概要情報
事件番号・通称事件名 |
大阪府労委令和5年(不)第69号・第70号
不当労働行為審査事件 |
申立人 |
X組合(組合) |
被申立人 |
Y法人(法人) |
命令年月日 |
令和6年11月29日 |
命令区分 |
全部救済 |
重要度 |
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事件概要 |
本件は、①団体交渉における法人の対応、②組合分会長A2に対する出勤停止処分が不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
大阪府労働委員会は、①について労働組合法第7条第2号、②について同条第1号及び第3号に該当する不当労働行為であると判断し、法人に対し、(ⅰ)組合から申入れのあった基本給の昇給に関する団体交渉に誠実に応じなければならないこと、(ⅱ)A2に対する出勤停止処分がなかったものとしての扱い及びバックペイ、(ⅲ)文書手交を命じた。 |
命令主文 |
1 法人は、令和5年2月28日付けで組合から申入れのあった基本給の昇給に関する団体交渉に、誠実に応じなければならない。
2 法人は、組合員A2に対し、令和5年12月1日付け出勤停止処分がなかったものとして扱い、出勤が停止された期間に勤務していれば得られたであろう賃金相当額を支払わなければならない。
3 法人は、組合に対し、下記の文書を速やかに手交しなければならない。
記
年 月 日
X組合
執行委員長 A1様
Y法人
理事長 B1
当法人が行った下記の行為は、大阪府労働委員会において、労働組合法第7条に該当する不当労働行為であると認められました。今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。
記
(1)令和5年9月26日の団体交渉において、基本給の昇給に関する協議に誠実に応じなかったこと(2号該当)
(2)令和5年12月1日付けの貴組合員A2氏に対する出勤停止処分(1号及び3号該当) |
判断の要旨 |
1 令和5年9月26日の団体交渉(以下「5.9.26団体交渉」)における法人の対応は、不誠実団体交渉に当たるか(争点1)
(1)組合は、「法人は、5.9.26団体交渉において、昇給が困難である理由を説明したといえず、かかる対応は不誠実団体交渉に当たる」旨主張する。
(2)そこで、令和5年2月28日付け団体交渉申入れ(以下「5.2.28団体交渉申入れ」)以降5.9.26団体交渉までの、組合の要求に対する法人の対応について検討するに、一律の昇給を要求した5.2.28団体交渉申入れから約半年が経過した段階で、法人は、突然、(令和5年8月11日のメールにて)Cグループとして一律で昇給する考え方を取っていないことを組合の要求に応じない理由として挙げたといえる。
一方、組合は、令和5年9月4日に提出した要求書にて、①令和5年4月度に遡って基本給を一律5%昇給するか、それに代わる提案をすること、②法人がCグループの方針に従わなければならない規約やそれに類するものがあるのであれば、明示することを要求したことが認められる。
【注】法人と申立外D社の間では業務委託契約が締結されており、その範囲には、ドクター・スタッフの研修・人事評価及び技術指導等が含まれる。D社は、法人以外にも複数の医療法人と業務委託契約を締結しており、これら法人の全部又は一部を組合に対して「Cグループ」であると述べることがあった。
ウ このような経緯を経て開催された5.9.26団体交渉において、法人は、組合からの昇給の要求に応じない理由として、Cグループではなく法人として一律の昇給はしない方針である旨述べ、再度、これまでとは異なる方針を挙げたといえる。さらに、組合が、その方針を採用する理由を尋ねたのに対し、法人は、哲学である等と述べるにとどまり、具体的な説明は行わなかったといえる。
したがって、法人は、組合からの要求に応じない理由について説明を尽くしたとは到底いえず、かかる対応は、誠意をもって協議を行ったものには当たらない。
(3)以上から、5.9.26団体交渉における法人の対応は、不誠実団体交渉に当たり、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為と判断される。
2 分会長A2に対する令和5年12月1日付けの出勤停止処分(以下「本件処分」)は、労働組合の正当な行為をした故の不利益取扱い及び組合に対する支配介入に当たるか(争点2)
(1)本件処分が、労働組合の正当な行為をした故の不利益取扱いに当たるか
ア 前提事実によれば、本件処分は就業規則第11章の懲戒の定めに従って出勤停止としたものであるから、不利益性があることは明らかである。
イ 法人は、本件処分の主たる理由は、本件ビラ〔注〕の作成及び配布であるとした上で、本件ビラの内容や配布態様、法人に与えた影響等を挙げて、その作成及び配布は正当な組合活動の範囲外であると主張する。そこで、本件ビラの作成及び配布が正当な組合活動といえるかについて検討する。
〔注〕令和5年8月19日から10月7日にかけて、組合が、法人が運営するO院及びN院において指名ストを行った際に、それぞれの院や入居している建物の入口付近で配布したビラと「患者様へ」と題する文書を併せていう。
ウ 令和5年8月から同年10月にかけて、組合は指名ストを行い本件ビラを配布しており、その内容を総じてみると、昇給を求めての労使協議に係る法人の対応を非難するとともに、組合の立場から患者を含む一般の人に、ストに対する理解や支援を呼びかけるものといえる。
そうすると、本件ビラは、労働者の経済的地位の向上といった労働組合の活動目的に沿った言論活動の一環として配布されたものというのが相当であって、労働組合の団体行動権や表現の自由に基づくものとして、尊重されるべきである。もちろん、労働者の経済的地位の向上を目的とした労働組合のビラの配布であっても、事実を歪曲して使用者を非難することは許されない。しかし、労働組合は、使用者の事実認識と異なることも含めて、その立場から見た事実認識や意見を表明できるというべきであって、真実とはいえなくとも真実と信じるに足る相当な理由がある場合には、これに基づく労働組合の言論活動も正当なものと認められ得る。また、一部に正確性を欠く表現があるにしても、そのことのみで正当ではないとされるものではなく、正確性を欠いたとされる内容や程度、ビラ全般の趣旨等を総合的に勘案した上で、労働組合の正当な言論活動の範囲内か否かは判断されるべきである。
エ 法人は、本件ビラの内容について、「事実と異なり法人の名誉・信用を毀損するもので、正当な組合活動の範囲を超えている」旨主張する。
そこで、法人が問題視する各表現について、上記ウを踏まえて検討するに、本件ビラの内容は、労働者の経済的地位の向上という活動目的に沿って、組合の立場から見た事実認識や意見を表明したものであり、法人が問題であると主張する表現を考慮しても、正当な組合活動の範囲内のものとみるのが相当である。
オ 次に、法人は、「本件ビラの配布が法人の賃借権ないし施設管理権を侵害する」旨主張する。
確かに、使用者の許諾を得ることなく、組合活動を使用者の施設を利用して行うことは原則として正当な組合活動とはいえないが、職場内の秩序を乱す恐れのない態様でのビラの配布等については、なお正当な組合活動の範囲内にあるというべきである。
そこで、ビラの配布態様からみて、本件ビラの配布が正当な組合活動の範囲を逸脱しているか否かについて検討するに、次の理由により、本件ビラの配布が正当な組合活動の範囲を逸脱しているものとはいえない。
(ア)棚にビラが1枚置かれていたこと以外に、O院及びN院の施設内で本件ビラが配布されたり、掲示されていたと認めるに足る疎明はないことなどから、組合が本件ビラの配布または掲示という組合活動を法人の施設内で行ったとは認められないこと。
(イ)また、共用部分での本件ビラの配布による法人の賃借権ないし施設管理権の侵害が仮に認められるとしても、それほど大きなものではなく、かつ、法人の申入れに応じて組合が共用部分での本件ビラの配布をその後行っていないことからすると、これを理由に組合活動の正当性を否定することはできないこと。
カ なお、法人は、本件ビラの影響でインターネット上に法人に対するネガティブな投稿がされたことを挙げて、重大な不利益が生じている旨主張する。しかし、本件ビラの内容や配布態様は正当な組合活動の範囲内にあるというべきであって、かかるビラの配布により、結果的に、使用者の名誉や信用に何らかの影響を及ぼしたとしても、そのことをもって、本件ビラの配布自体が不当とされるものではない。
キ 以上のとおり、本件ビラの作成及び配布は正当な組合活動に当たるから、本件処分は、労働組合の正当な行為をした故の不利益取扱いであると判断され、かかる行為は、労働組合法第7条第1号に該当する不当労働行為である。
(2)本件処分が、組合に対する支配介入に当たるか
ア 通常、使用者が組合員に対し、労働組合の正当な行為をした故の不利益取扱いを行えば、正当な組合活動を妨害し、組合員の組合活動を萎縮させるなどの効果をもたらすのであるから、労働組合の運営に対する支配介入にも当たるというべきである。本件においても、本件処分が、ビラの配布による組合の言論活動等を抑制させることは明らかである。
イ さらに、本件ビラは組合により作成されたことは明らかであって、法人が、本件ビラに関して不適切な点があるとするのならば、申入れや抗議の相手先は、本来、組合であるべきである。そして、実際に、法人は組合に対し、令和5年9月15日付け申入書を提出し、共用部分でのビラ配布を行わないこととビラの内容について修正を申し入れている。しかも、5.9.26団体交渉にてビラについて協議が行われ、組合は、今後はビラは敷地外で配布する旨述べるなどし、令和5年10月7日のビラ配布は共用部分では行われず、配付されたビラには、Cグループとの記載や、2年間昇給がない旨の表現がないのであるから、組合は、法人の申入れを受け入れたり、一定の譲歩を示すなどしていたといえる。
しかし、5.9.26団体交渉から約2か月後に本件処分が行われているところ、当該団体交渉以降、法人が組合に対し、本件ビラについて協議申入れを行ったとする疎明はない。しかも、本件処分通知書の処分理由の欄には、共用部分でのビラ配布についての記載があるところ、このことについては本件処分より前に既に組合が譲歩していたことは明らかである。
かかる経緯からすると、本件処分は、組合との協議を著しく軽視したものであるとともに、本件ビラを口実として、ことさら分会長A2個人に懲戒処分を科したというべきで、一層、組合員の組合活動を萎縮させ、組合の運営を阻害したといえる。
ウ 以上から、本件処分は、組合の運営に対する支配介入であると判断され、かかる行為は、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為である。
(3)なお、法人は、本件処分について反組合的意図ではなく、支配介入意思もない旨主張するが、本件処分は労働組合の正当な行為をした故に行われ、また、組合の運営を阻害したのであるから、不当労働行為に当たるというべきである。
(4)以上のとおり、本件処分は、労働組合法第7条第1号及び第3号に該当する不当労働行為と判断される。 |