労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  奈良県労委令和5年(不)第1号
松井畳店不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和6年12月24日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、会社が、①組合員A2及び組合員A3をそれぞれ懲戒処分にしたこと、②第1回団体交渉時及びそれ以降本件申立てまでの間における団体交渉申入れに係る会社の一連の対応が不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 奈良県労働委員会は、②について労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、(ⅰ)組合がA2及びA3の懲戒処分に関する事項、A3に対する給与の手当の変更等に関する事項について団体交渉を申し入れたときは、誠実に応じなければならないこと、(ⅱ)速やかな文書手交を命じ、その余の申立てを棄却した。 
命令主文  1 会社は、組合が次の事項について団体交渉を申し入れたときは、誠実に応じなければならない。
(1)組合員A2及び組合員A3の懲戒処分に関する事項
(2)組合員A3に対する給与の手当の変更及び令和5年6月分給与の供託に関する事項

2 会社は、組合に対し、下記の文書を速やかに手交しなければならない。
 年 月 日
X組合
委員長 A1様
Y会社        
代表取締役 B1
 令和5年7月6日の第1回団体交渉時及びそれ以降本件申立てまでの間における団体交渉申入れに係る当社の貴組合への一連の対応が、奈良県労働委員会において、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると認められました。今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。

3 組合のその余の申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 会社が令和5年5月25日付けで組合員A2を懲戒処分にしたこと、及び同年8月19日付けで組合員A3を懲戒処分にしたこと(以下「本件懲戒処分」)は、労働組合法第7条第1号の不当労働行為に該当するか。(争点1)

(1)本件懲戒処分が労働組合法第7条第1号の不利益な取扱いに該当するとするためには、本件懲戒処分が組合に所属する組合員であることを理由とした不当労働行為意思によるものであることが必要であるので、以下、検討する。

(2)組合員A2が令和5年2月24日に組合に加入してから、同年6月12日に会社に組合加入通知を提出するまでの間、同人が組合員として活動していたとする組合の主張はなく、A2が組合に加入したことを会社が知り得るような事情もないことから、会社がA2が組合に加入したことを知ったのは同年6月12日と認められる。
 会社がA2を懲戒処分にしたのは同年5月25日であり、会社がA2が組合員であると認識した同年6月12日より前であることから、会社はA2が組合員であることを理由として懲戒処分を行ったものとはいえない。
 一方、組合員A3については、(令和5年8月19日に懲戒処分が行われているところ、)会社は遅くとも同年7月6日の第1回団体交渉時には組合員A3が組合員であると認識したと認められる。

(3)また、組合は、A2及びA3の懲戒処分について、「説明もなく、反論や弁明の機会もないような異常な方法で行われたものであり、組合員であることを理由として行われた処分である」と主張しているにもかかわらず、本件懲戒処分が組合員であることを理由とした不利益取扱いであることの根拠(及び、A2にあっては、会社が懲戒処分にする前に同人が組合員であったことを知り得たと認めるに足りる事情)を明らかにせず、この点に係る当委員会からの求釈明に対する回答書においても、組合は、自らの主張を補充し、証拠を提出することがなかった。

(4)以上のとおり、A2及びA3に対する懲戒処分はその手続において慎重さに欠けるところがないわけではないが、組合員であることを理由として行われたとの主張はなく、それを認めるに足りる証拠もないから、この点について会社の不当労働行為を認めることはできない。

(5)以上から、会社がA2及びA3をそれぞれ懲戒処分にしたことは、労働組合法第7条第1号の不当労働行為に該当するとは認められない。

2 令和5年7月6月の第1回団体交渉時及びそれ以降本件申立てまでの間における団体交渉申入れに係る会社の対応は、労働組合法第7条第2号の不当労働行為に該当するか。(争点2)

(1)会社は、第1回団体交渉後の団体交渉申入れを拒否したことについて、「第1回団体交渉時に組合が、議題にあったA2の懲戒解雇の事由に係る会社からの説明に対し、弁明を一切せず、今後の方針を全く開示しないまま、声高に話をするだけであり、継続的な交渉の意味がないものと受け止めざるを得ない」こと、また「本件問題は民事・刑事上の問題として取り扱われるべき案件であることを理由にその後の団体交渉を拒否したものである」と主張するため、以下、検討する。

(2)会社が主張する団体交渉を拒否した理由が正当な理由に該当するか

ア 会社が懲戒解雇の事由の説明をしたことに対し、組合から弁明がなされなかったこと

 会社は、第1回団体交渉時に、組合が求めていたA2の懲戒解雇の撤回について、懲戒解雇の事由の説明は行っていたものの、その根拠となる資料については「捜査の秘密」であることを理由に提示を拒否していた。
 団体交渉において組合が求めた資料の提示を拒否する場合には、資料を提示できない合理的理由を述べる必要があるところ、この点について、会社が、組合からの資料の提示の要求に対し、捜査機関ではないにもかかわらず、「捜査の秘密」であるとして資料の提示を拒否したことは失当であり、提示の拒否について合理性があるとは認められない。
 以上から、会社の主張のとおり組合が弁明をしていなかったとしても、それは組合が弁明に必要な懲戒解雇の根拠となる資料を確認できなかったことによると考えられ、会社が団体交渉を拒否する正当な理由とは認められない。

イ 団体交渉の際、組合が声高に話すだけであったこと

 会社は、組合が声高に話すだけであり、継続的な交渉の意味がないものと受け止めざるを得なかったと主張する。
 しかし、会社が、①組合との事前の折衝が不十分であったことに原因があるとはいえ通常組合員しか出席しない団体交渉の冒頭において関係のない人は出て行くよう促す趣旨の発言を行ったこと、また、②団体交渉において組合から求められている資料を「捜査の秘密によって開示できない」として合理性があるとは認められない理由を述べて提示を拒否したことは、組合軽視と取られかねない言動であったと認められる。
 このことを考慮すれば、組合が会社に対し不信感を覚えることも不自然ではなく、会社が主張している「組合が繰り返し説明を求め、声高に話していた」とする組合の言動は、会社への不信感を契機として行われたものと認められる。
 以上から、組合が会社の主張のとおり声高に話していたとしても、それは直接的には団体交渉における会社の対応に起因するものであり、会社が団体交渉を拒否する正当な理由とは認められない。

ウ 民事・刑事上の問題として取り扱われるべき案件であること

 会社は、本件問題が民事・刑事上の問題として取り扱われるべき案件であることを理由の一つとして、第2回団体交渉を拒否している。この主張は、要するに、「裁判で争われるべきもの」という趣旨に理解されるが、訴訟手続の係属中は、団体交渉を停止しなければならない旨を定めた法令はなく、組合と会社の間に別段の取決めもないから、そのことを理由として団体交渉を拒否することは相当でない。
 また、団体交渉は組合の主張や要求を聴くだけでは足りず、使用者は、組合の要求・主張の程度に応じて回答し、あるいは回答の論拠・資料を示す等して誠実に対応し、合意達成の可能性を模索する義務があると解されており、このような理由で団体交渉を拒否することは、団体交渉の意義を否定ないし軽視したものといわざるを得ない。

(3)団体交渉が平行線になっていたか

 本件における団体交渉は、A2に対する懲戒解雇の撤回及びその経緯の説明と労働条件の一方的変更を行わないよう求めることを議題として令和5年7月6日に一度開催されたのみであり、A3の懲戒解雇に係る事案については団体交渉が開催されていない。したがって、労使間の議論が平行線をたどり、行き詰まっていたといえるような事情は認められない。

(4)以上から、令和5年7月6日の第1回団体交渉時及びそれ以降本件申立てまでの間における団体交渉申入れに係る会社の一連の対応は、労働組合法第7条第2号の不当労働行為に該当する。 

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