労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  大阪府労委令和4年(不)第39号・第52号
不当労働行為審査事件 
申立人  X組合支部(組合) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和6年9月27日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、会社が、定年後の再雇用契約を機に、組合員A2を従前とは異なる業務に就け、従前を下回る賃金を支給したことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 大阪府労働委員会は、A2との定年後の再雇用契約に当たり、定年前に支給していた資格給と住宅手当を支給しないこととしたことについて、労働組合法第7条第1号及び第3号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、(ⅰ)A2に対し、令和3年10月分以降の通勤手当を除く毎月の賃金について、279,500円と既支払額との差額を支払わなければならないこと、(ⅱ)文書の交付を命じ、その他の申立てを棄却した。 
命令主文  1 会社は、組合員A2に対し、令和3年10月分以降の通勤手当を除く毎月の賃金について、279,500円と既支払額との差額を支払わなければならない。

2 会社は、組合に対し、下記の文書を速やかに交付しなければならない。
 年 月 日
X組合支部
 執行委員長 A1様
Y会社       
代表取締役 B
 当社が、貴組合員A2氏との定年後の再雇用契約に当たり、定年前に支給していた資格給と住宅手当を支給しないこととしたことは、大阪府労働委員会において、労働組合法第7条第1号及び第3号に該当する不当労働行為であると認められました。
 今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。

3 組合のその他の申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 会社が、組合員A2との定年後の再雇用契約に当たり、令和3年9月21日以降、A2の業務内容をコンクリートブロック製造業務等(労働契約上は販売事業等)とし、基本賃金を月給200,840円、通勤手当支給、賞与なしとしたことは、組合員であるが故の不利益取扱いに当たるとともに、組合に対する支配介入に当たるか(争点1)

(1)組合員であるが故の不利益取扱いに当たるか

ア 不利益性について

 A2は、会社に雇用されて以降、正社員のミキサー車運転手として勤務し、60歳以降もミキサー車運転手としての勤務を希望していたところ、令和3年9月15日の雇用契約(以下「令和3年契約」)においては、業務内容はブロック製造業務等とされたのであるから、不利益性があるとみることができる。
 賃金については、定年前に比べて低額になっていることから、不利益性があることは明らかである。

イ 組合と会社の関係について

 経緯をみるに、①平成30年9月20日、会社の代表取締役を含む近畿地方の生コン関連会社の関係者等が発起人となり、「組合の業界からの排除について、それぞれの地域の事情と賛同の意思確認」を行うなどする発起人会が行われたこと、②令和元年5月8日、会社は、退職勧奨に応じないA2を懲戒解雇したこと、③この頃、A2以外の組合員も、会社を退職又は会社から解雇され、会社の正社員のミキサー車運転手は非組合員1名のみになったこと、④会社は組合に対し、同年5月8日付け文書にて、会社に組合の在籍者がいなくなったとして、春闘への出席を辞退する旨通知したこと、⑤会社は組合に対し、同年5月14日付け文書にて、組合と会社間の全ての労働協約の解約を通知したこと、⑥同年6月12日、A2等は会社を債務者として地位保全等の仮処分申立てを行い、令和2年3月6日、奈良地方裁判所は、解雇理由の合理性ないし相当性が認められないとして賃金の仮払いを命じる決定を発したこと、⑦A2の復職後も、令和元年10月1日に提起されたA2と会社の間の労働契約上の地位確認等請求訴訟は係属したこと、がそれぞれ認められる。
 そうすると、懲戒解雇が撤回されA2が復職したことは認められるが、令和3年契約が締結された時点で、未だ組合と会社は対立基調にあり、会社が組合や組合員を嫌悪していることを推認できる。

ウ 令和3年契約における業務内容や賃金に関する合理的な理由の有無について

 定年後の再雇用契約における労働条件が定年前と同一でないことがただちに問題とはいえないものの、異なる労働条件とするについては合理的な理由が必要というべきである。そこで、令和3年契約において、①業務内容をミキサー車運転手ではなくブロック製造業務等としたこと、②賃金を定年前に比べて低額にしたことに関する合理的な理由の有無について検討する。

(ア)業務内容について

a A2の業務内容をブロック製造業務等とした理由について
 会社は、A2の業務内容をブロック製造業務等とした理由として、生コン輸送業務は外注化するとの経営方針を採っていたことを挙げる。そこで令和3年契約前の労使間のやり取りをみるに、当時から、会社は組合に対し、A2をミキサー車運転手としては再雇用しない理由として、日々雇用以外の直接雇用のミキサー車運転手は置かないという方針を挙げていたといえる。
 ところで、〔前記裁判所の決定を受けて〕A2がミキサー車運転手として会社に復帰した時点(令和2年9月17日)では、他に会社の正社員ミキサー車運転手はいなかったところ、これに至る経緯をみるに、会社が、原則として正社員のミキサー車運転手を置かないとしたことに関して、組合員のミキサー車運転手を会社から排除する意図があったとの疑念は払拭できない。
 しかし、このことを考慮しても、業務に必要とされる生コン運転手の人数が受注状況や天候等によって日々変動すること自体は首肯でき、このような状況下で経費を抑えるために日々雇用以外の直接雇用のミキサー車運転手は置かないとすることについては、経営上の合理性がないとまではいうことはできない。さらに、〔A2の定年により〕令和3年契約が締結された時点で、会社に日々雇用以外で直接雇用されているミキサー車運転手がいたとする疎明もない。
 したがって、定年後の再雇用契約において、会社がA2を生コン運転手以外の業務に就けることを不当とまではいうことができない。
 なお、組合は、①ミキサー車運転手であった従業員が、定年後もミキサー車運転手として再雇用されることを希望した場合、従前は、定年前とほぼ同等の条件でミキサー車運転手として再雇用されていた、②定年退職時と別職種で再雇用された例はA2を除き存在しない旨主張する。しかし、定年後の再雇用に当たって、会社に、当該従業員を定年前と同一の業務に必ず就けなければならないとする特段の事情があったと認めるに足る疎明はない。

b ブロック製造業務について
 ブロック製造業務についてみるに、①作業を行う場所は、会社事務所から約250m離れた屋外であり、②一部の業務等を除き、A2は、概ねー人で業務を行い、③A2が従事するようになった業務について、それまで専従する従業員が募集されたことも置かれたこともなかった。
 しかし、会社は、以前から、残コンを利用してブロックを製造し、販売しており、ブロック製造業務を業務上必要のないものとはいえない。なお、A2が従事するようになった業務については、それまで複数の従業員が主たる業務以外に分担して行っていたが、そうした作業について、専従で行う従業員を置くことをただちに不当とはいえない。
 また、会社はA2に屋外作業を命じるに当たって、労働環境について一定の配慮を行っており、殊更過酷な業務を命じたということはできない。
 以上のとおりであるから、会社がA2に命じたブロック製造業務を必要性のないものとも、過酷なものともいうことはできない。

c 以上から、令和3年契約において、A2の業務内容をミキサー車運転手ではなくブロック製造業務等としたことを不合理なものということはできない。

(イ)賃金を定年前に比べて低額にしたことについて

 再雇用時のA2の月額の賃金は、基本給が251,050円から200,840円と定年前の8割になり、それぞれ98,325円であった資格給と住宅手当が支給されなくなり、主としてこれらにより、合計額が定年前の半額を下回っている。また、賞与が支払われなくなっている。
 そこで、①基本給を定年前の8割にしたこと、②資格給と住宅手当を支給しなくなったこと、③賞与を支払わなくなったことの合理性の有無について、以下検討する。

a 「基本給が8割になったこと」に係る合理性の有無について

 令和3年契約では、A2は原則として週4日の勤務とされていることが認められるから、このことを理由に基本給が定年前の8割となっていることを不合理とはいえない。

b 「資格給と住宅手当が支給されなくなったこと」に係る合理性の有無について

 会社は、定年後嘱託者再雇用規程において通勤手当以外の手当を支給しない旨が定められている旨主張しており、確かに、同規程において手当として定められているのは通勤手当のみで、資格給と住宅手当についての定めはない。
 しかし、正社員に適用される給与・退職金規程についてみると、①資格給についての定めはなく、②住宅手当についての定めはあるが、最高額は1万7,000円であることが認められ、定年前にA2に支給されていた資格給と住宅手当は、そもそも会社の就業規則に基づいたものとはいえない。
 そこで、定年前のA2に資格給と住宅手当が支給されていた経緯についてみるに、資格給と住宅手当は労使合意に基づき支給され、複数回の賃金改定を経ても、会社は、A2に対し、基本給の3割から4割に相当する額をそれぞれ資格給と住宅手当として常時支給していたといえる。
 このような資格給と住宅手当は、名称は手当とされていても実質的には何らかの資格や住宅に関連して支給される手当とはいえず、基本給そのものとまではいえないまでも、基本給に準ずるものというのが相当である。また、資格給と住宅手当の不支給による賃金減の程度も約20万円と相当に大きく、定年後の再雇用による立場や職務等の変化を考慮しても看過できない水準というべきである。
 以上からすると、会社が、再雇用時において、資格給と住宅手当を一切支給しないとすることには、合理的な理由があるとはいえない。

c 「賞与を支払わないこと」に係る合理性の有無について

 定年後嘱託者再雇用規程には、賞与を支給しない旨の定めがあることが認められるところ、賞与を支給しないと定めていることや、この規程を根拠に賞与を支給しないことを不合理であると認めるに足る疎明はない。

エ 以上のとおり、①会社が、組合や組合員を嫌悪していることを推認でき、②A2との令和3年契約に当たり、資格給と住宅手当を支給しないとした取扱いについては合理的な理由はないと判断されるから、かかる行為はA2が組合員であるが故になされた不利益取扱いであって、労働組合法第7条第1号に該当する不当労働行為である。
 一方、令和3年契約のそれ以外の部分については、不合理とはいえないから、組合員であるが故になされた不利益取扱いとはいえない。

(2)組合に対する支配介入に当たるか

 通常、使用者が組合員に対し、組合員であることを故として不利益取扱いを行えば、組合員の組合活動を委縮させ、他の従業員の組合加入を抑止するなどの効果をもたらすから、労働組合の運営を妨害するものにも当たるとみるのが相当である。
 したがって、会社がA2との令和3年契約に当たり、資格給と住宅手当を支給しないとした取扱いについては、組合に対する支配介入にも当たり、労働組合法第7条第3号に該当する支配介入である。
 なお、令和3年契約のそれ以外の部分については、組合の運営を妨害したというべき特段の事情は見当たらず、組合に対する支配介入とはいえない。

2 会社が、A2との労働契約を、令和3年9月15日付け労働契約書と同じ業務内容及び賃金額で、令和4年9月20日付けで更新したことは、組合員であるが故の不利益取扱いに当たるとともに、組合に対する支配介入に当たるか(争点2)

 令和4年9月20日付けのA2との雇用契約(以下「令和4年契約」)が、業務内容と賃金額について令和3年契約と同じであることに労使間で争いはない。
 したがって、会社がA2との令和4年契約に当たり、資格給と住宅手当を支給しないとした取扱いについても、組合員であるが故になされた不利益取扱いと組合に対する支配介入に当たり、労働組合法第7条第1号及び第3号に該当する不当労働行為と判断される。 一方、令和4年契約のそれ以外の部分については、不当労働行為に該当するとはいえない。

3 救済方法

 組合員A2に対して定年前に支給されていた資格給と住宅手当は基本給そのものとまではいえないまでも基本給に準ずるものと判断されることや高年齢者の雇用に関する法令や諸事情を勘案し、令和3年10月分以降のA2の通勤手当を除く毎月の賃金は、同年9月分の賃金額に基づき下記により算出される額とするのが相当であると思料し、主文1のとおり命じることとする。

{基本給の額十(資格給の額十住宅手当の額)×0.5}×0.8 

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