労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  東京都労委令和5年(不)第25号
竹中工務店不当労働行為審査事件 
申立人  Xユニオン(組合) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和6年12月3日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、組合が、会社に対し、組合員A2が従事した、会社を代表者とする建設共同企業体が元請事業者である福島第一原発4号機原子炉建屋カバーリング工事における被ばく労働管理などの作業環境等について団体交渉を申し入れたところ(以下「本件団体交渉申入れ」)、A2との間で雇用関係があったことはないことなどを理由にこれに応じなかったことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 東京都労働委員会は、会社は、当該工事における被ばく労働管理などの作業環境について、Aとの関係で労働組合法上の使用者に当たるとした上で、組合が会社に申し入れた団体交渉事項は、①当該作業環境、②危険手当の支給についてであったところ、会社が①に係る団体交渉申入れに応じなかったことが同法第7条第2号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、(ⅰ)①の事項についての誠実団体交渉応諾、(ⅱ)文書交付等を命じた。 
命令主文  1 会社は、組合が令和4年10月14日付けで申し入れた団体交渉のうち、組合員A2の就労時における被ばく労働管理などの作業環境に係る事項について、誠実に応じなければならない。

2 会社は、本命令書受領の日から1週間以内に、下記内容の文書を組合に交付しなければならない。
 年 月 日
Xユニオン
 執行委員長 A1殿
Y会社        
代表取締役 B1
 当社が、令和4年10月14日付けの、貴組合からの団体交渉申入れのうち、組合員A2氏の就労時における被ばく労働管理などの作業環境に係る事項について応じなかったことは、東京都労働委員会において不当労働行為であると認定されました。
 今後、このような行為を繰り返さないよう留意します。

3 会社は、前項を履行したときは、当委員会に速やかに文書で報告しなければならない。

4 その余の申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 会社は、組合員Xとの関係で、労働組合法上の使用者に該当するか(争点1)

(1)会社は、福島第一原発4号機原子炉建屋カバーリング工事(以下「本件工事」)の元請事業者であるC共同企業体(以下「C-JV」)の代表者であり、組合員A2〔注 第二次下請事業者であるD社の従業員〕とは直接の雇用関係にないところ、組合は自らが申し入れた団体交渉事項について、「会社は部分的とはいえ現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあり、労働組合法上の責任を負う「使用者」に当たる」と主張するので、以下この点につき検討する。

(2)組合が、会社に申し入れた団体交渉事項は多岐にわたるが、要するに、①本件工事における被ばく労働管理などの作業環境に関すること、及び②「危険手当」の支給についてであったといえるから、これらの事項についてそれぞれ検討する。

(3)本件工事における被ばく労働管理などの作業環境について

ア 発注者と受注者であるC-JVとの間の工事請負契約書が証拠として提出されていないため、受注者の代表者である会社が契約上負っている義務は明らかではないが、発注者が原子力発電所の放射線管理区域での工事の施工に当たって受注者に要求する事項が定められた放射線管理仕様書では、受注者は、本件工事の施工に当たり、責任をもって放射線安全の確保を確実にするとともに、作業員が受ける放射線被ばくを合理的に達成できる限り低くするよう努めることが求められている。
 そして、受注者は、労働者の放射線安全を確保するための必要な措置を講じ、放射線管理責任者等を選任し、作業現場における作業員の放射線安全確保に努めることとされている。
 また、受注者は、「放射線作業管理」として、各作業における被ばく線量が合理的に可能な限り低減されるよう作業を計画して実施するものとし、線量の管理については、線量計を作業員に着用させ、作業員の日々の線量を確認把握することが義務付けられ、その線量が関係法令に定める基準を超えないように管理することが求められている。

イ 実際にも、会社は、放射線管理責任者等を選任し、本件工事の現場で就労する作業員の被ばく労働の管理を行っていた。そして、本件工事現場において被ばく防止対策として、会社は、遮へいベスト、線量計、ガラスバッチ等を作業員に貸与し、アラーム付線量計の設定値は会社が設定する指示書に基づいていた。
 また、作業員の放射線被ばくの線量管理については、C-JVが放射線管理会社に委託し、同社は、線量計で測定した放射線量の数値を作業員ごとに日々管理し、被ばくした放射線量を月ごとに集計していた。計測し集計されたデータは、C-JVの代表者として会社が一元的に管理していたと推認できる。
 A2は、平成25年5月から12月までの間、福島第一原発の別の工事に従事していたが、この別工事の元請事業者は、作業員の防護具の種類とその着用状況を把握し、作業員の被ばく線量が記載された書類等を保有していたところ、本件工事においても、発注者が同一で、工事現場も福島第一原発であったことからすれば、別工事と同様に、元請事業者であるC-JVの代表者として、会社が作業員の被ばく労働の作業環境の状況を詳細に把握していたものと推認できる。

ウ 一方、第一次下請事業者のE社や、A2の雇用主であり第二次下請事業者でもあるD社が、本件工事における被ばく労働管理を部分的にも担っていた事実は認められない。
 これからすると、放射線管理仕様書で受注者に求めていた放射線管理業務は、下請事業者に任せることなく会社が一手に担っていたといえる。
 以上の事実に照らすと、本件工事における被ばく労働管理については、会社が代表者となっているC-JVが契約上の責務を負い、実態としてもC-JVの代表者である会社が行っていたということができ、組合が本件団体交渉申入れによって団体交渉を申し入れた本件工事における被ばく労働管理などの作業環境について、会社は、部分的とはいえ、現実的かつ具体的に支配、決定できる地位にあったといえるから、A2との関係で労働組合法上の使用者に当たる。

(4)「危険手当」について
 「危険手当」については、発注者が、平成25年12月発注分から元請事業者に対し労務費の割増しが確実に作業員に行き渡る施策立案・実行・検証・報告を求めていたことは認められるが、Xが、本件工事に従事していた平成24年10月から25年3月までの間において、上記のような取決めに基づいて運用がなされていたかは証拠上明らかではない。また、A2への「危険手当」の支給について、会社が何らかの事実上の力を背景に影響を及ぼしたり、関与した事実は具体的な証拠によって何ら立証されていないから、「危険手当」の支給について、会社がA2との関係で、労働組合法上の使用者に該当するとはいえない。

2 会社が使用者に該当する場合、本件団体交渉申入れに同社が応じなかったことは、正当な理由のない団体交渉拒否に該当するか(争点2)

(1)本件工事における被ばく労働管理などの作業環境については、労働者の健康に多大な影響を及ぼし得る事項であり、労働組合法上の使用者に当たる主体との関係においては、「労働条件その他の待遇」に該当する事項であり、義務的団体交渉事項といえる。
 組合は、本件工事の当時の就労環境の実態を団体交渉を通じて明らかにすることが目的であったと解されるところ、A2は、本件工事を含む福島原発での工事に従事した後、急性骨髄白血病を発症していることをも考慮すると、本件工事における被ばく労働管理などの作業環境について労働組合法上の使用者と認められる会社は、本件団体交渉申入れに対し誠実に応ずることが求められていたというべきである。

(2)この点、会社は、過去の労働条件に起因する紛争は団体交渉の対象外であると主張する。
 確かに、A2が、本件工事に従事してから約10年が経過しており、本件団体交渉申入れは時機を逸した団体交渉申入れといえなくもない。
 しかし、本件の場合、退職時には顕在化していなかった問題について、A2は、退職後に急性骨髄性白血病にり患したことが判明した後、漫然とこれを放置することなく、労災認定を受けるべく手続を行うとともに、本件工事の発注者を被告として別件訴訟を提起し、その後組合に加入した。組合は、発注者に対し団体交渉を申し入れ、同社に団体交渉を拒否されると当委員会に不当労働行為救済申立てを行い〔注 東京都労委令和2年(不)55号事件〕、令和4年6月9日に当委員会が当該発注者は労働組合法上の使用者に当たらないとの判断を示した後、申入れ先を会社として本件団体交渉申入れを行ったとみられる。
 こうした経緯をみれば、本件団体交渉申入れに至る過程には相応の事情があったとみられ、社会通念上合理的期間内に申入れがなされたものとみるべきである。また、A2は自らが被った労働災害については当該発注者を相手として責任を追及しているものの、実際にA2が当時従事した本件工事の現場における被ばく労働管理などの作業環境の詳細を把握しているのは会社のみであったというほかないから、こうした本件の特性からすると、たとえA2が本件工事に従事してから約10年が経過していたとしても、会社はこの申入れに誠実に応ずべきであったといえる。
 したがって、会社の主張は採用できない。

(3)以上要するに、会社が、A2の作業従事した本件工事における被ばく労働管理などの作業環境について、組合からの本件団体交渉申入れに応じなかったことは、正当な理由のない団体交渉拒否に該当する。 

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