労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  千葉県労委令和3年(不)第2号
君津学園不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y法人(法人) 
命令年月日  令和7年1月31日 
命令区分  全部救済 
重要度   
事件概要   本件は、法人が、①組合の執行委員長A1に対し停職14日間の懲戒処分、②組合員A2に対し停職10日間の懲戒処分、③副執行委員長A3に対し停職14日間の懲戒処分、④組合員A4に対し譴責の懲戒処分をそれぞれ行ったことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 千葉県労働委員会は、いずれも労働組合法第7条第1号及び第3号に該当する不当労働行為であると判断し、法人に対し、(ⅰ)①から③までについて、a停職の懲戒処分がなかったものとしての取扱い、b当該処分がなければ受けるはずであった賃金及び賞与の相当額の支払い、c当該額の算定に当たり、組合と直ちに誠実に協議すること、(ⅱ)④について、譴責の懲戒処分がなかったものとしての取扱い、(ⅲ)文書の交付を命じた。 
命令主文  1 法人は、組合員であるA1に対して令和3年5月12日付けで行った停職14日間の懲戒処分をなかったものとして取り扱い、同処分が無ければ受けるはずであった賃金及び賞与の相当額を支払わなければならない。
 なお、懲戒処分がなければ同人が受けるはずであった賃金及び賞与の相当額の算定に当たっては、組合と直ちに誠実に協議すること。

2 法人は、組合員であるA2に対して令和3年5月12日付けで行った停職10日間の懲戒処分をなかったものとして取り扱い、同処分が無ければ受けるはずであった賃金及び賞与の相当額を支払わなければならない。
 なお、懲戒処分がなければ同人が受けるはずであった賃金及び賞与の相当額の算定に当たっては、組合と直ちに誠実に協議すること。

3 法人は、組合員であるA3に対して令和3年7月6日付けで行った停職14日間の懲戒処分をなかったものとして取り扱い、同処分が無ければ受けるはずであった賃金及び賞与の相当額を支払わなければならない。
 なお、懲戒処分がなければ同人が受けるはずであった賃金及び賞与の相当額の算定に当たっては、組合と直ちに誠実に協議すること。

4 法人は、組合員であるA4に対して令和3年7月1日付けで行った譴責の懲戒処分をなかったものとして取り扱わなければならない。

5 法人は、本命令書受領の日から1週間以内に、組合に対し、下記内容の文書を交付しなければならない。
 当法人が、貴組合に所属する組合員A1氏、同A2氏、同A3氏及び同A4氏に対して行った以下アからエまでの各懲戒処分は、いずれも不当労働行為であると認定されました。
 今後は、このような行為を繰り返さないよう注意します。
ア 組合員A1に対して令和3年5月12日付けで発令した停職14日間の懲戒処分
イ 組合員A2に対して令和3年5月12日付けで発令した停職10日間の懲戒処分
ウ 組合員A3に対して令和3年7月6日付けで発令した停職14日間の懲戒処分
エ 組合員A4に対して令和3年7月1日付けで発令した譴責の懲戒処分
 年 月 日
X組合
 執行委員長 A1様
Y法人      
理事長 B1 
判断の要旨  1 法人が行った懲戒処分は、労働組合法第7条第1号の不当労働行為に当たるか(争点1)

(1)懲戒処分の対象となった組合員A1の行為

①令和元年7月18日、語気を強め、ぞんざいな言葉遣いをして、「どうなってんだよ、ここの管理職」などとかなり厳しい口調で、上長である前教頭B2一人に対し、約40分間にわたり一方的に問い詰めている様子がうかがえる。

②令和元年11月2日、語気鋭く声を張り上げ、上長である前教頭B2一人に対し、「あんた」と呼ぶなど、話を遮りながら約40分間にわたり、一方的に問い詰めている様子がうかがえる。

③令和2年10月29日
 議論が紛糾した中で、校長B3が暴言を吐かないよう制止したのに対し、さらに大声で発言を続けてB3の行為を妨害した様子がうかがえる。

④令和3年3月19日
 上長である校長B3や教頭B4に対して、「ふざけんなって」などとぞんざいな言葉遣いでやり取りをし、B4に身体を接近させた様子がうかがえる。

(2)懲戒処分の対象となった組合員A2の行為

⑤令和元年11月2日
 校長B3のことを指して、「この人。爆弾発言しすぎですよ。これだって、世間で言ったらどう考えたって辞職しますよね。」「ちょっと、こいつおかしいと思ってくださいよ。」などの発言は、上長であるB3に対する侮辱的発言に当たる。

⑥令和2年1月23日
 朝会において、校長B3が会の終了を宣言したにもかかわらず、職員の面前で、B3に辞職を促す言動を行った。この言動は、教員の面前で公然と上長である校長の存在意味を否定し、辞職を促すものであり、侮辱的発言に当たる。

⑦令和3年3月11日
 校長B3の対応に対する不満を縷々記載した上で、校長に対して不信感を持ち、精神的につらい状況であるなどと記載した理事長及び副理事長宛の書面を、C高校職員室の全教員の机に配付してこれを受領した教員の目に触れさせ、かつ、同書面を学園本部及び入試センターに送信し、受信を確認した職員の目に触れさせた。
 書面を配付・ファックスし、結果的に特に周知すべき必要性のない法人の本部等の職員の目にまで触れさせた行為は、行き過ぎたものである。

(3)懲戒処分の対象となった組合員A3の行為

⑧令和元年7月18日
 組合員A1とともにB2前教頭に語気強くぞんざいな言葉遣いで詰め寄り、激しい口調で約40分間にわたり詰問している様子がうかがえる。

⑨令和3年4月9日
 保健室からB4教頭の退出を促す際、上長であるB4の面前で「言っても無駄」「善悪わかんない」などと人格を否定し、侮辱するような発言を行ったことによって、周りにいた教員が二人を引き離さなければならないような状況を招いた様子がうかがえる。

(4)懲戒処分の対象となった組合員A4の行為

⑩令和2年3月10日
 全職員の前で上長である校長B3に対し、「理事長も来ない、校長も逃げるんですか。責任あんでしょう、とった生徒の。責任ないの。」などと、不穏当な表現で怒声を浴びせた。

⑪令和2年10月29日
 朝会で他の教職員の前で、上長である校長B3に対し大声を出して「あなたが偉いんでしょ。あなたが一番偉いんじゃないですか」と反抗的な態度を示した。

(5)懲戒処分事由該当性

 上記のうち(1)、(3)及び(4)の各行為は、C高校における正常な業務運営を阻害し、又は阻害するおそれのあるものなどであり、いずれも就業規則に定められた懲戒事由に該当する。また、(2)の各行為は、職場の規律・風紀を乱すものなどであって、いずれも就業規則に定められた懲戒事由に該当する。

(6)懲戒処分の不当労働行為性

ア 懲戒処分の妥当性及び手続

(ア)本件において、懲戒処分の対象とされたのは、大部分が入試問題の作問の在り方や労務管理などに関する労使間の話合いの場における行為であり、組合が法人に話合いを求めたこと自体は非難されるべきものとはいえない。
 一般的に労使間に紛争が生じている場合、双方の主張が対立し、特に不満が蓄積している場合には、激しい口調や表現となることがあり得るとしても、本事案における各組合員の行為については、反訳書及び音声データで確認する限り、学校内での上長への対応としては、社会通念上の許容範囲を超えたものであり、良好な労使関係の構築という観点からも非難されるべきものといえる。
 したがって、法人が組合員A1他3名に対し、就業規則で規定するいずれかの懲戒処分(譴責、減給、出勤停止、役位処分、停職、諭旨解雇、懲戒解雇)を行う必要性はあり、また、就業規則等に基づき、弁明の機会を与える等の所定の手続を経て本件懲戒処分を行っていることから、手続上の瑕疵もない。

(イ)もっとも、懲戒処分については、非違行為があり、それを認識した際には、事実確認に時間を要する、障害となる事由が存在するといった事情が無ければ遅滞なく行うことが、法人の主張する秩序維持という目的に資すると考えられる。
 この点について、法人が行った、組合員A1に係る(1)①、②、③の行為に対する懲戒処分、組合員A2に係る(2)⑤、⑥の行為に対する懲戒処分、組合員A3に係る(3)⑧の行為に対する懲戒処分、並びに組合員A4に係る(4)⑩、⑪の行為に対する懲戒処分については、いずれも非違行為が発生してから相当の期間が経過した後に行われており、職場の秩序維持という目的の趣旨からすると妥当性を欠いているといわざるを得ない。

イ 懲戒処分に至るまでの労使関係

 平成29年以降、就業規則の見直し、教員の勤務時間・休日・諸手当等について団体交渉が行われてきたが、平成31年2月に、組合員A1が組合の執行委員長となり、同年4月に、校長B3がC高校の校長として赴任した頃から、両者の関係性が悪くなっていき、①平成31年1月以後における「1年間の変形労働時間制」導入に係る法人と組合のやりとり、②令和元年5月の組合員による労働基準監督署への時間外労働に対する残業代に係る申告と是正指導、③校長B3による、組合が副校長らに要望していた問題等が引き継がれていないと組合に感じさせる発言、④組合が強い口調、反抗的な態度で接することが目立つようになり、前教頭B2が精神的な疲弊を訴え、異動措置が取られたこと、などの出来事が生じたことで、双方が相手方に対し嫌悪感や不信感を持つようになっていったことがうかがえる。

ウ 不当労働行為意思について

(ア)過去に遡った複数事案をまとめた処分で量定が著しく重くなった旨の組合の主張に対し、法人は、事案の発生当時それぞれ処分を検討したが、組合員からの報復を恐れる前教頭B2の心情に配慮したことなどから、処分を見送った旨主張している。
 しかし、前教頭B2の心情に配慮したというものの、法人がB2を守るために取った対応は、録音を勧めたことしか確認できない。法人の主張する職場秩序の維持を第一に考えるならば、非違行為があった際、その都度、注意や指導を行い、必要とあれば懲戒処分を行うことがその目的に資するものであり、そうすることで、その後の非違行為を防ぐことにもつながると考えられる。
 また、処分等をした後もなお組合員が同様の非違行為を繰り返したならば、その時はより重い処分とすることもやむを得ないといえる。
 この点について、法人は、組合員A1他3名が自らの行為が非違行為であり、職場秩序を乱すものであると認識し得る形で注意や指導をしたとは認められないし、非違行為の都度処分をした事実もない。その結果、組合員の非違行為が繰り返された面も否定できず、その都度懲戒処分をした場合よりもより重い処分となったと思われることから、懲戒処分の量定として相当性を欠くと考えられる。

(イ)組合は、2年以上隠し録音を続け、懲戒対象事由の蓄積を図って、恣意的に処分を重くする方向で処分時期を選択した旨主張する。しかし、法人は、令和2年8月15日に当委員会にあっせんを申請するなど、労使関係の改善に向けて努力していなかったとまではいえず、当初からそうした目的で録音を続けたとは認められない。
 ただ、結果的に、令和3年3月2日にあっせんが打切りになってしまったことなどもあり、その後の非違行為に係る処分を検討する際に、不当労働行為意思をもってあえて、あっせん打切り前の行為も処分対象事由に加えたのではないかと考えられる。

(ウ)上記ア及びイで述べた点も総合的に勘案すると、令和3年3月11日、3月19日及び4月9日の事案(上記(2)⑦、(1)④及び(3)⑨の事案)のみならず、過去に遡った複数の事案をまとめて処分し、直近の行為のみに対する懲戒処分の量定として相当性を欠くものとしたのは、職場の秩序維持だけではなく、組合員であったことも理由であったと認められる。

(6)結論

 以上によれば、本件懲戒処分については、懲戒処分の必要性と不当労働行為意思とが競合的に存在したものと認められる。
 懲戒処分の必要性が認められる一方で、懲戒処分に至るまでの労使関係や過去に遡って複数の事案をまとめて処分したことなどを総合的に勘案すると、本件懲戒処分は、不当労働行為意思が決定的動機となって行われたと認めざるを得ない。
 したがって、本件懲戒処分は、労働者が労働組合の組合員であることを理由とする不利益取扱いであるといえ、労働組合法第7条第1号の不当労働行為に当たる。

2 法人が行った懲戒処分は、労働組合法第7条第3号の不当労働行為に当たるか(争点2)

 労使関係が悪化する中、組合の執行委員長、副執行委員長及び団体交渉に出席していた組合員に対し、停職を含む懲戒処分を行えば、組合員の組合活動を萎縮させることは、法人にとって容易に認識できる。それでもなお法人は直近の行為のみならず、過去の行為に遡って処分の対象とすることで、停職10日間ないし14日間という懲戒処分をしていることから、組合弱体化や反組合的な結果を生じ、又は生じるおそれがあることの認識及び認容があったと認められる。
 したがって、本件懲戒処分は支配介入に当たり、労働組合法第7条第3号の不当労働行為に当たる。 

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