概要情報
事件番号・通称事件名 |
東京都労委平成31年(不)第21号
明泉学園(団体交渉等)不当労働行為審査事件 |
申立人 |
X1組合連合・X2組合 |
被申立人 |
Y法人(法人) |
命令年月日 |
令和7年2月18日 |
命令区分 |
全部救済 |
重要度 |
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事件概要 |
本件は、①平成31年3月13日など3回の団体交渉における法人の対応、②法人が、組合員A3に対し同年2月5日付けで14件の訓告書の措置を行ったことが不当労働行為に当たる、としてX1組合連合及びX2組合から救済申立てがなされた事案である。
東京都労働委員会は、①について労働組合法第7条第2号、②について同条第1号及び第3号に該当する不当労働行為であると判断し、法人に対し、(ⅰ)賃金等の労働条件を議題とする団体交渉に、適切な資料を提示して論拠を説明するなどして誠実に応じなければならないこと、(ⅱ)②の措置がなかったものとしての取扱い、(ⅲ)文書の交付及び掲示等を命じた。 |
命令主文 |
1 法人は、X1組合連合及びX2組合が申し入れた賃金等の労働条件を議題とする団体交渉に、適切な資料を提示して論拠を説明するなどして誠実に応じなければならない。
2 法人は、A3に対する平成31年2月5日付けの訓告書の措置をなかったものとして取り扱わなければならない。
3 法人は、本命令書受領の日から1週間以内に、下記内容の文書をX1組合連合及びX2組合に交付するとともに、同一内容の文書を55センチメートル×80センチメートル(新聞紙2頁大)の白紙に楷書で明瞭に墨書して、C高等学校にある全ての職員室(ホームルーム指導教員室を含む。)内の教職員の見やすい場所に10日間掲示しなければならない。
記
年 月 日
X1組合連合
中央執行委員長 A1殿
Y2組合
執行委員長 A2殿
Y法人
理事長 B
当法人が、①平成31年3月13日、令和元年7月17日及び11月26日に貴組合らと行った賃金等の労働条件を議題とする団体交渉に誠実に応じなかったこと、②平成31年2月5日、貴組合らの組合員A3氏に対して訓告書の措置を行ったことは、東京都労働委員会において不当労働行為であると認定されました。
今後、このような行為を繰り返さないよう留意します。
4 法人は、第2項及び前項を履行したときは、当委員会に速やかに文書で報告しなければならない。 |
判断の要旨 |
1 平成31(令和元)年3月13日、7月17日及び11月26日に行われた賃金等の労働条件を議題に含む団体交渉(以下「本件団体交渉」)における法人の対応が不誠実な団体交渉に当たるか否か(争点1)
(1)本件団体交渉において、法人は、X1組合連合及びX2組合(以下「組合ら」)に対し、平成30年3月31日付けの事業報告書の一部並びに同31年3月31日付けの貸借対照表及び資金収支計算書(以下「本件法人関係資料」)を交付し、要旨、「短期大学校舎、C高校体育館、幼稚園等(以下「短期大学校舎等」)の建築費用の支出等に伴う法人の財務状況を理由として、組合らの基本給の引上げ等の要求に応じることができない」旨を述べていた。
この点、当該事業報告書の一部には、短期大学の建物の耐震化に要する具体的な資金の額は記載されていないものの、①当該貸借対照表及び資金収支計算書には、同日時点における法人の現金預金額、特定資産や有価証券の評価額、長期借入金、人件費支出の金額について、法人の説明を裏付ける記載が存在すること、②当該貸借対照表には、特定資産のうち、学校法人会計基準における第2号基本金引当特定資産や減価償却引当特定資産に関する記載(以下「特定資産に関する記載」)が存在し、法人が将来において一定の建物建築を予定していることがそれぞれ認められる。
しかし、①特定資産に関する記載は、法人が本件団体交渉において述べる、短期大学校舎等の建物建築費用の金額と整合するものではなく、また、その乖離も大きいといえること、②組合らが、資料に基づく建築計画や資金計画に関する説明を求めたことに対し、法人は特段の回答を行わなかったことを併せて考慮すると、本件団体交渉資料は、組合らの要求に応じることができないとする論拠を説明する資料としては、必ずしも十分なものではなかったとみざるを得ない。
また、法人は、本件団体交渉において、法人の財務状況について、将来にわたる建築計画について言及するものの、当年度の予算の支出状況に関する組合らからの質問に対しては特段の回答を行わず、建築計画についても、短期大学校舎等の建物建築費用について具体的な金額を挙げて説明を行っていたものの、いずれの建物の建築費用についても短期間で金額が変遷しており、組合らがこれを指摘したにもかかわらず、法人は、変遷の理由について特段の説明を行わなかった。
以上の本件団体交渉における法人の対応は、組合らが、具体的な資料に基づき法人の帰属収入や役員報酬が増加している一方でC高校教職員の人件費が減少していることを指摘した上で、組合員にとって重要な労働条件である基本給の引上げ等を要求したことに対する対応としては不十分なものであったとみざるを得ない。
(2)本件団体交渉において、法人は、法人が経営する短期大学や幼稚園等の教職員と異なりC高校教職員には一時金を支給しない理由について、要旨、①C高校の就業規則に一時金を支給しない旨明記していること、②C高校が独立した事業体であること、③C高校との比較において、短期大学及び幼稚園等の教職員を獲得することが困難であることを挙げていた。
ア 「C高校の就業規則に一時金を支給しない旨明記している」との法人の主張について
本件団体交渉において、組合らは、平成18年まではC高校においても一時金が支給されていたことを指摘し、一時金の支給を求めていたのであるから、法人において就業規則の変更等を通じて一時金を支給する方策を講ずることを検討する余地もあり得たにもかかわらず、法人は、①就業規則に一時金を支給しない旨の規定があると述べるだけで、そのような規定を設けた経緯や他の短期大学等の教職員と異なる一時金の取扱いをしている理由を説明することはなく、また、②就業規則を変更して一時金を支給する方策の可否についても何ら説明していないのであるから、法人が、一時金支給に応じられない理由の論拠を具体的に説明していたとみることはできず、かかる法人の対応は、不誠実なものであったとみざるを得ない。
イ 「C高校が独立した事業体である」との法人の主張について
法人は、C高校が短期大学及び幼稚園等と同様に法人傘下の事業体で、会計上連結決算の対象となることを認識した上で資金収支計算書において法人全体の人件費支出を記載していたものと認められるのであって、同計算書では法人を総体の事業体と位置付けた上で法人全体としての人件費を計算しているにもかかわらず、C高校が独立した事業体であることを理由としてC高校教職員に一時金を支給しないとする対応は、回答の論拠を適切に示すものではなく、不誠実なものであったとみざるを得ない。
ウ 「C高校との比較において、短期大学及び幼稚園等の教職員を獲得することが困難である」との法人の主張について
法人は、本件団体交渉において、短期大学及び幼稚園等の教職員の採用及び退職状況に関する具体的な説明を行っていないことに加え、法人は、C高校における組合員をやゆするかのような発言を行って組合員らの質問に正面から答えずはぐらかしていることからすると、かかる対応は不誠実なものであったとみざるを得ない。
(3)上記(1)及び(2)に加え、本件団体交渉において、法人は、①組合らに対して、非常勤講師の時間単価の加算及び在職年数に応じた昇給にいずれも応じられない旨を回答する一方で、回答の論拠となる資料の存在を認めつつも、内部資料であることを理由に一切の開示を拒否したこと、②組合らからの異なる要求について、組合らが再三にわたり異議を述べたにもかかわらず、事前に準備していた文書を読み上げる方法により、複数回にわたりおおむね同内容の回答を行っているところ、かかる態様は、先行事件に係る東京都労働委員会命令及び中央労働委員会命令においても不誠実なものであったと判断されていたにもかかわらず、同様の行為に及んでいること、③午後8時前後に、組合らの制止を拒否した上で次回団体交渉期日を指定して、一方的に団体交渉を終了させていることがそれぞれ認められ、上記の本件団体交渉における法人の交渉態度を併せて考慮すると、本件団体交渉における法人の一連の対応は、誠実交渉義務に違反するものであり、不誠実な団体交渉に当たる。
(4)法人は、「組合らの出席者が、本件団体交渉において、前理事長らに対して不適切な発言を行うなどして団体交渉の円滑な進行を妨げていたような場面においてもできる限り誠実に回答や説明を継続しており、本件団体交渉における法人の対応は不誠実団体交渉には当たらない」旨、主張する。
しかし、令和元年7月17日の団体交渉において、法人が、組合らに対し、「ヤジを飛ばさないで下さい。」と述べたことが認められるものの、組合らが、法人に対し、何らかの不適切な発言を行ったことを的確に疎明する証拠はなく、組合らの発言により団体交渉の円滑な進行が妨げられたような場面があったとまでは評価できないことを考慮すると、法人の主張は採用できない。
(5)法人は、本件団体交渉において、賃金等の労働条件の議題に関し、法人の財務状況を説明した上で組合らの要求をいずれも拒否しているところ、「組合らの要求については既に過去の団体交渉において再三にわたり結論を示しているのであって、かかる議題に関する組合らとの団体交渉は既に行き詰まりに達しており、本件団体交渉における法人の対応は不誠実な団体交渉には当たらない」旨を主張する。
しかし、法人が、平成22年以降31年3月13日の団体交渉に至るまでの団体交渉において、賃金等の労働条件の議題について誠実に対応していたことを裏付ける疎明はない。また、法人は、平成31年3月13日の団体交渉以前においても、組合らからの再三にわたる団体交渉開催要求には応じず、開催された各団体交渉の終盤に一方的に次回団体交渉期日を指定して団体交渉を終了してきた結果、平成22年以降31年3月13日の団体交渉に至るまで、組合らと法人との団体交渉の開催は年間に2回又は3回にとどまっていたものと推認され、組合らと法人との間で賃金等の労働条件の議題に関する議論状況が進展を見せなかったのは、組合らとの団体交渉に臨む法人の姿勢に一定の問題があったとみざるを得ない。
これらを併せて考慮すると、平成22年以降31年3月13日の団体交渉に至るまで組合らと法人との間で賃金等の労働条件を議題とする団体交渉が複数回にわたり行われているとしても、この議題に関する団体交渉が、客観的にみてこれ以上交渉を重ねても進展する見込みがない段階に至っていたとまでは認められず、法人の主張は採用できない。
2 法人が、組合員A3に対し同年2月5日付けで14件の訓告書の措置を行ったこと(以下「本件訓告書の措置」)は、組合員であるが故の不利益取扱い及び組合らの運営に対する支配介入に当たるか否か(争点2)
法人においては、教職員は就業規則上、上司の服務上の指揮命令に服し、また、勤務時間中は職務専念義務を負い、これらに違反したときには訓告書の措置や懲戒処分を行う旨の規定が存在する。そうすると、法人が、就業規則の規定に基づき、本件訓告書の措置に至るまでも訓告書の措置を行い、組合員A3に対して再三にわたり朝の挨拶運動を行うことを禁じていたにもかかわらず、A3はこれに従わず、同運動を継続したものと評価できるから、本件訓告書の措置は相当な処分であるとみる余地もある。
しかし、①a法人は、朝の挨拶運動に対する訓告書の措置を行うに当たり、同運動を認識する都度訓告書の措置を行って注意指導等を行うのではなく、しばらく放置しておいて、一定期間経過後に同運動に対してまとめて複数枚の訓告書を交付して訓告書の措置を行うという一見して不自然な手段を講じていること、b同運動によりC高校の業務運営に支障が生じたことの具体的な疎明はないことを勘案すると、法人において、組合員らの朝の挨拶運動に対して、真に訓告書の措置を通じて法人における秩序維持を図ろうとしていたとは認め難いこと、②朝の挨拶運動は平成24年11月頃から組合員らが開始したところ、法人は、25年度以降の就業規則に、朝の挨拶運動について、より直接的に禁止する条項を追加しており、中でも30年度就業規則では、「人気取り」、「保護者や生徒から不審者と見なされている」という、組合員による朝の挨拶運動を嫌悪するものと推認できる文言を追加しており、法人が朝の挨拶運動を禁止する規定を就業規則に設けたこと自体、組合員を狙い撃ちにして組合員の行為を制限するために行ったものと強く疑われること、③過去に法人において組合員をクラス担任から外すなどの組合員と生徒との接触の機会を奪う措置が当委員会及び中央労働委員会並びに裁判所から不当労働行為である旨の判断を受けていたことなどの事情を併せて考慮すると、本件訓告書の措置は、法人が、組合らを嫌悪し、A3が組合員であるが故に不利益に取り扱い、同時に組合らの弱体化を企図して行ったものであったとみるのが相当である。
よって、本件訓告書の措置は、組合員であるが故の不利益取扱い及び組合らの運営に対する支配介入に当たる。
3 以上の次第であるから、本件団体交渉における法人の対応は労働組合法第7条第2号に該当し、本件訓告書の措置は、同法同条第1号及び第3号に該当する。 |