係る令和5年2月21日の団体交渉において、組合は、当該団体交渉中に会社が確認すると述べた資料の有無等を確認し、結果を事前に文書で送付した上で次回の団体交渉を開催するよう申し入れ、会社代表社員Bはこれに応じる旨を述べた。同年2月28日、Bは組合委員長A1に対し、団体交渉に応じない、資料も提出しないなどと述べ、その後、団体交渉は開催されていない。
 本件は、同年2月28日の会社の対応が不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 東京都労働委員会は、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、(ⅰ)誠実団体交渉応諾、(ⅱ)文書交付等を命じた。 
命令主文  1 会社は、組合が令和5年2月21日付けで申し入れた団体交渉に誠実に応じなければならない。

2 会社は、本命令書受領の日から1週間以内に、下記内容の文書を組合に交付しなければならない。
 年 月 日
X組合
 執行委員長 A1殿
Y会社      
代表社員 B
 令和5年2月21日付けの貴組合からの団体交渉申入れに対する同月28日の当社の対応は、東京都労働委員会において不当労働行為であると認定されました。
 今後、このような行為を繰り返さないよう留意します。

3 会社は、前項を履行したときは、速やかに当委員会に文書で報告しなければならない。 
判断の要旨  1 本件団体交渉申入れに対する令和5年2月28日の会社の対応は、正当な理由のない団体交渉拒否及び組合の運営に対する支配介入に当たるか否か。

(1)令和5年2月21日の第1回団体交渉において、組合は、令和4年12月29日付申入書に沿って、組合員A2、A3及びA4(以下「組合員ら」)〔注〕の未払賃金の計算や組合員らの労働条件に関する根拠資料の提出等を求めた。

〔注〕A2は店舗の店長、A3は店舗のキッチンスタッフ、A4は店舗の正社員。うちA3については、会社は、雇用契約を締結していない(店舗に来た日に1万円を支払っていた)旨主張。

 これに対し会社は、①A2が(会社が経営する)C店舗に来ていたかを確認するためにカメラのデータを組合に提出するかは弁護士と相談して検討し、A4について指紋認証を利用した労働時間の記録は1週間後までに提出する、②就業規則、賃金台帳、A2とA4の雇用契約書及び令和4年就労分の源泉徴収票を提出し、就業規則をC店舗のどこに置いているかを確認する、③A2及びA4の給与明細を1週間以内に開示し、同人らに給与明細を毎月渡していたかを確認する、④業務日報は、日時とイベントの名前が分かるものを2週間で提出する、⑤A3がC店舗で働いた日の帰りに1万円を渡した際の領収書を提出する、⑥会社がA4の賃金の一部を控除した理由の裏付けとなる資料(相殺の根拠と中身及び内訳)を1週間以内に提出する旨を回答している。
 そして、第1回団体交渉の終盤、会社は、組合からの本件団体交渉申入れに対し、当該団体交渉において会社が確認すると言ったことを確認し、確認結果を事前に文書で組合に送付した上で次回の団体交渉を開催することに応じる旨を回答していた。
 しかし、令和5年2月28日、会社は、組合に対し、業務日報を含む労働時間の根拠資料の提出を拒否し、団体交渉を拒否する旨を伝えている。

(2)会社は、本件団体交渉申入れに対する令和5年2月28日の会社の対応について、「同年2月21日、組合の委員長A1及び書記長A4と初めて会い、第1回団体交渉を行ったが、組合の交渉態度や発言から、団体交渉を開催できる状態ではなかった」と主張するので、以下検討する。

ア 会社は、「第1回団体交渉において、全てに頭ごなしで、会社の言うことを聴こうともしない組合の態度に驚きを覚え、交渉をできる状態ではないと思った」と主張する。
 確かに、組合と会社とのやり取りをみると、「あなた大きい声出さないでよ。」などと、会社が組合側の発言者の声が大きいことを指摘する場面や、やり取りが水掛け論になっていると指摘する場面があるが、団体交渉は、これらの発言によって中断することはなく、継続して行われている。
 また、第1回団体交渉において、①組合が、「ちょっと黙ってください。」と述べたところ、会社が「黙るじゃない、なんで黙るの俺が。」と述べて議論が紛糾した場面や、②会社が、組合に対して「あなた笑ってるけど。笑っちゃだめだよね。いびられて。」と述べたところ、組合が、「ちゃんちゃらおかしいってことだよ。」と述べた場面が見られ、これらの組合の発言は、会社の発言を制し、又は会社をやゆする趣旨を含むものといえる。
 しかし、前後のやり取りをみると、①の組合の「ちょっと黙ってください。」との発言は、会社が、A4の解雇は書面では行っていない、解雇予告手当は払っていないなどと述べたことを受けて、組合が、会社はA4を解雇していなかったのではないかという点を追及し始めた場面での発言であり、組合は、上記発言の直後には、今は組合側が説明している旨を述べている。
 また、②の組合の「ちゃんちゃらおかしいってことだよ。」との発言は、交渉の経過からすると、やや適切さを欠くとしても、その趣旨は、A4に会う度に代表Bが「なんで店に居るんだ」と言っていたが、A4に対する解雇通告がなかった旨の会社の発言について、会社の対応が不合理であることを指摘するものと解される。
 したがって、組合のこれら発言についても、その発言の前後のやり取りを含めてみると、組合の交渉態度や発言が、団体交渉の継続を不可能にさせるほどのものであったとまでは認められない。
 一方で、組合と会社とのやり取りからは、第1回団体交渉において、組合は、資料に関する会社の回答を踏まえ、会社が提出可能な資料を提出することを求めていたと認められる。さらに、組合は、提出を要求した資料について、なぜ必要であるかを説明し、会社の納得を得ようとする姿勢がうかがわれる場面も見受けられる。
 これらを踏まえると、第1回団体交渉における組合の交渉態度が、会社の主張するように、全てに頭ごなしで、会社の言うことを聞こうともせず、その後の団体交渉に応じることができないほどのものであったとは認められない。

イ 会社は、第1回団体交渉において、組合が、「とにかく、あなたは法律違反をしている、法律をもっと勉強しろ。」などと発言し、会社の話を最初から聞く気もないように感じられた、とも主張している。
 しかし、それら発言は、組合が、それまでの団体交渉の経過を踏まえて、「A2のような就労形態であっても労働基準法上の労働者に該当する場合がある」、「賃金控除協定や労働者との合意がないまま賃金を差し引くことは違法である」、「A2の雇用は継続していたのではないか」など、会社に対し自らの主張を説明し、会社の見解に対する見解を表明し、又は会社の回答内容の問題点を追及しようとする中での発言と評価できるから、それら発言をもって、直ちに組合の交渉態度が会社の話を最初から聞く気もないように感じられるものであったとは認められない。

ウ 以上のとおり、第1回団体交渉における組合の交渉態度や発言から、団体交渉を開催できる状態ではなかったとの会社の主張は認められない。

(3)会社は、令和5年2月28日に本件団体交渉申入れを拒否する旨を述べた際、「組合は組合員らが給与明細を受け取っていないとうそをついている」などと繰り返し述べているところ、第1回団体交渉におけるA2の(「1回だけ写真、私もらった。」との)発言からすると、会社が、組合は事実と異なる主張をしているのではないかとの疑義を呈することに理由がないとはいえない。
 しかし、会社において、組合員らに給与明細を渡している場面を会社の従業員が見ていたことを確認したのであれば、会社は、団体交渉に応じた上で、給与明細に関する確認結果を組合に回答すべきであった。それにもかかわらず、会社は、「(話しても)しようがないです。うそをつくようなね。」などと述べて団体交渉に応じていない。
 このような会社の対応は、確認結果を事前に文書で組合に送付した上で次回の団体交渉を開催するという、第1回団体交渉における合意事項を反故にするものであり、団体交渉を通じて組合との合意形成を模索する姿勢に欠けるといわざるを得ず、特に、「うそをつくような組合と団体交渉をしても仕方がない」旨の発言は、組合との団体交渉を軽視し、組合の存在そのものを否認する言動であると評価せざるを得ない。

(4)以上のように、第1回団体交渉の終盤時点において、団体交渉の要求事項である未払賃金等の問題が未解決のまま残されていたのであるから、会社は本件団体交渉申入れに応ずべき立場にあったところ、令和5年2月28日、会社は、組合に対し、本件団体交渉申入れに応じない旨を述べ、その後も本件団体交渉申入れに応じておらず、会社が本件団体交渉申入れを拒否したことに正当な理由は認められない。
 そして、会社が、第1回団体交渉において本件団体交渉申入れに一度は応じる意向を回答していたにもかかわらず、その1週間後に一転して団体交渉に応じない旨を組合に明言し、その際、第1回団体交渉における合意事項を反故にする発言や「うそをついている組合との団体交渉に応じても仕方がない」旨の発言をしていたこと、本件申立て後も会社が、組合からの7回に及ぶ文書による団体交渉の申入れに一切応じていないことをも併せて考慮すれば、本件団体交渉申入れに対する令和5年2月28日の会社の対応は、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるとともに組合の組織運営に対する支配介入にも当たる。

(5)よって、本件団体交渉申入れに対する令和5年2月28日の会社の対応は、労働組合法第7条第2号及び第3号に該当する。

2 付言

 なお、本件申立てに係る組合執行委員長の代表権限について付言する。
 当委員会は、申立外Cが原告となり、申立人組合が被告となっている総会決議不存在確認等請求事件について、令和6年年2月28日、東京地方裁判所が、組合執行委員長の選任に係る平成27年9月から令和5年9月までの組合の総会決議が不存在であることを確認する旨の判決を言い渡したことを知ったが、上記の裁判所の判断は、本件合議が行われた同年12月17日時点においていまだ確定していない。
 このこと等に鑑みると、少なくとも本件合議時点において、直ちに委員長A1を代表者としてなされた本件申立てを救済申立権限がないものとして却下することは相当でない。 

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