労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  大阪府労委令和3年(不)第13号・第32号・59号・令和4年(不)第14号
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和5年8月18日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、会社が、①組合が中止ないし延期等等を求めたにもかかわらず、新賃金制度に係る営業所別説明会を組合員に対し実施したこと、②労働協約に基づく組合との協議を経ずに、組合員17名を職種変更したこと、③当該17名に対するチェック・オフを中止したこと、④組合員15名に対して個別勧奨を行ったこと、その後、労働協約に基づく協議を経ずに、組合員9名を退職させ、組合員16名を職種変更し、組合員6名を子会社へ転籍させたこと、⑤組合からの春闘要求に対して、令和3年度賞与について、組合の労務員運転職に対してのみ賞与を支給しない旨回答し、令和3年度夏季賞与及び冬季賞与を支給しなかったことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 大阪府労働委員会は、②、及び⑤のうち会社回答に係る部分について労働組合法第7条第3号、⑤のうち賞与不支給に係る部分について同条第1号及び第3号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、(ⅰ)労務員運転職組合員に対し、令和3年度賞与について、自動車運送事業に従事する労務員運転職以外の従業員と均衡を失しないよう、支給しなければならないこと、(ⅱ)②及び⑤に係る文書交付を命じるとともに、その他の申立てを棄却した。 
命令主文  1 会社は、組合の労務員運転職組合員に対し、令和3年度の賞与について、自動車運送事業に従事する労務員運転職以外の従業員に対する令和3年度の賞与と均衡を失しないよう、支給しなければならない。

2 会社は、組合に対し、下記の文書を速やかに交付しなければならない。
 年 月 日
X労働組合
 執行委員長 A1様
Y会社        
代表執行役 B1
 当社が行った下記の行為は、大阪府労働委員会において、労働組合法第7条に該当する不当労働行為であると認められました。今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。
(1)令和2年4月1日付けで貴組合の組合員16名及び同年5月1日付けで貴組合の組合員1名を総合職に職種変更したこと。(3号該当)
(2)令和3年4月16日付けで、貴組合の労務員運転職に対して同年度の賞与を支給しない旨回答したこと。(3号該当)
(3)貴組合の労務員運転職に対して、令和3年7月5日に同年度の夏季賞与を支給しなかったこと及び同年12月3日に同年度の冬季賞与を支給しなかったこと。(1号及び3号該当)

3 組合のその他の申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 会社が、令和2年3月25日、同月30日、同年4月8日、同月10日、同月15日、同月17日及び同月21日に、運転職組合員に対し、営業所別説明会(以下「説明会」)を開催したことは、組合に対する支配介入に当たるか。(争点1)

 説明会が、組合員への個別交渉であるとはいえず、説明会を開催したことが、組合の弱体化を図ったものであるとか、反組合的意思によるものであるとみることはできない。
 また、会社が説明会を開催したことにより、組合と組合員との関係に影響を及ぼしたり、会社と組合との間の、運転職時間給制度や保障給収束についての協議に影響を及ぼしたと認めるに足る疎明もない。
 したがって、会社の行為は、組合に対する支配介入に当たるとはいえない。

2 会社が、令和2年4月1日付けでA2からA17までの16名の組合員(以下「職種変更組合員16名」)を、同年5月1日付けで組合員A18を、それぞれ総合職に職種変更したことは、組合に対する支配介入に当たるか。(争点2)

(1)会社と組合との間の労働協約(以下「本件労働協約」)には、「組合員を大量に異動させるとき及び組合役員を異動するときは労使協議会で協議の上行う」との規定があるところ、会社は、職種変更組合員16名及びA18を総合職に職種変更するのに、労使協議会(以下「協議会」)を開催していないのであるから、かかる会社の対応は、本件労働協約違反とみるのが相当である。

(2)会社は、従前から職種変更については本件労働協約の手続を履践せずに行っていた旨などを主張するが、人数規模が異なるのであるから、その主張するような前例をもって協議会での協議が免ぜられるものではない。

(3)会社が事後に遺憾の意を表明したこと等をもって、本件労働協約に違反したことが正当化されるものではなく、また、直ちに、解決済みの問題とみることはできない。また、組合が解決済みの問題であるとの認識を持っていたとはいえない。

(4)会社は、事前協議という手続違反が、直ちに支配介入行為と評価されるものではなく、また、会社による異動命令は人事権の行使として正当で、原則として会社の人事権の行使が尊重される事柄である旨などと主張する。しかし、17名もの組合員を職種変更することで、組合員が減少し、組合運営に影響を与えることが容易に想定し得る状況において、本件労働協約を遵守せずに人事権を行使したのであるから、会社の対応が正当化されるものではない。

(5)これらから、会社の行為は、組合に対する支配介入に当たり、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為である。

3 会社が、職種変更組合員16名の組合費のチェック・オフを令和2年4月27日支給の給与から中止したこと、及び組合員A18の組合費のチェック・オフを同年5月25日支給の給与から中止したことは、組合に対する支配介入に当たるか。(争点3)

 会社が、職種変更組合員16名及びA18を総合職に職種変更して以降、組合脱退届を提出したか確認することなく、また、申出がない状態でチェック・オフを中止し、〔総合職が所属する〕申立外D組合のチェック・オフを開始したことは、従前の取扱いに沿ったものであり、組合も容認していたと受け取られる対応をしていたといえるから、一定の理由があり、理解できる。
 これらを考慮すると、会社の行為は、組合運営に影響を及ばすものではあったことは否定できないが、不当な介入であったとまではいえないから、組合に対する支配介入に当たるとまではいえない。

4 会社専務らによる個別面談は、会社による組合に対する支配介入に当たるか。(争点4-1)

(1)争点4-1のうち、①令和2年12月23日に、専務B2及び部長B3が、組合員A19に対して、.総合職への職種変更に係る個別面談を行ったこと、②同月23日又は同月24日に、専務B2及び部長B3が、組合員A20に対して、総合職への職種変更に係る個別面談を行ったことについて

ア 組合は、労働協約に基づく「協議」を経ずに、会社は組合員に対して個別勧奨を行った旨主張するが、会社は、個別面談を行うより前に、令和2年12月22日に協議会を開催し、組合からの質問に答える形で一定の説明をしていることなどから、協議会が実質的な協議をしていないとまではいえない。
 また、組合は、会社が協議会の翌日から個別勧奨を開始したことを挙げ、組合と何らの協議をするつもりはなかった旨主張するが、同協議会での会社の発言からすると、会社が協議を忌避しているとはいえない。
 さらに、組合は、会社は労務員のままだと賞与を支給しない等の説明をして異動に同意せざるを得ない状況を作出し、個別勧奨で圧力をかけ、A19やA20に個別勧奨に対する返答は2日間以内にするよう迫るなどした旨主張するが、両名が、職種変更を断っていることも考慮すると、上記発言のみをもって、同意するよう圧力をかけたとまではいえない。その他、個別面談における詳細なやりとりは判然としない。

イ これらから、専務B2及び部長B3の行為は、組合に対する支配介入に当たらない。

(2)争点4-1のうち、③令和3年2月8日に、専務B2及び部長B4が、組合員A21、組合員A22及び組合員A23に対して、職種変更等に係る個別面談を行ったこと、④同月9日に、B2及びB4が、組合員A24及び組合員A25に対して、職種変更等に係る個別面談を行ったこと、⑤同月10日に、B2及びB4が、組合員A26及び組合員A27に対して、職種変更等に係る個別面談を行ったこと、⑥同月12日に、B2及びB5が、組合員A28及び組合員A29に対して、職種変更等に係る個別面談を行ったこと、⑦同月15日に、専務B2及び部長B6が、組合員A20及び組合員A31に対して、職種変更等に係る個別面談を行ったこと、⑧同月16日に、B2及びB6が、組合員A32及び組合員A33に対して、職種変更等に係る個別面談を行ったことについて

ア 組合は、本件労働協約第14条に基づく「協議」を経ずに、会社は組合員に対して個別勧奨を行った旨主張するが、会社は個別面談より前に労使協議会を催しており、また、同協議会が実質的な協議をしていないとまではいえない。
 また、組合が主張するように、会社が個別面談において、組合員A21やA23に職種変更等に同意するよう圧力をかけたとまではいえず、その他、組合員らに対し、職種変更等を迫ったと認めるに足る事実の疎明はない。

イ また、組合は、(令和3年1月21日の組合あて文書等に基づく運転職からの)職種変更は、運転職を廃止し、組合を弱体化させることがその目的である旨主張する。
 しかし、会社の収支状況をみると、会社が、自車運送事業の継続が困難であるとして、運転職に対して職種変更を検討するよう通知したことにも、理由がなかったとはいえない。また、作業職への職種変更など、会社は、組合に留まることができる選択肢も提示していた。
 これらから、会社が運転職に対して、職種変更等を検討するよう通知したことは、組合の弱体化を意図したものであったとはいえない。

ウ したがって、会社が、組合員A21~A33の13名に対して個別面談を実施したことは、本件労働協約に反しているとはいえず、職種変更等に同意するよう圧力をかけたとまではいえないから、会社による組合に対する支配介入に当たらない。

5 令和3年3月31日付けで、A22、A28、A29、A30、運転職であるA34、A35、A36、A37及びA38の9名(以下「退職組合員9名」)が退職したことは、会社による組合に対する支配介入に当たるか。(争点4-2)

(1)組合は、会社は労務員のままだと賞与を支給しない等の説明をして異動に同意せざるを得ない状況を作出し、個別勧奨で圧力をかけ、職種変更・転籍・退職への同意をとりつけた旨主張する。
 確かに、3.1.21運転職宛て文書には、運転職に留まることを躊躇させる記載がある。
 しかし、当該文書に添付されていた3.1.21職種変更勧奨文書には、選択職制として、①D会社への転籍、②作業職への職種変更、③退職、④運転職での継続勤務の4つが提示され、特定の選択肢を選択するよう誘導するような記載があったとみることはできないことからすると、会社は、いずれを選択するかについては、運転職の組合員それぞれにその選択を委ねたものといえる。そして、会社が組合員9名に対して、どのような面談を行ったのか判然としないのであるから、会社が退職するよう働きかけたとはいえない。

(2)これらのことから、組合員9名が退職したことは、会社による組合に対する支配介入に当たらない。

6 会社が、令和3年4月1日付けで、職種変更組合員16名を総合職に職種変更したことは、組合に対する支配介入に当たるか。(争点4-3)

(1)会社が、職種変更組合員16名に対して、総合職に職種変更するよう圧力をかけたとまではいえず、また、総合職への職種変更について、業務上の必要性がなかったとまではいえない。

(2)労務員から総合職への職種変更は、組合の組合員の減少に直結するが、会社が職種変更組合員16名に対して、総合職に職種変更するよう圧力をかけたとまではいえない。
 また、就業規則の規定から、会社は、業務上の必要性がある場合には、職種変更を命じることができ、いかなる者に対して職種変更を行うかについては、会社に裁量があるというべきである。そして、総合職への職種変更について、業務上の必要性がなかったとまではいえない。
 さらに、会社は、職種変更より前に、労働協約に基づく協議会を開催しており、当該職種変更が本件労働協約に反するものともいえない。
 これらのことからすると、会社は、組合の組合員を減少させるために職種変更組合員16名を総合職に職種変更したとまではいえない。

(3)以上のとおりであるから、会社の行為は、組合に対する支配介入に当たらない。

7 令和3年4月1日付けで、A19、A39、A40、A41、A42及びA43の6名(以下「転籍組合員6名」)がD会社に転籍したことは、会社による組合に対する支配介入に当たるか。(争点4-4)

 会社が、転籍組合員6名に対して、D会社に転籍するよう働きかけたとはいえず、転籍に当たって、本件労働協約に反することがあったともいえない。したがって、会社の行為は、組合に対する支配介入に当たらない。

8 会社が、令和3年4月16日付けで、組合に対し、運転職組合員には令和3年度の賞与を支給しない旨回答したことは、組合員であるが故の不利益取扱いに当たるとともに、組合に対する支配介入に当たるか。(争点5-1)

(1)労使関係が緊張関係にある中で、会社は、自車運送事業に携わっている運転職以外の従業員については、前年度と同額又は増額した賞与を支給する旨回答する一方で、唐突に、運転職のみ賞与を支給しない旨回答しており、かかる会社の回答は、組合員らに対して、運転職であり続けることを躊躇させ、もって運転職から他の職種に職種変更することを促すものといえる。
 このことに、会社の従業員がいずれの労働組合に加入するかは、事実上、職種により決まっていたことも併せ考えると、会社は、組合の組合員ではなくなる可能性があることを認識した上で、運転職のみ賞与を支給しない旨回答することで、組合員らに対して、運転職から他の職種に職種変更するよう心理的な圧力を与え、もって、組合運営に対して影響を与えたといえる。
 したがって、会社の行為は、組合に対する支配介入に当たり、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為である。

(5)一方、会社が運転職に対してのみ賞与を支給しない旨回答したことのみをもって、運転職が不利益を被ったとはいえないから、会社の行為は、組合員であるが故の不利益取扱いには当たらない。

9 会社が、令和3年7月5日に、令和3年度夏季賞与を運転職組合員に対して支給しなかったことは、組合員であるが故の不利益取扱いに当たるとともに、組合に対する支配介入に当たるか。(争点5-2)

(1)会社は、労使関係が緊張関係にある中で、運転職以外の従業員については、令和3年度夏季賞与を支給する一方で、唐突に、運転職のみ支給しなかったのであるから、会社の行為は、運転職が組合の組合員であるが故になされたものであるとみるのが相当である。したがって、労働組合法第7条第1号に該当する不当労働行為である。

(2)次に、会社は、組合の組合員ではなくなる可能性があることを認識した上で、運転職のみ令和3年度夏季賞与を支給しないことで、組合員らに対して、運転職から他の職種に職種変更するよう心理的な圧力を与え、もって、組合運営に対して影響を与えたといえる。したがって、会社の行為は、組合に対する支配介入にも当たり、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為である。

10 会社が、令和3年12月3日に、令和3年度冬季賞与を(運転職以外の従業員に対しては支給し)運転職組合員に対して支給しなかったことは、組合員であるが故の不利益取扱いに当たるとともに、組合に対する支配介入に当たるか。(争点5-3)

 9に述べたのと同様の理由により、会社の行為は、組合員であるが故の不利益取扱いに当たり、労働組合法第7条第1号に該当する不当労働行為であるとともに、組合に対する支配介入にも当たり、同条第3号に該当する不当労働行為である。 

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