概要情報
事件番号・通称事件名 |
千葉県労委令和5年(不)第2号
ジェットスター・ジャパン不当労働行為審査事件 |
申立人 |
X組合(組合) |
被申立人 |
Y会社(会社) |
命令年月日 |
令和7年2月26日 |
命令区分 |
全部救済 |
重要度 |
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事件概要 |
本件は、会社が、組合の執行委員長Aに対し、手当の支給漏れ等の情報を流布し、社員を扇動する行為をしたとして、20日間の出勤停止処分を行ったことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
千葉県労働委員会は、労働組合法第7条第1号及び第3号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、(ⅰ)出勤停止処分がなかったものとしての取扱い、(ⅱ)文書の交付及び従業員が閲覧できるイントラネット上への掲載を命じた。 |
命令主文 |
1 会社は、組合執行委員長であるAに対して令和4年5月20日付けで行った出勤停止処分をなかったものとして取り扱わなければならない。
2 会社は、本命令書受領の日から1週間以内に、下記内容の文書を組合に交付するとともに、従業員が閲覧できるイントラネット上に1か月間掲載しなければならない。
記 当社が、貴組合の執行委員長であるA氏に対し、令和4年5月20日付けで行った「5月25日より20日間(労働日換算)」の出勤停止処分は、不当労働行為であると認定されました。
今後、このような行為を繰り返さないようにします。
X組合
執行委員長 A様
Y会社
代表取締役 B |
判断の要旨 |
1 会社が、令和4年5月20日付けで、組合の執行委員長A(以下「委員長A」)に対して出勤停止の懲戒処分をしたことは、労働組合法第7条第1号の不当労働行為(労働者が労働組合の正当な行為をしたことを理由とする不利益取扱い)に該当するか(争点1)
(1)会社は、委員長Aが、客室サービスマネジャー(「CSM」)に支給されるCSM手当〔月額7万5000円〕の支給漏れ等の情報を電子メール及び口頭で流布し、社員を扇動したとして、会社が同人に対し、令和4年5月20日付けで、労働日換算で20日間の出勤停止処分(以下「本件懲戒処分」)を行った。
(2)本件懲戒処分を受けて、委員長Aは、出勤停止期間中の給与が支給されず〔注〕、また、20日間予定していた勤務に就くことができず、そのことが勤務表により他のキャビンクルー(「CC」)も知り得る状態となった。よって、本件懲戒処分が委員長Aに対する不利益な取扱いであることは明らかである。
〔注〕なお、本件申立後の令和6年12月16日、会社は委員長Aに対し、控除した賃金相当分32万5600円及び同金員に対する遅延損害金を支払っている。
(3)本件対象メール及び本件組合メールについて
会社は、「本件組合メールを問題としたのではなく、委員長A個人がメール〔注 社内で出回っていて会社が問題だと考えたメール。以下「本件対象メール」〕を(主にCSM、CCらで構成される)客室乗務員に送信し、口頭にて誤情報の流布ないし扇動をしたことを理由に本件懲戒処分を行った」旨主張しているので、以下整理する。
ア 本件対象メールについて
本件対象メールは、会社が令和4年3月25日に入手した本件メモ〔注 会社が、ある情報提供者から取得したスクリーンショット画像にあった「スマートフォンのメモ機能に記載された内容〕の元となったものであるが、その内容から、本件組合メールの一部分を削除する加工がされたものと認められる。
イ 本件組合メールについて
本件組合メールは、令和4年3月12日に組合として組合員に送信したもので、その具体的内容は、組合が令和2年5月支給分に係るCSM手当の支給漏れがあったと認識したことを組合員に周知するものであった。
会社によるCSM手当に関するCSMらに対する令和2年4月17日など2回のミーティングやメールは、給与という重要な勤務条件に関する説明や周知としては十分ではなく、そのような会社の対応等を踏まえると、「未払いが発生していて請求しないと時効により権利が消滅する」と組合が考えたことは、やむを得なかったといえる。
また、末尾にAと記され、同人名の給与明細も添付されていたが、Aは組合の代表者であり、①組合が送信するメール末尾に名前を記載することや、②参考例として給与明細が必要であれば自らのものを添付することは、自然な行為だといえる。
ウ 本件組合メールの作成及び組合員への送信は、正当な組合活動といえ、Aは委員長として、その活動に当然関与していた。
また、本件組合メールは、Bcc欄の複数のメールアドレスにも送信され、その複数の受信者又は受信者から転送された者であれば、誰でも本件対象メールは作成可能であったが、委員長Aが本件対象メールを作成し、客室乗務員に送信したことを認めるに足りる主張や証拠は示されていない。
(4)本件対象メールにより生じた問合せに対する人事本部の業務について
会社は、「2年弱もの期間、確認する機会が組合にはあったにもかかわらず、これをせずに、本件対象メールを送信したことによって、人事本部が対象CSMのCSM手当支給額を再計算したこと及びCCにおいて不安が生じたことを理由に、人事本部や客室本部に混乱が生じた」旨主張する。
しかし、給与計算に係る照会事項への対応は、人事本部の本来行うべき業務であり、また、自らの説明不足等が会社への問合せを招いた面もあることを考慮すると、当該問合せへの対応は会社としては当然の行為といえる。
(5)懲戒処分を行うに際しての会社の調査
会社は、本件対象メールについて、委員長A個人ではなく、組合もしくは別の誰かが送信した可能性があると認識できたといえ、懲戒処分を行うのであれば、その詳細を調査する必要があった。しかし、会社は、情報提供者に対し、本件メモの元となった本件対象メールそのものの提供を依頼したものの、協力が得られず、それ以上の調査を実施しなかった。また、Aが本件組合メールを提出する旨発言しているにもかかわらず、会社は提出等を求めなかった。
以上から、会社は本件対象メール及び本件組合メールの作成者や送信者について、あえて調査しなかったと考えざるを得ない。
(6)懲戒処分以前の労使関係の状況
早期に(令和2年8月に会社が説明していた)客室サービス本部構造改革における新給与制度への全面移行を実施したいと考えていた会社と、2年弱も前の手当支給に関する問題を提起してきた組合やその代表者である委員長Aとは、良好な関係を築けていなかったのではないかと推認される。
(7)不当労働行為意思について
重大な結果を伴う懲戒処分を行うに当たっては慎重な手続が必要であり、本件において、会社は、本件対象メールの送信者の特定、その元となった本件組合メールの有無の調査、口頭流布の事実を十分に特定できる証拠集めなどの調査を行うことが必要であった。
しかし、会社は、①情報提供者に受信者をマスキングしてもらった上で、本件対象メールを印刷・コピーしてもらい提出を受けることで、送信者を特定することは可能かつ容易であったのにそれを行わず、また、②委員長Aが本件組合メールを提出する旨申し入れても、提出を求めなかった。
これらから、①会社は、委員長Aの処分を意図してあえて、本件対象メールを十分に調査することなく、Aが個人で送信したものと決めつけて、本件懲戒処分を行ったものであり、②当時の良好とは言えない労使関係に照らせば、会社が組合の代表者であるAに対して本件懲戒処分を行ったのは会社に不当労働行為意思があったからと言わざるを得ない。
(8)結論
会社は、「本件組合メールではなく、本件対象メールを委員長Aが個人で送信した行為として問題にしている」と主張している。
この点、本件組合メールについては、その作成及び組合員への送信は、労働組合の正当な行為と認められる。
一方、本件対象メールは、本件組合メールを直接受信したり、転送を受けるなど何らかの手段で入手した者であれば、誰でも作成可能であるから、委員長Aが作成及び送信したと認めることはできない。
また、仮に本件対象メールを委員長Aが作成及び送信していたとしても、その内容は、組合が主体となって情報共有する旨の記載など本件組合メールと同一のものと認められ、委員長Aがかかるメールを作成及び送信することは、執行委員長の行う労働組合としての正当な行為と認められる。
以上から、会社が委員長Aに対して本件懲戒処分を行ったことは、委員長Aが労働組合の正当な行為をしたことを理由とする不利益取扱いであることから、労働組合法第7条第1号に該当する不当労働行為である。
2 会社が、令和4年5月20日付けで、委員長Aに対して本件懲戒処分をしたことは、労働組合法第7条第3号の不当労働行為(支配介入)に該当するか(争点2)
本件対象メールの送信者を特定したり、その元となった本件組合メールの有無を調査したりすることをあえて行わなかった会社の対応には、当初から組合の代表者である委員長Aを懲戒処分にすることにより、組合活動を委縮させようという目的があったと推認される。
また、組合が本件組合メールの送信をしたことが委員長Aへの懲戒処分の契機となったことで、今後、組合が組合員等への情報提供活動に消極的になってしまうおそれもあり、組合活動を委縮させる効果があったと考えられる。
これらから、会社が委員長Aに対して本件懲戒処分を行ったことは、正当な組合活動や組合運営に対する支配又は介入といえ、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為である。 |