概要情報
事件番号・通称事件名 |
大阪府労委令和5年(不)第3号・第23号・第29号・第55号
不当労働行為審査事件 |
申立人 |
X組合(組合) |
被申立人 |
Y会社(会社) |
命令年月日 |
令和7年1月10日 |
命令区分 |
一部救済 |
重要度 |
|
事件概要 |
本件は、会社が、①会社の事務所の深夜閉鎖に伴う営業車の入庫禁止についての団体交渉申入れに対して回答しなかったこと、②無期雇用に転換する条件にある組合副委員長A2に対して雇止め予告通知をしたこと、③組合員A3に対して雇止め予告通知をしたこと、④無期雇用への転換を申し入れた組合員A4に対して退職を強要したこと、⑤組合執行委員長A1に対し契約更新を行わないことを条件とする雇用契約の締結を求めたことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
大阪府労働委員会は、⑤について労働組合法第7条第1号及び第3号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、(ⅰ)A1との間で令和5年9月13日付けで締結した雇用契約について、契約更新を行わないという条件がなかったものとして取り扱わなければならないこと、(ⅱ)文書手交を命じ、その他の申立てを棄却した。 |
命令主文 |
1 会社は、組合執行委員長A1との間で令和5年9月13日付けで締結した雇用契約について、契約更新を行わないという条件がなかったものとして取り扱わなければならない。
2 会社は、組合に対し、下記の文書を速やかに手交しなければならない。
記
年 月 日
X組合
執行委員長 A1様
Y会社
代表取締役 B
当社が、令和5年9月9日、貴組合執行委員長A1氏に対し、契約更新を行わないことを条件とする雇用契約の締結を求めたことは、大阪府労働委員会において、労働組合法第7条第1号及び第3号に該当する不当労働行為であると認められました。
今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。
3 組合のその他の申立てを棄却する。 |
判断の要旨 |
1 令和4年12月28日、組合が会社に対し、「会社発表の2023年1月1日実施とされる0時から1時30分の入庫禁止について」を議題とする同日付けの「団体交渉申入書」を手交して、団体交渉を申し入れた(以下「本件団体交渉申入れ」)ことに対する会社の対応は、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか(争点1)
(1)本件団体交渉申入れに対し、会社は団体交渉に応じていない。また、当該議題は、義務的団体交渉事項に当たる。
(2)令和4年12月21日、事務所に、「令和5年1月1日以降、午前0時から午前1時半まで営業所を閉鎖する」旨手書きで記載された「お知らせ」と題する書面が掲出されたところ、①当該書面は、手書きで記載され、会社名の記載もなく、会社が発表したものかどうかは定かでない上、②入庫禁止は実際には実施されず、③組合も、入庫禁止が実施されないことを、自ら設定した回答期限以前に認識していた。
そうすると、本件団体交渉申入れは、その前提となる事実が存在しているとはいえないから、会社が団体交渉に応じなかったことには正当な理由がある。
この点、組合は、「今後、このようなことが起こらないように会社の真意を確かめる団体交渉が必要である」旨など主張するが、将来の事項については、具体的に懸念が生じた段階で改めて団体交渉を申し入れるべきで、会社には、この時点で団体交渉に応じる義務はない。
(3)以上から、会社の対応は、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるとはいえない。
2 会社が、副委員長A2に対して、令和5年2月1日付けで、同年8月15日をもって雇止めとする旨の予告通知(以下「A2雇止め予告通知」)をしたことは、組合員であるが故の不利益取扱い及び組合に対する支配介入に当たるか(争点2)
(1)会社がA2雇止め予告通知をしたことは、不当労働行為意思に基づくものか
ア まず、判断の前提として、組合内のA1派とC派との関係についてみる。
①平成26年11月2日開催の組合臨時大会において、委員長A1、副委員長A2及び書記長Cが組合役員に選出された後、会社が提案した新賃金制度の導入の是非をめぐって、反対するA1派と容認するC派との間で対立が生じ、②その後、令和5年3月27日に大阪地方裁判所が(C派組合員らに対する執行委員会の権利停止処分を無効とする)仮処分決定をするまでの間、組合の運営をめぐって両派が対立する状況が続いていた。
また、会社は、組合執行部内のこうした対立及びA1派がかつて会社提案の新賃金制度に反対したことを、当然、認識していたとみられる。
こうした中で、会社が、A1派組合員をA1派組合員であるが故に、C派組合員を含む他の従業員に比べて殊更に不利益に取り扱ったり、A1派の弱体化を図ったりするなどした場合には、不当労働行為に当たるといえる。これらを前提に、以下検討する。
イ まず、会社がA2雇止め予告通知をした時点で、A2は、A1派の組合員として組合活動においてA1と行動を共にし、会社はそのことを認識していた。
ウ A2雇止め予告通知がなされる前の労使関係についてみるに、組合が先行事件(大阪府労委27-20号)を大阪府労働委員会に申し立てた平成27年4月から会社による再審査申立てが中央労働委員会で棄却された令和元年10月までの間は緊張状態にあったとみられるものの、その後、令和4年8月12日までの間、会社は組合からの団体交渉申入れに応じており、特段、緊張状態にあったとはいえない。
エ A2雇止め予告通知は不当労働行為意思に基づくものであったか
組合は、「A2がA1と共に一貫して会社の不当な職場支配及び管理に意見してきたことを会社が嫌悪した」旨主張し、その具体的根拠として以下の4点を挙げるが、いずれも、会社が組合やA2らの組合活動を嫌悪していたことの根拠とはならず、A2がA1と共に行っていた組合活動を会社が嫌悪していたとはいえない。
(ア)根拠①「A2に対する「契約期間満了予告通知書(以下「予告通知書」)」記載の理由が客観的、合理的でないこと」について
A2に対する予告通知書には、雇用契約を更新しない理由として、a隔日勤務の労働時間数を満たせていないこと、b鳩の餌やりの継続及びそれによる苦情、c道路交通法違反による人身事故の惹起、d営業車内での喫煙行為、e制服でない服装での乗務の5点が記載されていた。これら記載事実はいずれも、会社の契約更新基準に基づいたものといえ、また、記載内容の妥当性についてみても、雇止め理由には一定の妥当性がある。
(イ)根拠②「会社が、(親会社による平成26年8月の)買収前から組合事務所等の貸与を認め、労働協約を締結している組合の役員を解雇するのに、理由の説明もなく、結論ありきの態度であったこと」について
組合の役員の雇止めについて、組合と会社との間で事前協議約款が締結されていると認めるに足る事実の疎明はなく、A2の雇止め通知に先立って、必ずしも会社が組合に対してその理由を説明すべき義務があったとまではいえない。
(ウ)根拠③「会社が、A2の雇止めについての団体交渉に応じていないこと」について
このことをもって、直ちに、会社が雇止め予告通知をした時点で不当労働行為意思を有していたとはいえない。
(エ)根拠④「令和4年末からの組合員らの出勤停止に対する法的根拠の開示要求や安全講習会への出席拒否のため会社が組合を嫌悪したこと」について
会社は、乗務停止の法的根拠の明示を求める組合の申入書に対し書面で回答し、また、交通事故後の講習に出席しなかった組合員らに対しては、乗務させないなどの特段の措置をとっていないから、かかる主張には無理がある。
(オ)なお、令和5年4月から7月にかけて、会社は65歳以上のC派組合員2名が雇用契約を締結又は更新したが、それぞれの勤務状況又は事故の詳細が明らかではなく、このことをもって、会社が、雇用契約の更新に関して、A1派組合員を、C派組合員らに比べて不利益に取り扱ったとはいえない。
オ 以上を考え合わせると、A2雇止め予告通知が不当労働行為意思に基づくものであったとはいえない。
(2)以上から、A2雇止め予告通知は、組合員であるが故の不利益取扱いとはいえず、また、組合に対する支配介入ともいえない。
3 会社が、組合員A3に対して、令和5年5月1日付けで、同年8月15日をもって雇止めとする旨の予告通知をしたこと(以下「A3雇止め予告通知」)は、組合に対する支配介入に当たるか(争点3)
(1)組合は、A3雇止め予告通知が支配介入であると主張する根拠として、以下の2点を挙げるので、この点についてみる。
ア 根拠①「雇止めの理由が不当であること」について
予告通知に記載された雇用契約不更新の理由は、a勤務実績(出勤回数)の低迷、b度重なる交通事故及び安全運転講習会への出席の拒否、c乗客からの苦情、d道路交通法違反、e度重なる無断欠勤の5点であり、いずれも、会社の契約更新基準に基づいたもので、記載内容については一定の妥当性がある。よって、雇用契約不更新の理由には、合理性が認められる。
イ 根拠②「A2雇止め予告通知があり、組合員A4の契約更新が問題となっていた時期に通知され、委員長A1の契約不更新へと続くものであったこと」について
確かに、A3雇止め予告通知は、①A2雇止め予告通知(令和5年2月1日付け)、②A1に対する実質的な雇止め予告通知(同年9月9日)、③契約更新についての会社とA4のやり取り(同年4月27日から5月27日にかけて)と近接した時期になされたとみることはできる。
しかし、組合員A3の雇用契約の期間は同年7月15日までであるところ、嘱託雇用契約書兼雇用通知書に「契約の更新を行わない場合は、2ヶ月前までに通知を行うものとする」との記載があることからすると、会社が同年5月8日にA3雇止め予告通知をしたのは、当該記載に従ったものとみられ、時期的に、特段、不合理ではない。
また、A2雇止め予告通知は不利益取扱いにも支配介入にも当たらない上、A1の契約不更新については、この時点で会社が方針を決定していたことをうかがわせる事実は認められない。
ウ 以上から、会社によるA3雇止め予告通知が、A2雇止め予告通知、組合員A4の契約更新及びA1の契約不更新と一連のものとして、組合に対する支配介入に当たるとはいえない。
(2)また、A3が積極的な組合活動をしていたとはいえず、会社に、組合を弱体化させるためにA3を雇止めにする動機があったとはいえない。
(3)以上を考え合わせると、会社によるA3雇止め予告通知は、労働組合の団結力や組織力を損なうおそれがあったとはいえないから、組合に対する支配介入に当たるとはいえない。
4 会社は、組合員A4に対して退職を強要することにより、組合に対する支配介入をしたといえるか(争点4)
(1)令和5年4月27日付けで、会社は組合員A4に対し、「有期雇用期間の満了のお知らせ」と題する書面を交付して次回契約の有無を含めた面談を実施する旨伝え、面談の後、A4は同年5月27日に退職届を提出して同月31日に会社を退職した。会社がA4に対して直接的に退職を求める言動をしていないことについて、当事者間に争いはない。
(2)組合は、「会社が、無期転換申込みを逆手にとって雇用契約を交わさない状態を不作為に作り出して乗務員証を渡さず、どうすれば働き続けることができるのかを示さなかったため、A4にとってはこの先の見えない状態が退職の原因となったのであり、このことが退職の強要と主張する理由である」旨主張するので、この点についてみる。
ア まず、会社の令和5年6月度の出勤確認表の記載からすると、会社は、有期雇用契約が終了する同年5月15日以降もA4の継続雇用を予定していたといえる。
イ 次に、A4が退職届を提出するに至った経緯をみるに、A4に対して、新たな雇用契約による最初の勤務予定日である令和5年5月16日に契約手続が完了していないとして、乗務の際に携帯する乗務員証を交付せず乗務させないまま、新たな雇用契約の在り方についても何ら説明しなかった会社の対応に、問題がなかったとはいえない。
しかし、①A4の退職届に記載された退職理由は契約期間の満了であって、会社による退職強要をうかがわせる理由の記載はなく、さらに、②組合は会社に抗議も団体交渉申入れもしていないことから、会社の上記対応により、A4が退職以外の選択肢がない状況にまで追いやられたとはいえない。
ウ 以上を考え合わせると、会社がA4に退職を強要したとはいえず、組合に対する支配介入をしたともいえない。
5 会社が、委員長A1に対して、令和5年9月9日に、契約期間を同年9月16日から令和6年9月15日とし、契約更新を行わないことを条件とする雇用契約(以下「本件雇用契約」)の締結を求めたことは、組合員であるが故の不利益取扱い及び組合に対する支配介入に当たるか(争点5)
(1)会社が委員長A1に本件雇用契約の締結を求めたことが、不利益な取扱いに当たることは、明らかである。
(2)会社がA1に対して本件雇用契約の締結の締結を求めたことは、組合員であるが故になされたものか
ア 会社が本件雇用契約の締結を求める前の組合と会社の労使関係について
(ア)本件に係る当初の申立て(令和5年2月9日)以降、組合と会社の労使関係は、会社の団体交渉拒否及び組合員の雇用契約更新をめぐって対立状況にあった。
(イ)また、会社に無期転換を申し込んだ乗務員が副委員長A2と組合員A4というA1派組合員だけであるなどの経緯から、会社は、無期転換申込みが専ら組合の運動の一環としてなされていると認識していたとみるのが相当である。
(ウ)会社は、①A2が無期転換を申し込み、組合も当該申込みについての回答を要求したのに対し、何ら回答や対応をしておらず、さらに、②無期転換を申し込んだA4については、無期転換後最初の乗務予定日に乗務させず、面談でも乗務員証は出せない旨述べたまま、何ら説明もしていない。しかし、労使が組合員の雇用契約更新をめぐって対立し、無期転換申込みが専ら組合の運動の一環としてなされていると会社が認識する状況においては、会社の上記対応は、組合活動の一環としての無期転換申込みを嫌悪して、組合員の無期転換後の就労を妨げようとしたと評価せざるを得ない。
(エ)さらに、本件の当初の申立て時点(令和5年2月9日)でA1派組合員は4名であったところ、同年5月31日にはA4が退職し、同年7月15日には組合員A3が雇止めとなり、雇止め予告通知後に無期転換したA2は雇止め予定日であった同年8月16日以降、出社していない。こうした状況で、A1が、会社が求めるとおり本件雇用契約を締結すれば、会社にはA1派組合員が実質的にいなくなる状況にあり、会社もそのことを認識していた。
イ 会社は、「A1との契約の更新を行わないことにしたのは、更新すれば無期転換権が発生し、かつA1がこれを行使することが合理的に予測されたからで、組合員であるという属性に着目したものではない」旨主張する。
しかし、労使が組合員の契約更新をめぐって対立し、無期転換申込みが専ら組合運動の一環としてなされていると会社が認識している状況においては、当該予測は、A1が組合員であることを意識してなされたとみるべき。
このことに、会社が、①組合活動の一環としての無期転換申込みを嫌悪して組合員の無期転換後の就労を妨げようとしていたこと、②本件雇用契約を締結すれば、会社にはA1派組合員が実質的にいなくなる状況を認識していたことを考え合わせると、A1が組合員であることを意識してなされた予測に基づいてなされた契約不更新の決定は、むしろ、組合員という属性に着目して、組合を嫌悪し、会社から組合員を一掃することを企図してなされたとみるべき。
ウ これらから、会社がA1に対して本件雇用契約の締結を求めたことは、組合員であるが故になされたといえる。
(4)したがって、会社が、A1に本件雇用契約の締結を求めたことは、組合員であるが故の不利益取扱いに当たり、労働組合法第7条第1号に該当する不当労働行為である。また、会社のこの行為は、組合に対する支配介入にも当たり、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為である。 |