労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  大阪府労委令和5年(不)第62号
不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和7年3月10日 
命令区分  棄却・却下 
重要度   
事件概要   本件は、会社が、①組合の執行委員長に対し、再雇用契約を更新しない旨通知したこと、②組合からの団体交渉申入れに応じなかったことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 大阪府労働委員会は、①に係る申立てを棄却するとともに、申立期間を徒過したものとして、その他の申立てを却下した。 
命令主文  1 会社が組合の執行委員長Dに対し、雇用契約を更新しないことを伝えたことに係る申立てを棄却する。

2 その他の申立てを却下する。 
判断の要旨  1 会社が、令和5年10月16日に組合の執行委員長Dに対し、雇用契約を更新がないことを伝えたことは、組合員であるが故の不利益取扱いに当たるとともに、組合に対する支配介入に当たるか(争点1)

(1)会社による執行委員長Dの雇用契約を更新しない旨の令和5年10月16日付け告知(「5.10.16告知」)は、組合員であるが故の不利益取扱いに当たるか

ア 当該行為の不利益性について
 エルダースタッフ規程第7条第1項第2号には、「65歳以降も引き続き契約を希望する者については、健康状態、勤務成績等の別に定める基準を満たす者に限る。」と記載されている。このことからすれば、会社においては、社員が65歳を超えて契約を更新される可能性も一定存在していたといえ、執行委員長Dが自身の雇用契約の更新を期待することに理由がなかったとはいえないのであるから、会社が、執行委員長Dに対し、雇用契約を更新しないことを伝えたことが、身分上及び経済上の不利益性を有することは、明らかである。

イ 会社が、執行委員長Dに対し、雇用契約を更新しないことを伝えたことは、組合員であるが故になされたものであるか

(ア)65歳以降の再雇用する際の選考基準について
 エルダースタッフ規程第7条第1項第2号においては、65歳以降の雇用契約の更新については、「健康状態・勤務成績等の別に定める基準を満たす者に限る。」との規定があるが、この「別に定める基準」について、具体的に定めたものが会社に存在しない。
 そうすると、明確な基準により、65歳以降の雇用契約を更新する社員とそうでない者が決定されるわけではないので、会社の恣意により、組合の組合員のみを組合員であるが故に不利益に取り扱う可能性がないとはいえない。

(イ)会社が組合を嫌悪していたといえるか
 この点について、組合は、組合嫌悪が会社にあったことの根拠として、①会社は別組合との労働協約により、別組合しか認めないとしている旨、②ダイヤ改正について、組合に事前の資料配布等を行わず、別組合とのみ話を進めた旨主張する。
 しかし、係長Fは、組合の希望する形態が団体交渉か担当者との交渉なのか明らかにするよう組合に求め、その後、令和4年8月30日の申入れ(以下「4.8.30申入れ」)についても要求事項を明確にするよう求めており、会社が組合を認めないという扱いをしているとはいえない。また、ダイヤ改正に関する交渉の経緯については、事実が明らかではなく、組合の主張する事実をもって、会社に組合嫌悪があったと認めることもできない。
 以上のとおり、会社が5.10.16告知を行った時期において、組合に対して嫌悪を抱いていたとか、組合と会社の間が緊張関係にあったなどの事実は認められない。

(ウ)非組合員との取扱いの差について
 組合は、他の従業員との不均衡の例として、①大きい人身事故を起こしたが、65歳以降も継続雇用された者や、②アルコール反応が出たが同様に65歳以降も勤務している者の例を主張する。しかし、組合の主張する事例は、いずれも事実が判然とせず、そのようなことが起こった時期も不明であり、これらの主張をもって、他の従業員と比較して不均衡があったと認めることは困難である。

(エ)会社が、執行委員長Dとの雇用契約を更新しないことを決定したことに合理的な理由があったといえるか
 会社は、この点について、「執行委員長Dが、①2件の事故を起こしたこと、②苦情があったこと、③独立行政法人自動車事故対策機構の実施する適性診断のうちの一般診断(以下「NASVAの診断」)〔注〕の受診指示を拒否し、令和4年10月4日付の譴責処分(以下「4.10.4処分」)を受けたことから、勤務成績が著しく不良であると判断し、契約を更新しなかった」旨主張するので、以下検討する。

〔注〕認定によれば、「運転態度、認知・処理機能、視覚機能などについて、心理及び生理の両面から個人の特性を把握し、安全運転に役立つアドバイスを記載した適性診断票を発行」するもの

a 会社主張①(2件の事故)について
 執行委員長Dは、令和元年に2件の事故を起こしたが、組合は、当該事故について警察から減点がなされなかった等を主張するが、執行委員長Dの再雇用期間中に当該事故が発生したことに間違いはなく、会社が、勤務成績を判断するにあたりこれらの事故を考慮要素としたことは一定理解できる。

b 会社主張②(執行委員長Dに対する苦情)について
 執行委員長Dについて、会社に令和2年2月4日に苦情が寄せられている。組合は、この苦情について、警察官から違反とされず反則切符も切られていない等を主張するが、赤信号を無視して交差点を通過し、これについて苦情が寄せられた事実がある以上、上記aの判断と同様、会社が執行委員長Dの勤務成績を判断するにあたり考慮したことは一定理解できる。

c 会社主張③(4.10.4処分を受けたこと)について

(a)令和4年9月17日及び同月23日に会社は、執行委員長Dに対し、NASVAの診断の受診を指示し、執行委員長Dは、いずれもこれを拒否している。この点について、組合は、①受診中の手当について会社と協議中であった旨、②予備勤務中に受診した場合、タ方の混雑時に乗務を命じることについて抗議中であった旨、③受診前に強制的に退勤をさせられた旨主張する。
 しかし、組合主張①については、組合と会社がNASVAの診断の受診にかかる手当を議題として協議をしていたと認めるに足る事実の疎明はなく、そもそも仮に協議中であったとしても、それが受診を拒否する正当な理由ともいえない。
 組合主張②については、執行委員長Dがそのことに不満で、苦情を言うのは自由であるが、それをもって、NASVAの診断の受診命令を拒否することが正当化されるとみることはできない。
 組合主張③については、会社が執行委員長Dに再度受診を指示した令和4年9月23日に、会社の運行管理者が執行委員長Dに退勤を命じたことは認められるが、そもそも執行委員長Dは受診を拒否しNASVAの診断の受診を拒否する理由の書面を会社に提出しており、その後に当該退勤命令が行われたのであるから、この退勤命令がNASVAの診断を受診しなかった正当な理由になり得ないのは当然であり、受診の意志があったことを前提とした組合の主張は失当である。
 したがって、執行委員長DがNASVAの診断の受診を拒否したことに、正当な理由があったとはいえない。

(b)組合は、「執行委員長Dに対する懲戒処分について審議する賞罰委員会は、別組合との労働協約を根拠としており、労働協約を結んでいない組合の組合員に対する懲戒処分は無効である」旨主張する。
 しかし、①会社の就業規則には、社員の懲戒については、賞罰委員会の審議答申に基づき決定する旨の記載があること、②賞罰委員会規程には、就業規則に定める基準適用の可否並びにその程度を審議し、会社に答申する旨の記載があることが認められ、組合が主張するように、別組合との労働協約を根拠にしたものではないことは明らかである。
 また、仮に、組合の主張するように就業規則の条文の前の記載〔注〔37.賞罰決定の原則〕〕が別組合との労働協約の条文番号を示しており、同様の内容の労働協約が別組合との間に存在したとしても、同じ内容の就業規則や賞罰委員会規程も存在する以上、執行委員長Dに対しては、それらが適用されるのが当然であり、「4.10.4処分を決定した賞罰委員会が、別組合との労働協約を根拠として行われており、それ故執行委員長Dには適用されず、4.10.4処分は無効である」という組合の主張は到底認められない。

(c)また、組合は、NASVAの診断の受診は任意であり、前回受診から7年間も会社は放置していた旨主張するが、だからといって会社の業務命令である受診指示を拒否してよい理由にはならない。

(d)以上からすると、会社に対して執行委員長DがNASVAの診断の受診拒否を理由に譴責処分を行ったことには合理的な理由があるというべきである。

d 上記のとおり、会社が、執行委員長Dに対し、事故、苦情及び業務指示を拒否して譴責処分を受けた事実を考慮し、雇用契約を更新しなかったことには、合理的な理由があったといえる。

(オ)以上のことを総合的に判断すると、会社が、執行委員長Dに対し、雇用契約を更新しないことを伝えたのは、同人が組合員であるが故になされたものと認めることはできない。

ウ 以上のとおりであるので、5.10.16告知は、組合員であるが故の不利益取扱いには当たらない。

(2)5.10.16告知は、組合に対する支配介入に当たるか

 上記(1)判断のとおり、5.10.16告知は、組合員であるが故に行われたといえず、組合を排除し、組合活動を妨害する目的で行われたと認めるに足る事実の疎明もないことから、支配介入にも該当しない。

(3)以上のとおり、5.10.16告知は、組合員であるが故の不利益取扱い及び組合に対する支配介入に当たらず、この点に関する組合の申立てを棄却する。

2 4.8.30申入れに係る申立ては、労働組合法第27条第2項の申立期間を徒過していないといえるか。徒過していない場合、同申入れに対する会社の対応は、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか(争点2)

(1)労働組合法第27条第2項は、不当労働行為救済申立てが「行為の日(継続する行為にあつてはその終了した日)から一年を経過した事件に係るものであるときは、これを受けることができない。」と規定して不当労働行為救済申立てについて申立てのできる期間を定めている。
 そうすると、令和5年10月18日に本件申立てがなされているので、令和4年10月17日以前の行為は、1年を経過していることとなり、それが継続する行為とみなされる場合を除き、当該行為に係る申立てについては却下されることとなる。
 この点について、組合は、4.8.30申入れに対して、会社から放置されているので、その状態が今もなお継続するとして、労働組合法第27条第2項に定める期間を徒過していない旨を主張するので、以下検討する。

(2)①令和4年8月30日付けで組合は、会社に対し申入書を提出したこと、②同年9月21日、執行委員長Dと係長Fの間でやり取りが行われ、ここにおいて、係長Fは、4.8.30申入れについて、要求事項を明確にするよう執行委員長Dに求めたこと、③これに対し、組合が要求内容を明確にした書面を会社に提出することはなかったこと、④同月28日付けで組合は会社に対し、同日、賞罰委員会返答通知を郵送したが、その中に「2022年8月30日付書面を送付しており、団体交渉を先延ばしにして、賞罰委員会開催等後回しにするべきであり、団体交渉が先に行われるべきである。」との文言が記載されていたことが認められる。そして、その後、組合が4.8.30申入れに係る行為を行ったとの主張も疎明もない。
 これらの経緯からすれば、4.8.30申入れに係る会社の行為は、同4年10月17日より以前において行為として完了しているとみることができる。
 組合は、団体交渉拒否の状態が継続していたとして、労働組合法第27条第2項に定める期間を徒過していない旨主張するが、仮に会社に団体交渉に応諾する義務が存在し、それに応じていない不作為の状態が継続していたとしても、そのような不作為状態が継続することはあくまでも行為の結果であり、行為が継続していたものとはいえない。そうでなければ、不作為状態が終わることなく継続するとして、何年後であろうと救済申立てが可能となってしまうため、労働組合法第27条第2項の趣旨に反することになる。
 そうだとすれば、4.8.30申入れが団体交渉申入れと判断できるかや、令和4年9月28日付賞罰委員会返答通知の末尾の文言が4.8.30申入れと同じ団体交渉事項についての団体交渉要請に当たるかを判断するまでもなく、4.8.30申入れに係る申立ては、労働組合法第27条第2項の申立期間を徒過したものとして、却下せざるを得ない。

(3)以上のとおり、4.8.30申入れに係る申立ては、労働組合法第27条第2項の申立期間を徒過しているといえ、この点に関する組合の申立てを却下する。 

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