労働委員会命令データベース

(この事件の全文情報は、このページの最後でご覧いただけます。)

[命令一覧に戻る]
概要情報
事件番号・通称事件名  大阪府労委令和5年(不)第64号
不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y法人(法人) 
命令年月日  令和6年9月27日 
命令区分  全部救済 
重要度   
事件概要   本件は、学校を運営する法人が、組合員Aに対する懲戒解雇辞令の撤回を要求項目とする団体交渉に一度応じたものの、組合からの懲戒委員会の再審議を求める第2回団体交渉の申入れには応じないことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 大阪府労働委員会は、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると判断し、法人に対し、団体交渉応諾を命じた。 
命令主文   法人は、組合が令和5年8月21日付けで申し入れた団体交渉に応じなければならない。 
判断の要旨  ○令和5年8月21日の組合らからの団体交渉の申し入れ(以下「本件団体交渉申入れ」)に対する法人の対応は、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか(争点)

1 本件団体交渉申入れに対し、法人が団体交渉に応じていないことについては争いがない。
 労働組合法第7条第2号は、労働組合からの義務的団体交渉事項に係る団体交渉申入れに対して、使用者が正当な理由なく拒むことを禁じている。
 そして、申入書の記載からすると、本件団体交渉申入れは、組合員の懲戒処分に関することであり、組合員の労働条件その他待遇に関する事項に該当するから、義務的団体交渉事項である。
 そうすると、法人が正当な理由なく、このような義務的団体交渉事項に関する団体交渉申入れに応じなければ、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為となる。
 この点について、法人は、団体交渉を拒否したことに正当な理由が認められる旨主張するので、以下検討する。

2 法人の「主位的主張」(法人は、組合の「要求事項」について全面的に受け入れたと評価できるから、団体交渉を拒否したことには「正当な理由」が認められる旨)について

(1)法人は、「法人が、令和5年9月13日に組合に送付した回答書(以下「5.9.13法人回答書」)において、令和5年8月21日に送付された申入書(以下「5.8.21申入書」)の要求事項を全面的に受け入れ、同年9月17日に懲戒委員会において再審議を行うことを表明し、実際に、同日この再審議を行ったので、その後の団体交渉を拒否したことには『正当な理由』が認められる」旨、主張する。
 確かに、使用者が労働組合からの要求を全面的に受け入れ、当該要求を巡って労使間で協議すべき事項が存在しないことが明らかな場合は、使用者が、当該要求についての団体交渉に応じなかったとしても、正当な理由があるといえる。

(2)そこで検討するに、①5.8.21申入書には、「要求項目」として、「5月18日に行われた懲戒委員会の組合員A〔注〕に関する審議は、手続き上無効であり、審議をやりなおすこと。」との記載があったこと、②令和5年9月17日、懲戒委員会が開催され(以下「5.9.17懲戒委員会」)、Aに対してなされた懲戒処分の妥当性について議題に挙げられていたこと、が認められる。これらからすると、法人は、本件団体交渉申入れの組合の要求項目を受け入れた部分があるとはいえる。

〔注〕Aは、令和5年3月28日に建造物侵入、窃盗及び窃盗未遂で起訴されている。

(3)しかし、5.8.21申入書には、「要求の理由」として、組合員Aの懲戒処分について検討した令和5年5月18日に開催された懲戒委員会は様々な問題があり、その結論を妥当なものとして認めることはできない旨記載した上で、①Aに対し、(法人の懲戒委員会委員長である)弁護士Cが(「弁護人となろうとする者」の資格で)行った接見では、Aは状況を十分理解できないままで、あいまいな態度で回答を行い、弁明に当たる内容など言うべきことを言えていない旨、②(同委員会に提出された)この接見に係る報告書の信用性は認めがたく、処分の基になる事実を認定する資料にはなり得ない旨、③接見時も含めて、十分な弁明の機会が与えられないままで、処分の決定が行われている旨等の記載があったことが認められる。
 かかる記載からすると、組合が、Aに対して「十分な弁明の機会」を与えた上で、懲戒委員会での審議をやり直すことを求めていたことは明らかである。

(4)加えて、法人が、組合に対して、5.9.13法人回答書により、5.9.17懲戒委員会を開催する旨等を通知したのに対し、組合は、令和5年9月15日に法人に送付した要求書により、①「再弁明の機会を提供する」と称しながら、わずか3日後の期限で文書の提出のみを認めるのは、全く不当である旨、②調査への後見人の同席を認める懲戒委員会規則の規定を隠したままで性急に再審議を行うと通告してくるのは、強い非難に値する旨、③早急に第2回団体交渉を行い、労使の話合いで、後見人とともに「十分な説明と弁明」の機会を与える場の設定などの条件整備を行った上で、懲戒委員会での再審議を行うことを求め、改めて団体交渉の日程について回答するよう要求する旨等を通知している。
 かかるやり取りを見ても、組合が団体交渉を申し入れた趣旨は、単に懲戒委員会を開催することのみではなく、Aに対して、「十分な説明と弁明の機会」を与えた上での、懲戒委員会での審議のやり直しであったことは明らかである。また、組合が、組合の要求事項が受け入れられたとは評価しておらず、懲戒委員会でのAに関する審議を巡って協議すべきとの意向を示していることも明らかである。

(5)以上から、5.9.17懲戒委員会が開催されたことのみをもって、法人が、本件団体交渉申入書での組合の要求事項を全面的に受け入れたとまでみることはできず、法人と組合との間には、懲戒委員会でのAに関する審議を巡って、未だ協議すべき事項が存在するとみるのが相当である。
 したがって、5.9.17懲戒委員会の開催をもって、団体交渉を拒否したことの正当な理由とはならない。

(6)なお、法人は、使用者が「労働組合の要求事項を全面的に受け入れた」と認められるか否かを判断する際の判断手法として、団体交渉の申入書記載の「要求事項」のみに基づいて判断すべきで、「要求事項」を要求するに至った理由は斟酌すべきではない旨主張する。
 しかし、団体交渉申入書に「要求事項」と当該事項を要求するに至った理由の両方が記載されている場合においては、「要求事項」の趣旨を判断するのに、「要求事項」の文言だけでなく、当該要求に至った理由についても斟酌すべきである。したがって、この点に関する法人の主張は採用できない。

(7)以上のとおり、法人の主位的主張は採用できない。

3 法人の「予備的主張(その1)」(組合は、令和5年8月23日に法人が書面で求めた釈明事項(以下「本件求釈明事項」)に対する回答をしなかったのであるから、団体交渉を拒否する「正当な理由」が認められる旨)について

(1)法人は、①本件求釈明事項の全部又は一部は、法人が団体交渉に応じる義務の有無を確認するために必要な事項であった旨、②組合は本件求釈明事項に対する回答をしなかったのであるから、団体交渉を拒否する「正当な理由」が認められる旨、主張する。

(2)5.9.13法人回答書における記載からすると、法人は、「本件求釈明事項は、本件団体交渉申入れによる団体交渉が『単なる同一の交渉の繰り返し』であるか否かを判断するためのもので、法人が団体交渉に応じる義務の有無を確認するために必要な事項である」と主張しているように解されるので、この点について検討する。
 まず、〔本件団体交渉申入れ前の〕令和5年8月4日の団体交渉(以下「5.8.4団体交渉」)でいかなるやり取りがあったかについては明らかになっておらず、本件団体交渉申入れによる団体交渉が、単なる同一の交渉の繰り返しとはいえない。
 また、5.8.4団体交渉で主張、提案、説明がなされた事項について、組合が再度協議を求め、これに対して、法人が当該団体交渉での協議事項との差異について釈明を求めたのであれば、当該求釈明事項は、法人が団体交渉に応じる義務の有無を確認するために必要な事項と評価し得る。

(3)しかし、本件求釈明事項は、本件団体交渉申入書に記載された「要求の理由」の各項目について、組合がそのように主張する根拠について釈明を求めるものといえ、かかる釈明を求めること自体、5.8.4団体交渉において、本件団体交渉申入書の「要求の理由」の各事項については十分協議がなされていないことの証左といえる。そうすると、本件求釈明事項は、団体交渉の場において直接確認すれば足りる事項であって、団体交渉に応じる義務の有無を確認するために必要な事項とはいえない。
 したがって、組合が、本件求釈明事項に回答しないことをもって、本件団体交渉申入れに応じない正当な理由とはならない。

(4)以上のとおり、法人の予備的主張(その1)は採用できない。

4 法人の「予備的主張(その2)」(組合は、Aに対し、まずもって、労使協議会の利用を促すべきであったといえるから、団体交渉を拒否したことに正当な理由が認められる旨)について

 確かに、組合と法人との間で、労使協議制や苦情処理手続があり、これらの制度が団体交渉を補完する機能を果たしている場合には、同制度によるべきことを主張して団体交渉を拒否することが許されないものではない。しかし、法人が利用すべきと主張するのは、申立外D組合と法人との間で設置された労使協議会であるから、そもそも組合と協議する場ではなく、組合がAに対して同協議会を利用するよう促すべきとは到底いえず、本件団体交渉申入れに応じない正当な理由となるものではない。
 したがって、法人の予備的主張(その2)は採用できない。

5 以上のとおり、本件団体交渉申入れに対する法人の対応は、正当な理由のない団体交渉拒否に当たり、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為である。 

[先頭に戻る]
 
[全文情報] この事件の全文情報は約350KByteあります。 また、PDF形式になっていますので、ご覧になるにはAdobe Reader(無料)のダウンロードが必要です。