労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  埼玉県労委令和5年(不)第2号
日本鉄鋼物流不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和6年12月26日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、会社による、①a A1、A2、A3及びA4(以下「組合員4名」)に対する計4回の出勤停止処分、b A1の労災申請手続を会社で行わないとする同人宛告知、cA2、A3及びA4に対する年次有給休暇取得申請不承認、d A3及びA4に対する乗務制限、②計3回の団体交渉における対応、③a 申立外C会社を訪問して会長に会うことを控えるよう求める旨の組合員個人名宛文書の自宅への送付、b「懲戒処分について」と題する文書等の社内掲示、④a A1及びA2に対する令和5年夏季一時金の不支給、b A2に対する令和5年6月16日付け自宅待機命令、⑤a A3の解雇、b A1に対する計2回の自宅待機命令、c A2に対する令和5年9月29日付け自宅待機命令、d A1、A2及びA3に対する令和5年年末一時金の不支給、e A1の解雇、f A4に対する配置転換命令、g A2の解雇の各行為が不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 埼玉県労働委員会は、①について労働組合法第7条第1号、②について同条第2号、③のbについて同条第3号、④について同条第1号及び第3号、⑤について同条第1号及び第4号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、(ⅰ)組合員4名に対する各出勤停止処分がなかったものとしての取扱い及び当該処分がなかったならば得られたであろう賃金相当額の支払、(ⅱ)A2、同A3及び同A4に対する年次有給休暇不承認措置がなかったものとしての取扱い及び同日分の賃金相当額の支払、(ⅲ)A2及びA1に対する各自宅待機命令がなかったものとしての取扱い及び当該命令がなければ得られたであろう賃金相当額の支払、(ⅳ)組合員A3及びA1に対する解雇がなかったものとしての取扱い、原職復帰及びそれまでの間の賃金相当額の支払、(ⅴ)A1及び同A2に対する令和5年夏季一時金各25万円の支払、(ⅵ)A1、A2及びA3に対する令和5年年末一時金各25万円の支払、(ⅶ)文書の手交及び掲示を命じ、その余の申立てを棄却した。 
命令主文  1 会社は、組合員A1、同A2、同A3及び同A4に対する令和5年5月12日、同月19日、同月29日及び同年6月6日付けの出勤停止処分をなかったものとして取り扱い、当該出勤停止処分がなかったならば得られたであろう賃金相当額を組合員A2、同A3及び同A4に支払わなければならない。

2 会社は、組合員A2、同A3及び同A4に対する令和5年5月29日付けの同月8日の年次有給休暇を不承認とする措置をなかったものとして取り扱い、同日分の賃金相当額を同人らに支払わなければならない。

3 会社は、組合員A2に対する令和5年6月16日及び同年9月29日並びに組合員A1に対する同年8月29日及び同年9月29日付けの自宅待機命令をなかったものとして取り扱い、当該自宅待機命令がなかったならば得られたであろう賃金相当額を同人らに支払わなければならない。

4 会社は、組合員A3に対する令和5年9月19日、同A1に対する同年12月22日及び同A2に対する令和6年2月16日付け解雇をなかったものとして取り扱い、同人らを原職に復帰させるとともに、解雇の日の翌日から原職に復帰するまでの間の賃金相当額を同人らに支払わなければならない。

5 会社は、組合員A1及び同A2に対し、令和5年夏季一時金として、それぞれ25万円を支払わなければならない。

6 会社は、組合員A1、同A2及び同A3に対し、令和5年年末一時金として、それぞれ25万円を支払わなければならない。

7 会社は、本命令書受領の日から2週間以内に、下記内容の文書を申立人に手交するとともに、同一内容の文書を縦1.5メートル以上、横1メートル以上の白紙一杯に楷書で明瞭に記載して、会社の本社正面玄関の従業員の見やすい場所に10日間掲示しなければならない。
 年 月 日
X組合
 執行委員長 A1様
Y会社        
代表取締役 B1
 当社の下記の行為は、埼玉県労働委員会において労働組合法第7条の不当労働行為であると認定されました。
 今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。
(1)貴組合の組合員A1、同A2、同A3及び同A4に対して、令和5年5月12日、同月19日、同月29日及び同年6月6日付けの出勤停止処分をしたこと(1号)。
(2)貴組合の組合員A1の労災申請手続を会社で行わない旨、令和5年5月29日に告知したこと(1号)。
(3)貴組合の組合員A2、同A3及び同A4に対して、令和5年5月29日付けで年次有給休暇取得申請を不承認としたこと(1号)。
(4)貴組合の組合員A3及び同A4に対して、令和5年7月18日以降の乗務を制限したこと(1号)。
(5)貴組合の組合員A2に対して令和5年6月16日付けの自宅待機命令をしたこと(1号及び3号)。
(6)貴組合の組合員A1に対して令和5年8月29日及び同年9月29日、同A2に対して同年9月29日付けの自宅待機命令をしたこと(1号及び4号)。
(7)貴組合の組合員A3を令和5年9月19日、同A1を同年12月22日、同A2を令和6年2月16日付けで解雇したこと(1号及び4号)。
(8)貴組合の組合員A4に対して、令和6年2月7日付けで乗車業務から倉庫作業等への配置転換を命じたこと(1号及び4号)。
(9)貴組合の組合員A1及び同A2に対し、令和5年夏季一時金を支給しなかったこと(1号及び3号)。
(10)貴組合の組合員A1、同A2及び同A3に対し、令和5年年末一時金を支給しなかったこと(1号及び4号)。
(11)令和5年6月22日の夏季一時金及び不利益処遇に関する団体交渉及び同年10月28日の年末一時金に関する団体交渉に誠実に応じなかったこと(2号)。
(12)令和5年11月24日の団体交渉を、解雇処分を受けその効力を争っている組合員の出席を理由に、実質的に拒否したこと(2号)。
(13)組合活動を理由とする懲戒処分を科し、組合員が不祥事を起こして処分を受けたかのように装って社内掲示板に掲示するなどの方法により、組合の組織及び運営に支配介入したこと(3号)。
以上

8 その余の申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 会社の次の行為は、労働組合法第7条第1号の不当労働行為に当たるか

(1)会社による組合員4名に対する計4回の出勤停止処分

ア 「組合員4名が5年5月8日にC会社を訪問したことを理由とする令和5年5月12日付け処分」について
(ア)C会社会長D(以下「会長D」)は、会社の全株式を保有する申立外E会社の一人株主兼代表取締役で、いわゆる会社の「オーナー」として会社の経営上の重要事項や労働者の基本的な処遇、待遇等について、現実的かつ具体的に支配決定できる地位にあった。よって、会長Dは労働組合法第7条の使用者として、組合から団体交渉出席を要請される立場にあり、会長Dの団体交渉出席を要請するためのC会社訪問行為は、労働組合の正当な行為と評価できる。
(イ)組合員らは、前もってC会社訪問を予告し、当日も会社の社長B1らが対応し、出入口付近に15分間程度滞在したに過ぎず、態様も平穏であることから、出勤停止処分の理由として会社が挙げている「会社の信用を失墜させ」、「会社および取引先での暴言またはこれに類する行為をし」たなどとは認められない。
 訪問行為のわずか4日後の出勤停止処分など、会社がC会社の意向を重要視していることは疑うべくもなく、さらに、最終的に解雇されるに至っているなど、組合員らの行った行為に照らし、処分は過剰反応ともいえる程執拗かつ過酷である。社長B1ら会社の代表者は、オーナーである会長Dの意思に逆らえないから、会社は、組合員らに過酷な処分を科すことで、会長Dの組合嫌悪に基づき組合を排除しようとする意思を具現化した。

イ 「上記アの出勤停止処分で命じられた始末書の不提出を理由とする令和5年5月19日付け処分」について、そもそも前提となるアの各出勤停止処分が不当労働行為に当たるため、会社は、不当労働行為に基づく命令に反したことを理由に出勤停止処分をしたといえる。

ウ 「組合員4名が会社の全体会議が開催されるM市文化会館の駐車場でビラ配りをしたことを理由とする令和5年5月29日付け処分」について、当該ビラ配りについては、①〔ビラ記載の〕上記ア及びイの出勤停止処分は不当労働行為であり、②会社自身が、会社関係者以外へのビラ配布を〔組合が行ったとは〕認めておらず、③会社の全体会議には支障がないことから、労働組合の正当な行為と認められる。したがって、当該処分は、会長Dの組合嫌悪に基づき組合を排除しようとする意思を具現化したものといえる。

エ 「上記ウの出勤停止処分で命じられた始末書の不提出を理由とする令和5年6月6日付け出勤停止処分」について、会社は、不当労働行為に基づく命令に反したことを理由に処分をしたといえる。

(2)「会社が、令和5年5月29日にA1の労災申請手続を会社で行わないとする告知を同人宛に行ったこと」について、①当該告知日には、組合員A1ら4名への出勤停止処分などが行われ、A1への措置もその一環と認められ、②後に後遺症が残存するとしてA1を解雇しており、③過去に労災申請手続を会社で行わなかった事例がないなどから、会社の行為は、A1が組合員であることの故をもってなされたといえる。

(3)「会社が、A2、A3及びA4に対して、令和5年5月8日の年次有給休暇の取得申請をC会社への不法侵入を目的としたものであるとして不承認としたこと」について、組合のC会社訪問行為は、労働組合の正当な行為と評価できる。

(4)「会社が、令和5年7月18日以降A3及びA4を乗車業務に復帰させるに当たって、近隣の配送業務に従事するよう指示したこと」について、このことは、積置業務、長距離業務を担当して所定賃金を上回る賃金を得る機会を完全に奪ってしまうことに他ならず、会社の人事裁量権を逸脱した差別的配車と言える。そして、そのような差別的配車をした理由は、両名が組合員で、会社の指示を無視してC会社訪問などの組合活動をしたことに対する制裁措置としての意味合いを持つ。

(5)以上から、上記(1)から(4)までの会社の各行為は、いずれも労働組合法第7条第1号の不当労働行為に当たる。

2 団体交渉に係る会社の対応は、次の点に関して誠実交渉義務に反し、労働組合法第7条第2号の不当労働行為に当たるか

(1)「会社が、令和5年6月22日の第131回団体交渉において、『夏季一時金の支給額について査定中であり査定額は事前に伝えない』と回答したこと」について、(組合との協定で毎年5月31日とされる)締め日から約3週間後に開催された夏季一時金を議題とする団体交渉において、会社の方針を示して交渉に臨もうとしなかった会社の対応は、協定に反し、不誠実といえる。
(2)「会社が、第131回団体交渉において、A2の自宅待機の終了見込み及びA3及びA4の乗車業務への復帰について、『いつ頃になるか分からない。持ち帰って検討する。総合的に考える』と回答したこと」について、具体的な説明をしなかった会社の対応は不誠実といえる。

(3)「会社が、年末一時金の不支給の理由が明白であるとして、組合からの『2023年末一時金要求』につき事前に書面回答せず、第134回団体交渉においても説明資料を用意しなかったこと」について、解雇され、賞与支給日に在籍していないA3については不支給の理由が明白としても、A1とA2は、出勤停止処分の後、終期を定めない自宅待機を命じられており、不支給の理由が明白とまではいえない。また、A1については、労災休業した組合員の一時金について休業日から3期まで支給する旨の組合との協定書の扱いも含め、不支給の理由を説明する必要があった。
 したがって、会社の対応は不誠実といえる。

(4)「令和5年11月24日の第135回団体交渉において、解雇処分を受けたA3の出席を理由に会社が議事を行わなかったこと」について、解雇された組合員の団体交渉出席を拒むことは組合の団体交渉権を否定するに等しく、許されず、会社と紛争状態にあるA3の出席を理由に議事を行わずに団体交渉を終えたことは不誠実といえる。

(5)したがって、上記(1)から(4)までの会社の各行為は、いずれも労働組合法第7条第2号の不当労働行為に当たる。

3 会社の次の行為は、労働組合法第7条第3号の不当労働行為に当たるか

(1)「会社が、C会社を訪問して会長Dに会うことを控えるよう求める旨の組合員個人名宛文書を各組合員個人の自宅に送ったこと」について、会社は、大型連休中であっても確実に指示を伝えるため当該文書を組合員全員に送ったものであり、組合の弱体化効果を持ち、組合の団結に介入するものとまでは認められず、労働組合法第7条第3号の不当労働行為に当たらない。

(2)「会社が、令和5年5月15日及び5月29日付けで『懲戒処分について』文書を、5月8日付けでC会社からの同日付け通知書を、それぞれ社内に掲示したこと」について、会社は、組合活動をしたことをもって懲戒処分し、その懲戒処分の内容と理由及びC会社からの(①組合員の訪問行為により業務等が著しく妨害された、②貴社に対する厳正な対処を検討する旨の)通知を社内に公表した。これら行為は、労働組合法第7条第3号の不当労働行為に当たる。

4 会社の次の行為は、労働組合法第7条第1号及び第3号の不当労働行為に当たるか

(1)「会社が、令和5年夏季一時金を、組合員4名中2名には非組合員と同様に支給し、A1及びA2には支給しなかったこと」について、賃金規程が「支給しないことがある」と規定する「営業成績の低下、その他やむを得ない事由」は見出せないことなどから、会社の行為は、組合の分断を図り、組合活動を抑制しようとするものといえる。

(2)「会社が、従事させる業務を検討するためとの理由で令和5年6月16日から同年9月30日までA2に自宅待機を命じたこと」について、刑事告訴処分を受けたのみでは、「犯罪行為に該当するような行為があった」とはいえないし、被疑者であるからといって、3か月半もの長期にわたり従事させる業務を検討する必要があるとは到底考えられない。会社には、組合の中心人物を不利益に扱うことにより組合活動を抑制しようとする意図が窺える。

(3)したがって、会社の上記(1)及び(2)の行為は、いずれも労働組合法第7条第1号及び第3号の不当労働行為に当たる。

5 会社の次の行為は、労働組合法第7条第1号及び第4号の不当労働行為に当たるか

(1)「会社が、出発前のアルコール検査で呼気中アルコール濃度0.14 mg/ℓを計測したとして、令和5年9月19日付けでA3を解雇したこと」について、当該濃度は、刑法上の酒気帯び運転の基準値〔注 0.15mg/ℓ〕に極めて近いものの達してはいない。基準値に達してもいない行為を就業規則上の「犯罪行為に該当するような行為」「飲酒運転」に該当するとしては、罪刑法定主義の趣旨を損なうこと著しい。さらに、会社は、就業規則上の「飲酒運転」は、広く「飲酒した状態での運転」をいうと主張するが、本件争い以前に、濃度0.27mg/ℓと重い酒気帯び運転の基準値に達していたA3を厳重注意処分に留めていたことと整合性が取れない。
 したがって、会社は、呼気中アルコール濃度の検出を奇貨として、A3を解雇し、組合の弱体化を図ったといえる。

(2)「会社が、a復職の可否等の検討を理由として令和5年8月29日付で同年9月1日以降、b復職の可否、復職後の業務等の検討を理由として同年9月29日付で同年10月1日以降、それぞれA1に自宅待機を命じたこと」について、過去の例から、ドライバー以外の業務に従事させつつ、復職の可否等を検討することも可能であったことなどから、会社にはA1の復職を阻止したいという意図が透けて見える。

(3)「会社が、刑事告訴を受けている状況の継続を理由に、令和5年10月1日からA2に自宅待機を命じたこと」について、刑事告訴されたとはいえ、C会社の出入口ドア付近に15分間程度滞在した行為により「犯罪行為に該当するような行為があったとき」とまではいえない。また、会社は、自宅待機命令を解除することなく翌年2月にA1を解雇している。

(4)「会社が、A1及びA2は出勤しておらず、A3は在籍していないため対象外であるとして令和5年年末一時金を支給しなかったこと」について、いずれも不当労働行為となる処分(A1及びA2の自宅待機命令及びA3の解雇)を理由とするものといえる。

(5)「会社が、令和5年11月29日に医療機関に照会した結果、身体の故障により業務に耐えられないと認めたとして就業規則に基づき同年12月22日付けでA1を解雇したこと」について、診断書の内容に疑いがあるのであれば、再度、医療機関に照会することも可能であり、確認に時間を掛けられない理由は見当たらない。また、会社では、組合員以外の者を身体的理由により乗車業務以外の業務に就けた例がみられる。
(6)「会社が、令和6年2月7日付けでA4を乗車業務から倉庫作業へ配置転換したこと」について、A4は医師から就労可能と診断されており、また、会社では心臓疾患の手術を受けた従業員を業務制限のない乗車業務に就けた例がみられる。

(7)「会社が、令和6年2月16日付けでA2を解雇したこと」について、会社は、「A2が、C会社を訪問し、業務を妨害した行為に関して書類送検されたことは実質的に犯罪の嫌疑があることが十分に確認されたためと思料する」との理由から、「勤務態度が不良で就業に適さないと認め、就業規則に基づき解雇した」、「不起訴処分となったことで本件解雇処分が違法となることはない」などと主張する。
 もちろん、刑事告訴や書類送検によって犯罪の嫌疑が固まるわけではなく、しかも、本件刑事告訴の対象となった行為は、正当な組合活動と認められ、刑法上正当行為とされるべきである(労働組合法第1条第2項)。
 思うに、会社が解雇通知書で掲げたA2の行為自体は令和5年5月8日のもので、令和6年2月に当該行為を根拠に解雇することは、時機を逸していること甚だしい。
 会社は、当該行為のみでは解雇の理由とならないことを認識し、A3及びA1を解雇した後、組合の中心人物であるA2を解雇したいものの、解雇する理由及び機会を得ようと刑事告訴の帰趨を見定めるなど苦慮していたことが推認される。

(8)これらから、上記(1)から(7)までの会社の各行為は、いずれも組合活動及び本件申立てなどによる会社との係争などを理由とする不利益取扱いといえ、労働組合法第7条第1号及び第4号の不当労働行為に当たる。 

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