概要情報
事件番号・通称事件名 |
東京都労委令和4年(不)第47号
本田技研工業不当労働行為審査事件 |
申立人 |
X組合(組合) |
被申立人 |
Y会社(会社) |
命令年月日 |
令和6年7月2日 |
命令区分 |
一部救済 |
重要度 |
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事件概要 |
本件は、①組合の令和4年8月8日付要求書(以下「4.8.8要求書」)及び5年2月16日付抗議書(以下「5.2.16抗議書」)に対する会社の対応、②組合が、組合委員長A1と会社産業医との面談を要求したことに対する会社の対応、③会社が、4.8.8要求書に対し、(当初の)本件申立てに関し労働委員会に提出した令和5年1月18日付準備書面で回答としたことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
東京都労働委員会は、①の一部について労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、文書交付等を命じ、その余の申立てを棄却した。 |
命令主文 |
1 会社は、本命令書受領の日から1週間以内に、下記内容の文書を組合に交付しなければならない。
記
年 月 日
X組合
委員長 A1殿
Y会社
代表執行役 B
貴組合の令和4年8月8日付要求書による団体交渉の申入れに応じなかった当社の対応は、東京都労働委員会において不当労働行為であると認定されました。
今後、このような行為を繰り返さないよう留意します。
2 会社は、前項を履行したときは、当委員会に速やかに文書で報告しなければならない。
3 その余の申立てを棄却する。 |
判断の要旨 |
1 組合の4.8.8要求書及び5.2.16抗議書に対する会社の対応は、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか否か(争点1)
(1)4.8.8要求書に対する会社の対応は、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか否か
ア 組合が、4.8.8要求書において交渉議題を明記した上で、会社に対し、団体交渉申入れ(以下「本件団体交渉申入れ」)を行ったところ、会社は、令和4年8月12日付回答書(以下「4.8.12回答書」)を送付し、「組合の要求事項については別件不当労働行為救済申立事件(以下「別件申立事件」)〔注 埼玉県労委平成30年(不)第4号・中労委令和3年(不再)第25号〕についての中央労働委員会の手続の中で必要に応じて検討されるべきものである」旨を回答した。
イ 確かに、組合と会社との間では、平成30年12月27日以降本件団体交渉申入れがなされた令和4年8月8日に至るまで、埼玉県労働委員会及び中央労働委員会において、別件申立事件が係属しており、同事件の争点と4.8.8要求書記載の交渉議題及び要求事項〔注〕との間で、一定の共通点ないし類似点が認められる。
しかし、一般的に、使用者が労働者の代表者と直接交渉する団体交渉と法的な論争の場でもある労働委員会の審査手続とはその制度自体が異なるのであり、労働委員会における主張立証活動をもって、団体交渉における説明等に代えることはできない。
〔注〕認定によれば、要求事項は、①団体交渉の候補日の提示、②組合員Aと産業医との面談、③交渉議題を「解雇」、「休業補償」、「後遺障害」とすること、であった。
ウ 加えて、①別件申立事件では、「平成29年12月25日付(で組合が送付した)文書〔「労災証明のお願い」)が団体交渉の申入れに当たるか」が争点の一部となっているところ、埼玉県労働委員会は、令和3年7月19日付けで、上記文書は団体交渉の申入れには当たらない旨の判断を含めた棄却命令を発していること、②組合が、上記文書を送付した後、4.8.8要求書を会社に送付して本件団体交渉申入れを行うまでの間に、会社に対して団体交渉の実施を申し入れた形跡がないことからすれば、組合は、埼玉県労働委員会の前記棄却命令を受けて、団体交渉の申入れである旨をより明確にする形式をとって、4.8.8要求書を会社に送付したものとみるのが相当である。
また、組合が、会社に対し、平成29年12月25日付文書を送付して以降、C病院が症状固定(治ゆ)の診断を、埼玉県労働者災害補償保険審査官が後遺障害の認定をそれぞれ行っており、組合は、上記診断及び認定を受けて、4.8.8要求書において団体交渉の議題として「後遺障害の補償について」を明記したとみるのが相当であり、かかる交渉議題は、別件申立事件における争点とは直接的には関連しないものといえる。
エ そして、〔Aが診断を受けた〕両手母指CM関節症はAの会社在職中に発生したものであることから、かかる後遺障害の補償の問題は組合員であるAの労働条件その他の待遇に関する事項であり、かつ、使用者に処分可能なものに当たり、いわゆる義務的団体交渉事項に当たる。
オ 以上を総合すると、①組合が、4.8.8要求書で交渉議題を明記した上で本件団体交渉申入れを行った後、会社の4.8.12回答書の記載を受けて、令和4年8月29日付けで本件申立てに至っている点について、多少の拙速感を禁じ得ないものではあるが、②会社が、4.8.8要求書による本件団体交渉申入れがなされた後令和5年1月18日付準備書面(以下「5.1.18準備書面」)を(東京都労働委員会に)提出するまでの間、組合に対して団体交渉の実施に向けた働き掛けを行っていたことの疎明がないことを併せて考慮すれば、組合の4.8.8要求書に対し、4.8.12回答書により「別件申立事件の中央労働委員会の手続の中で検討されるべきものである」旨を回答して団体交渉に応じなかった会社の対応は、正当な理由のない団体交渉拒否に当たる。
(2)5.2.16抗議書に対する会社の対応は、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか否か
ア 会社は、代理人名義で、組合に対し、令和5年2月2日付連絡文(以下「5.2.2連絡文」)を送付し、4.8.8要求書に記載された交渉議題及び5年1月22日付文書記載の議題について団体交渉を行うことを明示するとともに、回答期限を設けた上で団体交渉実施の候補日時などを連絡している。これに対し、組合は、会社代理人の交渉権限の問題等に関する記載を含む5.2.16抗議書を会社宛てに送付するのみで、会社代理人が提示した団体交渉実施の候補日時などについて回答を行わなかった。
イ 会社が、組合に対し、令和5年2月16日付連絡文を送付し、5.2.2連絡文記載の候補日時の提示を解消したところ、組合は、かかる会社の対応が正当な理由のない団体交渉拒否に当たるなどと主張するようである。
しかし、組合が主張する5.2.16抗議書記載の5.2.2連絡文の問題点〔注〕については、団体交渉において会社と協議を行うことにより解消することが十分に見込まれ、少なくとも、団体交渉実施における支障にはならないとみられるなどの事情を併せて考慮すると、会社が団体交渉を拒否しているとまでは認められず、5.2.16抗議書に対する会社の対応は、正当な理由のない団体交渉拒否には当たらない。
〔注〕認定によれば、組合の抗議文には、①会社の交渉人が明示されていない旨、②産業医との面談要求に無回答である旨など4項目が問題点として記載されていた。
2 組合が、4.8.8要求書において、Aと会社産業医の医師Dとの面談を要求したことに対する会社の対応は、Aが組合員であることを理由とした不利益取扱いに当たるか否か(争点2)
使用者が、係争中の当事者から特定の従業員との面会を求められた場合にこれに応じないこと自体は必ずしも不自然な対応であるとまではいえないのであって、組合及びAと会社との係争の経緯等の事情を勘案してもなおAが組合員であるが故にAと医師Dとの面談が実現しなかったと認めることはできず、ほかにこれを認めるに足りる具体的事実の疎明はない。
したがって、(Aと医師Dとの面談に応じなかった)会社の対応は、Aが組合員であることを理由とした不利益取扱いには当たらない。
3 会社が、組合の4.8.8要求書に対し、5.1.18準備書面で回答としたことは、組合運営に対する支配介入に当たるか否か(争点3)
審査手続における準備書面は、労働委員会における審査手続において陳述するために提出される主張書面であり、組合からの団体交渉の申入れに対する回答方法として一般的なものとはいい難いものの、令和5年1月18日以降、会社は、①組合に対し、5.2.2連絡文を送付し、4.8.8要求書及び5年1月22日付文書記載の交渉議題について団体交渉を行うことを明示した上で、団体交渉の実施の候補日時などを連絡していること、②5年2月16日付連絡文を送付し、組合から団体交渉の申入れがあればこれに応ずる旨を明示していることを併せて考慮すると、会社が、組合の4.8.8要求書に対し、5.1.18準備書面で回答としたことは、組合を殊更に無視し、組合弱体化を企図したものとまでは認めることができず、組合運営に対する支配介入には当たらない。 |