労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  神奈川県労委令和5年(不)第11号
スリーディー(その2)不当労働行為審査事件 
申立人  Xユニオン(組合) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和6年9月20日 
命令区分  棄却 
重要度   
事件概要   本件は、①(会社の営業部長B2が組合員Aにメールを送付したことに係る組合の団体交渉申入れや、Aによる労働委員会に対する先行事件に係る上申書の提出を理由として)会社が、Aに対し、令和3年下期について不当に低い評価を行ったこと並びに当該評価を理由に昇給させなかったこと及び賞与額を減額したこと、②当該評価に係る会社の評価コメントについて、代表取締役社長B1がメールでAに送付した(同人から会社あてのメールへの)回答が不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 神奈川県労働委員会は、申立てを棄却した。 
命令主文   本件申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 組合員Aに対する令和3年下期評価及びこれに基づく賃金支払いが、労組法第7条第1号又は第4号に定める不利益取扱いに当たるか。(争点1)

(1)Aの評価について

ア 会社は、A及び組合に対して、①令和2年9月上旬から12月上旬にかけて、Aの勤務場所を他の従業員が勤務する4階ではなく6階とする、②これは、他の従業員のAに対する違和感・恐怖感・嫌悪感が強いことから、Aと他の従業員との融和や関係修復を促すためである、③当面の間は、上司の営業部長B2経由又は同席の上で他の従業員と話をするという「ならし」状態からスタートし、Aの努力や他の従業員の反応を見ながら、Aが他の従業員と直接円滑に話すことができるよう対応を続けたいとの意向を示していた。

イ そして、会社は、令和2年下期評価から令和3年下期評価に至るまで、Aの販売目標等の達成は認める一方、①Aが同人の職位に期待される成果を上げられていないこと、②期待される成果を上げる上で、Aと他の従業員との連携や信頼関係の構築が重要であること、③それにもかかわらず、Aは他の従業員との関係修復に向けた努力を怠っていると判断されることを一貫して指摘し続けている。

ウ これらから、会社は、①Aと他の従業員との関係修復を同人の課題と位置付けた上で、その準備段階として部長B2とのコミュニケーションのあり方を重視し、その旨をAに伝え、同人の勤務態度や対人関係の在り方の変化を観察しており、②Aに他の従業員との関係の修復に向けた努力が認められず、結果として、マネージメントの職位に期待される成果を上げられていないと判断し、③そのことを各年各期の評価において考慮しているといえる。
 令和3年下期評価においても、職位に対する期待に照らし、Aは低評価とされているところ、評価に当たっては、Aに部長B2との信頼関係を構築しようとする姿勢が見られず、ひいては他の従業員との関係修復に向けて努力する姿勢や意欲が認められないことが考慮されている。

(2)組合の主張について

ア 組合は、「令和4年1月31日に送付した団体交渉申入書(以下「本件申入書」)による団体交渉の申入れ(以下「本件団体交渉申入れ」)を理由として、会社が、令和3年下期評価において、Aを不当に低く評価した」と主張する。
 確かに、本件団体交渉申入れは、当該評価に係る調整が行われた令和4年4月21日以前に行われている。しかし、それ以前から、会社は、Aを評価する際、Aには常に他の従業員との関係修復に向けた努力が求められているが、努力する姿勢が見られず、その努力を怠っている点を重ねて指摘しているのであって、令和3年下期評価において、組合が本件団体交渉申入れをしたこと自体を評価に組み込んでいるとは認められない。Aの令和3年下期評価が職位に照らして低いのは、同人の対人姿勢に基づくものといえ、組合員としての行動を理由とするものではない。

イ 組合はまた、「組合が上申書(1)〔注〕を当委員会に提出したことを理由として、会社がAを不当に低く評価した」と主張する。
 しかし、会社は、調整会における最終調整を踏まえて、一次評価者又は二次評価者のコメントを修正する場合があるものの、調整会において、各従業員の令和3年下期評価及びその評価に基づく令和4年度の給与と令和4年夏季賞与を決定しており、令和3年下期評価に係る調整会は令和4年4月21日に開催されていることから、会社が、同年5月31日に組合が当委員会に上申書(1)を提出したことをAの評価に組み込んでいるとは認められない。

〔注〕認定によれば、令和4年5月31日付けのAから神奈川県労働委員会に対する、先行事件(令4(不)2事件)に係る上申書(1)には、①部長B2が、同人のAに対する言動に関し「事実と異なる報告をするよう、執拗に求め」たことや、②B2がAに対し、破棄を認めたはずの複写書類や返却済みの社用ETCカードの返却を求めたことが「紛失事件の創出」に当たる旨が記載されている。

ウ 加えて、①組合が、昇給してしかるべきと主張する昇給率は、あくまでもAの過去の実績に基づいて算出されたもので、それらをもって、令和4年4月の同人の昇給が保障されていたとまでは認められず、②同様に、Aに支給された令和5年夏季賞与額をもって、Aの標準賞与額とみなすことはできないから、本件において、Aに経済的不利益が生じていたとする組合の主張の根拠もまた十分ではない。

(3)小括

 よって、Aの令和3年下期評価が職位に照らして低いのは、同人の対人姿勢に基づくものといえ、Aに対する令和3年下期評価及びこれに基づく賃金支払いが不利益取扱いに当たるとは認められない。

2 令和3年下期評価の令和4年6月6日付け評価コメントについて、社長B1が同年6月29日付けメール(以下「4.6.29メール」)でAに送付した回答が、労組法第7条第3号に定める支配介入に当たるか。(争点2)

(1)4.6.29メールは、Aが、①同人の令和3年下期評価に係る社長B1の評価コメントにおける「周り(現状、部長B2)を悪く言うことによって自らを正当化している自己中心的な姿勢が強く窺われます」という記載について具体的に指摘して欲しい旨及び②「現状やB2を悪く言った」とする根拠となる自身の行動について回答を求める旨のメールをB1に送付したことに対して、B1が返信したものである。

(2)社長B1は、Aが部長B2を「悪く言った」とする根拠について、Aから具体的に指摘するよう求められたことから、B2の言動に非があるとAが認識ないし主張していることが書面上明らかな直近の例として、「本件申入書、令和4年4月18日に組合が会社に送付した回答書及び上申書(1)において、B2がAに『事実と異なる報告』をするよう執拗に求めた旨やB2が紛失事件を創出した旨記載されていること」について、4.6.29メールにおいて触れたものであり、このことは、団体交渉を申し入れたことや当委員会に上申書を提出したことを非難する意図に基づくものとは認められない。
 4.6.29メールが、Aからの問合わせに対して、社長B1自身の認識を回答したものであり、団体交渉の申入れや当委員会への上申書の提出それ自体を理由とする不利益を示唆するものではないことも踏まえると、4.6.29メールの送付は、組合活動を弱体化しようとの意図の下になされた組合の組織運営に影響を及ぼす行為とは認められない。
 したがって、4.6.29メールによる社長B1の回答は、組合の運営に対する支配介入行為とは認められない。

3 不当労働行為の成否

 組合が団体交渉を申し入れたことや上申書(1)を当委員会に提出したことを理由としてAの評価を不当に低くしたとは認められないことから、Aに対する令和3年下期評価及びこれに基づく賃金支払いは、労組法第7条第1号及び第4号の不当労働行為には当たらない。
 また、令和3年下期評価の令和4年6月6日付け評価コメントについて、社長B1が4.6.29メールでAに送付した回答は、組合員や組合を委縮させる効果を生み、組合の活動を抑制し、組合活動そのものを弱体化させる行為には当たらないことから、労組法第7条第3号の不当労働行為には当たらない。 

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