概要情報
事件番号・通称事件名 |
大阪府労委令和5年(不)第36号
不当労働行為審査事件 |
申立人 |
X組合(組合) |
被申立人 |
Y会社(会社) |
命令年月日 |
令和7年3月10日 |
命令区分 |
一部救済 |
重要度 |
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事件概要 |
本件は、会社が、①夏季ー時金として、他の従業員には、基本給2か月分に物価上昇分を加算した額を支給したにもかかわらず、組合分会長に対しては、物価上昇分に当たる額のみを支給したこと、②夏季一時金を議題とする組合の団体交渉申入れ(本件団交申入れ)に対し、算定期日が直近であるので団体交渉開催は現実的に困難であるとして、文書回答を行ったのみで団体交渉を開催しなかったこと、がそれぞれ不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
大阪府労働委員会は、②について労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、団体交渉応諾及び文書手交を命じ、組合のその他の申立てを棄却した。 |
命令主文 |
1 会社は、組合が令和5年6月6日付けで申し入れた団体交渉に応じなければならない。
2 会社は、組合に対し、下記の文書を速やかに手交しなければならない。
記
年 月 日
X組合
執行委員長 A 様
Y会社
代表取締役 B
当社が、貴組合から令和5年6月6日付けで申入れのあった団体交渉に応じなかったことは、大阪府労働委員会において、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると認められました。今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。
3 組合のその他の申立てを棄却する。 |
判断の要旨 |
1 争点1(会社が、C分会長を令和4年12月1日付けで本社営業部に異動させて新規開拓営業担当とし、令和5年度の夏季一時金を他の従業員より低額としたことは、組合員であるが故の不利益取扱いに当たるとともに、組合に対する支配介入に当たるか。)について
(1) 会社が、C分会長を令和4年12月1日付けで本社営業部に異動させて新規開拓営業担当とし、令和5年7月10日、C分会長に対し令和5年度夏季一時金として6万円を支給したことが認められる。そして、C分会長の同一時金が他の従業員に比べて低額であったことについて、当事者間に争いはない。
このように、会社が、C分会長を令和4年12月1日付けで本社営業部に異動させて新規開拓営業担当とし、令和5年度の夏季ー時金を他の従業員より低額としたことについて、組合は、組合嫌悪によるものであって、組合員であるが故の不利益取扱い及び組合に対する支配介入である旨主張し、会社は、会社に、組合員であるが故の不利益取扱い又は組合に対する支配介入に当たる行為は存在しない旨主張するので、以下検討する。
(2) まず、会社がC分会長の令和5年度の夏季一時金を他の従業員より低額としたことが、経済的に不利益な取扱いに当たることは、いうまでもない。
(3) 次に、会社が、C分会長を本社営業部に異動させて新規開拓営業担当とし、令和5年度の夏季一時金を他の従業員より低額としたことが、組合員であるが故になされたものといえるかについてみる。
ア C分会長の本社営業部への異動及び令和5年度夏季ー時金の支給額決定時における労使関係が緊張関係にあったかについてみる。
(ア)まず、会社が、令和5年度夏季一時金の支給額を決定した時期は、令和5年6月5日から同月16日にかけてであったと推認される。
(イ)次に、C分会長が組合に加入してから、C分会長の本社営業部への異動を経て、会社が令和5年度夏季ー時金の支給額を決定するまでの間、会社は、組合の4.10.5団交申入れ、4.12.1団交申入れ、5.3.13団交申入れ及び5.4.28申入書については団交に応じ、4.11.15申入書には書面で回答している。また、本件団交申入れについては、会社が一時金支給額算定の直前であることを理由に団交に応じていないものの書面では回答し、これに対して、組合が、仮支給した上での団交開催を求めている。
そうすると、組合がC分会長の組合加入を会社に通知してから、会社が令和5年度夏季ー時金の支給額を決定するまでの間の組合と会社の労使関係は、団交により問題解決を図る通常の労使関係を超えて緊張した関係にあったとはいえいない。
イ 組合は、会社が、C分会長を令和4年12月1日付けで本社営業部に異動させて新規開拓営業担当とし、令和5年度の夏季一時金を他の従業員より低額としたことが組合嫌悪の発現としか解釈できない旨主張し、その根拠として、①支給額は最終的には社長が恣意的に決定していたこと、②第一戒告処分及び第二戒告処分のうち一方だけが令和5年夏季一時金の査定に関わったとするのは後付けの説明にすぎず、また、令和4年7月から8月頃の行為が組合加入後の同年11月29日になって懲戒処分の対象となっているのはいかにも不自然であり、C分会長が組合加入したことに対する報復又は嫌がらせを示唆するものであること、③C分会長は、組合加入前は、FMC事業部において売上げが全くなかったとされているにもかかわらず、夏季一時金をおそらくは他の従業員と同水準で支給されており、今回の支給基準との整合性がないこと、を挙げるので、これらの点についてみる。
(ア)まず、根拠①についてみる。
会社の営業職従業員の一時金の支給額は、一次考課及び二次考課において個人の売上高、所属の営業損益等の数値を計算することによって順位付けをした上で、取締役会の経営判断によって具体的な額を決定することになっていたことが認められる。
そうすると、会社の営業職従業員の一時金の支給額の算定については、制度上、社長が恣意的に決定し得る仕組みにはなっていない。
さらに、制度の運用上も、社長が支給額を恣意的に決定していたとか、取締役会が社長の意思を忖度するなどして支給額を恣意的に決定していたと認めるに足りる事実の疎明はない。
(イ)次に、根拠②についてみる。
第一戒告処分及び第二戒告処分は、C分会長の組合加入後の近接した時期になされているということはできる。
処分対象事実が発生した時期が、第ー戒告処分は令和5年度夏季一時金の支給対象期間内である令和4年11月11日から21日であるー方、第二戒告処分は令和4年度冬季一時金の支給対象期間である令和4年7月から8月であることが認められるのであるから、会社が令和5年度夏季一時金の支給額算定に当たって第一戒告処分だけを考慮したとしても不合理とはいえない。
組合は、令和4年7月から8月頃の行為が組合加入後の同年11月29日になって懲戒処分の対象となっているのは不自然であると主張するが、三、四か月前の行為を理由に懲戒処分をすることは、時期的に特段不自然とはいえない。
また、この時期の組合と会社の労使関係が、団交により問題解決を図る通常の労使関係を超えて緊張した関係にあったとはいえないことは、前記ア判断のとおりであり、こうした状況において、C分会長に対して、組合加入に対する報復又は嫌がらせのために懲戒処分をする動機が会社にあったとはいえない。
したがって、令和4年7月から8月の行為が同年11月29日になって懲戒処分の対象となっていることが、組合加入に対する報復又は嫌がらせを示唆するものであるとはいえない。
(ウ)最後に、根拠③についてみる。
C分会長の令和2年度から同4年度の夏季ー時金支給額はいずれも40万円以上であったことが認められる。このように、C分会長の夏季一時金は、組合加入後に大きく減少している。
そして、令和4年度以前にFMC事業部の売上げがなかったことについて、当事者間に争いはない。
FMC事業部の在り方についての会社の検討状況をみると、会社がFMC事業の廃止を決定したのは令和4年9月6日開催の取締役会においてであったことが認められる。そして、それ以前に会社がFMC事業部の在り方について何らかの検討をした事実は認められない。そうすると、令和4年度夏季一時金の支給額が決定されたとみられる令和4年6月の時点では、会社がFMC事業部の展開を期待していたとしても不自然ではない。
また、会社のー時金は、二次考課の順位付けを基に取締役会が賞罰等を含めた経営判断により具体的な支給額を決定することが認められるのであるから、取締役会の経営判断により、FMC事業部の展開への期待を一時金支給額に反映させることは、特段不合理ではない。
したがって、令和4年以前まで多額の夏季一時金を支払っていたのがFMC事業部の展開に多分の期待を有していたためであるとの会社の主張は首肯できる。
そうすると、組合加入前である令和4年度以前と令和5年度とで、夏季一時金の支給基準に整合性がないとはいえない。
(エ)したがって、根拠①から③に基づいてなされた、C分会長を令和4年12月1日付けで本社営業部に異動させて新規開拓営業担当として令和5年度の夏季一時金を他の従業員より低額としたことが、組合嫌悪によるものであるとの組合主張は、採用できない。
ウ したがって、会社が、C分会長を本社営業部に異動させて新規開拓営業担当とし、令和5年度の夏季ー時金を他の従業員より低額としたことが、組合員であるが故になされたものであるとはいえない。
(4) 以上のことからすると、C分会長を令和4年12月1日付けで本社営業部に異動させて新規開拓営業担当とし、令和5年度の夏季ー時金を他の従業員より低額としたことは、組合員であるが故の不利益取扱いであるとはいえず、また、組合に対する支配介入であるともいえないから、この点に係る組合の申立ては棄却する。
2 争点2(本件団交申入れに対する会社の対応は、正当な理由のない団交拒否に当たるか。)について、以下判断する。
(1) 組合は、会社に対し、令和5年6月6日付けで本件団交申入れをしたことが認められる。そして、本件団交申入れに基づく団交が開催されていないことについて、当事者間に争いはない。
(2) まず、本件団交申入れの要求事項が義務的団交事項であるかについてみる。
本件団交申入れの要求事項は、夏季一時金についてであり、組合員の労働条件に関する事項であることは明らかである。よって、義務的団交事項といえる。
(3) 次に、本件団交申入れに対する会社の対応が団交拒否に当たるかについてみる。
会社は、本件団交申入れに対し、本件団交申入書の要求事項に書面で逐一回答する一方で、書面での回答をもって団交に代えるとの意思表示
をしている。
しかしながら、団交は対面で行うのが原則であって、組合が対面での団交を求めている本件においては、本件団交申入れに書面でのみ回答する会社の対応は、団交拒否に当たる。
会社が組合に提出した5.6.13連絡書には組合のファクシミリ番号が記載されていたことが認められるのであるから、会社と組合の間ではファクシミリでのやり取りがなされていたとみられる。そうした中で、電話連絡がつかないことを理由に、ファクシミリの連絡をすることなく団交の諾否の回答をしなかった会社の対応は、団交を拒否したものと評価されでもやむを得ない。
(4) 次に、会社が団交を拒否したことに正当な理由があるかについてみる。
会社は、団交拒否の正当な理由として、一時金の支給金額の算定期日が迫っていて時期的に団交開催が困難であったことを挙げる。
しかしながら、会社が組合に対して5.6.13連絡書を団交に代える旨伝えた後、組合は、夏季一時金の支給日が遅れることのないよう配慮して、交渉妥結前に一旦仮支給をした上で、交渉を継続するよう求めていたことが認められるのであるから、一時金の支給金額の算定期日が迫っていることは、団交に応じない正当な理由とはいえない。
(5) 以上のとおりであるから、本件団交申入れに対する会社の対応は、正当な理由のない団交拒否に当たり、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為である。 |