労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  大阪府労委令和5年(不)第63号
不当労働行為審査事件 
申立人  X1組合(組合)、X2組合支部(組合支部)(併せて「組合」ということがある。) 
被申立人  Y法人(法人) 
命令年月日  令和7年3月14日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、法人が、①組合員Dがシフトから外された期間の賃金を補償しなかったこと、②組合員Dのシフトを週1日としたこと、③組合の団体交渉申入れに対して不誠実な対応をしたことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 大阪府労働委員会は、②について労働組合法第7条第1号に該当する不当労働行為と判断し、法人に対し文書手交を命じ、その他の申立てを棄却した。 
命令主文  1 法人は組合らに対し、下記の文書を速やかに手交しなければならない。
 年 月 日
X1組合
 執行委員長 A 様
X2組合支部
 執行委員長 B 様
Y法人      
理事長 C
 当法人が、貴組合員D氏の令和5年6月1日以降のシフトを週1日としたことは、大阪府労働委員会において、労働組合法第7条第1号に該当する不当労働行為であると認められました。今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。

2 組合らのその他の申立てを棄却する。  
判断の要旨  1 法人が、組合員Dに令和5年4月1日から同年5月13日までの賃金の補償を行わなかったことは、組合員であるが故の不利益取扱いに当たるか(争点1)

(1)組合員Dに対し、就労していない令和5年4月1日から同年5月13日までの賃金が補償されていないことに当事者間で争いはなく、Dには経済的な不利益があるといえる。

(2)法人が、組合員Dに令和5年4月1日から同年5月13日までの賃金を補償しなかったことが、組合員であるが故になされたものであるか

ア 法人が組合員Dを組合員と認識した時期とその前後の経緯

 法人が組合員Dの組合加入通知を受けたのは、令和5年5月2日であり、また、法人において月の勤務シフトが決定されるのは、同年4月20日頃であることが認められる。そうすると、Dの同年4月及び5月の勤務シフトが決定されたのは、それぞれ同年3月20日頃及び同年4月20日頃であり、シフト決定時点において、法人がDを組合の組合員と認識していなかったことは、明らかである。

イ 3月に就労させなかった4日分の賃金が支払われたこととの関係

 組合は、当該賃金補償については交渉が始まってから遡って正当な請求をしたものであり、3月に就労させなかった4日分の賃金は支払われたが、組合嫌悪故に法人は令和5年4月1日から同年5月13日までの賃金の補償を認めていない旨主張する。
 この点、法人は、令和5年4月1日から同年5月13日までの賃金の補償をしなかったのは、組合員Dが同年3月下旬に辞職すること及び新たに就職したことを通告してきたことから、法人が同年4月のシフトからDを外したためであると主張しており、かかる主張には一定の合理性がある。

(3)以上のとおり、法人が令和5年4月1日から同年5月13日までの賃金を補償しなかったことは、組合員であるが故の不利益取扱いには当たらないので、この点に関する組合の申立ては棄却する。

2 法人が、令和5年6月1日以降の組合員Dのシフトを週1日としたことは、組合員であるが故の不利益取扱いに当たるか(争点2)

(1)法人が、令和5年6月1日以降の組合員Dのシフトを週1日としたことの不利益性について

 法人は組合員Dに対し、令和5年5月17日に、同年6月1日以降のシフトを週1日とすること等を内容とする契約書(以下「5.17提案契約書」)を提示したうえで、6月シフト表を交付し、同年6月1日以降の勤務を、それまでの週3日から週1日としたことが認められる。就労日数の減少によって、組合員Dの賃金は減少することになったのであるから、Dには経済的な不利益がある。

(2)法人が、令和5年6月1日以降の組合員Dのシフトを週1日としたことが、組合員であるが故になされたかどうかについて

 組合員であるが故になされたかどうかについては、①当時の労使関係、②当該不利益取扱いの時期、③使用者の発言態度等、④当該不利益取扱いの必要性等の事情から総合的に判断されるものと解すべきであり、以下、それぞれ検討する。

ア 当時の労使関係について
 ①令和5年5月2日付けで、組合が法人に対し、組合員Dの組合加入を通告し団体交渉を申し入れたこと、②組合と法人との間で、Dの勤務日数等を議題とした令和5年5月14日団体交渉(以下「5.14団体交渉」。以下、各日の団体交渉及び団体交渉申入れにつき、同様に表す。)が行われたことが認められる。

イ 当該不利益取扱いの時期について
 5.14団体交渉の直後である令和5年5月17日に、法人は、組合員Dの就労日数を週1日にすることを決定し、同日、Dに5.17提案契約書を提示しており、団体交渉と当該取扱いの時期は極めて近接していることが認められる。

ウ 使用者の発言や態度について

(ア)7.9団体交渉で、理事長は組合に対し、自身が理事長を務めていた生協における過去の労働争議について、組合員を狙い撃ちで解雇した旨、乗っ取りにきた組織と組合が似たような組織だと思うので、もう結構である、そのつもりで対応する旨発言したことが認められる。この点について、法人は、過去のエピソードを披露しただけであって、労働組合を嫌悪しているわけではない旨主張する。しかしながら、理事長の発言は、単にエピソードを披露しただけにとどまらず、過去の不当労働行為を正当化し、組合に対しても同様の取扱いを行うとの疑念を抱かせるもので、あからさまな組合嫌悪意思を表明しているというべきである。したがって、この点に関する法人の主張は採用できない。

(イ)また、5.14団体交渉において、組合が法人に対し、今後も組合員Dの労働条件について団体交渉で解決を図っていきたい旨述べたのに対して、法人は団体交渉を拒否する気は全くない旨答えたことが認められる。それにもかかわらず、法人は、5.14団体交渉から僅か3日後に、組合と協議することなく直接組合員Dに5.17提案契約書を提示しており、かかる法人の対応は団体交渉でのやり取りを無視したものである。

(ウ)これらからすると、法人の発言や対応から、法人には反組合的意思があったと推認できる。

エ 当該不利益取扱いの必要性について
 法人は、組合員Dを週1日勤務にしたのは、マンツーマン指導が必要であり、指導担当職員を充てるのは週1日が限度であった旨主張する。しかし、組合員Dは勤務に復帰した令和5年5月17日から31日までは、週3日の勤務を行っており、この間、Dにマンツーマン指導が行われていたとの事実の疎明はなく、そうすると、マンツーマン指導自体が必要だったのかは疑わしい。
 また、法人は、令和5年5月17日の話合いの際にも、6.2団体交渉の際にも、マンツーマン指導を行うため週1日の勤務とする旨の説明を行ったとはいえず、7.9団体交渉において、組合の追及に対して、初めて説明を行ったことが認められ、かかる法人の対応は不自然といえる。
 これらからすると、勤務上の問題行動改善を目的としてマンツーマン指導を行うため、組合員Dの勤務を週1日とすることが必要との法人の主張は、認められない。

オ 以上を総合すると、法人が5.14団体交渉の僅か3日後に令和5年6月1日以降のシフトを週1日としたことは、その必要性もなく、組合嫌悪意思が認められ、組合員であるが故になされたものであるといえる。

(3)以上のとおり、法人が、令和5年6月1日以降の組合員Dのシフトを週1日としたことは、労働組合法第7条第1号に該当する不当労働行為と認められる。

3 組合の5.27団体交渉申入れ及び6.10団体交渉申入れに対する法人の対応は、不誠実団体交渉に当たるか(争点3)

(1)一般に、労使間の一連の交渉過程の中で、使用者が交渉日程の設定を合理的な理由なく遅延させたりした場合は、団体交渉を拒否することそのものには該当しない場合でも、誠実交渉義務違反を基礎付ける事情とされ得るものと解される。

(2)この点について、組合は、5.27団体交渉申入れ及び6.10団体交渉申入れに対する法人の対応が不誠実である理由として、①団体交渉開催時刻について、法人が、午前10時、午後1時など、働いている組合役員、組合員が出席できない時間帯を指定してきたこと、②5.27団体交渉申入れによる6.2団体交渉について、組合が令和5年5月中の開催を要求したのに、法人の都合で同年6月2日開催としたこと、③6.10団体交渉申入れによる7.9団体交渉について、開催時刻をめぐって法人が団体交渉開催を引き延ばしたことを主張するので、以下、検討する。

ア 組合主張①について
 法人は、夜間に対外的な折衝会議などが多く団体交渉のための時間が取り難い旨主張し、組合に対し、団体交渉開催時刻を午前10時、午後1時、午後1時30分と回答していることが認められる。
 しかしながら、実際の団体交渉は、6.2団体交渉については午後5時30分から、7.9団体交渉については午後6時から開催されており、法人は、夜間対応が困難としながらも、団体交渉開催に向けて調整を行い、当初の回答から譲歩をしたといえる。したがって、団体交渉開催時刻の調整について、法人の対応は不誠実とはいえない。

イ 組合主張②について
 組合は、組合員Dの雇用期間内での早急な団交が必要であった旨主張する。しかし、速やかな団交開催を求めるのであれば、組合員Dが5.17提案契約書の提示を受けてすぐに団交を申し入れるべきであるところ、この間書面によるやり取りを行っていたとはいえ、5.27団交申入れまで10日間を要したのは組合である。これに対し、法人は、5.27団交申入れから、6日後に6.2団交を開催しているのであり、法人の対応は不誠実とはいえない。

ウ 組合主張③について
 法人は、組合による6.10団交申入れから4日後には最初の団交日程を回答しており、その後も、組合と日程等をめぐって相当程度の回数のやり取りを行っている。
 このことからすれば、結果として、団交は6.10団交申入れから約1か月後の開催となったが、法人が意図的に引き延ばしをしたとまではいえない。
 さらに、組合は、開催時刻をめぐって法人が団交開催を引き延ばした旨主張するが、団交開催時刻についてすぐに合意に至らなかったのは上記ア記載のとおり組合の希望する時間帯が限定されていたためでもあるといえ、一方的に法人のみに非があるとはいえない。したがって、この点に関する組合の主張は採用できない。

(3)以上のとおり、組合主張①から③のいずれにおいても、法人が団交日程の設定を合理的な理由なく遅延させたとはいえない。
 よって、法人の行為は、不誠実団交には当たらないことから、この点に関する組合の申立ては棄却する。 

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