概要情報
事件番号・通称事件名 |
岐阜県労委令和5年(不)第5号
不当労働行為審査事件 |
申立人 |
X組合(組合) |
被申立人 |
Y会社(会社) |
命令年月日 |
令和7年3月27日 |
命令区分 |
棄却 |
重要度 |
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事件概要 |
本件は、会社が、①「(先行事件について)中央労働委員会で成立した組合との和解は、組合との間で締結されたユニオン・ショップ協定が有効であることを認めたものではなく、当該協定が労働組合法第7条第1号ただし書で定める要件を満たしているか否かを労使双方が協議のうえ確認する必要があり、現時点では当該協定が有効とは言えない」という見解を、団体交渉の場で繰り返し表明し、またそのような態度を取り続けたこと、②組合未加入の従業員から組合加入義務について質問された際、同様の見解に基づく説明をしたことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
岐阜県労働委員会は、申立てを棄却した。 |
命令主文 |
本件申立てを棄却する。 |
判断の要旨 |
1 会社が、①「中央労働委員会において、中労委令和3年(不再)第42号事件〔注1〕について成立した和解〔注2〕は、平成23年12月6日に締結された組合との労働協約第6条に基づくユニオンショップ協定(以下「本件ユシ協定」)が有効であることを認めたものではなく、本件ユシ協定が有効ではない」との見解を令和5年4月17日から同年8月29日までに組合と会社の間で開催された合計3回の団体交渉において繰り返し表明したこと、及び②組合未加入の従業員に対して同様の見解に基づく説明をしたことが支配介入に該当するか否か(争点1)
〔注1〕初審は、岐労委令和2年(不)第1号事件
〔注2〕組合と会社との間で令和5年2月13日付けで成立した「本件協約が、現在もその効力を有することを相互に確認する」など3項目を内容とする和解(以下「本件和解」)
(1)会社は、本件協約それ自体の無効を主張していたわけではなく、本件ユシ協定の独自の要件である過半数要件〔注 労働組合法第7条第1号ただし書参照〕を欠いているとの見解を表明し、この点について労使間の協議による解決を求めていたと認められるから、本件和解の趣旨に違反していたとは認められない。
(2)また、会社は、本件ユシ協定が無効であることを一方的に宣言して従業員らにこれを前提として「組合に加入すべき理由がない」旨を告知したわけではなく、本件ユシ協定が無効であることを前提とする取扱いを実行したわけでもなく、一貫して本件ユシ協定の有効性について労使間の協議により解決しようとしていたと認めるのが相当である。
すなわち、会社側の本件ユシ協定に関する発言は、一方的な具体的行動を伴うものではなく、いわゆる「意見表明」の域にとどまるものであったと認められるところ、会社の意見表明が支配介入に当たるか否かについては、①示された見解の内容、②それがなされた時期や状況、③組合の運営や活動に与えた影響、④推認される会社の意図を総合的に考慮して支配介入の成否を判断すべきことになる。
しかるに、①会社は、本件ユシ協定の過半数要件について根拠や資料を示した上で労使間の協議により解決しようとする姿勢を一貫して示しており、本件申立てに至るまでの段階では本件ユシ協定が有効ではないとの立場に固執して労使間の協議を実質的に拒否していたとまではいえないこと、②見解が表明されたのは、本件和解の約1か月後ではあったが、(和解成立時の)審査委員説示は、その時点での労使協議を否定していなかったと認められること、③会社が見解を表明するに至ったのは、組合から、従業員へのメール中に「組合に加入しなければならない」との文言を入れるように要請を受けたことが契機であって、会社が自ら先んじて積極的に見解表明したものではないこと、④会社の意見表明により組合加入を留保した従業員もいたが、(あくまでも労使間の協議により問題解決が図られるまでの間、判断を留保しただけで)組合の運営や活動に与えた影響は、限定的あるいは暫定的であったと認められること、⑤(確かに本件ユシ協定がグループ会社内で「異質」であるとしてこれを廃止しようとの会社の基本方針が、本件ユシ協定に関する見解表明の背景になっていた可能性を否定できないが)そもそも上記①②③④の観点から支配介入に当たるべき行為があったと認めることができないこと、などの諸事情を総合的に勘案した結果、会社が本件ユシ協定について有効ではない旨の見解を労使事務折衝や団体交渉あるいは従業員への説明の場において表明したこと、また、本件申立てに至るまでの間、かかる見解を維持し続けたことが支配介入に当たるとは認められない。
2 令和5年4月17日から同年8月29日までに組合と会社の間で開催された合計3回の団体交渉において、会社が、本件ユシ協定が有効ではないという態度をとり続けたことが不誠実団体交渉に当たるか否か(争点2)
(1)誠実交渉義務の内容
使用者は、団体交渉において組合の要求や主張に対してその具体性や追及の程度に応じた回答や主張をなし、必要に応じてそれらの論拠や資料を示す義務があると解される。使用者には合意を求める組合の努力に対して誠実な対応を通じて合意達成の可能性を模索すべき義務があるというべきである。
本件においては、組合から、従業員へのメール中に「本件ユシ協定に基づいてこれまで組合に加入していない従業員は組合に加入すべきである」旨の文言を入れるように要請されたのに対して、会社が組合に対して「審査委員説示を正しく理解しているか疑問がある」とし、「本件ユシ協定の有効性については、さらに労使間で協議すべきである」ことを指摘した上で、「本件ユシ協定についてはいわゆる過半数要件を欠いているので有効ではない」との見解を表明したことの当否が団体交渉における争点になっていた。
そうすると、本件における誠実交渉義務とは、会社において組合が過半数要件を欠いていると考える理由について根拠や資料を示して真摯に合意形成を目指すべき義務を意味することになる。この場合、会社が組合に示すべき根拠・資料は相当程度の合理性が認められるものであることが求められているというべきである。
(2)労使事務折衝や団体交渉における会社の態度
会社は、労使事務折衝や団体交渉等において、組合に対し、組合が過半数要件を欠いていると考える理由について学説や文献を引用した上で具体的に説明しており、その内容も相当程度の合理性を有するものであって、一貫して労使間の協議によって本件ユシ協定に関する合意を形成すべく真摯に対応していると認められるから、誠実交渉義務に違反したとは認められない。
なお、本件ユシ協定が組合の組織・活動の基盤となっていることは明らかであり、会社が本件ユシ協定について無効である旨の見解を示すことが労使関係に影響を与え得ることは予想されるところであるから、本来、会社から、組合員の範囲に関する何らかの中間的な提案をしたり、組合未加入者の取扱い等に関する何らかの緩和措置や一定期間本件ユシ協定を有効なものとして取り扱う経過措置を設けることを提案するなど、さらに調整を図ることも可能であったと思われるところ、会社側からそのような提案がなされたとは認められない。
しかし、これは組合側も同様であって、早々に平行線であるとして本件申立てに及んでいるため、会社としてはそのような提案を示す機会が十分ではなかったとも言えるし、組合側の態度が強硬であったために理解が得られる見込みのある提案を直ちにすることが困難であったとも思われるので、そうした中間的な提案をしなかったことをもって誠実交渉義務違反であると評価することはできない。 |