労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  福岡県労委令和5年(不)第3号
福山不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和6年11月22日 
命令区分  全部救済 
重要度   
事件概要   本件は、会社と委託契約を締結してラーメン店の営業運営を行う経営パートナーである組合員らについて営業時間の短縮等を求める組合からの団体交渉申入れに対し、会社が応じなかったことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 福岡県労働委員会は、当該組合員らは会社との関係において労働組合法上の労働者に該当するとした上で、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、(ⅰ)団体交渉応諾、(ⅱ)文書の交付及び掲示を命じた。 
命令主文  1 会社は、組合が令和4年11月30日付けで申し入れた団体交渉に応じなければならない。

2 会社は、本命令書写しの交付の日から10日以内に、下記内容の文書(A4判)を組合に交付するとともに、A2判の大きさの白紙(縦約60センチメートル、横約42センチメートル)全面に下記内容を明瞭に記載し、会社本社内の従業員の見やすい場所並びにCラーメンD店及び同E店内の従業員の見やすい場所に14日間掲示しなければならない。

令和 年 月 日

X組合
 執行委員長 A1殿
Y会社       
代表取締役 B

 当社が、貴組合からの令和4年11月30日付け団体交渉申入れに応じなかったことは、福岡県労働委員会によって労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為と認定されました。
 今後このようなことを行わないよう留意します。 
判断の要旨  1 会社の経営パートナーである組合員A2、A3及びA4(以下「組合員ら」)は、会社との関係において、労働組合法上の労働者に該当するか

(1)本事案について

 会社は、経営するラーメン店等の営業について、同一店舗における連続する営業を、昼間の1部営業と、夜間の2部営業とに分けた上で、1部営業については直営で行い、2部営業については、パートナー契約(以下「本件契約」)を締結した経営パートナーに業務を委託するとの形式を取っている。
 本件は、本件契約を締結し、ラーメン店の2部営業を行う経営パートナーである組合員らが、会社に対して団体交渉を求めているものである。
 なお、同一店舗における連続する営業においては、提供される商品等も同一であり、経営パートナーも含めて従業員らは同一の会社の制服を着用して業務が行われていた。また、二人一組の経営パートナーについては、本件契約において担当する店舗が指定され、週1回の休業日を除き、実際に二人が担当店舗において、2部営業時間を通じて業務を行っていた。
 本件契約において、経営パートナーは、会社から委託を受けるコーナーの経営責任者として、会社の営業計画と業務指示に従って、職務の達成に努めなければならない一方、会社の組織内にあっては、代表取締役社長の指揮下にあり、業務上の職務指導については、店長の指示を受けるとされていた。
 これらから、業務委託契約の形式を取っていても、経営パートナーである組合員ら自身が、会社の事業のために労務を提供していると評価できる可能性があるといえ、組合員らが労働組合法の労働者に当たるか否かについては、以下の枠組みで判断するのが相当である。

(2)労働組合法上の労働者性を判断するための基準について

 労務の供給が業務委託等の労働契約以外の契約形式によってなされる場合でも、実質的に、①労務供給者が相手方の業務の遂行に不可欠ないし枢要な労働力として組織内に確保されているか、②契約の締結の態様から、労働条件や提供する労務の内容を相手方が一方的・定型的に決定しているか、③労務供給者の報酬が労務供給に対する対価又はそれに類する性格を有するか、という判断要素に照らし、団体交渉の保護を及ぼすべき必要性と適切性が認められる場合には、当該労務供給者は、労働組合法上の労働者に当たる。
 また、上記判断に当たっては、補充的に、④労務供給者が、相手方からの個々の業務の依頼に対して、基本的に応ずべき関係にあるか、⑤相手方の指揮監督の下に労務の提供を行っていると広い意味で解することができるか、労務の提供に当たり日時や場所について一定の拘束を受けているか、といった要素も考慮される。他方、⑥労務供給者が、恒常的に自己の才覚で利得する機会を有し自らリスクを引き受けて事業を行う者とみられるなど、事業者性が顕著である場合には、労働組合法上の労働者性は否定される。
 そこで、以下、経営パートナーである組合員らについて、上記①ないし⑥の要素を検討して、労働組合法上の労働者に当たるか否かを総合的に判断する。

(3)基本的判断要素(①事業組織への組入れ、②契約内容の一方的・定型的決定、③報酬の労務対価性)について

ア ①事業組織への組入れ
(ア)本件契約の目的
 まず、本件契約は、組合員ら経営パートナー自身が業務を行うことを前提に締結されたものであり、会社は、経営パートナーを労働力として期待し、これを確保する目的であったといえる。

(イ)組織への組入れの状況
 A2及びA3〔夫婦。以下「A2ら」〕並びにA4及びA5〔同。以下「A4ら」〕は、通常、二人ともが店舗に出て、実際に調理・接客等の業務を行い、また、少なくとも、経営パートナーが、一人も店舗に出ずに、雇用する従業員等に業務を任せることは許容されていなかった。そうすると、各店舗の2部営業において、経営パートナー自身の労働力は、不可欠かつ枢要な役割を果たすものとして位置付けられていたと評価すべきである。
 運営面でみても、①メニューやその価格等、材料やその仕入先等について専ら会社が決定し、経営パートナーには何らの権限・裁量等も与えられておらず、②契約締結前に会社によりA2ら及びA4らに対する研修が行われ、③調理に関して会社のレシピや作業手順の遵守が求められ、④1部営業の店長から麺のゆで時間やねぎの量について指示を受けたことがあり、⑤労務面でみても、2部営業の営業時間は本件契約において指定され、⑥A2ら及びA4らが、毎日タイムカードに出勤時間及び退勤時間を打刻し、会社に毎月報告しており、⑦売上面でみても、A2ら及びA4らは、閉店時に売上データと在庫の状況をパソコンに入力し、会社に報告することが求められ、⑧1部営業の店長会議においては、1部営業と2部営業を合わせた各店舗の経費や売上高が報告されていることなどが認められ、会社は、経営パートナー及び2部営業について、直営である1部営業と同一又は類似する一定の管理を行っていたことがうかがわれる。
 これらからも、経営パートナー及び2部営業について、店舗における事業全体に組み入れられていることを消極に解すべき事情は、見当たらない。

(ウ)第三者に対する表示
 1部営業と2部営業は連続して行われ、2部営業においても、経営パートナーを含めて会社が定めた制服を着用して業務が行われていた。これらを含めて、会社が、第三者との関係でも、経営パートナー及び2部営業を、自己とは別の組織・事業として表示・認識させ得るような事情は何ら存しない。

(エ)専属性
 本件契約では、連続する営業の一部分である2部営業を、その時間的・場所的拘束の下で、経営パートナーが自ら実施することが求められ、会社以外の相手方から類する業務を受託するなどは考えられない。
 また、2部営業の時間は午後8時から翌午前5時までで、休業日は週1回であり、経営パートナーは、基本的に二人ともが、実際に店舗に出て業務を行うことが予定されていたことから、会社からの受託業務以外の業務を行うことは困難であった。

(オ)これらから、本件契約は、ラーメン店の2部営業の運営業務の労働力を確保する目的で締結され、また、組合員らは、実態としても、その労働力を、会社の事業遂行に不可欠ないし枢要なものとして組織内に組み入れられ、確保されていたと評価できる。

イ ②契約内容の一方的・定型的決定
 本件契約は、会社が契約内容を定型的に作成し、契約締結時にA2ら及びA4らが個別に交渉して決定したものはなかった。また、更新については、特段の手続をすることなく自動更新されていた。
 本件契約においては、最低保証金、アルバイト手当、欠勤控除等の金額・算定方法等を含む販売手数料の定めがあるが、これらについても、会社が決めて提示し、A2ら及びA4らにおいて個別の交渉・協議等が行われて決定されたとの事実は存しない。
 なお、本件契約において、①経営パートナーは、会社の組織内にあっては、代表取締役社長の指揮下にあり、業務上の職務指導については店長の指示を受けることとされ、営業時間、店舗運営、服務規程の遵守等に関する種々の義務が定められた上で、②違反したときには、会社において何らの通知・催告を要せず契約を解除できるとされている。また、実際に、会社から、上記契約条項に基づく種々の指示が通達される関係にあった。
 よって、会社と経営パートナーとの間には相当の交渉力格差が存し、一方的・定型的に締結された契約内容について、経営パートナーである組合員らが、会社と対等の関係で、個別の交渉を行って契約内容を変更することは、困難であったとみられる。

ウ ③報酬の労務対価性
 本件契約をみると、経営パートナーに対する販売手数料は、2部営業の一月当たりの売上高が会社の定める基準に満たない場合でも、組合員ら経営パートナーが店舗において労務提供を行ったことに対し、一定額を保証するものであった。
 また、2部営業を行わなかった場合は、1日当たり1万4000円の欠勤控除がなされていたことなどから、販売手数料は、組合員ら経営パートナーの労務提供量に応じて支払われる側面があったといえる。さらに、販売手数料は毎月定期的に支払われ、及び毎年2回、特別手当として売上高の5パーセント相当額が支払われていた。
 そもそも、経営パートナーには、独自の商品・サービスの提供は認められておらず、独自の裁量や才覚によって、客数・客単価等を増やす余地は乏しいと考えられる。
 これらから、組合員らに対する販売手数料は、時間外手当や休日手当に相当するものがないことや、所得税等の源泉徴収がされていないことを考慮しても、労務供給に対する対価又はそれに類するものとしての性格を有するとみられる。

エ 以上のとおり、組合員らについては、①会社の事業遂行に不可欠ないし枢要な労働力として組織内に組み入れられ、確保され、労働力の利用を巡り団体交渉によって問題を解決すべき関係があり、②契約内容について会社が一方的・定型的に決定し、会社との間で相当の交渉力格差が存し、③報酬について労務に対する対価又はそれに類する性格が強い、と考えられる。
 そのため、組合員らは、消極的判断要素である、⑥顕著な事業者性が認められない限り、労働組合法上の労働者に当たると解される。

(4)補充的判断要素(④業務の依頼に応ずべき関係、⑤広い意味での指揮監督下の労務提供、一定の時間的場所的拘束)について

ア ④業務の依頼に応ずべき関係
 本件契約では、一定の営業時間における、特定店舗での調理・接客・売上管理等の業務全体について、経営パートナーが自ら従事し、従業員を雇用して、実施することとされており、会社から個々の業務依頼があり、その都度に諾否する関係にあるとは解し難い。
 なお、本件契約では、経営パートナーが本件契約の条項の一つに違反したときや会社の計画・指示・命令に従わなかったときなどは、会社は何らの通知・催告を要せず本件契約を解除できるとされ、組合員らは、事実上、会社からの指示や業務依頼に対する諾否の自由は乏しかったと考えられる。
 実際、A4らが、令和5年8月4日から9月26日までの間などに、体調不良を理由としてC店の営業を休業し、休業した日については欠勤控除がなされ、及び会社は、本来の委託営業期間の3割近くを休業する状況にあったこと等を踏まえたものとして本件契約を終了する旨通知していることから、A4らが休業したことをもって個別の業務依頼に対する諾否の自由があったとは評価できない。

イ ⑤広い意味での指揮監督下の労務提供、一定の時間的場所的拘束
(ア)広い意味での指揮監督下の労務提供
 契約上、経営パートナーは、会社の組織内にあっては、代表取締役社長の指揮下にあり、業務上の職務指導については、店長の指示を受けるとされている。また、所定の売上伝票を使用し売上高を記録すること、毎日午前5時に売上を精算すること、会社の指定する書類によって本部に報告すること等が求められていた。
 加えて、A2ら及びA4らは、自らの出勤時間と退勤時間についてタイムカードに打刻し、会社に毎月報告し、会社の指示によって、健康管理や衛生管理の記録を行うなどしていた。
 このように、会社は、経営パートナーである組合員らに対しても、会社の従業員と同様に、詳細な指示・管理を行っていたことがうかがわれ、組合員らは、会社の指揮監督の下に業務を行っていたと解することが可能である。

(イ)一定の時間的場所的拘束
 2部営業の営業時間は午後8時から翌午前5時までと規定され、休業日以外の日は、組合員ら経営パートナーは、基本的に二人とも、実際に店舗に出て業務を行うことが予定され、また、少なくとも必ず一人は店舗で業務に従事することが求められていた(従業員を雇用している場合も同様)ことから、組合員らは、時間的にも場所的にも相応の拘束を受けていたといえる。

(ウ)これらから、組合員らは、雇用関係にみられるように、会社の指揮監督の下に業務を行っていたと解することが可能であり、時間的・場所的にも相当の拘束を受けていたと評価し得る。

ウ よって、組合員らは、基本的判断要素である①ないし③から、労働組合法上の労働者に当たると解するのが相当であるところ、補充的判断要素である④及び⑤についても、労働組合法上の労働者性を肯定するものといえる。

(5)消極的判断要素(⑥顕著な事業者性)について

ア 経営パートナーは、例えば、宣伝広告は会社が実施し、会社指定以外の物品販売行為も原則禁止され、契約上、独自の営業活動等を行う裁量はなく、そのような実態もない。
 また、損益についても、会社が仕入れた材料等と、会社指定のメニュー・価格等によって商品を提供するのみで、売上高に応じて機械的に計算される販売手数料等を受領し、想定外の利益や損失を受けるという関係にない。店舗の設備・材料等も会社に帰属し、経費分として、販売手数料の計算の中で機械的に控除されるにすぎない。

イ ここで、組合員ら経営パートナーについて、一定の事業者としての性質を見いだすとするならば、「他人労働力の利用可能性」に関する要素であると考えられることから、以下検討する。
 すなわち、本件契約をみると、経営パートナーが、従業員の採用をその責任において行い、雇用・労働に関する費用を負担すること等が規定され、実際にも、組合員らは、従業員を雇用でき、従業員の配置や教育についても一定の裁量があった。
 しかし、これをもって、顕著な事業者性があると解することはできない。けだし、経営パートナーには、2部営業に関して、従業員の雇用に関する部分を除き、独自の活動や運営を行う裁量はほとんど存せず、また、会社から支給されるアルバイト手当も限定的なもので、従業員の雇用に関する裁量を活かして、店舗自身の売上・収益を向上させ、利益を得ることができる関係にあったともおよそ考え難い。
 よって、確かに、組合員らには、他人労働力の利用可能性があり、利用の実態もあるものの、自らの労働力に代替し得るようなものでもなく、また、その余の点に照らしても、労働組合法上の労働者性の評価に当たって消極に解すべき、顕著な事業者性は認められない。

(6)以上のとおり、組合員らには、労働組合法上の労働者性について積極に解すべき、①事業組織への組入れ、②契約内容の一方的・定型的決定、③報酬の労務対価性が、いずれも強く認められる一方、消極に解すべき、⑥顕著な事業者性も認められない。
 これらから総合的に判断すると、組合員らは、会社との関係において労働組合法上の労働者に該当するとみるのが相当である。

2 会社が、本件団体交渉申入れに応じなかったことは、労働組合法7条2号に該当するか

 上記1で判断したとおり、組合員らは、会社との関係において労働組合法上の労働者に該当する。
 本件団体交渉申入れについてみると、組合が、組合員らの休業日を週2日とすること、営業時間の短縮を求めて団体交渉を申し入れ、会社との間でやり取りが行われた後、会社は、「経営パートナーの方に対して、契約内容について協議をさせていただくつもりではあるが、経営パートナーの方々が労働組合法上の労働者とは認め難いことから、貴組合との団体交渉として対応することはできかねる」旨、回答している。
 会社は、組合員らの労働条件等に関することを団体交渉事項とする組合の団体交渉申入れに応じておらず、このような対応は正当な理由のない団体交渉拒否に該当する。
 よって、会社が、本件団体交渉申入れに応じなかったことは、労働組合法7条2号に該当する。 

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