労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  東京都労委令和4年(不)第25号
東京国際フランス学園不当労働行為審査事件 
申立人  X1ユニオン(X1組合)・同X2連合(X2支部)(併せて「組合ら」) 
被申立人  Y法人(法人) 
命令年月日  令和7年1月14日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、①外国人学校を運営する法人が、組合らの団体交渉申入れに対し、要求事項をフランス語で知らせれば団体交渉に応じる、団体交渉もフランス語で行うなどと回答したこと、②団体交渉において、組合らの要求事項について、以前の団体交渉で回答済みである、個人に関する要求は人事委員会〔注 経営側メンバーと法人の全職員から選出された職員代表とが同数の計10名で構成される法人内の組織〕で検討する内容であり、交渉することはできないとした法人の対応が不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 東京都労働委員会は、②について、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると判断し、法人に対し、文書交付等を命じ、その余の申立てを棄却した。 
命令主文  1 法人は、本命令書受領の日から1週間以内に、下記内容の文書をX1組合及びX2支部に交付しなければならない。
 年 月 日
X1組合
 執行委員長 A1殿
X2支部
 執行委員長 A2殿
Y法人     
理事長 B
 当法人が、令和3年10月8日の団体交渉において、貴組合らが申し入れた議題について、①人事委員会で検討されるべき問題である、人事委員会で検討し、全体的な決定を行ってからであれば回答することができるなどとして、貴組合らとの交渉に応じなかったこと、②以前の団体交渉で回答済みであるとのみ回答したことは、東京都労働委員会において、不当労働行為であると認定されました。今後、このような行為を繰り返さないよう留意します。

2 法人は、前項を履行したときは、当委員会に速やかに文書で報告しなければならない。

3 その余の申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 団体交渉での使用言語に係る法人の対応

(1)団体交渉における使用言語の問題は、労使間での協議を経て解決されるべきものである。
 一連の経緯をみると、本件において、団体交渉での使用言語の問題が従前に比して顕在化したのは、組合らの交渉担当者や支部の執行委員長がフランス語を母語とする者から英語を母語とする者に交代したことが大きな要因になっているところ、令和3年10月8日の団体交渉(以下「本件団体交渉」)に向けた労使間のやり取りにおいて、組合らが法人に対し、使用言語の問題について行った申入れ等は、交渉担当者である組合員A3が学園長B2に対して送った同年9月29日付けの電子メールのみで、組合らは使用言語や通訳についての具体的な要求や協議を事前に法人に持ち掛けることもなく、本件団体交渉に臨んでいたといえる。
 これに対し、法人が、同年9月23日及び27日のA3に対する電子メールで、学園長B2が団体交渉はフランス語で行うなどとし、また、本件団体交渉の冒頭でも、B2が使用言語をフランス語とすると言明したのに対し、A3が努力する、ゆっくり話してもらえると助かるなどと述べ、学園長B2が「もちろん。」と応ずるやり取りがあったものの、労使間でそれ以上の使用言語に係る協議などのやり取りはなく、本件団体交渉後も組合らからの具体的な要求や協議の申入れ等はなかった。
 また、本件団体交渉では、A3が法人側の自己紹介の時に名前を聞き直すことはあったものの、協議がフランス語で行われたことにより、相手方の発言が理解できないとか、発言の内容を誤解して議論が空転するといったことはなかった。

(2)組合らは、本件団体交渉より前の団体交渉では英語でのやり取りも禁止されていなかったと主張する。
 しかし、本件団体交渉より前の団体交渉がどの言語で行われていたかを明らかにする証拠はないし、過去の団体交渉では、組合ら側の出席者に英語を母語とする者がいたことから、組合らの主張するように、法人側がこれらの者に対して英語で発言する場面もあったかもしれないが、組合らの交渉担当者がフランス語を母語とする組合員A4であったことからすると、少なくとも主としてフランス語で協議がなされていたとみざるを得ない。

(3)以上の経緯からすると、法人は令和3年9月23日及び27日付けで組合らに対して団体交渉での使用言語をフランス語とすると連絡したが、これに対し、組合らが使用言語について具体的な要求や協議の申入れ等をしたことはなく、そのため本件団体交渉はフランス語で行われたものの、「ゆっくり話してもらえると助かる」などと述べた組合らに対し、法人が「もちろん。」と応じた上でフランス語でのやり取りが行われており、団体交渉での使用言語に係る法人の上記対応が、本件団体交渉の協議に支障を生じさせたというような事情は特にうかがわれない。
 したがって、令和3年9月23日及び27日付けの回答を含む団体交渉での使用言語に係る法人の対応は、正当な理由のない団体交渉拒否にも不誠実な団体交渉にも当たらない。

2 本件団体交渉の議題に係る法人の対応

(1)令和3年9月19日、組合らは、法人に対し、12項目の要求事項〔注〕を議題とする団体交渉申入書を提出した。

〔注〕認定によれば、要求事項①及び②は組合員A5の賃金等、③は組合員の賞与、④及び⑤は組合員A6の賃金等、⑥はA6へのハラスメントに係る調査、⑦は組合員A7、A8及びA9の賃金、⑧はA5の在宅勤務、⑨は部門間配置転換教員の手当、⑩はA6への警告書、⑪は労働条件変更や就業規則変更に係る協議等、⑫は労働協約の締結に関するものであった。

(2)
ア 法人は、組合らが申し入れた要求事項①、②、③及び⑧について、「いずれについても、人事委員会で検討されるべき問題である、人事委員会での検討後であれば回答することができる、したがって組合らと交渉することはできない」などと述べ、組合らとの交渉に応じなかった。
 人事委員会は、経営側メンバーと法人全職員から選出された職員代表とが半数ずつで構成され、労使協定や就業規則の改定に係る討議等を行うとされる。そして、法人は、「人事委員会が、教職員の労働条件等のうち予算変更を伴う案件について、法人の諮問機関として最終決定権を有する理事会から意見照会を受けることもあり、本件団体交渉で、法人は人事委員会に関する所定の手続について正確な説明をしたにすぎない」などとも主張する。

イ 本件団体交渉における組合らと法人とのやり取りをみると、法人の意思決定における人事委員会の位置づけは必ずしも明らかではないものの、法人は、「人事委員会での検討を通すべきとする事項については、団体交渉における交渉には応じない」としており、また、法人は、「個々の組合員に係る組合らの要求事項は労働者個人の問題であって集団的な問題ではないので、全職員に適用できるかを人事委員会で検討した後に組合らに回答することができる」としていることから、法人としては、組合らとの団体交渉の場は持つものの、その場で交渉を行い、妥結を目指すというわけではなく、人事委員会での検討結果を法人の回答として組合らに伝えるという姿勢であったとみることができる。
 そして、本件団体交渉が行われた後の令和3年12月8日の電子メールでA3が学園長B2に対し、改めて、学園との交渉を求めたが、学園長B2は、翌9日の電子メールでの返信で、クリスマス休暇の前に組合らと会うことは可能であるとしつつも、組合らが協議を求めた事項の大半については本件団体交渉において既に返答しているなどと述べ、改めて、従前の姿勢が変わらないことを明らかにしたといえる。

ウ しかし、組合らが申し入れた要求事項①、②、③及び⑧は、組合員の賃金、賞与や在宅勤務に係る要求であり、いずれも組合員の労働条件に係る事項であるから、義務的団体交渉事項に当たることは明らかである。したがって、法人は、法人内部においては人事委員会で検討されるべき事項であったとしても、組合らとの団体交渉において、交渉事項として取り扱い、誠実に交渉する義務があるのであるから、上記イのように、人事委員会で検討されるべき問題であるなどと述べるのみで、組合らと交渉しないという法人の態度は、是認することができない。

(3)
ア 本件団体交渉において、法人は、組合らが申し入れた要求事項④、⑤、⑥、⑨及び⑩について、以前の団体交渉で回答済みであるとのみ回答した。

イ 団体交渉において、以前の団体交渉での回答と同じ回答をすること自体は問題でもないし、過去の回答を引用することも必すしも問題となるものではない。
 しかし、学園長も、組合らの交渉担当や支部の執行委員長も交代し、前回令和2年6月18日の団体交渉から本件団体交渉までおよそ1年半近くが経過している中で、また、要求事項⑩のようにどの時点の団体交渉で説明したものか明らかでないと法人が主張するものもあるにもかかわらず、本件団体交渉において、組合らが申し入れた要求事項について単に以前の団体交渉で回答済みであると述べる法人の姿勢は、仮に組合らの要求には依然として応じられないとしても、団体交渉での協議を通じて、法人の回答の内容や論拠を具体的に説明して組合らとの合意達成の可能性を模索しようとしているとは評価できない。

(4)したがって、本件団体交渉における法人の対応は、組合らが申し入れた要求事項①、②、③及び⑧について、人事委員会で検討されるべき問題である、人事委員会での検討後であれば回答することができるなどとして、組合らとの交渉に応じなかった点で、また、組合らが申し入れた要求事項④、⑤、⑥、⑨及び⑩について、以前の団体交渉で回答済みであるとのみ回答した点で、不誠実な団体交渉に当たる。

3 救済の利益

 法人は、「令和4年6月18日の団体交渉以降は、法人が日本語・フランス語の通訳を用意し、代理人弁護士を同席させていて、使用言語の問題で議論が妨げられることはなく、組合らも法人が例外なく全ての要求事項についての協議に応じているとしているので、既に集団的労使関係秩序が回復された」と主張する。
 確かに、法人が通訳を用意するなどしたことが、その後の円滑な団体交渉に寄与しているとみることができ、組合らも、同年6月18日以降の団体交渉については、法人が「例外なくすべての要求事項についての協議に応じている」とし、この期間の団体交渉については救済を申し立てるものではないとしている。
 しかし、これらの交渉の議題は、個別の組合員に関するものがあるものの、本件団体交渉のそれとは別のものであり、また、その中で法人がどのような対応を執ったのかは明らかにされていない。そして、法人は、本件団体交渉において、組合らの要求事項につき、人事委員会で検討されるべき問題であると回答したり、過去に回答済みであるとのみ回答したりしたことについて、その主張をみても、本件調査手続の終結日現在、不誠実な団体交渉に当たるとの認識を持っているとは認められないのであるから、今後、団体交渉議題によっては、法人が本件団体交渉と同様の対応を繰り返すおそれがないとはいえず、将来に向けて円滑な労使関係を築くための救済の必要性等が全て失われたとまではいえない。
 したがって、本件申立てにおける救済の利益は失われていない。 

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