労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  大阪府労委令和5年(不)第13号
不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和7年2月10日 
命令区分  棄却 
重要度   
事件概要   本件は、会社が、①A組合員について、それまで勤務していた施設で勤務させないこと、②A組合員からの要求に応じないこと、③Aの処遇に関する団体交渉における対応がそれぞれ不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 大阪府労働委員会は、申立てを棄却した。 
命令主文  本件申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 争点1(会社がA組合員に対し、令和4年11月25日以降、本件施設において勤務させないことは不利益取扱い及び支配介入に当たるか。)について
 令和4年11月25日以降本件申立てに至るまで、A組合員は、自宅待機やB施設での研修により、本件施設において勤務していないことが認められる。
 組合は、令和4年11月25日以降、A組合員を本件施設において勤務させないことが不利益取扱い及び支配介入に当たると主張するので、まず、令和4年11月25日以降、A組合員を本件施設において勤務させないことについて検討する。

ア 不利益取扱いについて
(ア)A組合員を本件施設で勤務させないことの不利益性についてみると、それまで勤務していた事業所で勤務しないことにより、業務内容や人間関係について影響を受ける可能性があるのであるから、A組合員が本件施設で勤務しないことについて不利益性がないとはいえない。
(イ)A組合員を本件施設に勤務させないことになる前の労使関係についてみると、組合と会社は、一定の緊張関係にあったというべきである。
(ウ)そこで、A組合員を本件施設で勤務させなくなった経緯について検討すると、会社がA組合員を本件施設で勤務させなくなった端緒は、A組合員が利用者に掴みかかられた際に、当該利用者の手の甲に爪を立ててケガを負わせ、制止に入った別の職員にも爪を立ててケガを負わせるというトラブル(以下「11.22トラブル」という。)であったというのが相当である。
 そこで、11.22トラブルについてみると、12.15市通知書にて、市により、障がい者虐待防止法に規定する障がい者虐待と認定されたことが認められる。
 また、11.22トラブルの前日にも、A組合員と当該利用者の間でトラブルがあったことが認められる。
 そうすると、当時のA組合員の当該利用者への対応には、相当程度問題があったというべきである。
 さらに、令和4年9月30日に組合と会社との間で開催された団交(以下「9.30団交」。以下各日の団交につき同様。)での会社の発言をみると、会社は、A組合員が組合員であることを通告される前から、利用者とトラブルを起こした従業員については、その利用者と同じ施設では勤務させない考えであったというべきであるので、会社は業務上の必要性に基づき組合員であるか否かとは無関係に、A組合員を本件施設に勤務させなかったといえる。
 したがって、会社がA組合員を本件施設で勤務させないのは、専らA組合員個人の業務上の問題を理由にしたものとみるべきであるから、組合員であることを理由としたものということはできない。
(エ)以上のとおり、会社がA組合員を本件施設で勤務させないのは、組合員であることを理由としたものということはできず、また、その他の組合主張にも理由はない。
 したがって、令和4年11月25日以降、A組合員を本件施設において勤務させないことを組合員であることを理由とした不利益取扱いということはできない。

イ 支配介入について
 会社の行為により組合員が不利益を被ったとはいえない場合でも、組合活動を弱体化させたというべき特段の事情があれば、支配介入に該当する可能性はある。しかし、本件において、このことを認めるに足る疎明はなく、令和4年11月25日以降、A組合員を本件施設において勤務させないことが組合活動に対する支配介入とはいえない。

ウ 以上のとおりであるから、令和4年11月25日以降、A組合員を本件施設において勤務させないことは、組合員であることを理由とした不利益取扱いには当たらず、組合活動に支配介入したものともいえないのであるから、この点に関する申立てを棄却する。

2 争点2(当該利用者及びその家族と直接会って謝罪したいとの要求に会社が応じないことは不利益取扱い及び支配介入に当たるか。)について
ア 不利益取扱いについて
 A組合員が当該利用者及び当該保護者に面会し謝罪したいと要求したのに対し、会社が応じないことについては争いがないが、この要求は、障がい者虐待認定を受けた事案において、受傷させた者が被害者やその保護者に直接会えるよう便宜を図るよう求めるものであることは明らかである。
 施設において虐待事案が発生した際、その施設の運営者は、運営者としての責任と判断によって、被害者やその保護者に対応するのであって、受傷させた者からの対応に関する要求に応じるべき理由はない。したがって、受傷させた立場であるA組合員からの被害者やその保護者との面会要求に会社が応じず、A組合員に対する便宜を図らないことによって、A組合員が不利益を被ったとみることはできない。
 以上のとおりであるから、その余を判断するまでもなく、当該利用者及びその家族と直接会って謝罪したいとの要求に会社が応じないことは、組合員であるが故の不利益取扱いに当たるとはいえない。

イ 支配介入について
 会社の行為により組合員が不利益を被ったとはいえない場合でも、組合活動を弱体化させたというべき特段の事情があれば、支配介入に該当する可能性はある。しかし、本件において、このことを認めるに足る疎明はなく、当該利用者及びその家族と直接会って謝罪したいとの要求に会社が応じないことを組合活動に対する支配介入とはいえない。

ウ 以上のとおりであるから、当該利用者及びその家族と直接会って謝罪したいとの要求に会社が応じないことは、組合員であることを理由とした不利益取扱いには当たらず、組合活動に支配介入したものともいえないのであるから、この点に関する申立てを棄却する。

3 争点3(A組合員の処遇に関する組合との団交における会社の対応は、不誠実団交に当たるか。)について
 組合は会社に対し、団交に応じるよう求める旨の記載のある11.26組合要求書を提出し、組合と会社の間で、12.8団交、1.17団交、2.8団交及び3.20団交が開催されたことが認められる。
 11.26組合要求書には、11.22トラブルを端緒とするA組合員の処遇についての要求事項が記載されていることが認められ、このことが義務的団交事項に当たるのは明らかである。
 したがって、会社は、団交において誠意を持って対応し、組合からの要求に必ず応じなければならないわけではないにしても、A組合員の処遇に関する組合の要求に対して、自らの見解を具体的に説明する義務があり、説明の不尽や団交日程の引き延ばし、一方的な打切り等の実質的に団交を無意味にする行為があれば、かかる行為は不誠実団交に該当するというべきである。
 組合は、下記アからエの項目を挙げて、会社の対応が不誠実である旨主張するので、以下、これらの項目について、不誠実団交に該当する行為があったか否かを検討する。

ア 令和4年12月8日以降令和5年1月17日まで団交が開催されなかったことについて
 組合と会社の間では、12.8団交以降も概ね1か月に1回の割合で団交が開催されていることが認められる。
 12.8団交のやり取りについては、組合は、団交を経ない異動は認められない旨述べたにとどまり、市からの虐待通知があり次第団交を行うことを要求し、これに会社が同意したということはできない。そうすると、令和4年12月21日、本件人事部長が組合に対し、電話で年内の団交開催は対面では無理である旨述べたことは認められるが、このことを含め1.17団交まで団交が開催されなかったことをもって、会社が団交日程を引き延ばし、不誠実な対応を行ったとはいえない。
 以上のとおりであるから、令和4年12月8日以降令和5年1月17日まで団交が開催されなかったことをもって、会社の団交における対応が不誠実であるとはいえない。

イ 令和5年1月17日の団交で、団交を2回もやった等と発言したことについて
 1.17団交において、会社側出席者が団交を2回もやった等と発言しているが、その後も団交は開催されており、会社が一方的に団交を打ち切ったということはできない。
 したがって、団交で、団交を2回もやった等と発言したことをもって、会社の団交における対応が不誠実であるとはいえない。

ウ 当該利用者(11.22トラブルの相手方)の家族(保護者)がA組合員に対し憤慨しているとする証拠を提出するよう求めたのに対する対応について
 団交において、使用者は必要に応じて自らの回答や主張の論拠を示し、必要な資料を提示するなどして誠実に団交に応じるべき義務を負っている。しかし、労働組合が求める資料そのものを提出しないからといって、その対応が直ちに不誠実とされるものではなく、労働組合がその資料を要求した経緯や団交における要求事項との関連の程度、その資料の提示以外の手段での使用者の説明内容等を考慮して、使用者の対応が不誠実団交に当たるか否かは判断されるものである。
 組合が当該保護者がA組合員に対し憤慨しているとする証拠を提出するよう求めた経緯については、1.17団交やその後の労使間の文書からみて、組合がA組合員を本件施設に戻すことを要求したのに対し、会社はA組合員が本件施設で勤務するのは難しいと返答していることにあるというのが相当である。
 また、会社は組合に対し、A組合員を本件施設で勤務させられないとの見解をその理由とともに明らかにしていたというべきである。
 2. 8団交における組合からの本件管理者による文書の提出要求については、会社は、令和5年2月15日、令和4年11月29日に当該保護者と電話で話した内容について本件管理者が記載した文書を提出したことが認められ、会社は組合の要求に対し、一定の対応をしたといえる。
 それ以外についてみても、当該保護者が憤慨しているとする点についての会社の団交における対応に不誠実な点があったと認めるに足る疎明はない。
 以上によれば、組合からの本件管理者による文書の提出要求に対する会社の対応をもって、団交における協議において誠意を欠いたものということはできず、当該利用者の家族(保護者)がA組合員に対し憤慨しているとする証拠を提出するよう求めたのに対する対応をもって、会社の団交における対応が不誠実であるとはいえない。

エ 約束したことを履行しないこと(研修、会議・安全配慮義務についての約束とB施設で勤務は研修目的であるとの約束)について
 本件において、会社が約束を履行しないことがいかなる点で不誠実団交に当たるかについて、組合の主張は明らかではないが、9.30団交において、会社が組合に対し、期限や内容を具体的に定めて、研修や会議の実施を約束したとみることはできない。また、その後の団交についてみても、会社が組合に対し、組合からの要求に基づき、期限や内容を具体的に定めて、研修や会議の実施や安全配慮に関する何らかの措置を約束し、これを会社が履行しないと認めるに足る疎明はない。
 1.17団交についてみると、会社は、B施設での研修について、会社の見解を述べているというべきである。したがって、かかる対応を不誠実団交に当たるということはできない。
 したがって、研修、会議・安全配慮義務についての対応をもって、会社の団交における対応が不誠実であるとはいえない。

オ 以上のとおりであるから、A組合員の処遇に関する組合との団交における会社の対応は不誠実団交に当たるとはいえず、この点に関する申立てを棄却する。 

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