概要情報
事件番号・通称事件名 |
東京都労委令和3年(不)第43号
三菱UFJモルガン・スタンレー証券不当労働行為審査事件 |
申立人 |
X組合(組合) |
被申立人 |
Y会社(会社) |
命令年月日 |
令和6年6月18日 |
命令区分 |
棄却 |
重要度 |
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事件概要 |
本件は、組合が、組合員Aの解雇の撤回等を要求事項とする団体交渉を申し入れ、団体交渉が計4回実施された後、会社が、更なる団体交渉の申入れに応じなかったことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
東京都労働委員会は、申立てを棄却した。 |
命令主文 |
本件申立てを棄却する。 |
判断の要旨 |
1 団体交渉におけるやり取りについて
(1)本件において、①組合員Aは組合加入前の段階で会社によって解雇され、会社を被告とする民事訴訟(東京地裁平成29年(ワ)第42139号。以下「別件訴訟」)を平成29年12月に提起していたこと、②Aは、本件解雇の発端となった育児休業及びハラスメントの訴えに関する会社対応についての自身の疑問を解決するため、令和元年10月1日に組合に加入したこと、③組合による同年10月4日のAの加入通知あるいは当初申入れの以前から、「本件解雇を撤回すること」、「ハラスメント調査結果の開示と説明」を重要な論点に含む、会社を被告とする別件訴訟が係属中であったことが認められる。
(2)令和3年4月6日付け団体交渉申入れ(以下「本件団体交渉申入れ」)前に4回実施された団体交渉の内容をみると、①組合は、当初申入れにおいて四つの議題を挙げたものの、実質的には「ハラスメント調査結果の開示と説明」のみを議題として、合計約7時間にわたり会社とのやり取りを行っていたこと、②団体交渉と別件訴訟とが並行して進行しており、事実評価など訴訟でAと会社との主張が真っ向から対立している点については裁判所の判断を待つしかないという状況にあったこと、③そのような状況下、会社は、Aが育児休業から復帰した平成28年3月以降の会社の対応の経緯、直属の上司からハラスメントを受けている旨のAによる申告に係る事実関係や人事部の判断並びにこれらに対する組合の疑問や質問について自らの認識を相当程度に説明し、次回交渉において回答を行うこととされた事項についても、次の交渉や書面等で相応の回答を行っており、組合が、それでも納得できないところを繰り返し質問するという状況に至っていたことがうかがわれる。
(3)これらの事情を踏まえると、会社は、4回実施された団体交渉において、「ハラスメント調査結果の開示と説明」について、組合の理解を得るべく相応の対応を行っていたとみるのが相当である。
2 本件団体交渉申入れと会社の対応について
(1)会社は、令和2年6月22日の第4回団体交渉において、組合に対し、「Aの個別事案に関する同じような内容の事実確認の議論が何度も繰り返されている状況であることから、提出書面の内容が双方の見解の相違を確認するにとどまるものである場合は、今後の交渉を継続するかどうかも含めた検討になる」旨を伝達した。
また、組合が、令和2年9月17日付書面で更なる団体交渉の実施を求めたことに対し、会社は、組合書面の内容を検討したが従前の会社回答が変わるものではない旨、過去4回の交渉と同一の内容を繰り返すものとなっており、これ以上の団体交渉を行う意義を見い出しかねる旨などを回答し、同年11月17日付けの団体交渉申入れに対しても、同旨内容を回答した。
上記1のとおり、会社が、4回実施された団体交渉において相応の対応を行っており、組合が同じ質問を繰り返す状況に至っていたことを踏まえると、会社が、団体交渉を更に継続する必要性について疑問を抱き、同一の内容を繰り返すものであれば交渉継続の必要性を認めない旨の回答を複数回にわたり組合に伝達したことには相応の根拠があったと認められる。その一方で、令和2年6月の第4回団体交渉後から3年4月の本件団体交渉申入れまでの間に、組合が従前と異なる内容を含む交渉の実施を求めた事情は認められず、組合が、交渉を進展させるべく対応したということはできない。
(2)加えて、①自身のハラスメントの訴えに対する会社の対応に問題がある旨を別件訴訟において主張しているAが、4回全ての団体交渉に出席し、一貫して会社の対応に問題がある旨の発言を繰り返しており、②組合も、第1回団体交渉において本件解雇の撤回及び職場復帰を支援していく旨や、第4回団体交渉において人事部の対応を批判する意見及びハラスメントのない安全な職場を作るという観点で会社が反省してほしい旨を述べるなど、会社の対応に問題があるという姿勢のもとに交渉に臨んでいることがうかがわれる一方、③会社は、同人に対するハラスメントはなかったという認識であったこと、④4回の団体交渉におけるやり取りを経ても、同人及び組合と会社との認識の差が埋まるには至らず、⑤本件団体交渉申入れの約1年前の段階で、東京地裁が会社の上記認識を支持する別件訴訟の判決を言い渡したが、同人が控訴して別件訴訟がなお係争中であったことから、本件団体交渉申入れ時点において、これ以上交渉を重ねても労使いずれかの譲歩によって交渉が進展する余地はなかったとみるのが相当である。
(3)以上の事情を考慮すると、会社が、令和3年4月21日付けで交渉再開を要しないものと判断しているなどとする回答(以下「本件会社回答」)を行ったことは、当時の状況下において無理からぬ対応であったといわざるを得ない。
3 組合の主張について
(1)組合は、会社が未回答課題に回答することなく、一方的に団体交渉を打ち切った旨を主張する。
しかし、①本件会社回答を行ったことは当時の状況下において無理からぬ対応であったことや、②Aが育児休業から復帰した平成28年3月以降の会社の対応の経緯、直属の上司からハラスメントを受けている旨のAによる申告に係る事実関係や人事部の判断並びにこれらに対する組合の疑問や質問について会社が自らの認識を相当程度に説明していたことなどが認められ、③このほか、会社が組合の質問等に未回答であったと認めるに足りる具体的事実の疎明はなく、組合の主張は採用できない。
(2)組合は、本件団体交渉申入れにおいて要求したハラスメント社内規定及びAの申告に関する報告文書を会社が提示すべき旨を主張する。
しかし、①会社が、第1回団体交渉において、ハラスメント対応に関する人事部の調査手続や対応策に係る一般論を説明していることや、人事部による調査結果をAとの面談において伝達し、Aに伝えなかったという事実そのものがないと回答していることなどが認められ、加えて、②別件訴訟において、ハラスメントの調査結果文書について、専ら会社内部の者の利用に供する目的で作成され、外部の者への開示が予定されていない文書であるとして、Aによる文書提出命令申立てが却下されていること、③令和2年4月の別件訴訟第一審判決において、本件解雇が有効であるとの判断が示されていたこと(なお、この判断は、控訴審判決でも維持され、5年2月の最高裁決定により確定している。)を考慮すると、組合が求める資料を会社が提示していないことをもって、会社の対応が不誠実であるとはいえず、組合の主張は採用できない。
4 結論
以上のとおり、会社が本件会社回答を行ったことは当時の状況下において無理からぬものであり、会社が本件団体交渉申入れに応じなかったことが正当な理由のない団体交渉の拒否に該当するということはできない。 |