概要情報
事件番号・通称事件名 |
大阪府労委令和5年(不)第48号
不当労働行為審査事件 |
申立人 |
X労働組合(組合) |
被申立人 |
Y協同組合(団体) |
命令年月日 |
令和6年11月29日 |
命令区分 |
一部救済 |
重要度 |
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事件概要 |
本件は、団体が、①新型コロナウイルス感染症拡大により、X労働組合の組合員(以下「組合員」)全員が所属するコールセンターの職員にのみ休業指示を行い、休業していない他部署の者にのみ業務負担増を理由とする月額2万円の手当を支給したこと、②当該手当に関する団体交渉において、合理的な説明を行わないなどの不誠実な対応を行ったことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
大阪府労働委員会は、②について労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると判断し、団体に対し、(ⅰ)休業していない職員に対して支払った手当と同額の一時金等の支給に係る団体交渉に誠実に応じなければならないこと、(ⅱ)文書手交を命じるとともに、①について、申立期間経過後の申立てであるとして、却下した。 |
命令主文 |
1 組合員が所属するコールセンターの職員に対し休業を命じる一方、休業していない職員に対し、月額2万円の手当を支給したことに係る申立ては却下する。
2 団体は、団体が休業していない職員に対して支払った月額2万円の手当と同額の一時金等の支給に係る団体交渉に誠実に応じなければならない。
3 団体は、組合に対し、下記の文書を速やかに手交しなければならない。
記
年 月 日
X組合
執行委員長 A1様
Y団体
理事長 B1
当団体が、令和5年3月9日及び同年4月20日に開催された団体交渉において誠実に対応しなかったことは、大阪府労働委員会において、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると認められました。今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。 |
判断の要旨 |
1 団体が、令和2年5月1日から令和3年4月30日まで、組合員が所属するコールセンターの職員に対し休業を命じる(以下「本件休業命令」)一方、休業していない職員に対し、令和2年6月26日から令和3年3月31日までの間、慰労金又は寸志として1か月あたり2万円の手当(以下「本件手当」)を支給したことに係る申立ては、労働組合法第27条第2項の申立期間を徒過していないといえるか。
徒過していないといえる場合、この行為は、組合員であるが故の不利益取扱いに当たるか。(争点1)
(1)本件申立ては令和5年8月25日であるところ、団体がコールセンターの職員に最後に交付した休職命令書は令和3年3月31日付けであり、命じられた休業期間は翌月の同年4月1日から同月30日であったこと、団体による本件手当の最終支給日は同年3月31日までであることが認められ、いずれの行為も行為の日から1年以上経過して申し立てられたことは明らかである。
(2)この点、組合は、「団体が意図的に隠して本件手当を支給したことで、労働組合法第7条第1号違反に気づかなかったのであり、知った時点ですぐに交渉を申し入れ、差額支給を求めているのであるから、労働委員会規則第33条第1項第3号の規定は当てはまらないと解釈すべきで、除斥期間を設けた趣旨や根拠は、今回の事件においては、そのいずれの事由も当たらないため、救済の対象とするべきである」旨主張する。
しかし、労働組合法第27条第2項は、申立人側からの申立権消滅の規定ではなく、労働委員会は行為の日から1年を経過した事件の審査権限がないとする規定であるので、申立期間は、組合の知、不知に関わらず、「行為の日」から進行すると解される。
本件休業命令及び本件手当の支給は、いずれの行為も行為の日から1年以上経過して申し立てられたことは明らかであり、これらが継続して行われていたとの事実の疎明もない。
(3)以上から、団体が、組合員が所属するコールセンターの職員に対し休業を命じたこと及び本件手当を支給したことに係る申立ては、申立期間経過後の申立てであるので、労働組合法第27条第2項及び労働委員会規則第33条第1項第3号の規定により、その余を判断するまでもなく、却下する。
2 令和4年12月9日、令和5年3月9日及び同年4月20日の各団体交渉(以下「4.12.9団体交渉」、「5.3.9団体交渉」及び「5.4.20団体交渉」、合わせて「本件各団体交渉」)における団体の対応は、不誠実団体交渉に当たるか。(争点2)
(1)組合と団体が、組合から令和4年11月25日に送付された要求書、令和5年2月28日に送付された団体交渉申入書、同年4月11日に送付された団体交渉申入書に基づき、本件手当の支給等を議題として本件各団体交渉を行ったことが認められ、これら要求書等の記載事項から、組合による団体への要求事項は、組合員に対する本件手当と同額の一時金等の支給であったといえる。これは、労働者の労働条件その他の待遇や当該団体的労使関係の運営に関する事項であって、団体に処分可能なものに当たり、義務的団体交渉事項に当たる。
そうすると、使用者は、誠意をもって団体交渉に当たらなければならず、労働組合の要求や主張に対する回答や自己の主張の根拠を具体的に説明したり、労働組合の要求に対し譲歩することができないとしても、その論拠を示して反論するなどの努力をすべき義務があり、これを果たさず、実質的な協議に応じなければ、不誠実団体交渉に当たる。
この点、組合は、本件各団体交渉における団体の対応がそれぞれ不誠実団体交渉に当たる旨主張するので、以下検討する。
(2)4.12.9団体交渉における団体の対応について
ア 組合は、「本件手当の支給に至った経過についての団体の説明が二転三転した」旨主張する。
しかし、団体は、本件手当の支給に至る経緯について、説明は前後しながらも、具体的に時系列に沿って説明しようとしており、その説明の内容は、一貫したものであり、二転三転しているとはいえない。
イ 組合は、「総務・保険部門を休業させられない理由について、全く的を射ない回答を繰り返し、誠実に対応していない」旨主張する。
しかし、団体は、組合の質問に対し、それぞれ回答しており、総務・保険部門を休業させられない理由について、組合の理解を得られるように業務実態や同部門の人数といった根拠を示しながら一定説明しているといえ、組合の質問に対し、全く的を射ない回答をしているとまではいえない。また、組合がさらに具体的に追及したと認めるに足る事実の疎明はなく、(団体の回答は)組合の追及の程度に応じたものであったといえる。
ウ 以上のとおり、4.12.9団体交渉における団体の対応は、不誠実団体交渉であったとはいえず、この点に係る組合の主張は採用できない。
(3)5.3.9団体交渉における団体の対応について
ア 5.3.9団体交渉において、団体は、本件手当の支給について、交渉しないことを明言しており、交渉を拒否しているといえる。
イ この点、団体は、「双方に譲歩の余地がないことは明確で団体交渉を打ち切ったとしても正当な理由がある」旨主張する。
しかし、4.12.9団体交渉及び5.3.9.団体交渉におけるやりとりをみるに、団体は、本件手当と同額の一時金等の支給に係る議題について、4.12.9団体交渉で組合が継続協議を求めていたにもかかわらず、5.3.9団体交渉冒頭で前に話をしたので話はしないと述べるなどするのみで、その理由について説明をしていない。
その後も、団体は、組合員らが休業している期間100%補償しているから迷惑をかけていない旨の発言をするのみで、本件手当と同額の一時金等を支給できないことについて、根拠を示し、具体的な説明を行っているとはいえない。また、組合から雇用調整助成金の額の決め方や計算方法を尋ねられても具体的な回答を行っていない。
ウ これらから、団体は、本件手当と同額の一時金等の支給に係る交渉を拒否しており、組合に対して、雇用調整助成金の取扱い〔注休業命令を出した職員に給与を支給して残った雇用調整助成金の扱い〕について十分に説明を行っているとはいえず、5.3.9団体交渉が、当該一時金等の支給に係る2回目の団体交渉であることを踏まえると、双方に譲歩の余地がないといえるほど、交渉が行き詰まりに達していたとはいえないから、5.3.9団体交渉における団体の対応は、不誠実団体交渉に当たる。
(4)5.4.20団体交渉における団体の対応について
ア 5.4.20団体交渉におけるやりとりからすると、組合が、団体に対し、本件手当の支給を判断した理由について聞いているのに対し、団体は、回答せず、本件手当と同額の一時金等の支給に係る交渉を拒否しているといえる。
イ この点、団体は、雇用調整助成金の取扱いについて十分な説明が行われており、それにも関わらず同様の交渉を断っても、不当な交渉拒否には該当しない旨主張するが、5.3.9団体交渉後の令和5年3月15日に団体から組合に送付された回答書、5.4.20団体交渉における説明状況などから、十分な説明が行われていたとはいえない。
ウ 以上のとおり、5.4.20団体交渉において、団体が、本件手当の支給に係る交渉を拒否しており、雇用調整助成金の取扱いについて十分な説明が行われていないのであるから、5.4.20団体交渉における団体の対応は、不誠実団体交渉に当たる。
(5)以上から、4.12.9団体交渉における団体の対応は、不誠実団体交渉に当たるとはいえないものの、5.3.9団体交渉及び5.4.20団体交渉における団体の対応は、不誠実団体交渉に当たり、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為である。 |