労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  大阪府労委令和4年(不)第23号
不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和6年10月18日 
命令区分  全部救済 
重要度   
事件概要   本件は、会社が、①組合員A2が職場復帰した際に、労働協約を無視し、労使の合意なく同人の休業日を変更したこと、②A2の職場復帰後の労働条件等についての団体交渉申入れに応じなかったことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 大阪府労働委員会は、①について労働組合法第7条第3号、②について同条第2号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、文書交付を命じた。 
命令主文   会社は、組合に対し、下記の文書を速やかに交付しなければならない。
年 月 日
X組合
 執行委員長 A1様
Y会社       
代表取締役 B
 当社が行った下記の行為は、大阪府労働委員会において、労働組合法第7条に該当する不当労働行為であると認められました。今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。
(1)令和4年4月21日に、貴組合と協議を行うことなく、貴組合員A2氏の休日のうち、日曜日を土曜日に変更したこと(3号該当)。
(2)貴組合が令和4年4月26日付け団体交渉申入書により申し入れた団体交渉に応じなかったこと(2号該当)。  
判断の要旨  1 会社が、令和4年4月21日に、組合と協議を行うことなく、組合員A2の休日のうち、日曜日を土曜日に変更したことは、組合に対する支配介入に当たるか(争点1)

(1)令和2年4月15日に組合及びその分会と会社との間で締結された協定書(以下「協定書」)には、「3 組合員に影響を与える問題(身分・解雇・賃金・労働条件等の変更)について、会社は事前に組合と協議して、労使合意の上で円満に行う。」との条項があり、会社は、出勤日の変更が労働条件の変更に当たることについては争っていない。
 したがって、会社が、同年4月21日に、組合と協議を行うことなく、A2の休日のうち、日曜日を土曜日に変更したことは、労働協約違反に当たることは明らかである。そして、労働協約違反は、当該労働協約を締結した労働組合を無視ないし軽視する行為であり、支配介入に当たるというべきである。

(2)この点につき、会社は、「支配介入に当たるには、組合活動を阻害する行為や会社がそのような目的を持っていることが必要であるが、本件の経過(下記〔Ⅰ〕〔Ⅱ〕)からすれば、支配介入に当たらない」旨主張するので、以下検討する。

〔Ⅰ〕「会社は、A2の出勤日について、令和4年4月12日に組合に提出した通知書(以下「4.4.12会社通知書」)及び同年4月19日に組合に提出した通知書(以下「4.4.19会社通知書1」)により、月曜日から金曜日を出勤日とすることを前提に、月曜日、水曜日、金曜日について時短にすることを提案し、同年4月19日の時点では、組合も異議を申し出ていなかった」旨
〔Ⅱ〕「令和4年4月19日、A2は土曜日に出勤する意向が強いことを会社が知り、同月21日に、同月23日土曜日の出勤日について話し合う必要があったことから、同月21日、会社はA2に休日の変更を依頼し、A2は快諾した」旨

ア 会社の主張〔Ⅰ〕に関し、月曜日から金曜日を出勤日とすることに組合の同意があったかどうかについて

 会社は、4.4.12会社通知書及び4.4.19会社通知書1において、月曜日から金曜日の出退勤時間等を提示しているものの、①提示された出勤日と出退勤時間について組合が(令和4年4月19日に組合が会社に提出した「申入書」で)同意したのは、A2の人工透析日である月曜日と金曜日のみであり、このことに、②組合が会社の申入れ以前から団体交渉の開催を求めていたことや、③文書のやり取りが継続していたことを併せ考えると、組合が、回答を留保した曜日について会社の提案に異論がなかったとまではいえないから、出勤日を変更し、月曜日から金曜日を出勤日とすることについて、少なくとも組合は同意していたとみることはできない。

イ 会社の主張〔Ⅱ〕について

 令和4年4月21日、会社はA2に対し、休日を日曜日から土曜日に変更してほしい旨述べ、A2はこれを了承しているが、協定書は、会社と組合らとの間で締結されたものであるから、会社は、組合と協議し、合意を得るよう努めるべきである。しかるに、(会社がA2の意向を知ったとする同年4月19日から同月23日土曜日までの間に)会社が組合に対して、A2の休日の変更について協議を申し入れたとする疎明はない。
 かかる会社の行為は、労働協約の内容を無視し、組合の頭越しに、組合員本人に直接休日の変更を持ち掛けるものであるから、A2が休日の変更を了承したからといって、正当化されるものではない。

ウ したがって、本件の経過に関する会社主張〔Ⅰ〕及び〔Ⅱ〕は採用できない。
 会社は、労働協約の内容を無視し、組合の同意がない状況で、組合員本人に直接休日の変更を持ち掛けており、かかる会社の行為は、組合活動を阻害するものといわざるを得ず、支配介入に当たる。

(3)以上のとおり、会社の行為は、組合に対する支配介入に当たり、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為である。

2 令和4年4月26日に組合が会社に送信し、郵送した団体交渉申入書(以下「本件団体交渉申入書」)に対する会社の対応は、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか(争点2)

(1)本件団体交渉申入書に係る団体交渉が、本件申立て時点において、開催されていないことについては争いがない。そして、同申入書には、要求事項として通勤手当や特別休暇等が挙げられており、これらは組合員の労働条件その他待遇に関する事項に該当するから、義務的団体交渉事項である。
 そうすると、会社が正当な理由なく、このような事項に関する団体交渉申入れに応じなければ、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為となる。

(2)この点について、会社は、「会社の対応は、そもそも団体交渉拒否に当たらない」旨主張するので、以下検討する。

ア ①令和4年4月26日、組合が本件団体交渉申入れを行ったこと、②同日、会社代理人弁護士が、事業所付近の公園での団体交渉を提案したのに対し、組合は、適切な場所での団体交渉にこだわる旨回答したこと、③同年4月27日に会社が組合に提出した通知書には、「会社としては、A2がZOOM等の適切な方法で協議する意向があるのであれば、A2と協議する予定である」旨の記載があったこと、④同年4月27日又は28日、会社代理人弁護士が、ZOOMによる団体交渉の開催を求め、組合担当者が、これに応じなかったことが認められ、これらのやり取りからすると、会社は団体交渉拒否の意思表示はしていない。
 しかし、一見したところでは使用者が団体交渉を拒否していない場合でも、使用者が、交渉の実施を困難にするような日時、場所、方式を設定し、理由なくこれに固執するなど、その態度が事実上交渉の拒否とみなし得る場合には、団体交渉拒否に当たるというべきである。そこで、以下、具体的な状況についてみる。

イ 団体交渉方式について、会社は、「団体交渉の会場を探したが、期限が一週間に迫っていたこと等から予約の空きのある会場を見つけることができなかった」旨、「そのため、やむを得ず、組合に対してZOOMや事業所付近の公園で団体交渉を行うことを提案した」旨主張する。

(ア)団体交渉は、労使双方が相対峙して行うのが原則であるところ、まず、会社がZOOMでの団体交渉開催を提案した理由についてみる。
 ①会社が組合に対し、団体交渉の会場を見つけることができなかったと説明したとする疎明はなく、また、②本件団体交渉申入書に記載の「会社又は組合事務所」で団体交渉を行うことにいかなる支障があるのかについて、会社からは主張も疎明もない。さらに、③(会場を見つけられなかったのであれば)組合に対し、日程の延期を申し出るとの対応を取ることも可能であったが、そのような対応を取ったとする疎明もない。これらから、会社の提案が、やむを得ないものであったり、合理的な理由があったとはいえない。
 そして、本件団体交渉申入れの前日に、組合は会社に対し、対面方式での団体交渉を希望する意向を伝えており、かかる状況において、会社は、ZOOMでの団体交渉開催を求め続けている。
 以上から、会社は、合理的な理由もなく、ZOOMでの団体交渉開催を求め続けており、かかる会社の対応は、事実上、団体交渉を拒否するものとみざるを得ない。

(イ)次に、会社が、事業所付近の公園での団体交渉を提案したことについて、団体交渉を行う場所として、不特定多数の人が行き来する公園が適当な場所でないことは明らかで、組合が応じないのは当然のことである。したがって、会社の提案は、事実上、団体交渉を拒否するものといえる。

ウ ところで、会社は、「令和4年6月1日に、会社と組合との間で団体交渉を行っており、不誠実な対応をしていない」旨主張する。
 しかし、本件申立て(同年5月9日)までに団体交渉が開催されなかったのは、会社が合理的な理由なくZOOMでの団体交渉開催を求め続けたことにあるのだから、上記団体交渉が開催されたからといって、本件団体交渉申入れに対する会社の対応が、事実上、団体交渉を拒否するものであることには変わりない。

(3)これらから、会社は、団体交渉に応じる義務があるにもかかわらず、正当な理由なく本件団体交渉申入れに応じておらず、かかる対応は、正当な理由のない団体交渉拒否であり、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為である。

3 救済方法

 組合は、誠実団体交渉応諾、組合員1名に対する土曜日の出勤禁止命令の取消し及び陳謝文の掲示をも求めるが、当委員会におけるあっせんにおいて組合と会社が合意していること等に鑑みると、主文をもって足りると考える。 

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