労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  東京都労委令和2年(不)第88号
アボットジャパン不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和6年8月6日 
命令区分  棄却 
重要度   
事件概要   本件は、①会社が、組合員Aに対して、注意指導書を交付したこと、配転命令を発したこと、出勤停止処分をしたこと、②元年9月24日など計6回の団体交渉における会社の対応、③会社がAを懲戒解雇又は予備的に普通解雇としたことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 東京都労働委員会は、申立てを棄却した。 
命令主文   本件申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 会社が、組合員Aに対して、令和元年9月24日付けで警告・注意指導書(以下「本件注意指導書」)を交付したこと、同年10月1日付けで(本社のセールス・オペレーションマネージャーへの)配置転換命令を発したこと(以下「本件配置転換命令」)及び令和2年8月19日付けで20日間の出勤停止の懲戒処分(以下「本件出勤停止処分」)をしたことは、組合員であることを理由とする不利益取扱い又は組合運営に対する支配介入に当たるか否か(争点1)

(1)本件注意指導書の交付について

 会社は、組合員Aの言動として①正確な勤怠処理を行わなかったこと、②上司の業務命令に従わなかったこと、③(令和元年6月7日に、「事業部ゼネラルマネージャーB1と人事部長B2が地獄に落ちるまで許さない」旨を英文で記載した)メール等を送信したことを対象として、懲戒委員会を開催したが、懲戒処分を科さない旨を決定し、③のメール等の送信のみを対象として本件注意指導書を交付している。
 その交付に至る経緯において、会社が組合を敵視したり嫌悪するような言動をとっていたなどの事情は特に認められず、また、本件注意指導書の交付は、Aによる不適切な言動の以後の改善を注意指導する趣旨で行われたといえることからすれば、会社が反組合的な意図にて本件注意指導書を交付したなどとみることはできない。
 したがって、会社がAに対して本件注意指導書を交付したことは、組合員であることを理由とする不利益取扱い又は組合運営に対する支配介入に当たるとはいえない。

(2)本件配置転換命令について

 ①本件配置転換命令までの経緯において、会社が組合を敵視したり嫌悪するような言動をとっていたなどの事情は特に認められず、また、②当該配置転換は、業務上の必要性が認められる一方で、③配置転換により同人の勤務地や賃金水準等の待遇を不利益に変更したり、同人に殊更不利益を与える不自然なものとみることもできないことを踏まえると、会社が、反組合的な意図をもって、同人に新ポジションへの配置転換を命じたとみることはできない。
 したがって、会社が本件配置転換命令を発したことは、同人が組合員であるが故の不利益取扱い又は組合の運営に対する支配介入に当たるとはいえない。

(3)本件出勤停止処分について

 本件出勤停止処分について、会社は、①業務命令違反、②非常識な言動及び③米国本社への脅迫的行為として33項目のAの言動を挙げており、その33項目の言動については、おおむね事実として認められる。
 そして、処分に至る経緯において、会社が組合を敵視したり嫌悪するような言動をとっていたなどの事情は特に認められない。また、Aは、本件注意指導書による指導と警告を受けてもなお、上司等から同様の事項について度重なる注意を受けていたのであるから、マネージャー職という地位にありながら、自身の言動について留意したり改善を図ることなく、社内で問題視される言動を繰り返したとみざるを得ず、そのような状況の下で、会社がAの言動に対して従前よりも厳しい措置で臨んだことには、相応の必要性と合理性が認められる。
 これらからすれば、会社が反組合的な意図をもって本件出勤停止処分を行ったとみることはできず、したがって、本件出勤停止処分は、組合員であることを理由とする不利益取扱い又は組合運営に対する支配介入に当たるとはいえない。

2 第4回(令和元年9月24日)、第5回(同年10月29日)、第6回(令和2年1月14日)、第7回(同年6月26日)、第9回(令和3年2月18日)及び第10回(同年3月16日)の各団体交渉における会社の対応は、不誠実な団体交渉に当たるか否か(争点2)

(1)これら団体交渉において協議された主な議題をみると、①CRMポジション〔注〕の廃止理由、②本件注意指導書の交付、③本件出勤停止処分の懲戒事由、④懲戒解雇の懲戒事由等であることが認められる。

〔注〕Aが就いていたD事業部のCRMマーケティングマネージャー(「CRM」とは、「医療関係者ではなく直接患者を対象とするマーケティング」)のこと。

(2)「①CRMポジションの廃止理由」に係る協議をみると、会社は、廃止は国内向けCRM事業の現状を踏まえた方針転換によるものであることを繰り返し説明し、その説明内容も一貫している。これらを踏まえると、会社は、廃止理由について、組合に対して相応の説明をしていたとみるのが相当である。

(3)「②本件注意指導書の交付」については、会社は、第4回団体交渉の場に交付前のものを提示し、会社の事実認識や判断結果、懲戒委員会における議論の内容などを具体的に説明している。これらを踏まえると、会社は、本件注意指導書の協議において、組合及びAから一定の納得を得るべく努力する姿勢にて対応していたといえる。

(4)「③本件出勤停止処分の懲戒事由」については、第7回団体交渉において、会社が、Aは業務処理を適正に行っていないとして同人の対処を検討していると述べたことについて、組合が、Aが業務を適正に処理していない事象の資料を提示するよう求めたものの、会社は、検討中であるとして詳細を明らかにせず、その後、会社とAとの裁判の場にて懲戒対象の事象を開示した。これら対応は、会社が組合との協議を避けようとしたとみる余地がないとはいえない。
 しかし、実際に本件出勤停止処分が行われた令和2年8月19日は第7回団体交渉の約50日後であるから、当該団体交渉の時点で会社が詳細を明らかにしなかったことはやむを得ないといえる。また、その後の第8回団体交渉において、会社は、組合ではなく、Aとの裁判の場にて懲戒対象の事象を提示した理由を説明するともに、Aの言動に対する会社の認識や、懲戒委員会における議論の内容を説明している。これらも踏まえると、会社の上記対応が不誠実な交渉態度であるとまで評価することはできない。

(5)「④懲戒解雇の懲戒事由等」については、第9回及び第10回団体交渉において、自宅待機命令や懲戒事由などについて協議が行われたとは認められるものの、具体的なやり取りは証拠をもって明らかにされていない。

(6)なお、第6回及び第7回団体交渉において、組合は、Aが本件会計問題〔注 平成30年9月頃、Aが疑念を抱き、会社に申告した、当時の上司による委託業者との不可解な取引〕を内部通報しているとして、対処結果について説明を求めたものの、会社は、Aの労働条件その他の待遇とは無関係であり、義務的団交事項には当たらないとして説明に応じていない。
 この点、組合は、本件会計問題への会社の対処がAの労働条件にどのように関わるのかについて具体的に言及しておらず、そのような状況の下では、会社が直ちに協議に応じなかったとしてもやむを得なかったといえる。他方で会社は、内部通報制度について、組合に対して一応の説明は行っている。
 以上を踏まえると、本件会計問題に係る会社の対応が不誠実な交渉態度であるとまでは認められない。

(7)これらから、各団体交渉における会社の対応が不誠実な交渉態度であるとまでいえる事実は認められず、したがって、会社の対応は、不誠実な団体交渉に当たるとはいえない。

3 会社が令和3年3月17日付けでAを懲戒解雇又は予備的に普通解雇としたこと(以下「本件解雇」)は、組合員であることを理由とする不利益取扱い又は組合運営に対する支配介入に当たるか否か(争点3)

 令和3年3月17日付けの懲戒解雇についてみると、会社は、同年1月28日にAがゼネラルマネージャーB1宛メール、また副社長B3宛メールを送信したことを受けて、同年2月1日、同人に自宅待機を命じ、その約2か月後の同年3月17日に本件出勤停止処分以降の15項目の同人の言動を挙げて懲戒解雇を通知しているところ、それら15項目の言動は、おおむね事実として認められ、いずれも上司や会社組織に対する反抗的又は攻撃的な言動であったことは否定できない。
 しかも、会社が懲戒解雇処分の手続に着手する契機となったこれらメールには、侮辱的、差別的と受け取られてもやむを得ない不適切な表現があり、それまでの本件注意指導書や本件出勤停止処分の対象となったAの言動と比べても、多分に攻撃的で適切さを欠いたものであったといわざるを得ない。
 そして、Aの懲戒解雇に至る経緯において、会社が組合を敵視したり嫌悪するような言動をとっていたなどの事情は特に認められず、また、それまでの間に本件注意指導書の交付及び本件出勤停止処分といった措置が重ねられ、しかも、複数の上司や上席者による注意と改善指導が長期間かつ繰り返し行われてもなお、Aは自身の言動を改善しなかったといえる。
 そうすると、Aの言動には、自己の考えや要望を会社に主張する趣旨が含まれていたり、令和3年2月6日に提出した弁明書に一定の反省や改善の意思が言及されている点を斟酌したとしても、会社がもはや同人の言動には改善が見込めないとして、今後の企業秩序を維持するために解雇という措置をもって臨んだことはやむを得なかったとみざるを得ず、懲戒解雇が反組合的意図の下で行われたとみることはできない。
 したがって、本件解雇は、組合員であることを理由とする不利益取扱い又は組合運営に対する支配介入に当たるとはいえない。 

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