概要情報
事件番号・通称事件名 |
東京都労委令和4年(不)第79号
フソー化成不当労働行為審査事件 |
申立人 |
X1組合(組合)・個人X2 |
被申立人 |
Y会社(会社) |
命令年月日 |
令和6年9月17日 |
命令区分 |
一部救済 |
重要度 |
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事件概要 |
本件は、会社が、①団体交渉を一方的に打ち切ったこと、②組合員であるX2に対し、3回にわたり、作業指示がない場合における所定場所での待機や、会社が指示する内容の学習に係る業務指示を行ったこと、③X2を社内回覧から除外したこと、④X2に対し計4回の一時金を不支給としたことが不当労働行為に当たる、として組合及び個人X2から救済申立てがなされた事案である。
東京都労働委員会は、①について労働組合法第7条第2号、②、③、及び④のうち令和4年度の一時金に係るものについて同条第1号及び第3号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、(ⅰ)組合が申し入れた、組合員の労働条件等を議題とする団体交渉について、交渉の途中で打ち切ることなく、誠実に応じなければならないこと、(ⅱ)X2に対する各業務指示がなかったものとしての取扱い、各業務指示を受ける以前に行っていた作業への復帰、(ⅲ)X2に対する業務上の必要事項の連絡について他の従業員と異なる差別的な取扱いをしてはならないこと、(ⅳ)X2に対する令和4年度の2回分の一時金の支払い、(ⅴ)組合及びX2に対する文書の交付、文書の掲示等を命じるとともに、④のうち令和3年度の一時金に係るものについて申立期間を徒過したものとして申立てを却下した。 |
命令主文 |
1 会社は、組合が申し入れた、組合員の労働条件等を議題とする団体交渉について、交渉の途中で打ち切ることなく、誠実に応じなければならない。
2 会社は、X2に対する令和4年12月12日付けの「待機」を指示する業務指示並びに同月20日付け及び21日付けの「学習」を指示する業務指示をなかったものとして取り扱い、同人を、上記各業務指示を受ける以前に行っていた会社のT工場の場内作業へ復帰させなければならない。
3 会社は、X2に対する業務上の必要事項の連絡について、他の従業員と異なる差別的な取扱いをしてはならない。
4 会社は、X2に対し、令和4年度の2回分の一時金として、30万円を支払わなければならない。
5 会社は、本命令書受領の日から1週間以内に、下記内容の文書をX2及び組合に交付するとともに、同一内容の文書を55センチメートル×80センチメートル(新聞紙2頁大)の白紙に楷書で明瞭に墨書して、会社のT工場の従業員の見やすい場所に10日間掲示しなければならない。
年 月 日
X1組合
執行委員長 A殿
組合員 X2殿
Y会社
代表取締役 B
当社が、①令和4年12月11日に貴組合との間で開催した団体交渉を交渉の途中で打ち切ったこと、②貴組合の組合員X2氏に対し、同月12日付け、20日付け及び21日付けの業務指示を行ったこと、③X2氏に対し、業務上の必要事項の連絡を行わなかったこと及び④X2氏に対し、令和4年度の2回分の一時金を不支給としたことは、東京都労働委員会において不当労働行為であると認定されました。
今後、このような行為を繰り返さないよう留意します。
6 会社は、第2項、第4項及び前項を履行したときは、速やかに当委員会に文書で報告しなければならない。
7 令和3年12月及び4年3月の一時金に係る申立てを却下する。 |
判断の要旨 |
1 令和4年12月11日に開催された団体交渉(以下「4.12.11団体交渉」)における会社の対応は、不誠実な団体交渉に当たるか(争点1)
4.12.11団体交渉では、①不払賃金、②一時金の不払、③必要事項の連絡態勢、④労働者代表の選出及び⑤その他について労使間で協議が行われたが、最終的には、団体交渉開始から約25分後に会社側が退席して団体交渉が終了している。
会社は、当該団体交渉の各議題について、一応の説明をしたところもあるが、「ないものに理由はない」、「不払じゃないから不払じゃない。」など、具体的な説明を避けて組合の要求を突き放すような、交渉に消極的な態度も示していた。会社が、団体交渉を交渉の途中で一方的に打ち切って退出したのは、そのような交渉に消極的な態度の下に、委員長A1の「聞いてください。」等の発言を奇貨として行ったものとみざるを得ず、真摯に団体交渉を続ける姿勢に欠けた不誠実な対応であったといわざるを得ない。
したがって、4.12.11団体交渉を一方的に打ち切った会社の対応は、不誠実な団体交渉に当たる。
2 会社からX2への業務指示は、組合員であることを理由とした不利益取扱い及び支配介入に当たるか(争点2)
(1)会社は、X2に対して、令和4年12月12日、屋内作業の指示がない場合は所定場所で待機するよう指示し(以下「4.12.12業務指示」)、また同月20日には、同日付けの「業務指示書」(以下「4.12.20業務指示書」)を交付し、会社に同人のできる仕事が少なくなったとして、他の部門の業務に従事できるように会社が指示する内容の学習を主業務とすること等を命じ、翌21日にも「業務指示書」を交付し、次回のテストに合格することを目的とした学習を主業務とすることを命じた。これ以降、X2は、業務時間のほとんどの時間において学習を行うことになる。
(2)上記の各業務指示(以下「本件業務指示」)を行った理由として、会社は、X2が新たな業務に対応できるよう、専門的な知識を得るための学習をしてもらうことにしたと主張する。
しかし、会社の主な事業はエアコン関連部材の製造販売で、従業員数も8名という規模であるところ、会社がX2に学習を指示した教材は、①いわゆる仕事のノウハウ本や②仕事の進め方等に係るインターネット記事、③プラスチック成形等に係る通信教育講座テキストである。上記①②は、その内容も抽象的なもので、一般的な意味で仕事を行う上で役に立つところはあるとしても、会社の事業や具体的な業務との関連性はうかがわれず、その必要性には疑問を抱かざるを得ない。上記③は、会社の事業に無関係とまではいえず、また、令和5年3月6日に会社が実施した「プラスチック材料・成型方法についてのテスト」の結果から、X2に学習をする必要性がなかったとはいえないものの、学習を行ったことで、X2が新たに行うことのできる具体的な業務についての疎明はされていない。
(3)会社は、X2に対し、学習を主業務とすることを命じたのみで、X2が将来的に従事を目指すべき具体的な部署や業務分野について何ら指示や説明をしておらず、X2は、本件業務指示以降、業務時間のほとんどの時間において学習を行い、雑用以外の屋内業務に従事しない状態が続いていることなどから、会社は、X2に学習を指示したものの、学習を経た後に同人が従事する業務や、同人を配置する部署等を具体的に想定していなかったのではないかとの疑問を持たざるを得ない。
(4)そもそも、上記①から③までの学習の内容であれば、その重要性、難易度、所要時間等に照らしても、学習を主業務としなければならないほどのものではなく、他の業務を行いながら、並行して学習を行わせ、スキルアップを図ることも十分に可能であるところ、会社が、学習を主業務とするよう指示し、それまでX2が行っていたT工場の屋内業務を指示しなくなったことは、不自然な対応といわざるを得ない。
この点、会社は4.12.20業務指示書において、X2の能力で行える業務が減少したために、他の業務に従事させるべく学習を主業務とせざるをえないかのように記載している。しかし、T工場の屋内業務について、X2の能力では、十分に行うことができないことをうかがわせるような事情は疎明されておらず、会社が、令和5年に継続的に求人を行っていることからすると、T工場にX2の能力で行うことのできる業務は十分にあったというべきである。
(5)会社がX2に用意した学習環境は、当初は、他の従業員が職務を行っている場所とは異なる、T工場入口の階段下の会社の資材が置かれている空きスペースに、一人用木製テーブル、丸椅子及び卓上電灯を設置するというもので、良好な学習環境であるとはいい難い。また、令和5年3月以降は、T工場1階の空きスペースに移動となったものの、なお、他の従業員の職場スペースとは離れており、会社は、X2を他の従業員から隔離しようと企図しているとも解し得る状況である。
(6)会社及び組合との間の労使関係は、当初から対立的であった。そして、先行事件(都労委令和4年不第13号事件)については令和4年9月28日に和解が成立したものの、最初の4.12.12業務指示の前日に行われた当該和解成立後初めての団体交渉では、労使が感情的に対立して、わずか25分間で会社が交渉を打ち切って退出するなどしており、本件業務指示当時において、なお、労使関係は対立的であったといえる。
(7)このような当時の労使関係を考慮すると、会社が、本件業務指示において、X2に対し、最終的に学習を主業務とするよう指示すると共に、それまで行っていた屋内業務から外し、職場スペースとは別の良好とはいえない学習環境を与えるといった不自然な対応をしたのは、対立的な関係にある組合及び組合員X2を嫌悪し、X2に通常の業務や職場スペースを与えないことにより、業務上の不利益や精神的な不利益を与えるとともに、他の従業員に対し、組合に加入すると不利益な取扱いを受けるとの印象を強く与えることにより、組合の弱体化を企図したものであるといわざるを得ない。
したがって、本件業務指示は、組合員であることを理由とした不利益取扱いに当たるとともに、組合の弱体化を企図した支配介入にも当たる。
3 会社がX2を社内回覧から除外したことは、組合員であることを理由とした不利益取扱い及び支配介入に当たるか(争点3)
(1)会社は、令和4年4月28日以降、X2に対し、社内回覧を回付しないようになり、このことについて、従業員全員に一律に回付する社内回覧を廃止し、必要な従業員に対してのみ、個別に業務連絡を行う方法に変更したとする。
(2)しかし、それまでの社内回覧の内容をみると、従業員の退職、一時金、新型コロナウイルス感染症対策、物品の名称変更、社長室の移転など、全従業員に周知し、広く共有されるべき事項が多分に含まれていた。
そうすると、必要な従業員に対してのみ、個別に業務連絡を行う方法への変更自体は直ちに不合理とはいえないものの、そのような方式への変更以降、X2を含む全従業員に等しく共有されるべき情報が全くなかったとは考え難く、X2に対して業務指示以外の個別の回覧が全くないことは不自然である。
これらから、会社が、従業員全員に一律に回付する社内回覧を廃止したのは、従業員全員に回覧する必要のある情報についても、X2に対しての回付は廃止したという趣旨ではないかと強く疑われる。
(3)これらから、会社は、令和4年4月28日以降、他の従業員には必要に応じて回覧を行っていたにもかかわらず、X2に対してだけは、本来必要がある事項も含め、回覧を一切しなくなったといえる。そして、X2の回覧からの除外は、当時の対立的な労使関係や、会社が組合に対し、11月又は12月に支給した一時金について、実態とは異なる回答を行っていたことを併せ考えると、反組合的意図をもって、組合及び組合員X2に対する情報を遮断しようとしたものといわざるを得ない。
したがって、X2の回覧からの除外は、組合員であることを理由とした不利益取扱い及び組合の組織運営に対する支配介入に当たる。
4 会社がX2に対し、令和3年12月、4年3月、6月から8月までの間に1回及び11月又は12月に1回の合計4回の一時金を不支給としていることは、組合員であることを理由とした不利益取扱い及び支配介入に当たるか(争点4)
(1)令和3年12月及び4年3月の一時金について
組合が、一時金の不支給について本件の追加申立てを行ったのは令和5年5月31日であるから、令和3年12月支給の一時金及び令和4年3月16日支給の一時金に係る申立てについては、「行為の日から1年」(労働組合法第27条第2項)の申立期間を徒過したものとして、却下を免れない。
(2)令和4年度の一時金について
ア 令和4年度には、X2は、一時金を支給されておらず、一時金に係る一切の書面も受領していない。また、同年度には、少なくとも、6月から8月までの間に1回、11月又は12月に1回の計2回、会社が従業員に一時金を支給している。
そこで、以下、上記2回の一時金におけるX2への不支給について、判断する。
ウ 会社が、X2に対し、一時金査定結果や賞与支給明細書を示していないことから、X2の4年度の一時金不支給が査定の結果によるとみることは困難であり、対立的な労使関係の状況も考慮すると、会社は、組合及び組合員X2を嫌悪し、反組合的意図をもって、X2の4年度の一時金を不支給とするとともに、組合及び組合員X2に対し、一時金に関する情報を遮断して、X2の一時金不支給が問題とされることを避けようとしたといわざるを得ない。
したがって、会社が、X2に対し、令和4年6月から8月までの間に1回及び11月又は12月に1回の合計2回の一時金を不支給としていることは、組合員であることを理由とした不利益取扱い及び組合活動を阻害する支配介入に当たる。
エ なお、会社は、X2の組合加入前に、同人の査定を0点として、一時金不支給を決定していたから、一時金の不支給は、組合嫌悪によるものではないと主張する。
しかし、X2の組合加入前の令和3年12月の一時金支給額が「0円」とされたのは、同年10月26日付けの「指導力ード」により、就業時間中の30分間を就業規則を読むのに使ったことを理由に「賞与なし」の取扱いとされたためであり、必ずしも同人の業績全体が「0点」と査定されていたわけではない一方、組合加入後の令和4年3月の一時金に係る「査定表」では、「1 会社に対する貢献度」、「2 会社に対する協力度」など5項目がいずれも「0点」であり、「合計0点」、「0点の為、金額の支給はありません」と記載されていたのであるから、X2は、一時金不支給という点では同じであっても、一時金の査定としては、組合加入後に、より低い査定の評価をされるようになったといえる。また、令和4年度の2回の一時金については、査定の結果、不支給とされたとは認め難い。
これらから、会社が、X2の組合加入前から同人の一時金を不支給としていたことは、上記判断を左右しない。
(3)一時金不支給に係る救済方法について
会社における令和4年度の2回の一時金支給については、支給対象者や支給額、査定の範囲等が一切明らかにされていないが、①X2は、組合に加入する前に、一時金として、令和2年7月に10万円、12月に20万円、3年4月に20万円、7月に10万円の支給を受けたことがあること、②会社が反組合的意図をもって、組合及びX2に対し、一時金に関する情報を遮断していたと認められ、令和4年度の2回の一時金支給の実態が明らかでないのは専ら会社に原因があることなど、本件における一切の事情を考慮し、主文第4項のとおり、X2がこれまで支給された一時金の平均額15万円の2回分の支払を命ずるのが相当である。 |