概要情報
事件番号・通称事件名 |
東京都労委令和5年(不)第27号
ラトナ不当労働行為審査事件 |
申立人 |
Xユニオン(組合) |
被申立人 |
Y会社(会社) |
命令年月日 |
令和6年10月15日 |
命令区分 |
全部救済 |
重要度 |
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事件概要 |
本件は、会社が、休職している組合員A2に関する組合からの団体交渉の申入れに対して回答を行わず、団体交渉に応じなかったことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
東京都労働委員会は、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、(ⅰ)速やかな団体交渉応諾、(ⅱ)文書交付等を命じた。 |
命令主文 |
1 会社は、組合が令和5年3月28日付けで申し入れた団体交渉に速やかに応じなければならない。
2 会社は、本命令書受領の日から1週間以内に、下記内容の文書を組合に交付しなければならない。
記
年 月 日
X組合
執行委員長 A1殿
Y会社
代表取締役 B1
当社が、令和5年3月28日付けで貴組合が申し入れた団体交渉に応じなかったことは、東京都労働委員会において不当労働行為と認定されました。
今後、このような行為を繰り返さないよう留意します。
3 会社は、前項を履行したときは、速やかに当委員会に文書で報告しなければならない。 |
判断の要旨 |
1 組合が主張する組合員A2が会社を休むようになった経緯については、それを認めるに足りる具体的な疎明がないものの、以下の事実は認められる。
組合は、令和5年3月28日、会社に対し、簡易書留郵便により、A2が組合に加入したこと、上司からのハラスメント行為により休職を強いられていることなどを記載した団体交渉申入書を送付し、その郵便は、翌3月29日、会社に到達したが、会社は、組合に何ら回答を行わなかった。
また、会社は、同年4月3日、団体交渉の申入れに対する回答期限を過ぎていることなどを内容とする組合からの電子メールを受信したが、これに対しても何ら回答を行わなかった。
2 上記経緯のとおり、組合は、会社に対し、その従業員であるA2の組合加入を通知し、上司からのハラスメント行為により休職を強いられているとして、その問題解決のために団体交渉を申し入れているのであるから、組合の申入れ内容は義務的団体交渉事項に当たり、会社は、これに応ずべき立場にあった。
会社は、団体交渉の申入れに応じなかった理由について、執行役員B2が組合からの送付書類を所持し、会社が令和5年4月3日の組合からの電子メール受信後にB2に連絡をしたものの、対応は見送られ、その後B2が退職した旨を主張する。
しかし、組合の「労働組合加入通知書」及び「団体交渉申入書」は、会社に対して送付したものであり、同年3月29日には会社に到達しているのであるから、会社として対応すべきものであって、会社内部における執行役員B2との情報共有や意思疎通の不足等は、組合からの団体交渉申入れに応じない正当な理由にはならない。
仮に、執行役員B2が同年3月29日に会社に到達した書類を所持したままであったとしても、会社は、同年4月3日にも組合からの電子メールを受信したのであるから、その時点で、B2に対し、組合からの申入内容や組合への回答状況を確認し、同人が回答していない場合、あるいは、同人が回答しているかどうか不明の場合には、会社として速やかに組合に回答するなど、団体交渉の開催に向けて必要な対応を行うべきであった。
結局、会社は、当該電子メール受信後も、組合に対して一切連絡をしておらず、その結果、団体交渉にも応じていないのであるから、会社の対応は、正当な理由のない団体交渉拒否に該当する。
3 上記のほか、会社は、団体交渉に応じなかった経緯について、①A2の勤務継続意思が不明であり、コミュニケーションを意図的に拒否していることに不審を抱いたこと、②A2の欠勤時の連絡に関する問題や同人が上司の業務指示に従わないことなど勤務態度が悪かったことを主張している。
会社が主張するA2の勤務態度のうち、A2が会社を休む際の会社への連絡が、勤務開始時刻を過ぎていたなどの事実は認められるものの、A2の勤務態度の問題は、団体交渉に応じない正当な理由にならないことは明らかである。
また、A2の勤務継続意思については、少なくとも会社は、令和5年1月5日の従業員B3とA2とのオンラインによる面談、A2からの会社や執行役員B2に対する体調や医師の診断結果に関する連絡、提出された診断書、A2の休職期間満了後の在籍可否に関する質問などを通じて、同人が取締役B4との関係で体調を崩したとして休んでいるものの、休職期間満了後も勤務継続を希望する可能性があることは把握できたといえる。
さらに、会社が主張するA2のコミュニケーション拒否については、①A2は、執行役員B2が提案した対面での話合いについては応じていないものの、それは、医師から職場ストレスによる疾患である旨の診断が出されたことから、職場の者との対面での話合いによる体調の悪化を懸念したものとみることができ、②従業員B3とのオンライン面談には応じていること、会社や執行役員B2に対し、体調や医師の診断結果に関する連絡を行っていること、B2からの連絡に返答していることからすれば、対面での話合いは困難であるものの、一切のコミュニケーションを拒否しているということではない。
一方、会社は、A2からの休職期間満了後の在籍の可否や労災申請手続の可否などに関する質問について、体調不良で休職中の同人に対して直接対面で話すことを提案し、組合からの団体交渉申入れ及び再度の回答要求を受けた直後に、組合を経由することなく、A2本人に対して3月末日付けで退職手続を行った旨を電子メールで通知している。
会社が、A2の勤務継続の意思を確認したいのであれば、組合からの団体交渉申入れに速やかに応じ、団体交渉の席で、組合に対して確認することもできたのであり、また、会社が主張するA2の勤務態度やコミュニケーション拒否などについても、組合との協議を通じて、A2とコミュニケーションを図り、解決していくことも可能であったと考えられる。
したがって、会社の上記各主張は、いずれも組合との団体交渉に応じない正当な理由になり得ないことは明らかであり、前記2の判断を左右しない。
4 救済方法について、組合は、団体交渉応諾のほか、文書の掲示を求めているが、会社における組合員はA2のみであること、会社が、令和6年7月10日付けの準備書面において、現在、団体交渉を拒否する意向はない旨を表明していることなど本件に関する一切の事情を考慮し、文書の交付を命ずることとする。
5 以上の次第であるから、会社が、組合からの令和5年3月28日付けの団体交渉の申入れに対して回答を行わず、団体交渉に応じなかったことは、労働組合法第7条第2号に該当する。 |