労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  兵庫県労委令和5年(不)第1号
不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y法人(法人) 
命令年月日  令和6年9月12日 
命令区分  棄却 
重要度   
事件概要   本件は、①就労継続支援B型作業所を運営する法人が団体交渉の実施時期を引き延ばしたこと、及びその後実施された2回の団体交渉における法人の対応、②(法人における一時金の支給が一般に2ヶ月分であるところ)法人が、(解雇無効の判決の確定を受けて復職させた)組合員Aの令和4年夏季一時金及び冬季一時金をそれぞれ1か月分としたこと、③Aの復職後の給料の格付けを10号給としなかったこと、及び令和5年10月15日までは4号給、その後は3号給として取り扱う旨の同年9月15日付け辞令を交付したことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 兵庫県労働委員会は、申立てを棄却した。 
命令主文   本件申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 第1回団体交渉の実施時期を冬季一時金の支給日を過ぎた令和4年12月16日としたこと並びに第1回団体交渉及び第2回団体交渉における法人の対応は、不誠実な団体交渉に該当するか(争点1)

(1)団体交渉に係る基本的な判断枠組みについて

 使用者は、自己の主張を相手方が理解し、納得することを目指して、誠意をもって団体交渉に当たらなければならず、労働組合の要求及び主張に対する回答や自己の主張の根拠を具体的に説明したり、必要な資料を提示するなどし、また、結局において労働組合の要求に対し譲歩することができないとしても、その論拠を示して反論するなどの努力をすべき義務があるのであって、合意を求める労働組合の努力に対しては、上記のような誠実な対応を通じて合意達成の可能性を模索する義務がある。

(2)第1回の団体交渉の実施時期について

ア 上記判断枠組みは、団体交渉の期日設定についての交渉にも当てはまり、使用者は、例えば、労働組合が指定した期日に団体交渉に応じられないようなときは、その理由を説明し、合理的期間内の代替日を示すなどの誠意をもって対応しなければ、不誠実な団体交渉に該当する。

イ 組合は、「法人が第1回団体交渉の実施時期を冬季一時金の支給日を過ぎた令和4年12月16日としたことが不誠実な団体交渉に該当する」と主張する。
 そこで検討するに、組合が指定した時期は、団体交渉を申し入れた日の1~2週間後で、法人は、その期間に、2回の出店販売と納品日を控えていた。また、理事長B1は同年11月当時、体調を崩し、団体交渉の準備は、施設長B2がB1と電話でやり取りしつつ進めていた。
 そして、法人は、①団体交渉申入れの4日後に、延期を申し入れると同時に、組合の指定日から約2週間後の日程を代替日として提案し、②組合が、Aに対する冬季一時金の支払が延期によって遅延しないよう求めたのに対し、法人が主張する金額での暫定支給を提案し、③同年11月22日の組合要求書(以下「4.11.22要求書」)についても、組合の指定期日を守って事前回答している。
 これら対応を総合的に判断すれば、法人は誠意をもって対応したといえる。

ウ 組合は、①法人は『年末は繁忙期のため』というだけの理由で団体交渉を引き延ばし、冬季一時金の年内解決の努力を行わず不当な差別的回答を押しつけた、②法人が『ゼロ回答』をする団体交渉の準備に時間を要したとはいえない、③団体交渉対応者を施設長B2に限定する理由はない、④法人には十分な準備時間があった、と主張する。
 しかし、(ⅰ)法人が必要以上の先延ばしを図ったとはいえず、冬季一時金の暫定支給を提案するなど、延期によりAが被る不利益にも配慮していること、(ⅱ)法人の多忙及び団体交渉の準備に時間を要したことは事実であること、(ⅲ)4.11.22要求書の内容からみて、施設長でAの直属の上司であるB2を団体交渉担当者とする対応は自然であること、(ⅳ)要求書の手交以前に法人に団体交渉の準備が可能であったとはいえないことから、組合の主張には理由がない。

(3)第1回団体交渉及び第2回団体交渉における法人の対応について

ア 「復職後の給料の格付け及び業務手当の支給額に関する対応」について、法人は、一定の譲歩をし、また、譲歩しない場合も、一定の資料を提示して自身の見解を説明しており、全体として合意を目指して交渉に臨んでいた。

イ 「令和4年冬季一時金に関する対応」について、第1回団体交渉において、法人は、一時金の考え方や算定方法を説明し、また、Aの冬季一時金支給額が1か月分となる理由についても、約1週間後に文書(以下「4.12.23文書」)を示すなど、根拠を示して組合の理解を得ようとしている。さらに、法人は、Aの冬季一時金を1か月分とした根拠であるAの勤務状況について、4.12.23文書及び第2回団体交渉の席上で説明するなどしている。

ウ 「令和4年11月22日の団体交渉申入れの際の対応」について、組合は、当該申入れの際に内容説明ができなかったことで、法人からの返答等に支障が生じたと主張する。
 しかし、組合が前日にアポイントメントを取っていたのに、施設長B2により玄関口で対応されたことに立腹するのは無理からぬところであるが、法人の対応により、第1回団体交渉において、交渉の進展が妨げられたり、法人が誠意をもって団体交渉に当たらなかったとまではいえない。

エ 「理事長が団体交渉に出席しなかったこと」について、施設長B2は、①理事長B1を含む全理事からの委任を受け、②団体交渉において、組合の要求や質問に対し、具体的な理由を挙げて法人の見解を説明しており、実質的な交渉権限を有していたといえる。

オ 「法人が代理人に事実を伝えていなかったため、団体交渉が遅滞した」との主張について、(当該主張に係る、C作業所に備え付けの就業規則等に関する)やり取りによれば、団体交渉が遅滞したとはいえない。

カ 「その他の要求に対する対応」について、組合は、団体交渉における、①平成28年10月24日に会社がAを解雇したこと(以下「本件解雇」)に対する謝罪要求や、②組合掲示板の貸与要求への法人の対応が不誠実である旨主張するが、組合は、第2回団体交渉において、これら事項に言及していない。
 また、組合は、「第2回団体交渉において、第1回団体交渉で法人が再検討するとした事項について具体的な検討内容が説明されておらず、法人は形式的に団体交渉に応じているだけで、不誠実である」と主張する。
 この点、第1回団体交渉で再検討事項とされたのは、①令和4年冬季一時金、②県への提出文書において、理事長B1がC作業所職員として登録されている経緯など7項目であったところ、法人は、第2回団体交渉当日の朝に、上記の点も含め、4.11.22要求書に対する再回答を文書で行い、さらに、第2回団体交渉で言及のあった項目については、必要に応じ根拠資料を示すなどして説明を行っている。

キ 以上を総合的に判断すると、Aの給料の格付け、一時金の支給額などの主要な労働条件が、組合の要求どおりの内容で妥結されなかったとしても、法人が誠実な団体交渉を行っていないとはいえない。

(4)これらから、法人の対応は、いずれも労働組合法第7条第2号に該当しない。

2 法人が、Aの令和4年夏季一時金及び冬季一時金をそれぞれ1か月分としたことは、組合員に対する差別的取扱いに該当するか(争点2)

(1)組合は、「本件解雇がなければ、Aに対し、平成28年12月から本来の月数(2か月分)の一時金が支払われていたはずであり、組合員であること等の故をもって減額支給が行われた」と主張する。

(2)令和4年夏季一時金について

 Aの組合加入時期と、組合からの公然化通告の時期からみて、法人が、Aに令和4年夏季一時金が支給された時点で、Aが組合員であること等を知っていたとはいえず、当該支給を労働組合法第7条第1号に規定する不利益取扱いに当たるとみる余地はない。

(3)令和4年冬季一時金について

ア 「組合員と非組合員との間の支給額」について、A以外のC作業所の正規職員には、令和4年冬季一時金として給料の2か月分が支給されており、Aの額(給料の1か月分)は、A以外の職員に比較し、明らかに低額である。

イ 「一時金支給額の決定方法」について、就業規則等には一時金の支給月数や支給基準については定めがなく、法人は、全体の収益額から払える額を前提に、各職員の業績に応じて支給額を決定している。

 これについて、組合は、会社の求人票の記載及び他の職員に対する支給額を根拠に、本来の一時金支給月数は2か月分であると主張する。しかし、①求人票には、支給月数が前年度実績であることが明記され、また、②法人は、各職員の業績を個別に判断して支給額を決定したといえるから、本来の一時金支給月数が2か月分であるとはいえない。
 また、組合は、一時金については、本来、回答基準及び支給の根拠となる算式が提示されるべきなのに、業務評価や個別査定によって恣意的かつ一方的に減額支給を行うことは、不利益取扱いによる差別支給に当たると主張する。しかし、一時金の支給額の決定は、法人の合理的な裁量に委ねられていると解せられ、個人に対する評価を排して全職員に一律の一時金を支給しなければならないと考えることは困難であり、個別査定による支給自体を違法なものとみることはできない。

ウ 「支給額を決定した理由の合理性」について、法人は、令和4年冬季一時金について、令和4年12月7日の回答書において、AはC作業所に配属して間もないことから1か月分とすると回答し、その後、4.12.23文書にて、他の職員への支給額を示すとともにAの業績評価の理由を説明している。
 これに対し、組合は、(Aが労務を提供した)令和4年7月8日以降のAの業績評価について反論しているので、個別に判断する。
 まず、「①日報に利用者の宗教名を記載したこと」や、「②野外販売で利用者に物品を買い与えたこと」について、法人がこれを不適切とみなしたことに合理性がないとはいえない。
 また、「③自分の考えを押し通すような対応をする傾向が見られること」について、組合は、施設長B2の管理能力に問題があると主張するが、当該主張自体、Aが「施設長の指示命令に従って勤務」するという施設の運営方針に批判的な姿勢で業務に当たっていることをうかがわせ、法人がそのような態度を不適切とみなすことに合理性がないとはいえない。
 以上から、法人が、Aの勤務態度を理由として、Aの業績を低く評価したことに合理性がないとはいえず、かつ、支給対象期間(令和4年4月~9月末)におけるAが実際に就労した期間を併せて判断すると、当該一時金を1か月分としたことには一定の合理性が認められる。よって、組合の主張には理由がない。

エ 以上のとおり、法人がAの令和4年冬季一時金を給料の1か月分としたのは、各職員について個別に査定を行った結果、支給対象期間のうち、AがC作業所で実際に就労した期間が他の職員に比べ短いことに加え、A自身の勤務態度に不適切な点があったと判断したことによるといえる。
 また、Aへの一時金の支給額は非組合員に比べ低額であるが、支給額の決定は法人の合理的な裁量に委ねられており、個別査定による支給が違法とは認められない。そして、個別査定によるAの業務評価に合理性がないとはいえない。
 よって、法人が、Aの令和4年冬季一時金を1か月分としたことは、組合員であること等の故をもって行われたものとは認められない。

(4)以上から、法人が、Aの令和4年夏季一時金及び冬季一時金をそれぞれ1か月分としたことは、労働組合法第7条第1号に該当しない。

3 法人が、Aの令和4年7月8日復職後の給料の格付けを10号給としないこと、及び令和5年9月15日付け辞令(注給料の格付けを令和5年10月15日までは4号給、10月16日以降は3号給として取り扱う旨の辞令。以下「5.9.15辞令」)を交付したことは、組合員に対する差別的取扱いに該当するか(争点3)

(1)Aの復職後の給料の格付けを10号給(注)としないことが、組合員であること等の故をもって行われたものか

〔注〕組合は、平成28年入職時における専門学校卒の任用時の給料(4号給)から、令和4年まで毎年1号給ずつ昇給するものと計算。

 Aの給料を(復職した令和4年7月8日をもって)1号給とする辞令が発せられた時期(注 法人は同月20日頃、組合は復職から約1ヶ月後と主張)は、Aの組合加入(令和4年10月20日)より2か月以上前であるから、法人がAの復職後の給料の格付けを10号給としないことが、組合員であること等を理由としたものではないことは明らかである。
 むしろ、法人は、令和4年12月16日の第1回団体交渉においてAに4号給を適用すると回答しており、学歴基準のない基準給料表に改定済みであるとの立場に固執せず、組合の要求〔注 改定のうち、学歴による格付けを削除する部分は不利益変更であり、かつ、解雇を無効とされたAには、(今既にいる人には適用されないとされる)当該改定は適用されない旨〕を一定尊重し、譲歩している。
 このような法人の姿勢からは、Aが組合員であること、又はAの組合活動を嫌悪していたとはいえない。

(2)5.9.15辞令を交付して給料の格付けを下げたことが、組合員であること等の故をもって行われたものか

ア 就業規則等において、昇給及び降給の基準についての定めはなく、昇給及び降給については、法人の裁量に委ねられていると解さざるを得ない。もっとも、降給は、賃金という重要な労働条件の不利益変更に該当するので、法人の裁量は一定の制約を受ける。

イ ①本件解雇に係る裁判において、法人は、Aの協調性や利用者に対する配慮が不十分であることを解雇の理由の一つに挙げていたこと、②Aの復帰に際して、法人はAに、a就業規則を守ること、b勤務時間中、自分の職務権限の範囲ではないことについて働きかけをしないこと、c法人及び上司の業務に関する命令、指示に対して非協力的な態度をとり、職場の秩序を乱す行為をしないこと等を示していたことを考え合わせると、法人は、Aの組合加入以前から、Aの勤務態度を問題視していたといえる。
 そして、法人は、勤務時間中の職場離脱や外部機関への架電相談、施設長B2に対する発言等を理由に、Aに対し、令和5年2月13日以降4回にわたり懲戒処分を行っており、これらからは、Aが、しばしば法人の事業の方針、指示よりも、自分の考えを優先して行動していると法人がみなし、問題視していたことがうかがえる(組合は、法人が公益通報を理由に懲戒処分をしたと主張するが、懲戒処分がAの外部への働きかけを理由としていたとはいえない)。
 一方で、組合は、「Aが施設長B2の指示命令を聞かないというのは、B2が関与した不正や虚偽報告に関して脅迫することに、Aが意見を述べる場面のことをいう」などと主張するが、これらは、Aが、法人に対し強い不信感を抱き、その指導に従う意思が乏しいことをうかがわせる。
 これらから、法人は、Aの勤務態度を問題視し、それを理由に5.9.15辞令を交付したといえる。そして、本件解雇に係る判決〔注令和2年12月3日神戸地方裁判所判決、令和4年7月7日大阪高等裁判所判決〕が、解雇を無効としつつも、①Aに協調性に欠ける点や配慮が足りない面が見受けられる、②法人がAの勤務を継続させることができないと判断したことには、相応の理由がある、と判示していたことを考え合わせると、法人がAの勤務態度を問題視して5.9.15辞令を交付して給料の格付けを下げたことが、法人に対して降給の決定に関して認められている裁量を逸脱したり、濫用したとはいえない。

(3)これらから、法人が、Aの復職後の給料の格付けを10号給としないこと及び5.9.15辞令を交付したことは、労働組合法第7条第1号に該当しない。 

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