概要情報
事件番号・通称事件名 |
中労委令和2年(不再)第30号・第32号
西井商店堺臨海生コン外1社不当労働行為再審査事件 |
再審査申立人 |
Y1会社・Y2会社(30号)、X1組合・X2組合(32号) |
再審査被申立人 |
X1組合・X2組合(30号)、Y1会社・Y2会社(32号) |
命令年月日 |
令和6年7月3日 |
命令区分 |
一部変更 |
重要度 |
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事件概要 |
1 本件は、Y0会社及びY2会社(併せて「会社ら」)が、①X1組合が労働者供給事業を行っているA1センターに対し、平成30年2月1日分以降、A1センターに所属し労働者供給事業により日々雇用で就労する組合員(「日々雇用組合員」)の供給を依頼しなかったこと(「本件供給依頼停止」)、②平成30年2月10日、同年3月10日及び同年6月7日に行われた団体交渉(「本件団交」)で不誠実な対応をしたことが不当労働行為であるとして、X1組合及びX2組合(併せて「組合ら」)が大阪府労働委員会に救済申立てをした事件である。
なお、令和2年9月1日、Y0会社はY1会社に吸収合併された。
2 大阪府労働委員会は、会社らの上記1①の行為は労働組合法(「労組法」)第7条第3号の不当労働行為に該当すると判断し、会社らに文書交付を命じ、組合らのその余の申立てを棄却したところ、会社ら及び組合らは、これを不服として、それぞれ再審査を申し立てた。
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命令主文要旨 |
(1) Y1会社及びY2会社の再審査申立てに基づき、初審命令を取り消し、本件救済申立てを棄却する。
(2) X1組合及びX2組合の再審査申立てを棄却する。
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判断の要旨 |
(1) Y0会社は、組合らの組合員の労組法上の使用者に当たるか
ア Y0会社は日々雇用組合員の雇用主ではない。もっとも、雇用主以外の事業主であっても、労働者の基本的な労働条件等について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にある場合には、その限りにおいて、労組法第7条の使用者に当たると解するのが相当である。
イ まず、会社らの関係性をみると、Y2会社は、Y0会社と同一の所在地に本社を置き、いずれもBグループ(骨材の販売、生コンの製造、生コンの輸送等を営む会社で構成)に属していた。そして、本件供給依頼停止の段階では、会社らの代表取締役はいずれもB1社長であり、会社らの取締役はいずれもB2取締役であることに加え、Y2会社で労働者供給を依頼する等していたB3運行管理者はY0会社からの兼務出向であるなど、会社らの役員及び従業員には共通性があった。また、平成20年にBグループの再建計画が策定された時点では両社の株式はいずれもB1社長が保有していた。さらに、Y2会社は、その受注の9割程度がY0会社からのものであり、Y2会社に供給されたA1センターの日々雇用組合員は、Y2会社から、全て、Y0会社に行くことを指示され、同社の生コンを運搬しており、その取引についても関係性が高かった。
ウ 次に、本件において労働者供給が行われるようになった経緯をみると、平成21年3月19日、Y0会社は、A2分会(A1センターに所属し労働者供給事業に従事する日々雇用組合員で組織された分会)の雇用等について適切かつ迅速な処理を行わなかったことが、X2組合の権益を損ない、X2組合の組合員の就業機会を奪ったことを認め、正式に謝罪するとともに、これらの事項が継続審議事項であることを確認している。Y0会社が生コンの運送事業を行っておらず、同社に組合らの組合員も存在しないことからすると、これは、もっぱらY2会社の事情であるX2組合の組合員の雇用問題について、Y0会社が主体的に謝罪ないし継続審議の確認をしているものと認められる。
エ また、労働者供給の手続は、Y2会社及びY0会社において一体とした運用を行っていたとみざるを得ない。
オ そして、本件供給依頼停止に係る事情についてみると、これが協議された本件団交には、Y0会社とY2会社の共通の役員であるB2取締役が対応したところ、同人は、本件供給依頼停止の理由を、主にY0会社の事情や判断に基づくものとして説明していたものと認められる。
カ 以上のとおりであるから、本件供給依頼停止については、Y0会社は、Y2会社と同視できる程度に現実的かつ具体的な支配力を有していたと認められるから、Y0会社は、この点について労組法第7条の使用者に該当する。
(2) 本件供給依頼停止は、労組法第7条第1号及び第3号の不当労働行為に当たるか
ア 本件供給依頼停止は、労組法第7条第3号の不当労働行為に当たるか
(ア) 会社らないしBグループは、経営状況の悪化により平成20年3月に作成した再建計画が想定どおり進まず、経営状況が更に厳しくなる中、平成21年3月19日に組合らが行った抗議行動により生コン輸送体制の信頼を失い、C協同組合(大阪府及び兵庫県の生コン製造事業者の組合員企業が取り扱う生コンの共同販売事業を行っている)から割当の制限を受けることになり、さらに、10か年の再建計画は最終的に達成できず、取引銀行から生コン事業の撤退を要求されたというのであるから、Bグループの生コン事業は、本件供給依頼停止の時期には、もはやその存続の可否を真摯に検討しなければならない状況にあったものと考えられる。
そして、その状況において、平成29年12月12日から数日間、X2組合による大阪、兵庫地区の複数の申立外生コン製造事業者等に対する争議行為(「本件ゼネスト」)が生じたのであるが、本件ゼネストのような安定供給を阻害する行動が今後とられた場合には、再建に向けて尽力し、生コン事業を遂行していくには確実な輸送体制の堅持が喫緊かつ最優先の課題だった会社らにとって、極めて重大な事態となり得ることは容易に推認できるのであって、取引銀行から上記のとおり従前から生コン事業からの撤退要求がされていたところ、本件ゼネストを受けて改めて生コン事業からの更なる撤退要求がなされたこと、Y2会社が設立当初に雇用した全ての運転手が退職していたことも併せ考えれば、本件ゼネストによるC協同組合の決議を一つの契機とし、Bグループの存続のため、生コン事業の縮小化を視野に入れ、日々雇用組合員を使用しない旨の決断をしたとしても、そのことは企業行動として合理的である。このことは、Y2会社が最終的に令和2年9月20日に事業活動を終了して廃業し、Y0会社も同月1日にY1会社に吸収合併されているなど、Bグループにおいて生コン事業を担ってきた会社らの合理化が図られていることからも裏付けられるというべきである。
(イ) そして、本件団交におけるB2取締役の対応全体をみるに、同人又はB1社長に組合嫌悪又は組合差別の意図を認めることはできず、かえって、組合らに対し丁寧に対応、説明し、理解を求めていたとみられることは下記(3)で判断したとおりであるし、Y2会社は、本件供給依頼停止後、組合らとの優先雇用協定を理由とし、他の労働組合ないし供給事業所からの供給を受けず、廃業するまで同社に出向している運転手2名のみで業務を続けている。これらの事情に照らせば、会社らに組合嫌悪又は組合弱体化の意思があったと認めることはできない。
(ウ) よって、本件供給依頼停止には、会社ら及びBグループにとって、今後を見据えた経営判断としてやむを得ない合理的な理由があり、組合嫌悪又は組合弱体化の意図によって行われたものであるとはいえない。
(エ) 生コンの安定供給に大きな責任を有し、安定供給を阻害する事態については従前から厳正に対処していたC協同組合が、労働組合活動として正当性が認められない本件ゼネストを受け、組合員企業に組合らの使用を控えること等を通知したことには相応の合理性があり、これら通知が、組合らの弱体化を意図して行われたものとはいえない。よって、会社らが、C協同組合による組合らの弱体化意図を受けて本件供給依頼停止を行ったということもできない。
(オ) 以上のとおりであるから、本件供給依頼停止は、労組法第7条第3号の不当労働行為に該当しない。
イ 本件供給依頼停止は、労組法第7条第1号の不当労働行為に当たるか
上記アで述べたとおり、本件供給依頼停止には、会社ら及びBグループの今後を見据えた経営判断としてやむを得ない合理的な理由があり、組合嫌悪又は組合弱体化の意図によって行われたものであるとはいえない。したがって、本件供給依頼停止が日々雇用組合員にとって不利益な取扱いに該当し得るか否かについて判断するまでもなく、本件供給依頼停止は、労組法第7条第1号の不当労働行為に当たらない。
(3) 本件団交における会社らの対応は、労組法第7条第2号の不当労働行為に当たるか
ア X2組合が申し入れた本件団交の議題は、いずれも、日々雇用組合員の労働条件その他の待遇に関する事項で、かつ、会社らにおいて処分や説明が可能なものであるから、義務的団交事項に当たる。
イ B1社長が団交に出席できない相当の理由がある状況において、会社らの役員であるB2取締役が出席し、B1社長と連絡を密にした上で自らの見解も述べつつ、実質的な交渉に応じていたというのであるから、本件団交においてB2取締役に実質的交渉権限がなかったと評価することは適切ではなく、また、仮にB1社長が団交対応をしていたとしても、会社らの回答等に変化が生じる蓋然性も認められない。よって、B1社長ではなくB2取締役が団交で対応したことが不誠実な対応であるということはできない。
ウ 組合らは、B2取締役は従来の回答を繰り返すだけであったと主張するが、B2取締役は、本件供給依頼停止の理由について具体的に説明しているのであって、C協同組合の決議に従わなければならない旨の従前の回答を繰り返すだけの対応であったとは認められない。また、組合らは、経営状態を裏付ける根拠は示されなかったとも主張するが、B2取締役は、会社らの赤字の状況について具体的な数字を挙げながら説明している。そして、本件団交における全ての交渉内容を検討しても、組合らが、これを超えて更に経営状態の根拠を示すよう求めた様子は窺われない。そうすると、この点に係るB2取締役の対応が、不十分ないし不誠実なものであったと評価することはできない。
エ 以上のとおり、本件団交における会社らの対応については、不誠実であると評価することはできないから、労組法第7条第2号の不当労働行為には該当しない。
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掲載文献 |
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