概要情報
事件番号・通称事件名 |
愛知県労委令和5年(不)第3号
不当労働行為審査事件 |
申立人 |
Xユニオン(組合) |
被申立人 |
Y会社(会社) |
命令年月日 |
令和6年10月15日 |
命令区分 |
一部救済 |
重要度 |
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事件概要 |
本件は、会社が、①組合が令和5年2月18日付けで申し入れた団体交渉について、組合員A2の未払賃金の計算書を持参して団体交渉を行うことを応諾したにもかかわらずこれを行っていないこと、②組合が同年3月10日付けで申し入れた、組合員A3の退職手続についての説明等に係る団体交渉に応じなかったこと、③本件不当労働行為救済申立手続において、会社がA3を労働者として雇用していたことを否定したことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
愛知県労働委員会は、①及び②について労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、(ⅰ)①に係る団体交渉に、A2の未払賃金の計算書を持参して誠実に応じなければならないこと、(ⅱ)②に係る団体交渉に誠実に応じなければならないこと、(ⅲ)文書交付を命じるとともに、③について、審査手続において、一方当事者が自らの見解を主張することは正当な権利であって、特段の事情がない限り、かかる権利の行使をもって不当労働行為を構成しないとして、申立てを棄却した。 |
命令主文 |
1 会社は、組合が令和5年2月18日付けで申し入れた団体交渉に、組合の組合員であるA2の未払賃金の計算書を持参して誠実に応じなければならない。
2 会社は、組合が令和5年3月10日付けで申し入れた団体交渉に、誠実に応じなければならない。
3 会社は、組合に対し、下記内容の文書を本命令書交付の日から7日以内に交付しなければならない。
記
当社が、貴組合からの令和5年2月18日付けの団体交渉申入れに対し、貴組合の組合員であるA2の未払賃金の計算書を持参して同年3月8日に団体交渉を行うことを応諾したにもかかわらずこれを行っていないこと及び貴組合からの同月10日付けの団体交渉申入れに応じなかったことは、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると愛知県労働委員会によって認定されました。
今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。
年 月 日
Xユニオン
執行委員長 A1様
Y会社
代表取締役 B1
4 その余の申立ては棄却する。 |
判断の要旨 |
1 組合が、会社に対して、令和5年2月18日付けで申し入れた団体交渉について、会社が、組合員A2の未払賃金の計算書を持参して同年3月8日に団体交渉を行うことを応諾したにもかかわらずこれを行っていないことは、労働組合法第7条第2号の不当労働行為に該当するか(争点1)
(1)当委員会に従前係属していた、本事件の当事者間における不当労働行為救済申立事件〔注愛労委令和2年(不)第7号事件及び愛労委令和4年(不)第7号事件。以下「先行事件」〕の調査手続等において、①会社は、組合に対し、A2について2、3か月分の未払賃金を計算してもらえればそれも踏まえて交渉したい旨及び会社としても計算をする旨述べ、②組合は令和4年11月20日付けでA2の2か月分の未払賃金の計算を提示したものの、会社は提示しなかった。また、組合が、会社に対して、令和5年2月18日付けで申し入れた団体交渉について、会社は、A2の未払賃金の計算書を持参して同年3月8日に団体交渉を行うことを応諾したにもかかわらず、行わなかった。
(2)会社は、令和5年3月8日の団体交渉については、代理人B2の母親が同年1月下旬に死亡し、高齢の父親の介護問題などを処理しなければならなかったために延期を求めたにすぎない旨主張する。
しかし、代理人B2の送信したショートメッセージを読めば、団体交渉当日に突発的な事情が発生したと考えるのが自然であるところ、経緯をみれば、そのようなことで延期を申し出たとはいえない。仮に、上記のような「家族の問題」が団体交渉日時の決定(同年2月20日)以降に生じていたとしても、B2は2月10日の団体交渉で、1週間以内にA2の未払賃金に係る計算を提示する旨約しており、延期理由としての合理性は認められない。
そして、会社が、それ以降、代替日を提案したり、計算書を交付するなどの対応をした事実も見受けられない。
これら事情からすれば、会社による上記団体交渉の延期の求めは、団体交渉拒否と評価せざるを得ない。
(3)また、A2の未払賃金の計算について、会社は、「他事件の和解協議に関連し、和解ができるのであれば暫定的に会社側が計算してみてもよいという話になったにすぎず、和解協議の一環である」旨、及び「無条件に暫定的な賃金計算を行うかのごとく約束したことはない」旨主張する。
しかし、会社は、民事訴訟の和解並びに先行事件の取下げ後に行われた令和5年2月10日の団体交渉において、A2の未払賃金の計算を提示する旨約しており、会社の上記主張と矛盾する。また、会社の当該計算が、和解協議の一環であると認める事実も見受けられない。
(4)なお、会社は、本事件係属中に団体交渉を開催した旨主張する。
しかし、令和5年8月29日の団体交渉は、組合がC会社〔注〕に籍を置いていた組合員A3らの問題についてC会社に団体交渉を申し入れたことにより行われたものであり、C会社の代理人B2が会社の代理人を兼ねていたことから、最後の約5分において一部A2に関する話があるなどしたものの、あくまでもA3らの問題に関する協議がほぼ全体を占めていた。また、会社が同年2月10日の団体交渉で同月17日までに回答するとした事項にについて回答した事実なども認められない。したがって、組合と会社との間で、組合が同年2月18日付けで申し入れた団体交渉が行われたものと認めることはできない。そして、同年3月8日以降、組合と会社との間で団体交渉が行われた事実は見受けられない。
〔注〕認定によれば、会社は、組合から取引先に悪評を流されたことから別会社でやり直すことを目的とし、令和2年10月に休眠会社の商号を(C会社に)変更して業務を行うこととした。その後、会社の従業員のうちA3を含む従業員について、労務提供先がC会社に変更された(以下、労務提供先を「籍」、労務提供先の変更を「移籍」という)。さらに、令和5年1月16日以降、C会社の業務は会社に引き継がれている。
(5)さらに、会社は、A2の未払賃金に関する具体的な交渉は、弁護士法第72条に該当する可能性が高いため、そのような内容の組合との団体交渉には応じる義務がない旨主張する。
しかし、労働組合が組合員のために雇用主と団体交渉を行って和解を成立させることも労働組合に求められた正当な業務であって、自らの利益のためみだりに他人の法律事件に介入しているとはいえず、それによって組合員やその他の関係者の利益を損ねているともいえない。すなわち、非弁護士の法律事務を原則として禁止することによって、国民の法律生活上の利益に対する弊害が生ずることを防止するという弁護士法第72条の趣旨を潜脱するおそれがあるとはいえないから、組合が団体交渉によりA2の未払賃金に関する具体的な交渉を行うことは、同条所定の法律事務を取り扱うことには当たらない(東京高裁令和4年12月15日判決参照)。
(6)以上から、会社の主張はいずれも採用できず、会社の行為は、労働組合法第7条第2号の不当労働行為に該当する。
2 会社が、組合からの令和5年3月10日付けの団体交渉申入れに応じなかったことは、労働組合法第7条第2号の不当労働行為に該当するか(争点2)
(1)事実関係
ア 会社は、組合からの令和5年3月10日付けの団体交渉申入れに応じなかった。
この団体交渉の申込書には、協議事項として、同年1月16日以降、いかにして会社がC会社から営業譲渡を受けA3らが排除されることになったかの説明等を求める旨が記載されていた。
イ この点、A3は、令和2年12月末日まで会社に籍を置いていたものの、令和3年1月1日からはC会社に移籍し、また、組合員A4は、会社と雇用契約を結んだことはなく、同年4月1日からC会社に雇用されていた。
令和5年1月15日にC会社が廃業し、同月16日以降、C会社の事業が会社に引き継がれた(以下「本件事業引継ぎ」)。A3ら及び(組合員であった)A5氏以外のC会社の従業員は会社に移籍したものの、A3、A4、A5の3名はC会社の廃業に伴い解雇され、会社に移籍できなかったことが認められる。
(2)A3らに対する会社の使用者性について
ア 会社とC会社との関係について
(ア)会社とC会社とは法人格を異にする別個の法人であり、登記簿上の役員や本店所在地は異なる。
(イ)もっとも、①C会社の代表取締役であったB3氏は、役員として登記はされていないものの会社において常務と呼ばれており、②C会社の業務に係る運転手への指示・連絡も、当初はB3氏から、しばらくして会社の社長の次男B4からなされ、③C会社の給料の計算は会社の専務B5が行い、④役員として登記はされていなかったもののC会社の取締役とされていたB6氏は、令和5年1月16日以降、会社の管理職として会社に勤務していたことなどから、会社とC会社との経営陣の一体性が認められる。
(ウ)業務面についても、①A3が、令和3年1月1日に会社からC会社に移籍した際、点呼を受ける事務所又は車庫が変わったこと以外に業務の内容に変化はなく、②C会社の事務所に事務をする従業員はおらず、C会社の業務に係る指示・連絡も移籍前と変わりなく、当初は(本社に勤務している)B3氏から、しばらくしてB4からなされ、③A3らに業務連絡がなされるLINEグループの名称も、「Y会社タンクチーム」のままで、④A3らが使用するガソリンカードも会社名義であった。
(エ)労務面についても、①C会社の給料の計算は会社の専務B5が行い、②A3らの(申立外)F労働組合の組合費はC会社の給料から天引きされていた。
(オ)会社らの事業の引継ぎについても、①A3が令和3年1月に会社からC会社に移籍した際は、会社においてA3に業務上の指示・連絡をしていたB3氏から電話で移籍を告げられたのみであり、②別の会社に移る旨の説明や会社を退職する手続はなく、③会社からは離職票も渡されず、④C会社からは労働条件の明示もなかった。
(カ)さらに、会社は、休眠会社となっていたC会社を利用してその業務を行うことになった経緯が認められ、過去に会社の特定の取引先の業務をC会社に行わせる目的で当該取引先の業務を担当する従業員をC会社に移籍させ、再びその従業員らを会社に戻した経緯も認められ、会社の意向によって従業員を行き来させていたといえる。
そして、組合は、会社に対し過去2度にわたり不当労働行為救済申立てをするなど、組合と会社との間には複数の紛争があった。
このような状況で、会社は、本件事業引継ぎに際し、C会社の運転手を会社に移籍させているにもかかわらず組合の組合員3名のみを除外している。これらの事実から、会社には、組合を排除する強い意思が存すること、及びC会社を実質上一体として運用することでかかる意思を実現していたことが推認される。
(キ)これらから、会社とC会社とは形式的には別法人であっても、会社が、実質上一体のものとして、A3らを用いて業務を行っていたとみるのが相当である。
したがって、労働組合法上の使用者性を判断する場面においては、会社とC会社とは実質上一体のものと認められる。
イ A3は個人事業主である旨の会社主張について
(ア)会社は、A4についてはC会社の社員として雇用された労働者であったことを認めているものの、A3については個人事業主であり、労働者ではない旨主張しているので、検討する。
(イ)A3は、いわゆる個人償却制の運転手として、令和元年8月1日に会社に入社し、業務の内容や基本的な労働条件に変更なく、令和3年1月1日から、会社と実質上一体であったC会社に移籍している。
この点、会社らは、「個人償却制の運転手」と会社らが雇用関係を認めている「非個人償却制の運転手」に対し、同じ方法で指示をして荷物を運搬させており、A3との契約は、会社らの事業を遂行できる労働力を確保する目的で締結されていたといえる。
また、会社らの運転手の約半分が個人償却制であったことから、A3を含む個人償却制の運転手は、会社らにおいて、量的にも、事業を円滑かつ確実に遂行するために不可欠な労働力として位置付けられていたといえる。
さらに、A3の業務場所や業務日の割振りなどについては、会社及び会社と実質上一体であったC会社が管理していたといえる。そして、A3は、会社に籍を置いていた時期も、C会社に籍を置いていた時期も、会社ら以外の業務は受けておらず、専属的であった。
以上を考慮すると、A3の、会社らの事業組織への組入れが認められる。
(ウ)A3の労働条件や提供する業務の内容は、会社に入社する際も、C会社に移籍する際も、何らの交渉もなく、会社らの意向によって決定されたといえる。
(エ)A3は個人償却制の運転手で、その報酬は売上に比例するものの、報酬が一定期日に定期的に支払われ、報酬は給料として振り込まれ、会社らに管理され、業務量や労務を提供する日時、場所について裁量の余地は乏しかったと評価でき、その報酬には労務対価性が認められる。
(オ)A3は業務量や労務を提供する日時、場所について裁量の余地は乏しかったと評価でき、当該労務の提供に当たり一定の拘束を受けていたといえる。さらに、A3は専属的に会社らの業務を行っており、出勤及び退勤の時刻を会社に報告し、「タコ」で管理されていたことなどから、会社らの広い意味での指揮監督下で労務提供を行っており、一定の時間的場所的拘束を受けていた。
(カ)会社らには、前日にA3に行った業務の指示に対して、A3が断ることは念頭になく、引き受けられることが前提であった。また、A3は、休日は希望する日を伝えるものの、希望する日が必ず休日になるとは限らず、業務する日は前日に決まるため休日は不定であったことなどから、会社らからの個々の業務の依頼に対して、基本的に応ずべき関係にあった。
(キ)A3は、本来個人事業主がする確定申告を行い、持続化給付金も申請していたが、これらは会社らから指示されたものである上、その手続も会社が指定する会計事務所が行っていたところ、これらの事実自体、顕著な事業者性を示すものとまではいえない。また、A3は厚生年金や雇用保険に加入しており、使用するトラックは会社らの名義であった。 これらから、A3の顕著な事業者性は認められない。
(ク)さらに、会社らは、A3からF組合の組合費を天引きしており、このことは、会社らがA3の労働組合法上の労働者性を否定している態度と矛盾する。
(ケ)以上を総合考慮すると、A3は、会社らとの関係で、労働組合法上の労働者であると認められる。
ウ そして、会社とC会社とは実質上一体であったのであり、会社らは労働組合法上の労働者であるA3らの使用者であるというべきである。
(3)団体交渉事項について
ア 令和5年3月10日付け団体交渉の申込書には、①会社が主張するA2の退職の手続きについての説明、協議、②いかにしてC会社から営業譲渡を受け、A3らが排除されることになったという主張なのかの説明、協議、③その他、組合員の労働条件に係ることで当日回答可能なこと、を協議事項とする旨が記載されていた。
イ 上記アの②については、A3らが会社らから解雇されたことについての説明等を求めているにほかならず、義務的団体交渉事項である。
ウ また、A3は、個人償却制の運転手として令和元年に会社に入社し、業務の内容や基本的な労働条件に変更なく、令和3年1月1日から、会社と実質上一体であったC会社に移籍しており、そのような労働条件においてA3が労働組合法上の労働者であったものである。
そして、会社の退職手続について説明を求めることが義務的団体交渉事項であることに疑いはなく、また、上記アの①及び②の協議事項に付随するものとして同③の協議事項があったとしても不合理とはいえない。
(4)また、会社が団体交渉を拒否する正当な理由を認める事実も見受けられない。
(5)したがって、会社の行為は、労働組合法第7条第2号の不当労働行為に該当する。
3 本件不当労働行為救済申立手続において、会社がA3を労働者として雇用していたことを否定していることは、労働組合法第7条第1号及び第4号の不当労働行為に該当するか(争点3)
組合は、A3が雇用された労働者であることは明白であり、本件不当労働行為救済申立てに対し、A3を労働者ではないとして、A3についての本件救済手続を阻害する行為は、報復的不利益取扱いとして不当労働行為にほかならないと主張する。
しかし、不当労働行為救済申立ての審査手続において、一方当事者が自らの見解を主張することは正当な権利であって、特段の事情がない限り、かかる権利の行使をもって不当労働行為を構成するものではない。
したがって、会社の行為は、労働組合法第7条第1号及び第4号の不当労働行為に該当しない。 |