労働委員会命令データベース

(この事件の全文情報は、このページの最後でご覧いただけます。)

[命令一覧に戻る]

概要情報
事件番号・通称事件名  島根県労委令和4年(不)第1号
不当労働行為審査事件 
申立人  個人X 
被申立人  Y法人(法人) 
命令年月日  令和6年7月25日 
命令区分  却下・棄却 
重要度   
事件概要   本件は、①法人の理事長B(学長を兼務)が、法人の運営する学校の教員であるXに対し、就業規則に基づく2件の注意を行ったこと、②課長C及び教員Dによる法人のハラスメント防止委員会への苦情相談に関し、同委員会が、結論や理由をXに通知せずに、同人の言動をハラスメントと認定したこと、③Cによる苦情相談について、同委員会が、虚偽申立てか否かの調査を行わなかったこと、④学長BがDをN科長に任命したこと、⑤法人がDに対し、申立外E組合が法人に提出した緊急申入書を交付したこと、⑥課長CがDに対し、Xが法人に行ったDとの関係排除に係る要請を伝えたことが不当労働行為に当たる、として個人Xから救済申立てがなされた事案である。
 島根県労働委員会は、⑤及び⑥について申立期間を徒過したものとして却下するとともに、その他の申立てを棄却した。 
命令主文  1 令和3年2月26日、Y法人がD氏に対し、E組合が法人に対して提出した緊急申入書を交付したこと及び令和2年11月26日、課長CがD氏に対し、Xが行ったD氏との関係排除要請を伝えたことに係る申立ては、いずれも却下する。

2 その他の申立てを棄却する。  
判断の要旨  1 令和3年12月9日、理事長Bが〔法人の運営する学校の教員である〕Xに対し、就業規則第36条に基づき2件の注意を行ったことは、労働組合法第7条第1号及び同条第3号の不当労働行為に当たるか。【争点1】

(1)Xは、「令和3年12月9日、理事長BがXに対し行った就業規則第36条に基づく2件の注意は、いずれも懲戒事由に該当しない正当な言論に対する違法な懲戒権の行使である」などとし、「上記2件の注意は、申立外E組合(以下「組合」)の中心的役割を果たしてきたXに対するものであるから、Xの正当な組合活動を理由とする不利益取扱いであるとともに、組合の中心的役割を果たしてきたXの言論活動を萎縮させることにより、組合活動を弱体化させることを企図した支配介入行為である」と主張する。

(2)上記2件の注意の対象となったもののうち、L課長であるC(以下「課長C」)の(Xに係るハラスメント)申立てに関するものについては、ハラスメント防止委員会(以下「委員会」)による手続きを経て、ハラスメント認定され、その後、懲戒処分について諮問機関による懲戒相当との諮問がなされたものの、(令和3年9月30日の)Xの弁明を受け、結果として、ハラスメント認定せず、懲戒処分を行わなかったものである。そして、上記2件の注意は、就業規則第36条に基づくものであり、同条に基づく注意は、懲戒処分に至らない場合において、服務を厳正にし、規律を確保するために必要があるときになされるもので、懲戒処分には当たらない。
 また、同条に基づく注意を行うに際し、前記の弁明の手続きに加え、別途、Xに弁明の手続きを付与することは手続き上予定されていない。
 したがって、上記2件の注意に際し、Xに弁明の手続きが付与されていないことにより、Xの言論の自由、人格権並びに公正な聴聞を受ける権利が不当に侵害されたとは言えない。

(3)懲戒処分に当たらない上記2件の注意は、処分性を有するものではなく、Xに生じる不利益は、Xの自負心を損なうなどの精神的不利益にとどまるが、この点においてXに対する不利益取扱いに当たると解する余地がある。もっとも、当該2件の注意は、同じ組合員であるD氏〔注 当時、M部長〕とXとの間及び課長CとXとの間の業務に関するメールのやりとりにおいて、Xがメール送信した内容を対象とするもので、Xが組合員であることやXの組合活動を理由とするものではない。
 また、Xが平成24年6月から平成27年6月までの間、執行副委員長を務め、平成27年6月から平成29年6月までの間は執行委員会アドバイザーとして執行委員会や団体交渉の場に出席していたことからすれば、Xが組合活動において中心的な役割を担っていたことがあるといえる。もっとも、①平成29年7月以降、令和2年3月4日までの間にXが団体交渉に関与したのは、一組合員として関与したにとどまり、令和2年3月4日以降、Xは、Xと組合の団体交渉に関与したことはないこと、②令和2年以降のXと組合との団体交渉の経過や内容をみても、組合がXの当該注意が組合に対する支配介入であるなどと取り上げたことはないことからすれば、当該2件の注意により、Xの言論活動を委縮させ、組合活動を弱体化させることを企図したとはいえない。

(4)したがって、Xに対する2件の注意は、労働組合法第7条第1号にいう不利益取扱い及び同条第3号にいう支配介入には当たらない。

2 令和3年5月28日、課長C及びD氏のハラスメント申立てに係るハラスメントの苦情相談に関し、委員会が、委員会の結論・理由を通知せず、Xの言動をハラスメントであると認定したことは、労働組合法第7条第1号及び同条第3号の不当労働行為に当たるか。【争点2】

(1)Xは、「令和3年5月28日、委員会が、Xの言動をハラスメントと認定したことは、組合の中心的役割を果たしてきたXに対するものであり、Xの正当な組合活動を理由とする不利益取扱いであるとともに、Xの言論活動を萎縮させることにより、組合活動を弱体化させることを企図した支配介入行為である」と主張する。

(2)この点に関し、法人は、委員会がXの言動をハラスメント認定した事実を争うが、一連の経過からすれば、委員会が、(課長Cの申立てに係る事案について)事実関係調査により、Xの言動をハラスメント認定した事実が認められる。
 また、Yは、ハラスメントの認定は学長の権限である旨主張するが、委員会はハラスメントの該当性を判断し、学長に報告する立場にあるといえ、学長の認定とは別に、委員会としての判断はなされている。

(3)委員会の認定は、課長CとXとの間の業務に関するメールのやりとりに起因する苦情申立てに基づくものであり、ハラスメントの防止に関する規程に基づく事情聴取等の手続きを経て認定されており、Xが組合員であることやXの組合活動を理由とするものではない。また、組合は、委員会の当該認定を組合に対する支配介入行為と捉えていない。
 また、確かに、委員会は、令和3年5月28日に委員会から学長に対してなされた調査結果・理由をXに通知していないが、これは、同規程第13条では、委員会の経過及び調査結果について、対象者に対する報告は定められていないことによるもので、Xが組合員であることやXの組合活動を理由としたものではなく、組合活動の弱体化を企図したものとはいえない。

(4)さらに、委員会は、令和3年度第1回から第3回までの委員会の開催に際し、令和3年度の委員2名を招集していないが、その理由は、事実関係調査自体は令和2年度に行われており、当該事実関係調査を担当した令和2年度の委員を招集して報告書のまとめを行うこととしたためであり、委員会としての独立性は担保されている。
 令和3年度の委員2名を招集せず、引き続き令和2年度の委員を招集して委員会を開催したことは、Xが組合員であることやXの組合活動を理由としたものではなく、組合活動の弱体化を企図したものともいえない。

(5)したがって、委員会がXの言動をハラスメントと認定したことは、労働組合法第7条第1号にいう不利益取扱い及び同条第3号にいう支配介入には当たらない。

3 課長Cのハラスメント申立てに係るハラスメントの苦情相談について、委員会が虚偽申立てか否かの調査を行わなかったことは、労働組合法第7条第1号の不当労働行為に当たるか。【争点3】

(1)Xは、「課長Cのハラスメントの苦情申立ては虚偽申立てであるとして、Xが調査を求めたにも関わらず、委員会は調査に応じなかった」旨主張する。

(2)しかし、課長Cのハラスメントの苦情申立てに関し、令和3年1月26日及び同年3月18日、委員会による課長Cの事情聴取がなされ、同年2月26日には同委員会によるXの事情聴取もなされている。委員会による事情聴取は、まさに、苦情申立ての対象となった行為の有無につき、その事実関係を調査するための手続きである。
 Xが、前記事情聴取の際に、課長Cの苦情申立ては虚偽申立てであるとして調査を求めたことは、当該苦情申立ての対象となった行為はないとするXの主張であり、これも併せ、委員会による調査が行われている。Xの求めにより、行為の有無についての事実関係の調査とは別に、Xの課長Cの苦情申立てが虚偽申立てであるとの苦情申立てとして扱い、事実関係調査をしなければならないものではない。

(3)したがって、Xが主張する委員会が調査に応じなかったとはいえず、労働組合法第7条第1号にいう不利益取扱いの存在を認めることはできない。

4 令和3年4月1日、学長・理事長BがD氏をN科長に任命したことは、労働組合法第7条第1号及び同条第3号の不当労働行為に当たるか。【争点4】

(1)Xは、「学長がD氏をN科長に任命したことが、Xに対する不利益取扱いであるとともに、Xの言論活動を萎縮させ、さらにはD氏を執行部サイドに取り込むことにより、組合活動を弱体化させることを企図した支配介入行為である」と主張する。

(2)学長には、管理職の任命につき裁量が認められており、学長が、組合員であるD氏をN科長に任命したのも、裁量に基づく判断と認められる。
 Xと対立関係にあるD氏がN科長に任命されたことにより、事実上、XのN研究会への出席等が困難になるとしても、それは、XのD氏に対する個人的な感情によるものにとどまり、Xの大学教員としての審議・評決権を侵害するものとはいえないし、N科長職が組合活動との関連性を有しないことなどに鑑みると、Xの主張することを企図したものともいえない。また、組合が、学長によるD氏のN科長への任命を支配介入と捉え、Xに対し、抗議をしたことはなく、組合から不当労働行為である旨の主張はなされていない。

(3)したがって、学長によるD氏のN科長への任命は、労働組合法第7条第1号にいう不利益取扱い及び同条第3号にいう支配介入には当たらない。

5 令和3年2月26日、XがD氏に対し、組合がXに対して提出した緊急申入書を交付したことについては、申立期間を徒過していないといえるか。また、申立期間を徒過していないとした場合、労働組合法第7条第1号及び同条第3号の不当労働行為に当たるか。【争点5】

(1)Xは、「XがD氏に対し、組合がXに対して提出した緊急申入書を交付したことについては、〔事件概要の〕申立事項①ないし④及び⑥と継続する一連の行為といえ、申立期間を徒過していない」旨主張する。

(2)そこで検討するに、XがD氏に対し、組合から提出された緊急申入書をメール送信の方法により交付したのは、令和3年2月26日であり、Xは、当該メール送信の行為の日から1年を経過した後の、令和4年3月2日に本件申立てをしている。
 当該メール送信は、申立事項①ないし④及び⑥の各行為と関連性を有するものではなく、これらと継続した行為とみることはできない。また、①ないし④の各行為については、不当労働行為に当たらず、一つの不当労働行為意思に基づく一つの行為と評価することもできない。

(4)したがって、上記メール送信に係る申立ては、申立期間を徒過したものとして、却下せざるを得ない。

6 令和2年11月26日、課長CがD氏に対し、Xが行ったD氏との関係排除要請を伝えたことについては、申立期間を徒過していないといえるか。また、申立期間を徒過していないとした場合、労働組合法第7条第1号の不当労働行為に当たるか。【争点6】

(1)Xは、「課長CがD氏に対し、Xが行ったD氏との関係排除要請を伝えたことについては、①ないし⑤と継続する一連の行為といえ、申立期間を徒過していない」旨主張する。

(2)そこで検討するに、課長CがD氏に対し、当該要請を伝えたのは、令和2年11月26日であり、Xは、課長Cの行為日から1年を経過した後の、令和4年3月2日に本件申立てをしている。
 当該課長Cの行為は、①ないし⑤の各行為と関連性を有するものではなく、同①ないし⑤と継続した行為とみることはできない。また、①ないし④の各行為については、不当労働行為に当たらず、一つの不当労働行為意思に基づく一つの行為と評価することもできない。

(3)また、Xは、⑥の行為について、申立人が令和3年8月27日に行った個人情報利用停止請求に対して、被申立人は同年10月25日に非利用停止決定を行い、現在に至るまで漏洩行為に対して何の措置も講じていないから、同⑥の行為のみを考慮しても申立期間は徒過していない、と主張する。しかし、上記課長Cの行為は、それらとは別個の行為であり、また、これらの行為を継続した行為とみることもできない。

(4)したがって、上記課長Cの行為に係る申立ては、申立期間を徒過したものとして、却下せざるを得ない。 

[先頭に戻る]
 
[全文情報] この事件の全文情報は約319KByteあります。 また、PDF形式になっていますので、ご覧になるにはAdobe Reader(無料)のダウンロードが必要です。