労働委員会命令データベース

(この事件の全文情報は、このページの最後でご覧いただけます。)

[命令一覧に戻る]
概要情報
事件番号・通称事件名  大阪府労委令和5年(不)第10号
不当労働行為審査事件 
申立人  Xユニオン(組合) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和6年11月22日 
命令区分  棄却 
重要度   
事件概要   本件は、英会話学校を運営する会社が、組合が英会話講師3名の組合加人を通知した直後に、組合員4名全員に対し雇止めを通知したことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 大阪府労働委員会は、申立てを棄却した。 
命令主文   本件申立てを棄却する。 
判断の要旨  ○会社が、令和4年12月23日付けで組合員A1、A2、A3、A4(以下「組合員4名」)に対して、令和5年3月31日に雇用期間が満了する雇用契約を更新しない旨を通知したこと(以下「本件雇止め通知」)は、組合員であるが故の不利益取扱いに当たるか(争点)

1 まず、本件雇止め通知が不利益な取扱いに当たることは、明らかである。

2 次に、本件雇止め通知が、組合員であるが故になされたものであるかについてみる。

(1)本件雇止め通知がなされた当時の労使関係について

 令和4年6月20日又は11月29日に組合が会社に組合員4名の組合加入を通知した後、会社は、①同年12月23日に本件雇止め通知を行うまでの間に、同年11月29日の組合からの「雇用トラブル解決の要請」に対して同年12月21日付けで自らの見解を回答し、②同年12月23日付けの本件雇止め通知に際しては、同日の電子メールにて組合員の今後の処遇についての話合いを組合に呼び掛けていたことが認められ、また、③本件雇止め通知後には、令和5年1月23日、同月27日、2月24日及び3月3日の4回の団体交渉に応じる中で、(雇用の継続等の)組合の要求に応じてはいないものの、代替案を模索する態度〔注組合員への営業業務の委託に係る契約書案の交付〕もうかがえる。
 そうすると、組合と会社の労使関係は、本件雇止め通知の前後を通じて、団体交渉により問題解決を図る通常の労使関係を超えて緊張した関係にあったとみることはできない。

(2)本件雇止め通知の時期について

ア 組合は、本件雇止め通知が組合員であるが故になされたことの根拠として、会社が、3名の組合員の組合加入通知直後の1か月にも満たない時期に組合員4名に対して雇用契約不更新の通知をしたにもかかわらず、その事実に意図的に触れることなく、経済的な事情からやむを得ず雇止めをしたと主張した点を挙げる。

イ 組合は会社に対し、令和4年6月20日に組合員A1について、また、同年11月29日に組合員A2、A3及びA4について、それぞれ組合加入を通知し、その後、同年12月23日に会社は組合員4名に対して本件雇止め通知をした。
 このことからすると、確かに、本件雇止め通知は、組合員A1の組合加入通知からは半年を経ているものの、その他の3名の組合員の組合加入通知から1か月足らずという近接した時期になされている。

ウ しかし、令和4年4月1日から令和5年3月31日を契約期間とする組合員4名の雇用契約書には、「契約終了前に労使いずれかの側が契約を更新しない場合は、遅くとも3か月前に書面又は口頭で通知しなけれはならない」旨の記載があり、会社がこの時期に本件雇止め通知をしたのは、雇用契約書の定めに沿った対応であったといえる。
 さらに、会社が組合に組合員4名の雇止めを通知した4.12.23会社メールに、「現在の状況」として、「先日、年間授業のスケジュール調整を行ったところ、令和5年度は授業数の減少によって稼働する教室が数教室となり、組合員4名は授業を行えなくなることが判明した」旨の記載があるところ、令和5年4月から始まる次年度の授業予定をこの時期に決定して、その結果を従業員に通知することは、一般論として十分考えられる。

エ そうすると、会社が、この時期に本件雇止めを通知したことには、合理性が認められ、3名の組合員の組合加入通知から1か月足らずという近接した時期になされていることをもって、直ちに、組合員であるが故になされたということはできない。

(3)会社が組合員4名を雇止めとした理由について

 会社は、その理由として、①会社の財政状態が悪化したこと、②替えがきかない日本人教師よりも社長や最高執行責任者(以下「COO」)で代替できる外国人教師が雇止めの対象になるのはやむを得ないこと、③組合員4名に勤務態度が悪かったこと、を挙げるので、これらに合理性が認められるかについてみる。

ア 会社の財政状態が悪化したという点について

 会社の令和4年度の財政状況は、営業損益及び当期損益が既に赤字であった前年度から更に大きく悪化し、固定資産を売却するなどの方策をとったにもかかわらず、毎月、収支の赤字が続き、そうした中で財政危機の解決策として、令和4年5月9日の会議で会社が行った提案も実施には至らず、本件雇止め通知の時点においても、改善の兆しがみられなかったといえる。
 したがって、会社が、財政状態の悪化を理由に、令和5年度に向けて講師の雇止めを検討したことには、合理性が認められる。

イ 日本人教師よりも社長やCOOで代替できる外国人教師が雇止めの対象になるのはやむを得ないという点について

 令和4年度の時点では、会社の講師は、外国人講師が社長及びCOO並びに組合員4名で、日本人講師が3名であった。また、①日本人講師3名はそれぞれマネージャー又は校長の役職にあり、②外国人講師が英会話中心の授業を担当し、日本人講師が英文法や英文読解中心の授業を担当していた。
 そうすると、組合員4名以外の講師はいずれも、社長、COO、マネージャー又は校長の役職にあり、また、外国人講師である組合員4名が担当していた英会話中心の授業は社長又はCOOが担当可能である一方、日本人講師が担当していた英文法や英文読解中心の授業は他の講師が担当できないから、外国人教師である組合員4名を雇止めの対象としたことには、合理性が認められる。

ウ 組合員4名の勤務態度が悪かったという点について

(ア)会社は、組合員4名に対し、令和2年10月18日から令和5年1月20日までの間に、「告知書」、「警告書」などの書面をそれぞれ送付し、授業内容の問題点、社長に対する言動、扶養手当の受給、遅刻、勤務時の服装等勤務態度の問題点を、具体的事実を挙げて指摘した上で、「解雇する、又は、勤務態度が改善しない場合は雇止めとする可能性がある」旨通知していた。
 そして、これら告知書等において会社が挙げる根拠事実について、組合側からは特段の反論はなく、また、令和4年5月から本件雇止め通知のあった同年12月までの間に、組合員A3が20日、組合員A4が18日、それぞれ遅刻した事実があった。
 これらからすると、会社が挙げる組合員4名の勤務態度の問題点は、具体的事実を根拠とするものであったとみることができ、これを雇止めの理由とすることが不合理とはいえない。

(イ)この点、組合は、「組合員に対する一方的な非難は、会社が雇止めの正当性を主張することを目的に述べているにすぎす、会社が行った不当労働行為とは無関係である」旨主張する。
 組合のこの主張は、会社が組合員4名の勤務態度の問題点を雇止めの理由としたことが会社の不当労働行為意思を推認させるものであるとの主張と解される。
 しかし、会社は、組合加入通知より前に組合員4名に対して、勤務態度に問題があることを埋由に雇止めの可能性があることを伝えており、組合加入通知後に勤務態度を問題視するようになったのではない。
 そうすると、会社が組合員4名の勤務態度の問題点を雇止めの理由としたことは、会社の不当労働意思を推認させるものとはいえず、組合の主張は採用できない。

(4)これらから、会社が組合員4名に対して本件雇止め通知をしたことは、組合員であるが故になされたものとはいえない。

3 以上のとおり、会社が令和4年12月23日付けで組合員4名に対して雇止めを通知したことは、組合員であるが故になされた不利益な取扱いに当たるとはいえず、組合の申立ては棄却する。 

[先頭に戻る]
 
[全文情報] この事件の全文情報は約469KByteあります。 また、PDF形式になっていますので、ご覧になるにはAdobe Reader(無料)のダウンロードが必要です。