労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  石川県労委令和5年(不)第1号
金沢自動車振興不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和6年12月2日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、会社が、①組合が過半数組合ではなくなったとして、労働協約中のユニオンショップ協定の無効を宣言したこと、②新入社員Cを、試用期間満了後直ちに課長補佐に登用し、その組合員化を妨害したこと、③労働協約の定めに反し、組合によるCの賃金開示要請に応じなかったこと、④Cとの間で黄犬契約を締結したこと、⑤従来、三六協定等を組合と締結していたにもかかわらず、組合は過半数組合ではないと主張し、従業員代表選挙を実施したことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 石川県労働委員会は、①及び②について労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、(ⅰ)組合との間で締結している労働協約の誠実な履行、(ⅱ)従業員の組合加入を妨害するなど組合の運営・活動に支配介入してはならないこと、(ⅲ)文書交付を命じた。 
命令主文  1 会社は、組合との間で締結している労働協約を誠実に履行しなければならない。

2 会社は、従業員の組合加入を妨害するなど組合の運営・活動に支配介入してはならない。

3 会社は、本命令書受領の日から7日以内に、下記内容の文書を組合に交付しなければならない。
X組合
  執行委員長 A1殿
令和 年 月 日
Y会社       
代表取締役 B

 C氏の試用期間終了にあたり、当社が、労働協約において定められているユニオンショップ協定が失効していると宣言したこと及びC氏を管理職に登用したことは、いずれも労働委員会において不当労働行為と認定されました。
 今後はこのような行為を繰り返さないように留意します。
以上 
判断の要旨  1 組合と会社が締結したユニオンショップ協定(以下「ユシ協定」)は有効に存続しているか、及び、会社によるユシ協定無効の宣言は支配介入に該当するか。(争点1)

(1)ユシ協定については、これを無効と解する学説も有力であるが、憲法第21条や第28条に照らせば、一律に無効であると解することはできない。
 最高裁判所も、ユシ協定のうち、締結組合以外の他の労働組合に加入している者及び締結組合から脱退し又は除名されたが他の労働組合に加入し又は新たな労働組合を結成した者について、使用者の解雇義務を定める部分は民法第90条により無効であるとして、組合選択の自由を侵害しない限度でユシ協定の有効性を認めている(最一小判平成元.12.14三井倉庫港湾事件)。
 ユシ協定に関する実定法上の唯一の根拠は労働組合法第7条第1号但書であるが、「労働組合が特定の工場事業場に雇用される労働者の過半数を代表する場合において、その労働者がその労働組合の組合員であることを雇用条件とする労働協約を締結することを妨げるものではない。」と定めており、過半数代表組合でなければ有効なユシ協定を締結することができないと解されるところ、この過半数要件の分母となる「労働者」をどの範囲の労働者と解するかが問題となる。

(2)この点、①会社は、同条の「労働者」は利益代表者を除くすべての労働者であり、組合はその過半数を代表するものではないため、ユシ協定は無効と主張し、②組合は、同条の「労働者」は組織対象たる同種労働者であり、組合はその過半数を代表するから、ユシ協定は有効と主張する。

(3)そこで検討するに、まず、労働組合法第7条第1号但書には「労働者」という文言が2つあるところ、いずれも「組織対象とされる労働者」と解するのが自然である。

(4)また、かりに会社の主張を前提とすれば、組合のように組織対象者が限定されている場合、もともと組合員が全労働者(利益代表者を除く)の過半数を占めていたが(=ユシ協定は有効)、組織対象外の労働者(労働協約第5条但書に規定される労働者)が増加したことにより、過半数を割ることとなった場合、ユシ協定は無効ということになる。
 しかし、ユシ協定の有効・無効は、労使関係の根幹にかかわる極めて重大な事項であるから、これが組合の関与できない事由(使用者による労働者の採用)によって左右されてしまうのは、憲法28条の趣旨に反するといわざるを得ない。
 よって、会社の主張を採用することはできない。

(5)これらから、労働組合法第7条第1号但書の「労働者」は「組織対象とされる労働者」と解するのが相当である。

(6)本件において、組合の組織対象とされる労働者の総数は、組合の主張によれば、21名または36名であり、現在の組合員数は20名である。
 したがって、組織対象とされる労働者の総数をいずれとみても、組合は過半数要件を満たし、「労働者」の過半数を代表する。なお、会社の主張する組織対象とされる労働者の総数及び組合員数を前提としても、結論は変わらない。

(7)よって、ユシ協定は有効に存続している。

2 会社によるユシ協定無効宣言は支配介入に該当するか。また、会社がCを管理職に登用したことは支配介入に当たるか。(争点2)

(1)会社は、①法律上無効となっている条項を無効と主張することはいわば当然で、ユシ協定無効宣言は何ら支配介入に該当しない、②Cを管理職として相応しい人物であると評価して管理課長補佐に登用したもので、そもそも、いかなる者を採用し、採用した者をいかなる役職に就かせるかは会社の経営権・人事権に属し、支配介入の不当労働行為が成立する余地はないと主張するので、以下検討する。

(2)労働組合法第7条第3号の「支配介入」の成否の判断にあたっては、当該行為の内容や態様、その意図や動機のみならず、行為者の地位や身分、当該行為がされた時期や状況、当該行為が組合の運営や活動に及ぼしうる影響を総合考慮し、組合の結成を阻止ないし妨害したり、組合を懐柔し、弱体化したり、組合の運営・活動を妨害したり、組合の自主的決定に干渉したりする効果を持つものといえるかにより判断すべきである(札幌明啓院事件・東京地判平成29年12月13日)。

(3)本件についてみると、まず、会社が「ユシ協定無効」を主張し始めたのは、令和4年8月17日及び翌18日である。
 これは、令和4年5月21日に採用したCの試用期間(3ヶ月)が終了し、同人が正社員となる同年8月21日の直前のことで、組合がCの組合員化を求めたのに対し、会社が組合の要求を否定する根拠として主張したものである。
 他方で、会社は、遅くとも令和3年7月頃までには組合は過半数組合ではないと認識していたにもかかわらず、時間外・休日労働に関する協定(以下「三六協定」)については、令和4年8月25日(Cの試用期間が終了した5日後)、従前と同様に組合分会長との間で締結している。
 会社は、一方では組合に対して、労働組合法第7条第1号但書の過半数要件を満たしていないとして「ユシ協定無効」を主張しながら、他方で、同時期に、過半数組合の代表として組合分会長と三六協定を締結していることからすると、「ユシ協定無効」はCの組合員化を阻止する目的でのみ主張された疑いが払拭できない。

(4)他方で、Cはこれまで自動車学校で勤務した経験がなく、教習指導員の資格も有さない等の事情があるにもかかわらず、試用期間(3ヶ月)終了と同時に、33歳という年齢で管理職(課長補佐)に登用されるという異例の人事が行われた。
 この人事が異例であることは、令和4年8月21日付けの辞令が9月3日に交付されたこと、Cが従来存在しなかった「第二管理課長補佐」なる役職に就任したこと、及び、組合が要求した組織図が令和5年3月に至るまで開示されなかったことからもみてとれる。
 会社は、Cを管理職として相応しい人物であると評価して登用した旨を主張するが、その合理性・必要性を認めるに足りる証拠はなく、前記人事は、労働協約第5条第2号により、Cの組合員化を阻止することを目的として行われたと解さざるを得ない。

(5)以上のとおり、会社は、「ユシ協定無効」の宣言とともに、Cを管理職に就任させることにより、Cの非組合員化を意図したと解するのが相当である。
 そして、①ユシ協定が無効であるかどうかは労使関係の根幹に関わる極めて重大な事項であること、②ユシ協定無効の宣言は会社の方針として代表者が行ったものであること、加えて、③組合の立場からすると、将来組合を背負って立つべき若い組合員を失う影響は相当大きいと考えられること等の事情も考慮すれば、会社によるユシ協定無効宣言及びCの管理職への登用は、組合の弱体化を図り、組合の運営・活動を妨害する効果を持つといえる。
 以上は、労働組合が使用者と対等な交渉主体であるために必要な団結力及び組織力を損なう行為であるから、労働組合法第7条第3号の支配介入に当たる。

3 会社はCとの間で黄犬契約を締結したと認められるか。(争点3)

(1)黄犬契約は「労働者が労働組合に加入せず、若しくは労働組合から脱退することを雇用条件とすること」によって成立する(労働組合法第7条第1号)。

(2)本件において問題となるのは、Cの試用期間が終了し、同人が正社員として採用された際、会社とCの間において「労働組合に加入しないことを雇用条件」とする労働契約が締結されたか否かである。
 この点に関し、Cの供述から、同人が、①前職の労働組合で青年部に所属し、その副部長と事務局長を務めた経験があること、②正社員になれば、ユシ協定により、組合に加入せざるを得ないと認識していたこと、③令和4年8月20日頃、分会長A2らに対し、「組合に加入することになれば青年部で頑張ります」という趣旨の発言をしたこと、④同年8月21日前後頃から、会社の幹部数名と何度か面談をする機会があったこと、⑤同年9月3日に、8月21日付けで同人を「第二管理課長補佐」に任命する辞令の交付を受けたことが認定できる。
 以上の事実から、令和4年8月20日頃まではユシ協定により組合に加入せざるを得ないと認識していたCが組合に加入していないのは、会社から何らかの働きかけがあったためと推認される。

(3)しかし、具体的に会社からどのような働きかけがあったのか、また、会社とCとの間で何らかの合意が成立したのか否かについては、これらを的確に判断できる確定的な証拠がない。
 前述のとおり、会社がCを管理職に登用したことは支配介入の不当労働行為に該当すると考えられるが、管理職登用に関する情報が事前にどの程度までCに知らされていたのかも判然とせず、会社とCの間において「労働組合に加入しないことを雇用条件」とする労働契約が締結されたとまで認定することは困難である。

(4)なお、組合は、Cが〔管理職手当等の支給により〕高額な賃金を受領しているであろうことの不当性を主張するが、それは前記争点2において既に評価されているというべきで、それとは別個独立の不当労働行為と解することは相当ではない。

(5)よって、黄犬契約の成立を認めることはできない。

4 Cの賃金を組合に開示しない行為は支配介入に当たるか。(争点4)

(1)労働協約第18条は「会社は従業員を雇入れる場合は組合と協議して行なう。又従業員を採用した時はその氏名、所属、採用条件、採用年月日を組合に通知する。」と規定している。
 会社は、「採用条件」に賃金は含まれないなどと主張するが、労働者の採用にあたり最も基礎的かつ重要な条件は賃金であるから、「採用条件」に賃金が含まれないと解することは相当無理がある。

(2)そうすると、会社がCの賃金を開示しなかったことは労働協約第18条に違反することとなるが、それが不当労働行為に当たるといえるためには、同行為が会社の不当労働行為意思に基づくことを要する。
 この点、これまで労働協約第18条の協議・通知が行われたのは、平成20年に他の自動車学校の閉鎖にともない同校の教習指導員を会社で雇い入れたケースにほぼ限られるから、同条について厳格な運用がなされてきていない状況下において、会社がCの賃金を開示しなかったとしても不当労働行為意思に基づくものとは認定できない。

(3)よって、会社がCの賃金を開示しなかったことは支配介入の不当労働行為に当たるとはいえない。

5 会社が労働者の過半数代表と三六協定及び1年単位の変形労働時間制に関する協定(以下併せて「三六協定等」)を結んだ行為及び手続全般が、不利益取扱い及び支配介入に当たるか。(争点5)

(1)組合は、「会社が組合との協議・合意もないまま、数十年にわたって組合分会長が三六協定等を締結してきた労使慣行を破棄し、三六協定等の締結権を組合からはく奪したことは不利益取扱い及び支配介入の不当労働行為に当たる」と主張する。

(2)労働基準法第36条第1項及び第32条の4第1項は、当該事業場に「労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者」と使用者との書面による協定の締結及び行政官庁への届出を要件として、労働時間の延長及び休日労働、1年単位の変形労働時間制を認めている。
 ここにいう「労働者」は、正規雇用労働者(正社員)のみならず、短時間労働者(パートタイム労働者)などの非正規雇用労働者も含めた事業場における全ての労働者を指すことについて争いはない。したがって、会社が従前より、短時間勤務のスクールバス運転手を過半数の分母から除外し、組合を過半数組合として三六協定等を締結していたとしても、それは法の要求する要件を満たすものではない。
 組合は、会社と組合との間で三六協定等を締結する「労使慣行」が成立している、または、組合が三六協定等の「締結権」を有すると主張するが、かりに長期間にわたり反復継続して行われてきた慣行があったとしても、労働基準法の明文規定に抵触するものについて、法的効力を認めることができないのは当然である。

(3)令和4年11月29日時点において、組合が労働基準法第36条第1項及び第32条の4第1項に規定する過半数組合でないことは明らかであり、会社が組合の分会長ではなく、従業員代表選挙により選出された「労働者の過半数を代表する者」との間で三六協定等を締結したことは、労働基準法に適合したものであって、労働組合法上も不利益取扱いや支配介入の不当労働行為に当たるとはいえない。

(4)もっとも、会社の主張によれば、平成28年1月以降、組合は過半数割れしており、遅くとも令和3年7月頃までには会社はそのことを認識していたにもかかわらず、令和4年11月突如として従業員代表選挙を行ったことについては、組合に対して、事前に丁寧な説明を行う必要があったというべきである。
 この点については、団体交渉拒否または不誠実団体交渉の疑いもあるが、団体交渉において、組合は、会社による不当労働行為の疑義があるなかで、分会長を三六協定等の締結権者から外すことに抗議するとともに、かりに従業員代表選挙を行うとしても、従業員の自主性が確保されるべきであり、会社主導による選挙が行われることについて強い非難をしている。
 組合は、会社主導による選挙に対して強く反発しているものの、従業員代表選挙を行うこと自体は許容していたとみる余地も十分あることからすれば、団体交渉において会社から組合に対してある程度の説明は行われたものと解することができる。そうすると、団体交渉拒否または不誠実団体交渉の不当労働行為が成立するとまでは認定できない。

(5)以上から、三六協定等の締結に関して不当労働行為は成立しない。

6 救済方法について

 組合は、ユシ協定に基づき、会社はCを組合員として取り扱わなければならないと主張する。
 当委員会もユシ協定は有効と解するが、労働協約第6条は「会社は組合を除名された組合員は直ちに解雇する。」旨を規定するだけで、組合に加入しない労働者の処遇については言及されていない。これは、組合に加入しない組織対象者の処遇については、労使の協議により決定することが予定されていると解されるので、当委員会が「会社はCを組合員として取り扱わなければならない」と命ずる性質のものではない。当委員会は、今後、組合と会社の間で適切な協議が行われることを期待する。 

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