概要情報
事件番号・通称事件名 |
東京都労委令和3年(不)第81号
BLUE ROSE不当労働行為審査事件 |
申立人 |
Xユニオン(組合) |
被申立人 |
Y会社(会社) |
命令年月日 |
令和6年10月1日 |
命令区分 |
一部救済 |
重要度 |
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事件概要 |
本件は、①会社が、組合員A2に対し、支払義務があることを認めた未払賃金等を支払わなかったこと、②令和3年7月12日など2回の団体交渉における会社の対応、③会社が同年9月21日の団体交渉を中止したこと及び同年10月12日付けでこれ以上団体交渉をする必要がない旨を回答したこと、④令和5年5月21日付けなど2回の団体交渉再開の申入れに会社が応じなかったことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
東京都労働委員会は、①について労働組合法第7条第1号、③及び④について同条第2号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、(ⅰ)A2に対し、同人が主張する未払賃金及び遅延損害金のうち、会社が支払義務を認めた部分に係る金員の支払、(ⅱ)④に係る誠実団体交渉応諾、(ⅲ)文書交付等を命じ、その余の申立てを棄却した。 |
命令主文 |
1 会社は、組合の組合員A2に対し、同人が主張する未払賃金及び遅延損害金のうち、会社が支払義務を認めた部分に係る金員150,600円を支払わなければならない。
2 会社は、組合が令和5年5月21日付け及び6月5日付けで申し入れた団体交渉に誠実に応じなければならない。
3 会社は、本命令書受領の日から1週間以内に、下記内容の文書を組合に交付しなければならない。
記 年 月 日
Xユニオン
共同代表 A1殿
Y会社
代表取締役 B1
当社が、貴組合の組合員A2氏に対して支払義務があることを認めた未払賃金を支払わなかったこと、令和3年9月21日の団体交渉を中止したこと及び10月12日付けの「回答書(2)」でこれ以上団体交渉をする必要がない旨を回答したこと並びに貴組合の令和5年5月21日付け及び6月5日付けの団体交渉再開の申入れに対して当社が応じなかったことは、東京都労働委員会において不当労働行為であると認定されました。
今後、このような行為を繰り返さないよう留意します。
4 会社は、第1項及び前項を履行したときは、速やかに当委員会に文書で報告しなければならない。
5 その余の申立てを棄却する。 |
判断の要旨 |
1 会社が、組合員A2に対し、支払義務があることを認めた未払賃金及び遅延損害金(以下「未払賃金等」)を支払わなかったことは、同人が組合員であることを理由とした不利益取扱いに当たるか(争点1)
(1)不利益性について
令和3年9月13日の第2回団体交渉でのやりとりなどから、会社は、控除した厚生費(遅延損害金を含む)61,800円の支払義務を、また、令和3年10月12日付けの「回答書(2)」(以下「本件回答書」)の記載から、未払いの給料88,800円の支払義務を認めているといえる。
そして、会社が、同年11月2日付けの「回答書(3)」で、A2に対する未払賃金等のうち会社が支払義務を認めた部分(計150,600円)の支払を拒否したことは、A2に経済的不利益を被らせるものである。
(2)不当労働行為意思について
会社は、「会社が支払義務を認めた部分を支払わなかったのは、組合が当該部分の他にも支払うべき金額があると主張し、未払賃金の総額について双方が妥結できなかったという理由によるものであり、未払賃金の総額が確定していない以上、後で金額を争われる可能性を懸念することは当然であるから、不当労働行為意思はない」と主張する。
しかし、令和3年9月21日の組合あてメールや本件回答書の記述から、会社は一貫して交渉回避の姿勢を示しているといえ、その後も団体交渉は開催されていない。
また、令和3年9月13日の第2回団体交渉において、社長B1は、A2が他の従業員に対して組合加入の勧誘活動とみられる行為をしたことについて、会社からしたらいい迷惑であると述べており、組合の活動を苦々しく思っていることがうかがわれる。
これらから、会社は、会社の他の従業員を組合に勧誘するなどのA2の組合活動を嫌悪し、組合との交渉を回避しながら、会社が支払義務があることを認めた部分を超える未払賃金等に係る組合の要求を取り下げさせることを意図して、組合員であるA2に対し、支払義務があることを会社が認めた部分についても支払わないとする不利益を課したとみるのが相当である。
(3)したがって、会社が、A2に対し、支払義務があることを認めた未払賃金等を支払わなかったことは、同人が組合員であることを理由とした不利益取扱いに当たる。
2 令和3年7月12日の第1回団体交渉及び9月13日に行われた第2回団体交渉における会社の対応は、不誠実な団体交渉に当たるか(争点2)
会社は、有期雇用契約を合意した日付については確認すると述べ、賃金から控除された費用に関する質問には相応の回答を行い、給与の支払日に関する質問に対しても店則を提示して説明し、賃金から厚生費と称する費用を控除していた対応についても過ちを認めて返金を約束しているほか、労使双方が次回の団体交渉に向けて相互に宿題を出し合うなど今後の交渉の進展が望める状況であったことも踏まえると、第1回及び第2回団体交渉における会社の対応が不誠実であるとはいえない。
したがって、令和3年7月12日及び9月13日に行われた団体交渉における会社の対応は、不誠実な団体交渉に当たらない。
3 会社が、令和3年9月21日の第3回団体交渉を中止したこと及び本件回答書でこれ以上団体交渉をする必要がない旨を回答したことは、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか(争点3)
(1)令和3年9月21日の団体交渉を中止したことについて
会社は、(令和3年9月21日の第3回団体交渉の当日、)「令和3年1月20日、3月22日、4月20日及び同月26日の給与受渡し時の音声データファイルを聞くことができず、残りの三つのファイルを聞くことはできたものの、全ての音声データを聞いた上でなければ有意義な交渉にならない」などと述べて中止を連絡した。
組合は同年9月15日までに音声記録を送付することを約束しており、労使双方がこの音声記録を確認した上で団体交渉に臨む予定であったことがうかがわれる。
しかし、このことは、第2回団体交渉において会社が述べた同年1月から3月までの賃金支払額約28万円が、組合の認識と大きく異なっていたため、組合が事実に即した議論を進めるために会社に便宜を図ったものであって、音声記録を事前に確認することが団体交渉の開催条件であったとまではいえないし、これを事前に確認できないと団体交渉が成立しないともいえない。
また、録音データの全部が確認できないと有意義な交渉にならないという理由は、それ自体理解できなくはないものの、七つの音声データのうち三つを聞くことはできたこと及びその内容からすると、交渉の前提となる材料がほとんどそろっていないとまではいえないから、予定していた団体交渉を中止とした対応は行き過ぎであったとみるのが相当で、団体交渉を拒否する正当な理由にはならない。
したがって、会社が令和3年9月21日の団体交渉を中止したことは、正当な理由のない団体交渉拒否に当たる。
(2)本件回答書でこれ以上団体交渉をする必要がない旨を回答したことについて
ア 会社は、令和3年9月21日の第3回団体交渉を中止した後、本件回答書において、「更なる団体交渉の開催によって妥結できる事項があれば団体交渉に応じるが、主張が平行線をたどるようであればこれ以上の団体交渉は必要ないと考える」と述べた。
この回答をみると、会社は、A2の雇用期間及び未払賃金等を議題とする団体交渉について、これに応じる余地があることを示しているようにもみえる。しかし、会社は、同年9月21日のメールや本件回答書から、一貫して交渉回避の姿勢を示しているといえるから、当該回答書は、その時点で団体交渉に応じるとの趣旨ではなく、新たな議題があれば応じるという趣旨であって、A2の雇用期間及び未払賃金等を議題とする団体交渉についてはこれを打ち切ったものとみるのが相当である。
イ この点について、会社は、本件審査手続において、①未払賃金等については、150,600円という金額で合意できるのであれば支払う旨を述べたが、組合が他にも未払賃金があることを主張したので合意に至らなかったこと、②有期雇用か無期雇用かについては、双方の主張が平行線をたどっていたところ、会社はA2が有期雇用であることについて説明を尽くしており、これ以上回答できることはなく、妥結の余地がなかったことから、団体交渉の打切りには正当な理由があると主張するので、以下検討する。
ウ 未払賃金等に関する協議事項については、第2回団体交渉において、次回の団体交渉に向けて、会社は、A2の賃金受取のサインを得たことを証する資料を提出すると述べ、組合も、団体交渉の録音データを提出すると述べ、労使双方が相互に宿題を出し合い、今後の交渉の進展を望める状況であった。加えて、会社が未払賃金等の額として150,600円を提示したのは本件回答書であり、会社がこの金額を提示して以降、団体交渉は行われていないのであるから、団体交渉を行う必要があったというべきであり、団体交渉の打切りに正当な理由があるとはいえない。
エ 有期雇用か無期雇用かという協議事項についても、第2回団体交渉において、①組合が有期雇用契約を合意した日付を問うたところ、会社は令和2年12月9日であると述べ、その後、組合からその日はA2が出勤していないと指摘されたことを受けて、「いろいろ調べてちゃんと確定しておきますから」などと回答したにとどまること、②組合が、令和3年4月5日にA2が店長B2から「4月までは雇用とするが5月からは個人事業主として扱う」と言われたことが解雇に当たるという認識を前提に解雇撤回を求めたのに対し、会社は、「A2が個人事業主に戻っても頑張っていきますという旨をLINEで述べていたから、組合が言う解雇になるとしてもそれを受け入れていた」などと回答したにとどまるから、労使双方が主張を出し尽くしたと評価することはできない。
オ 以上の事情からすると、本件回答書の時点で、労使双方が主張を出し尽くし、これ以上団体交渉を行っても議論の進展が見込めない、行き詰まりの状態に至っていたものと評価することはできない。
(3)したがって、会社が、令和3年9月21日の団体交渉を中止したこと及び本件回答書でこれ以上団体交渉をする必要がない旨を回答したことは、正当な理由のない団体交渉拒否に当たる。
4 組合の令和5年5月21日付け及び同年6月5日付けの団体交渉再開の申入れに対し、会社が応じなかったことは、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか(争点4)
会社は、組合の令和5月21日付け及び同年6月5日付けの団体交渉再開の申入れに対し、回答を行わず、団体交渉は開催されなかった。
この点、会社は、同年7月20日の第10回調査期日以降、期日指定についての適式な連絡を受けながら期日に出頭せず、同月10日に組合が追加申立てを行ったこの争点について、主張書面や証拠を提出しておらず、会社が団体交渉に応じなかったことに正当な理由があったと認めるに足りる事実の疎明をしていない。
これらから、組合の令和5年5月21日付け及び同年6月5日付けの団体交渉再開の申入れに対し、会社が応じなかったことは、正当な理由のない団体交渉拒否に当たる。
5 以上から、会社がA2に対して支払義務があることを認めた未払賃金等を支払わなかったことは労働組合法第7条第1号に該当し、会社が令和3年9月21日の団体交渉を中止したこと及び本件回答書でこれ以上団体交渉をする必要がない旨を回答したこと並びに組合の令和5年5月21日付け及び同年6月5日付けの団体交渉再開の申入れに対して会社が応じなかったことは同法同条第2号に該当するが、その余の事実は同法同条に該当しない。 |