概要情報
事件番号・通称事件名 |
大阪府労委令和5年(不)第33号
不当労働行為審査事件 |
申立人 |
Xユニオン(組合) |
被申立人 |
Y会社(会社) |
命令年月日 |
令和6年10月28日 |
命令区分 |
全部救済 |
重要度 |
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事件概要 |
本件は、組合員A2に係る降格及び賃金カットの通告、未払残業代等に関する2回の団体交渉が行われた後、①会社が、組合からの3回にわたる団体交渉申入れに応じなかったこと、②組合がビラを配布したところ、会社が組合に対し、損害賠償請求を行うとの記載を含む警告書を交付したことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
大阪府労働委員会は、①について労働組合法第7条第2号及び第3号、②について同条第3号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、文書手交を命じた。 |
命令主文 |
1 会社は、組合が令和5年4月17日、同年5月11日及び同月26日付けで申し入れた団体交渉に応じなければならない。
2 会社は、組合に対し、下記の文書を速やかに手交しなければならない。
記
年 月 日
Xユニオン
執行委員長 A1様
Y会社
代表取締役 B
当社が行った下記の行為は、大阪府労働委員会において、労働組合法第7条に該当する不当労働行為であると認められました。今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。
記
(1)貴組合が令和5年4月17日、同年5月11日及び同月26日付けで申し入れた団体交渉に応じなかったこと(2号及び3号該当)
(2)令和5年5月24日付け警告書を貴組合に送付したこと(3号該当) |
判断の要旨 |
1 令和5年4月17日付け抗議及び申入書(以下「4.17申入書」)、同年5月11日付け団体交渉開催及び申入書(以下「5.11団体交渉申入書」)、同年5月26日付け団体交渉開催及び申入書(以下「5.26団体交渉申入書」)に対する会社の対応は、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるとともに、組合に対する支配介入に当たるか(争点1)
(1)会社の対応は、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか
ア 4.17申入書、5.11団体交渉申入書、5.26団体交渉申入書の申入れ事項は、組合員A2の労働条件に関する事項であるといえ、義務的団体交渉事項に当たることは明らかである。
また、会社は組合からの上記各申入書による団体交渉申入れ(以下「本件団体交渉申入れ」)に対し、令和5年4月17日付け、5月17日付け及び6月16日付けの各「ご回答」と題する文書(以下、それぞれ「4.17会社回答書」、「5.17会社回答書」、「6.16会社回答書」)により団体交渉を開催するつもりがない旨回答しており、令和5年4月10日の団体交渉(以下「4.10団体交渉」)を最後に、本件申立てまでの間、団体交渉が開催されなかったことについて当事者間に争いはない。
イ そうすると、本件団体交渉申入れに会社が応じなかったことに、正当な理由がなければ、労働組合法第7条第2号の不当労働行為に該当することとなるので、以下検討する。
この点について会社は、A2は部長として管理監督者であることは明らかであるとして、組合が、未払い残業代の支払いに拘泥するのであれば、団体交渉を開催しても、全く話合いは進まず、平行線となることは明らかであり、本件団体交渉申入れの拒否には正当な理由が認められる旨主張する。
確かに、団体交渉義務は使用者に対して合意を強制するものではないから、使用者が誠実に交渉を尽くしてもなお平行線で合意到達の見込みがない状態に至った場合には、使用者がその後の団体交渉申入れを拒否しても、正当な理由のない団体交渉拒否には当たらないといえる。
そこで、本件について、団体交渉が平行線で合意到達の見込みがない状態に至っていたといえるかについてみる。
ウ 4.10団体交渉において、会社は、繰り返し、未払い残業代については譲歩するつもりはない旨、残業代の請求について撤回しない限り、交渉が前に進まない旨述べたことが認められる。
しかし、組合は、4.17申入書において、これまではA2が継続勤務することを目指していたが、早期の解決に向けて「退職条件」として、未払い残業代相当分、退職慰労金分、慰謝料分を内訳とする解決金を求める提案を行っている。退職前提の解決金については初めての提案であり、特に退職慰労金分、慰謝料分については、これまで一切要求されず、4.17申入書において初めて盛り込まれた内容であり、これらの項目について労使間で一切協議はなされていない。
エ さらに、未払い残業代相当分についても、あくまで相当分であって、未払い残業代そのものとはいえず、退職に当たっての解決金における内訳の一項目として提案されたものである。それまで組合が要求していた未払い残業代とは性格が異なるものといえ、まだこの点について協議を尽くしたとはいえない状況である。
オ また、その後、引き続き組合は、5.11団体交渉申入書及び5.26団体交渉申入書によりA2への不利益変更の撤回等についての団体交渉開催を求めたが、会社は、これらの申入れに対しても、5.17会社回答書及び6.16会社回答書により、現実的な和解案がなく双方の主張が平行線になっているため団体交渉に応じない旨、繰り返し回答し、団体交渉は開催されなかった。
カ 以上から、4.17申入書で組合が提示した解決金についての協議は、団体交渉の場では全く行われていないとみるべきで、団体交渉が平行線で合意到達の見込みがない状態に至っていたとはいえない。
したがって、本件団体交渉申入れに対する会社の対応は、正当な理由のない団体交渉拒否に当たる。
(2)会社の対応は、組合に対する支配介入に当たるか
ア 労働組合法第7条第3号の支配介入が成立するといえるためには、使用者の行為が労働組合の運営・活動を妨害する行為である等の事情が存在することを要するというべきである。
イ 4.17会社回答書、5.17会社回答書及び6.16会社回答書には、会社が組合との団体交渉に応じるには現実的な和解案が必要である旨の記載がある。
組合の要求事項は、組合が自由に決定すべきものであるところ、仮に組合の要求が、会社にとって現実的でなく受け入れられない内容であったとしても、それは団体交渉においてその旨を説明すべきである。会社にとって現実的な要求を提示することを団体交渉開催の条件とすることは、不当に組合の要求内容を制限するものといえ、もって組合の団体交渉機能を制限するものといえる。
また、そもそも会社は、本件団体交渉申入れに対し正当な理由のない団体交渉拒否を行っているところ、このような会社の対応は、組合の団結権を否認するものとして、組合を軽視し、組合の活動を妨害するものといわざるを得ず、支配介入に当たる。
(3)以上から、本件団体交渉申入れに対する会社の対応は、労働組合法第7条第2号及び第3号に該当する不当労働行為である。
2 会社が、令和5年5月24日付け「警告書」と題する文書(以下「5.24警告書」)を組合に送付したことは、支配介入に当たるか(争点2)
(1)組合に対する使用者の言論が不当労働行為に該当するかどうかは、言論の内容、発表の手段、方法、発表の時期、言論発表の与える影響などを総合して判断する必要がある。使用者の反組合的な言論はそれだけで直ちに支配介入にはならず、その内容に組合ないし組合員に対する強制、威嚇、報復、又は利益の誘導などが含まれており、不当に組合活動を萎縮させ弱体化させるものといえる場合には、支配介入に当たる可能性があるといえる。
そこで、会社が5.24警告書を組合に送付したことが、支配介入に当たるか、以下検討する。
(2)この点について、組合は、「5.24警告書に記載されている本件ビラ〔注〕の取引先会社への直接送付は行っておらず、事実確認もせずに組合が取引先会社に本件ビラを送付したと決めつけ損害賠償請求の警告書を組合に送付することは、組合活動を不当に牽制し、損害賠償請求の威嚇であり、組合に対する支配介入である」旨主張する。
〔注〕令和5年5月11日、組合が、会社が営業するスーパーマーケットなど2店舗の前で配布した、A2の降格や賃金減額の撤回、未払い残業代の支払い、団交応諾等を会社に求める旨が記載されたビラ。
(3)そこで、5.24警告書の内容及び送付に至る経緯についてみる。
ア 5.24警告書には、①本件ビラが取引先会社に直接送付されていると指摘したうえで、②ビラを直接送付する行為は明らかに違法な組合活動に該当するとし、このような行為を行わないように警告するとともに、③違法な組合活動により取引先との取引が停止した場合には、組合及びA2に損害賠償を請求するので留意するよう記載されている。
これについて、組合は、組合が取引先会社に本件ビラを直接送付したという事実を否定している。また、会社からは、取引先会社の担当者から本件ビラが郵送されてきた旨の電話があったことが主張されているものの、郵送された封筒等は取引先会社の担当者から開示されていないとの主張もあり、差出人が組合であったのか否かが判然とせず、組合が取引先会社に直接送付したと認めるに足る事実の疎明もない。
したがって、組合が本件ビラを取引先会社に直接送付したと認めることはできず、会社は組合が直接送付を行ったという事実を具体的に確認することなく、5.24警告書を発送したといえる。
イ 組合が本件ビラを取引先会社に直接送付したと認めることができない状況において、会社は、事実を具体的に確認することなく、組合が本件ビラを取引先会社に送付したと決めつけ、これが違法な組合活動であるとして損害賠償請求の対象となると警告している。 このことは、組合に、店舗前でのビラ配布等、他の組合活動も損害賠償請求の対象となり得るとの恐れを抱かせるものであり、組合が活動に慎重にならざるを得なくなるのは当然といえる。したがって、5.24警告書を送付したことは、威嚇や報復の示唆などにより、不当に組合活動を萎縮させ弱体化させるものであったといえる。
ウ なお、会社は、5.24警告書において、ビラを当社の取引先に直接送付するような違法な組合活動を行わないよう警告しているに過ぎず、会社の社員向けにビラを配布するような一般的な街宣活動について警告したものではないため、不当労働行為に該当しないと主張する。しかし、組合が本件ビラを取引先会社に直接送付したと決めつけ5,24警告書を送付したこと自体が支配介入に当たるため、会社の主張は採用できない。
(4)以上から、会社が、5.24警告書を組合に送付したことは、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為である。 |