概要情報
事件番号・通称事件名 |
愛知県労委令和6年(不)第1号
不当労働行為審査事件 |
申立人 |
X組合(組合) |
被申立人 |
Y会社(会社) |
命令年月日 |
令和7年2月17日 |
命令区分 |
一部救済 |
重要度 |
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事件概要 |
本件は、会社が、①代表取締役Cの解任の経緯、解任理由、その後の話合いの有無、取引先への説明状況、②今後の経営体制に関し、Cの代表取締役への復帰、③今後の労働条件の変更の有無に関し、賃金体系に変更を加える予定の有無、令和6年の賞与についての考え、④令和5年12月の賞与に係る平均支給金額と対前年度比の数字を交渉事項とする団体交渉申入れに応じなかったことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
愛知県労働委員会は、③及び④の事項についての団体交渉申入れに応じなかったことについて労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、(ⅰ)賃金体系及び賞与に関する事項に係る誠実団体交渉応諾、(ⅱ)文書交付を命じ、その余の申立てを棄却した。 |
命令主文 |
1 会社は、組合が提出した令和5年12月15日付け労働組合結成通知書兼団体交渉申入書に団体交渉事項として記載された賃金体系及び賞与に関する事項について、団体交渉に誠実に応じなければならない。
2 会社は、組合に対し、下記内容の文書を本命令書交付の日から7日以内に交付しなければならない。
記
当社が、貴組合が提出した令和5年12月15日付け労働組合結成通知書兼団体交渉申入書に団体交渉事項として記載された3及び4の事項について、貴組合からの団体交渉申入れに応じなかったことは、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると愛知県労働委員会によって認定されました。
今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。
年 月 日
X組合
執行委員長 A1様
同A2様
同A3様
Y会社
代表取締役 B1
3 その余の申立ては棄却する。 |
判断の要旨 |
○会社が、組合からの令和5年12月15日付け団体交渉申入れに応じなかったことは、労働組合法第7条第2号の不当労働行為に該当するか(争点)
1 令和5年12月15日、組合は、会社に対し、同日付け労働組合結成通知書兼団体交渉申入書(以下「本件申入書」)により、同年12月19日を開催日として団体交渉を申し入れた。
本件申入書には、団体交渉事項について以下のとおり記載されていた。
①今回の代表取締役の解任の経緯、なぜ解任をしたのか、その後、話し合いなどはしているのか、取引先等にはどのような説明をしているのか。
②今後の経営体制に関することとして、C氏の代表取締役への復帰を強く求める。
③今後の労働条件の変更の有無に関することとして、賃金体系に変更を加える予定があるのか、令和6年の賞与についてはどう考えているのか。
④令和5年12月の賞与については、その平均支給金額と対前年度比の数字がどうなっているのか。
2 組合が、会社に対し、上記のとおり団体交渉を申し入れ、令和5年12月19日など数回にわたり抗議文を提出したにもかかわらず、会社は、団体交渉に応じていない。
3 団体交渉事項①及び②について
団体交渉事項①及び②は、組合員の労働条件その他の待遇に関係する事項とはいえず、組合と会社との間の団体的労使関係の運営に関する事項ともいえない。また、取締役の選任及び解任は、株主総会の決議事項であって、使用者には処分可能なものではない。
したがって、義務的団体交渉事項ではないから、会社がこれらに係る団体交渉に応じなかったことは正当な理由があり、労働組合法第7条第2号の不当労働行為に該当しない。
4 団体交渉事項③及び④について、
(1)会社は、団体交渉事項③及び④について、「令和5年12月28日付け回答書において、賃金体系の変更の予定はないこと、並びに同月の正社員の賞与の平均支給額及び対前年度比を回答済みであり、団体交渉を拒否したことにはならない」旨を主張する。
それらの内容は、賃金体系の変更予定の有無、令和6年賞与についての考え、及び令和5年12月賞与の平均支給金額・対前年度比の数字であり、これらは義務的団体交渉事項と評価できるが、会社は、書面により、上記賃金体系の変更予定の有無及び令和5年12月賞与の平均支給金額・対前年度比の数字について明確に回答している。団体交渉事項③及び④は、いずれも質問の形を採っていることから、会社が、これに対応する回答を示せば敢えて団体交渉をする必要がないと考えたとしても無理からぬものがある。
しかし、団体交渉は、その制度の趣旨からみて、労使双方が自己の意思を円滑かつ迅速に相手に伝達し、相互の意思疎通を図るため、直接話し合う方式によるのが最も適当であり、その際、書面を補充的な手段として用いることは許されるとしても、専ら書面による回答のみとする方式は、直接話し合う方式に代わる機能を有するものではなく、労働組合法の予定する団体交渉の方式ということはできない。
書面による回答のみとする方式が許される場合があるとしても、それによって団体交渉義務の履行があったということができるのは、直接話し合う方式を採ることが困難であるなど特段の事情があるときに限ると解すべきである。本件においては、このような事情を認めるに足りる証拠はなく、組合の団体交渉申入れに対し、会社が書面による回答をしたことにより、団体交渉を拒否していないといえないことは明らかである。
したがって、会社の主張には理由がない。
(2)また、会社は、団体交渉事項③及び④について、「組合に対して労働条件に関する具体的な協議事項を明らかにするよう要請しており、団体交渉を拒否したとはいえない」旨を主張する。
しかし、使用者が、協議事項の具体的な特定や、使用者からの事前の質問に対する回答を要求し、その特定や回答がなされない限り団体交渉に応じないとすることは適切ではなく、使用者は、かかる特定や回答がなされない場合でも、協議事項が義務的団体交渉事項であると評価できるならば、原則的には団体交渉に応じる必要がある。
団体交渉事項③及び④は義務的団体交渉事項と評価でき、さらに協議を行えない程度に具体性を欠くとはいえないことから、会社は団体交渉に応じる必要がある。よって、会社の主張には理由がない。
なお、本件申入書において、団体交渉事項③及び④を列記しつつ、「(団体交渉事項は)これに限定するということはなく関連する事項については幅広く議論させていただきたいと思っております。」と記載されていることは、上記判断を左右しない。
(3)したがって、会社が、団体交渉事項③及び④について、組合からの令和5年12月15日付け団体交渉申入れに応じなかったことは、労働組合法第7条第2号の不当労働行為に該当する。
5 なお、会社は、組合は専ら前代表取締役Cの復帰のみを要求する団体にすぎず、労働組合法上の労働組合ではない旨を主張する。
労働組合法上の労働組合といえるためには、労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的としなければならないが、他の活動を行うことも、それが主たる目的とならない限り認められる。
組合の規約第3条には、「本組合は、団結と相互扶助の精神により組合員の労働条件を維持改善し、経済的社会的地位の向上をはかることを目的とする。」と規定されており、現に、組合は、会社に対し、団体交渉事項③及び④において、労働条件に関する団体交渉を申し入れていることから、会社の主張には理由がない。 |