労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  北海道労委令和4年(不)第3号
不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和6年6月10日 
命令区分  全部救済 
重要度   
事件概要   本件は、組合が申し入れた団体交渉に会社が誠実に応じなかったことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 北海道労働委員会は、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、(ⅰ)組合が計30件の要求書等をもって申し入れた団体交渉について、不誠実な交渉態度を是正し、必要に応じてその主張の根拠となる資料を組合に提示するなどしつつ、誠実に交渉に応じなければならないこと、(ⅱ)文書の掲示を命じた。 
命令主文  1 会社は、組合が申し入れた下記の団体交渉について、不誠実な交渉態度を是正し、必要に応じてその主張の根拠となる資料を組合に提示するなどしつつ、誠実に交渉に応じなければならない。
(略)
〔注〕命令書においては、「(1)令和3年9月8日付け2021年度暖房手当に関する要求書」から「(30)令和5年1月12日付け抗議書兼要求書」までの30件の要求書等が掲げられている。

2 会社は、次の内容の文書を縦1.5メートル、横1メートルの白紙に楷書で明瞭かつ紙面いっぱいに記載し、会社本社の正面玄関の見やすい場所に、本命令書写し交付の日から7日以内に掲示し、10日間掲示を継続しなければならない。
 当社は、組合から申し入れられた団体交渉に対して、下記の1から5までの対応をとったことが労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると北海道労働委員会に認定されました。
1 組合が団体交渉を要求していたにもかかわらず、組合の下部組織であるC支部の執行委員長の組合員としての資格及び執行委員長としての資格の有無並びに組合が最終的な協定等の締結当事者ではないことを問題として、これらを理由に団体交渉を拒否したこと
2 組合が対面での団体交渉を求めていたにもかかわらず、オンライン会議システムの方法での協議に固執し、対面での団体交渉を拒否したこと
3 組合が団体交渉を要求したのに対して、速やかに団体交渉日程を調整せず、また、開催時間を1時間に限定することに固執し、団体交渉が実現していないこと
4 特定の出席者の団体交渉への参加をあらかじめ拒否し、当該出席者の参加がなされることを理由に団体交渉を拒否したこと、組合の構成員に対して、陳謝、謝罪を要求し、誓約書の提出を求め、これらがなされないことを理由に団体交渉を拒否したこと
5 組合が団体交渉に当たって資料等の提示を含めた経緯の説明を求めたことに対して、誠実な対応をしなかったこと
 今後は、このような行為を繰り返さないようにします。
 年 月 日

X組合
 執行委員長 A1様
Y会社        
代表取締役 B1 
判断の要旨  1 本件救済申立てにおいて審査の対象となっている団体交渉の申入れは、令和3年9月8日付けから令和5年1月12日付けまでの合計30回に及ぶが、いずれについても、①結果として団体交渉が実現していないこと、②組合が会社の「雇用する労働者の代表者」であること及び③組合が要求した交渉事項が義務的団体交渉事項に該当することは、当事者に争いがない。
 したがって、本件救済申立てのうち、組合が求める団体交渉に対する会社の対応が労働組合法第7条第2号違反を構成するか否かは、会社がこれらの団体交渉を「正当な理由がなくて拒」んだと評価できるか否かを判断すべきである。
 そこで、以下では、組合において、団体交渉が実現していない会社対応として主張する4点について、組合の要求する団体交渉を会社が「正当な理由がなくて拒」んだものと評価できるか否かを順に検討する。
 なお、組合は、同号違反の不当労働行為に該当する会社の行為として、令和4年11月25日以降の団体交渉要求に際し、組合が団体交渉開始に先立って資料開示や事前照会を求めたのに対して、会社が誠実な対応をしなかったことも挙げるので、別個に検討する。

2 組合の下部組織であるC支部の執行委員長の組合員としての資格及び執行委員長としての資格の有無並びに組合が最終的な協定等の締結当事者ではないことを問題として、これらを理由に団体交渉を拒否したことについて

(1)会社は、概要、①C支部委員長A2の代表者としての資格に疑義があること及び②組合が最終的な協定等の締結当事者ではないことを理由に、組合から要求された団体交渉に応じる必要はないと主張する。

(2)このうち、①の主張について検討するに、そもそもC支部は組合の下部組織にすぎないところ、組合は下部組織とは独立した交渉主体として協定等の締結当事者にもなり得る以上、たとえ下部組織の代表者としての資格について会社として何らかの疑義を有していたとしても、組合との関係で会社が団体交渉を拒否する「正当な理由」とはなり得ない。

(3)次に、②の主張に関しては、要領を得ない上に、そもそも本件で会社が団体交渉を拒否する真の理由であったとは認め難い。
 しかし、念のため検討するに、これまでの組合と会社との交渉の経緯によると、組合は、従前から会社との交渉を行う相手方当事者とされており、協定等の相手方当事者ともなってきた以上、会社の主張は不可解であり、少なくとも本件において団体交渉を拒否する「正当な理由」に当たるとは認め難い。
 なお、仮に組合に従前の交渉実績がなく、あるいは、協定等の締結当事者になったことが一切ないとしても、そもそも単位組合の上部団体は、下部組織の組合員たる労働者を雇用する使用者に対して固有の団体交渉権を有するところであり、組合が上部団体であることを理由に、使用者が団体交渉を拒否することはおよそ正当といえない。

(4)よって、会社の行為は、「正当な理由」のない団体交渉拒否として、法第7条第2号によって禁止された不当労働行為に該当する。

3 組合が物理的な空間を共有して相対するという意味における対面での団体交渉を求めていたにもかかわらず、会社がオンライン会議システムの方法による協議に固執したことについて

(1)法第7条第2号の趣旨に照らすと、使用者は、団体交渉を実効的なものにするため、誠実な対応を通じて合意達成の可能性を模索する義務があり、それを尽くすことなく、自己の主張に固執し、具体的な協議を行おうとしないことは、誠実な交渉態度とはいえず、実質的に団体交渉を拒否したものというべきである。

(2)交渉の場所、時間、議事の進行、記録の有無及び方法等の団体交渉を実施する具体的方法や開催の条件等は、労使間の合意によって決定するのが本来のあり方である。
 しかし、使用者が、団体交渉の実施に当たって、一定の方法によることや特定の条件が充たされること等に固執し、その方法・条件等によらない限り、団体交渉の開催を拒否するとの態度に出ることがあり、労働組合等が当該方法・条件等をそのまま受け入れない限り、結果として団体交渉が開催されないままになるという事態が生じ得る。そのような場合、使用者は、実質的に団体交渉を拒否したものと評価できる。

(3)そして、使用者が一定の方法や特定の条件等に固執した結果として生じる団体交渉の拒否について、なお使用者に団体交渉を拒否する「正当な理由」があるといえるか否かは、従前の労使関係や団体交渉等の経過を踏まえつつ、使用者にのみ団体交渉義務を課した法の趣旨にも照らし、具体的事案の下で、使用者が固執する団体交渉開催の方法・条件等の内容について、①やむを得ない必要性が認められるか否か、②円滑な団体交渉実施等の観点に照らして客観的に合理的なものか否か、③団体交渉を要求する労働組合等の利益を害する可能性があるか否かなどの事情を総合し、当該方法・条件等の必要性、合理性等が特に認められない限り、当該方法・条件等によらないことを理由にした使用者の団体交渉拒否は「正当な理由」がないというべきである。

(4)会社は、インターネットを通じたオンライン方式での団体交渉には応じるとし、それゆえ「対面」での団体交渉を拒否していないと主張する。しかし、組合との間で団体交渉の開催方式に対立があることには疑いの余地がなく、結果として本件で団体交渉が実現していないのは、組合がごく一般的な意味における「対面」での団体交渉を主張しているのに対し、会社がこれを受け入れずオンライン方式による「対面」での団体交渉という開催方法に固執したためといえる。

(5)そして、会社は、そのような方法に固執したのは、組合が求める意味における「対面」での団体交渉が現代的でなく、いわゆるコロナ禍での団体交渉の方式としては不適切であるためなどと主張する。
 しかし、組合と会社は、これまでオンライン方式での団体交渉を行ったことはなく、物理的な空間を共有して相対するという意味における「対面」での団体交渉のみを長年にわたって実施してきており、過去に疑義を呈されたこともなかったことに照らすと、突如としてそのような意味における「対面」での団体交渉の前時代性を強調してこれに一切応じないとする会社の主張は不可解かつ不合理といわざるを得ない。
 また、いわゆるコロナ禍での団体交渉であることについても、本件審査の対象となる団体交渉申入れがなされた令和3年9月以降は、既に「ウィズ・コロナ」として経済活動と新型コロナウイルス感染症の予防策との両立が模索されていた時期に当たり、物理的な空間を共有して相対する際の予防策についても相当な知見の蓄積があったことは公知の事実である。
 加えて、会社の常務B2も、いまだ新型コロナウイルス感染症が2類相当感染症にとどまる令和5年2月に申立外D組合の新年交流会に参加し、交流を図っていたこと等に照らすと、いわゆるコロナ禍であることを理由にオンライン方式での団体交渉という開催方法に固執する会社の主張には、その必要性も合理性もおよそ認められない。

(6)これらから、会社は、「正当な理由」なく組合が要求する団体交渉を拒否したと認められる。

4 組合が団体交渉を要求したのに対して、速やかに団体交渉日程を調整せず、また、開催時間を1時間に限定することに固執したことについて

(1)使用者は、誠実な交渉態度を通じて合意達成の可能性を模索する義務があり、また、使用者が団体交渉の開催に当たって一定の方法や特定の条件等に固執する場合には、従前の労使関係や団体交渉等の経過、使用者にのみ団体交渉義務を課している法の趣旨を踏まえつつ、諸般の事情を総合して当該開催方法・条件等に必要性、合理性等が特に認められるか否かを判断すべきである。

(2)まず、本件における団体交渉の日程調整の経緯を確認すると、会社は、団体交渉に係る開催日時の候補日を組合に提示したかと思えば、これに対する組合の対応で用いられた「労使協議」という表現に疑義を呈すなど、不可解な論理で組合の対応を論難し、合理的な理由なく組合との団体交渉の日程調整を遅延させたものといえ、使用者に求められる誠実な交渉態度であったとはいい難い。

(3)また、組合が開催時間を1時間に限定することなく誠実に対応するように求めているのに対し、会社は、①所定労働時間外の開催であるため、1時間が限界である、②1回の協議時間を1時間とするにすぎず、必要に応じて回数を重ねれば足りる、③所定労働時間外であることから、開催時間を1時間に限定すべきなどと主張するが、いずれについても、必要性や合理性は認められない。

(4)これらから、会社が速やかに団体交渉日程を調整せず、また、団体交渉の開催時間を1時間に限定するという開催条件に固執したことは、「正当な理由」のない団体交渉拒否に該当する。

5 特定の出席者の団体交渉への参加をあらかじめ拒否し、当該出席者の参加がなされることを理由に団体交渉を拒否したこと、組合の構成員に対して、陳謝、謝罪を要求し、誓約書の提出を求め、これらがなされないことを理由に団体交渉を拒否したことについて

(1)会社は、組合からの団体交渉の申入れに対し、支部委員長A2、支部書記長A3及び組合書記長A4の団体交渉への参加を認めず、特にA4については謝罪又は誓約書の提出がない限り参加を認めないなどと繰り返し回答した。
 しかし、本来、団体交渉に代表として誰を参加させるかは労働組合等が自主的に決めるべきことであって、使用者が特定の者の出席を一方的に禁じたり、条件付きでの参加を認めたりすることは、このような労働組合等の自主性を侵害するもので、そもそも許されない。
 また、仮に、組合からの参加者の中に会社において信頼関係の構築が困難と考える者が含まれているとしても、それは団体交渉義務を負う使用者が団体交渉の開催条件等にできるような事柄ではなく、団体交渉を開催した上で、労使間での誠実な協議を通して自主的に解決すべき事柄である。団体交渉の開催に当たって使用者が一定の方法や特定の条件等に固執する場合には、諸般の事情を総合して当該開催方法・条件等に必要性、合理性等が特に認められるか否かを判断すべきところ、会社が指定する特定の者の不参加、あるいは、同人の謝罪等を団体交渉の開催条件とすることについて、その必要性、合理性等がおよそ認められないことは明らかである。

(2)したがって、会社が、①特定の出席者の参加をあらかじめ拒否し、当該出席者の参加がなされることを理由に団体交渉を拒否すること、②組合の構成員に対して、陳謝、謝罪を要求し、誓約書の提出を求め、これらがなされないことを理由に団体交渉を拒否することは、いずれも「正当な理由」のない団体交渉拒否といえる。

6 団体交渉に当たって関係資料の提示等を求めた組合の要求に係る会社の対応が団体交渉の拒否といえるか

(1)組合は、本件において労働組合法第7条第2号の不当労働行為に該当する会社の行為として、令和4年11月25日以降の団体交渉要求に際し、組合が団体交渉開始に先立って資料開示や事前照会を求めたのに対し、会社が誠実な対応をしなかったことも挙げている。
 この点、労働組合法が、団体交渉に先立って労働組合等が要求する資料の開示や事前照会に広く一般的に応ずべき義務までも使用者に課しているとは解し難いものの、会社は、義務的団体交渉事項について組合が要求する団体交渉に誠実に応ずべき義務を負うものであり、労働組合等の要求や主張に対して単に回答するのみならず、必要に応じて自らの主張の根拠を具体的に説明し、そのために必要な資料を組合に対して提示する義務を負う。
 したがって、労働組合等が(義務的団体交渉事項に係る)団体交渉に当たって使用者に対して関係する資料の提示等を求めている場合も、使用者としては、上記のような意味でこれに誠実に対応しない限り、やはり団体交渉を拒否したものとして労働組合法第7条第2号に違反すると解される。

(2)本件において、組合は、いかなる根拠でD組合の組合員及び非組合員に対して暖房手当や冬季生活支援金を支給したものであるか、協定書の開示を含めてその具体的根拠を説明するよう求めている。これは、C支部の組合員にはこれら手当や支援金が支給されない状態が生じている一方で、D組合の組合員や非組合員には円滑にこれらの手当等が支給されたことに照らし、組合が会社に対してその経緯を具体的な資料をもって明らかにするよう求めることにより、C支部の組合員の待遇改善という義務的団体交渉事項に係る団体交渉要求の実現を企図したものと解される。そうすると、会社としては、このような組合からの要求に対しても誠実に対応し、必要に応じて資料を提示するなど、その具体的根拠を挙げて回答すべき義務を免れない。

(3)ところが、会社は、組合の要求に対し、再三にわたり組合が要求を重ねた結果として「議事録等の資料は残っておりません」など資料の存否のみを回答したにとどまり、D組合の組合員及び非組合員に対してのみ手当等が支給されるに至った経緯を何ら具体的に説明していないのであるから、組合からの要求に誠実に応じていたとはいい難い。
 したがって、組合が令和4年11月25日以降の団体交渉要求において関係資料の提示等を求めたのに対し、会社が誠実に対応しなかったことも、労働組合法第7条第2号が禁止する団体交渉拒否に該当する。

7 以上のとおり、本件において、組合が申し入れた一連の団体交渉要求に対して会社が上記2~5の対応をし、また、組合が要求する関係資料等の提示の求めに会社が誠実に対応しなかったことは、いずれも労働組合法第7条第2号に違反する不当労働行為に該当する。 

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