概要情報
事件番号・通称事件名 |
石川県労委令和5年(不)第2号・第5号 |
申立人 |
X組合(組合) |
被申立人 |
Y会社(会社) |
命令年月日 |
令和6年7月30日 |
命令区分 |
全部救済 |
重要度 |
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事件概要 |
本件は、①会社が組合委員長A1の令和5年度夏期一時金を令和4年度冬期一時金の支給額より減額したこと、②会社代表取締役B(以下「代表者」)が、組合役員に対し、組合員A7の退職金を支払わないと発言したこと、③会社が組合の令和5年6月29日付け及び同年8月8日付け団体交渉の申し入れを拒否したこと、④代表者が個人面談において、組合員A3ら7名に対し、組合に否定的かつ脱退を勧める発言をしたこと、⑤会社がA1に懲戒処分(出勤停止)を行ったこと、⑥会社が組合の令和5年12月18日付け団体交渉の申入れを拒否したことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
石川県労働委員会は、①及び⑤について労働組合法第7条第1号、②について同条第1号及び第3号、③及び⑥について同条第2号、④について同条第3号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、(ⅰ)A1の令和5年度夏期一時金についての正当な評価の実施と不足分の賃金の支払、(ⅱ)③の申入れに係る団体交渉に誠意をもって応じなければならないこと、(ⅲ)組合員に対し、組合からの脱退を勧誘するなどして組合の運営に支配介入してはならないこと、(ⅳ) A1に対する懲戒処分(出勤停止)の取消し及びバックペイ、(ⅴ)⑥の申入れに係る団体交渉に誠意をもって応じなければならないこと、(ⅵ)文書の交付及び掲示を命じた。 |
命令主文 |
1 会社は、組合の執行委員長A1の令和5年度夏期一時金について、正当な評価をおこない不足分の賃金を支払わなければならない。
2 会社は、令和5年6月29日付け及び同年8月8日付けで組合が申し入れた団体交渉に誠意をもって応じなければならない。
3 会社は、組合の組合員に対し、組合からの脱退を勧誘するなどして組合の運営に支配介入してはならない。
4 会社は、組合の執行委員長A1に対して行った令和5年12月18日付け懲戒処分(出勤停止)を取り消すとともに、出勤停止期間中の賃金を支払わなければならない。
5 会社は、令和5年12月18日付けで組合が申し入れた団体交渉に誠意をもって応じなければならない。
6 会社は、本命令書受領の日から7日以内に、下記内容の文書を組合に交付するとともに、下記内容をA3サイズの白紙に明記し、これを会社の従業員の見やすい場所に14日間掲示しなければならない。
記
X組合
執行委員長 A1殿
令和 年 月 日
Y会社
代表取締役 B
当社が、A1氏の令和5年度夏期一時金を減額したこと、組合員の退職金不支給を示唆したこと、団体交渉に応じなかったこと、組合員に脱退を勧誘したこと及びA1氏に出勤停止の懲戒処分を行ったことは、いずれも労働委員会において不当労働行為と認定されました。
今後は、このような行為を繰り返さないように留意します。
以上 |
判断の要旨 |
1 組合は労働組合法第2条但書第1号に該当するか(争点1)
(1)会社は、組合委員長A1並びに組合員A2、A3及びA4が従業員の採用について実質的な人事権限を有しており、労働組合法(以下「法」)第2条但書第1号に定める「使用者の利益を代表する者」(以下「利益代表者」)に当たる、と主張する。
しかし、「利益代表者」とは、雇入れに関して「直接」の権限を持つ監督的地位にある労働者に限られ、最終的な判断・決定が上位職制者に委ねられている場合はこれに該当しないところ、会社において、①雇入れに関する最終的な判断・決定は代表者が行い、②A1ら4名は代表者が判断・決定するにあたり参考意見を述べていたにすぎないと解されるから、A1ら4名が雇入に関して「直接」の権限を持つ監督的地位にある労働者であるとはいえない。
(2)また、会社は、A1ら4名が「使用者の労働関係についての計画と方針とに関する機密の事項に接し、そのためにその職務上の義務と責任とが当該労働組合の組合員としての誠意と責任とに直接てい触する監督的地位にある労働者」(以下「監督的地位にある労働者」)に当たる、とも主張する。
しかし、監督的地位にある労働者とは、一般に人事・労務部署の管理職を指すと解されているところ、A1ら4名はこれに該当しない。実質的にみても、A1及びA2が交代勤務(シフト)を組む立場にあって、自らは交代勤務が免除されたり、業務上、財務諸表を目にすることなどがあったとしても、それらから直ちに、「機密の事項」に接していたとも、組合員としての誠意と責任とに「直接てい触する」ともいえない。
法第2条の趣旨からすると、「利益代表者」に当たるか否かは、その労働者の加入によって労働組合の自主性が損なわれるような重要な地位・権限を有するかという観点から判断すべきであるが、A1ら4名がそのような重要な地位・権限を有していたと認めることは困難である。
現に、組合と会社は極めて深刻な対立状況にあり、A1ら4名の加入によって労働組合としての自主性が損なわれている(御用組合化している)と解することはできない。
したがって、A1ら4名が監督的地位にある労働者に該当すると認めることもできない。
(3)これらから、組合は法第2条但書第1号には該当しない。
2 会社が組合の執行役員であるA1の令和5年度夏期一時金を令和4年度冬期一時金の支給額より減額したことは、法第7条第1号の不利益取扱の不当労働行為に当たるか。(争点2)
(1)以下の組合員について、令和5年度夏期一時金は、令和4年度冬期一時金から以下のとおり減額されており、組合役員の減額率が著しく高い。
○組合役員6名(A1~A6)
減額 297,963円~109,755円 減額率 57.25%~31.81%
○組合員6名
減額 平均25,127円 減額率 平均14.01%
(2)この点につき、会社は、業績の悪化が減額の原因と主張するが、少なくとも売上げについては令和4年度と令和5年度とで有意な差は認められないなど、組合役員6名の令和5年度夏期一時金が大幅に減額されるべき合理的な理由とはいえない。
(3)また、会社は、A1らが賃金に見合った業務を行っておらず、報告・連絡・相談をせず、業務のレベルが低下したことも、減額の理由としている。しかし、具体的に、誰の、どのような業務について、どのように業務レベルが低下したのかが判然とせず、会社の主張する事実そのものを認めることができない。
(4)さらに、A1は、「令和5年6月29日、第2回団体交渉の申入れをした際、代表者は『組合を続けるなら賞与は与えられない』旨発言した」と供述しているところ、代表者が組合員A7の退職金を支給しない旨発言した事実(後記3)や、代表者の強い組合嫌悪から、そのような旨の発言をしたとしても何ら不自然ではない。
(5)令和5年度夏期一時金の査定期間は令和4年12月から令和5年5月であるが、この期間中に発生した出来事として認定できるのは、A1らによる労働組合の結成、その会社への通知及び組合による労働条件等の改善要求のみである。
そして、組合結成当時の組合員数はA1~A6の6名で、すべて組合役員となったものであり、この6名に具体的な業務上の成績不良等が認められない以上、当該一時金の減額は、労働組合を結成したこと及び労働組合の正当な行為をしたことの故をもって、不利益な取扱いをしたものと解さざるを得ず、法第7条第1号の不利益取扱の不当労働行為に当たる。
3 代表者は、組合に対し、A7の退職金を支払わないと発言したか。発言した場合、法第7条第1号の不利益取扱の不当労働行為に当たるか(争点3)
書証の検討や、代表者の強い組合嫌悪などから、令和5年6月29日、組合が会社に第2回団体交渉を申し入れた際、代表者からA1らに対し、「組合員である以上、A7の退職金は支払わない」旨の発言がなされたと認められる。
当該発言は、法第7条第1号の不利益取扱いの不当労働行為に該当するとともに、同条第3号の支配介入の不当労働行為にも該当する。
4 組合の令和5年6月29日付け及び同年8月8日付け団体交渉の申入れを会社が拒否したことは、法第7条第2号の団体交渉拒否の不当労働行為に当たるか(争点4)
(1)会社は、第2回団体交渉に応じなかったことにつき、「(令和5年6月6日の)第1回団体交渉時に手渡した回答書に対する回答を(同年6月26日に)組合に求めるとともに、要求書により会社の意向を明確にしたにもかかわらず、組合は、これに回答せず、漫然と団体交渉の申入れと称した要求を繰り返していたことから、団体交渉の拒否には当たらない」と主張する。
(2)しかし、組合側の回答は、必ず第2回団体交渉前に文書で提出されなければならないものではなく、そのような合意も認められない。
第2回団体交渉申入れにおいて、団体交渉の議題として「会社から受けた回答に対する組合回答」を挙げていることから、組合は、団体交渉の場において、会社の回答書に対する回答を予定していたものであり、会社側で団体交渉を拒否できる合理的な理由は見いだしがたい。
(3)また、会社は、組合が労働組合法上の「労働組合」に該当しないことを理由として第2回団体交渉を拒否しているが、組合が同法上の「労働組合」であることは明らかであるから、会社は団体交渉を拒否することはできない。
(4)これらから、会社の対応は、法第7条第2号の団体交渉拒否の不当労働行為に当たる。
5 令和5年8月21日のA5及び組合員A8に対する代表者の発言、同年8月22日の組合員A9及びA10に対する代表者の発言、同年8月30日の組合員A11、A12及びA13に対する代表者の発言は、労組法第7条第3号の支配介入の不当労働行為に当たるか。
(1)これら代表者の発言は、会社が労働組合の存在に強く反対していることを表明するほか、組合費が徴収されることによる経済的負担、将来組合運営を担わなければならない精神的負担、組合活動により休日等が自由に使えなくなることなどの不利益、会社倒産による解雇のリスクなど、労働組合員であることによる不利益をことさら強調するなどして、組合へ加入しても「得がない」こと、または今のトレンドに反することを強調するものである。
(2)これについて、会社は、労働組合の結成について反対の意向を示しているに過ぎず、脱退を勧めたり、結成を阻止するなどといったことは一切申し向けておらず、いずれも支配介入に該当しない、と主張する。
しかし、代表者は、(労働組合結成通知書を受領したにもかかわらず、労働組合法上の労働組合は存在しないという認識であったため)A9らに対し、組合はまだ成立しておらず、「組合に加入しても得はない」という言い方をしているが、これは、実質的には、組合からの脱退を強く求める趣旨の発言であると解さざるを得ない。
(3)代表者は、短期間のあいだに、7名の従業員に対し、ほぼ同様の内容の発言をしており、会社の方針として、組合の弱体化を図る目的で個人面談を行ったと解される。
そして、これら代表者の発言は、入社してから勤務年数が短い従業員に対してなされ、個人面談の場において代表者がほぼ一方的に発言していることから、相当程度の影響力があったことは想像に難くない。結果として当該7名はすべて組合から脱退したことからみても、発言は、不利益の示唆等による威嚇の効果を持つとともに、組合活動を萎縮させ、組合を切り崩す効果を持つものであったことは明らかである。
(4)よって、これら代表者による発言は法第7条第3号の支配介入の不当労働行為に当たる。
6 会社がA1に懲戒処分(出勤停止)を行ったことは、法第7条第1号の不利益取扱の不当労働行為に当たるか(争点6)
(1)A1に対する令和5年12月18日付け懲戒処分(以下「本件懲戒処分」という。)の理由は、①従業員面談の際に従業員に録音機を持たせて盗聴させ(業務妨害行為)、社内での会議及び会話をできない状態にしたこと、②取引先に対して会社に不利益となる情報を漏らし、さらに自己の権限を越えて会社の利益を左右する重大な経営判断をし、会社に多大な損害を生じさせたことである。
(2)まず①について、個人と個人の会話を無断で録音されることにより、それ以降は慎重に言葉を選んで話すようになってしまうなど、意思疎通するうえで多少の障害が生じうることは否定できないが、会議等の開催ができなくなるほど深刻な影響を与えたとまで認めることは困難である。
また、会社は業務を著しく停滞させたとも主張するが、具体的にどのような業務がどの程度停滞したのか、また、かりに業務の停滞があったとしても、それに対して、A1の指示による録音がどの程度影響を与えたのかも明らかではない。
他方、組合は、録音は、個人面談における、代表者による支配介入の事実の立証のために行った旨主張するところ、代表者のA9らに対する発言は支配介入に該当するものであり、A1が支配介入の事実を立証するため録音という手段を用いたことはやむを得ない側面もあったと考えられる。
これらから、個人面談における録音の指示は、懲戒処分の客観的合理的な理由に当たるとまではいえない。
(3)②について、A1が(発注者である)D会社の担当者に連絡〔注発注に対し生産能力が追いつかない旨など〕したのは、受注製品を加工する油圧配管が破損したため、受注予定個数を生産できるかどうか不確定となり、取引先に迷惑がかからないようにするための措置と認められる。
(4)これに対し、会社は、A1が取引先に対し会社に不利益となる情報を漏らし、さらに自己の権限を越えて会社の利益を左右する重大な経営判断をし、会社に多大な損害を生じさせたと主張する。しかし、会社は、A1に対し、「客先への折衝」、「納期対応」など幅広い業務について権限を委譲していた事実が認められるから、「自己の権限を越えて」会社の利益を左右する重大な経営判断をしたとはおよそ認められず、また、多大な損害の発生を裏付ける証拠もない。
そして、①A1の上記対応について、翌日、代表者は「様子見したいと思います」とA1にメールしていること、②会社は、多大な損害が発生したと主張しながら、その後、約6ヶ月もの間なんらの対応もしていないことからも、第2の点も客観的合理的な理由たり得ない。
(5)そうすると、本件懲戒処分は客観的合理的な理由を欠くから、会社はこれを取り消すとともに、A1に対し出勤停止期間中の賃金を支払わなければならない。
本件懲戒処分は、組合に対する嫌悪の念を強く抱いている会社が労働組合活動を継続しているA1に不利益な取扱をしたものと解するほかなく、法第7条第1号の不利益取扱の不当労働行為に該当する。
7 組合の令和5年12月18日付け団体交渉の申入れを会社が拒否したことは、法第7条第2号の団体交渉拒否の不当労働行為に当たるか(争点7)
会社は、①組合が、申入れの当日中に回答を求めること自体が現実的ではないこと、②組合は労働組合法上の労働組合ではないこと、③団体交渉の議題とされたA1及びA3に対する懲戒処分については、同人らが代理人を立てて対応しており、そもそも団体交渉に馴染まないことを団体交渉拒否の理由とする。
しかし、①については、当日中の回答は困難であるとしても、相当期間が経過しても団体交渉に応じていないことの理由にはならず、②についても、団体交渉拒否の正当な理由とはなり得ない。また、③について、A1及びA3による弁護士への依頼は、組合の団体交渉申入れとは別であるから、団体交渉を拒否する正当な理由とはいえない。
よって、団体交渉の申入れを会社が拒否したことは、法第7条第2号の団体交渉拒否の不当労働行為に当たる。 |