労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  大阪府労委令和5年(不)第53号 
申立人  Xユニオン(組合) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和6年8月16日 
命令区分  全部救済 
重要度   
事件概要   本件は、組合が、組合員A2及びA3が会社役員等との面談後に心身不調になったとし、団体交渉において治療費、休業補償等に係る要求を行ったところ、会社が、両名に対し債務不存在確認請求訴訟を提起し、争訟の場面が裁判所に移行したことを理由に、2回目の団体交渉を拒否したことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 大阪府労働委員会は、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、団体交渉応諾及び文書手交を命じた。 
命令主文  1 会社は、組合が令和5年7月1日付けで申し入れた団体交渉に応じなければならない。

2 会社は、Xユニオンに対し、下記の文書を速やかに手交しなければならない。
 年 月 日
Xユニオン
 執行委員長 A1様
Y会社        
代表取締役 B1

 当社が、貴組合から令和5年7月1日付けで申入れのあった団体交渉に応じなかったことは、大阪府労働委員会において、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると認められました。今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。 
判断の要旨  ○令和5年7月1日付けの団体交渉申入れ(以下「本件団体交渉申入れ」)に対する会社の対応は、労働組合法第7条第2号の不当労働行為に当たるか(争点)

1 会社が団体交渉を拒否したといえるか

 ①組合が、令和5年5月29日の会社役員とA3との面談及び同年6月2日の会社役員とA2との面談について、同年6月2日付け及び6月10日付けで団体交渉を申し入れ、同年6月13日に団体交渉が行われたこと、②組合が、同年7月1日付けで本件団体交渉申入れをしたのに対し、会社が、(ⅰ)同年7月7日付け回答書において、現時点で第2回目の団体交渉を実施するには時期尚早と考えている旨回答し、(ⅱ)同年7月14日付け回答書では、争訟の場面が裁判所に移行した以上、別途団体交渉をすることは現時点ではできかねる旨回答したことが認められる。
 これらから、本件団体交渉申入れについて、会社が団体交渉を拒否したことは明らかである。

2 本件団体交渉申入れの事項は義務的団体交渉事項に当たるか

(1)本件団体交渉申入れの要求事項は、令和5年6月13日の団体交渉及び同月19日付け要求書での組合の要求を前提とするものであって、A3組合員については、①副業に係る社長ら3名との面談によって勤務できなくなったことに係る謝罪及び再発防止の誓約、②治療費、休業補償及び退職後の生活保障等としての解決金の支払、③会社都合の離職票の交付であり、また、A2組合員については、副業に係る社長ら3名との面談による心身の不調及び会社の訴訟提起により勤務できなくなったことに対する補償としての解決金の支払であった。
 これらはいずれも組合員の労働条件その他の待遇に関する事項であり、義務的団体交渉事項である。

(2)この点、会社は、組合が団体交渉を求めている事項は〔会社役員等との面談後のA2及びA3の心身不調に関わっての〕パワハラ行為に基づく損害賠償請求の有無であって、労働条件その他の待遇や当該団体的労使関係の運営に関することを内容とする義務的団体交渉事項ではない旨主張する。
 しかし、①この主張は、最終陳述において初めてなされた、時機を逸した主張である上、②本件団体交渉申入れにおける組合の要求事項は、業務に係る社長らとの面談で生じた両組合員の体調不良について会社としての対応を求めたものであって、組合員の労働条件その他の待遇に関する事項であることは明らかである。

3 会社が団体交渉を拒否したことに正当な理由があるか

 会社は、①会社にパワハラ行為〔上記2(2)〕はなかったことから、両組合員に対する不法行為に基づく損害賠償責任を負わないこと、②会社は組合に対してパワハラ行為の主張立証を求めたが、組合はこれをしなかったこと、③パワハラ行為の有無は現在訴訟において審理されていることからすれば、会社は団体交渉を行う必要はなく、組合との団体交渉を拒んだことは正当な理由がないとはいえないと主張するが、以下のとおり、いずれも、団体交渉を拒否する正当な理由とはいえない。

(1)上記①については、団体交渉の当事者の一方である会社が、自らにパワハラ行為はなく、両組合員に対する不法行為に基づく損害賠償責任を負わないと考えたことをもって、団体交渉応諾義務が免ぜられるものではないし、②については、パワハラ行為の有無については、団体交渉の中で協議することができるのであって、団体交渉に先立って組合がその主張、立証をしなければ、団体交渉が行えないというものではないから、いずれも団体交渉に応じない正当な理由とはいえない。

(2)③については、そもそも、団体交渉と訴訟はそれぞれ自的・機能を異にするものであって、団体交渉議題について訴訟が行われている場合でも、団体交渉での自主的な解決は可能なのであるから、団体交渉議題について訴訟が行われていることは団体交渉に応じない正当な理由とはいえない。

(3)しかも、本件の場合、会社は、団体交渉の継続中に、組合の要求について、個別の組合員を被告として訴訟を提起していることが認められ、そうした自らの行為を団体交渉拒否の理由としているのであって、かかる会社の行為は、団体交渉の相手方としての組合を軽視するとともに、組合との交渉を回避しようとしたものと評価するほかない。

4 なお、会社は、会社が団体交渉に応じる必要がない事項であるにもかかわらず、過大な請求や威圧的な告知をする組合の行為は、極めて不誠実な団体交渉の対応であって、団体交渉権の範囲を逸脱又は濫用していると言わざるを得ないとも主張する。
 しかし、この主張は、最終陳述において初めてなされた、時機を逸した主張である上、本件団体交渉申入れの要求事項が義務的団体交渉事項であるから、会社が団体交渉に応じる必要がない事項とはいえず、会社の主張は前提を欠く。

5 以上のとおりであるから、本件団体交渉申入れに対する会社の対応は、正当な理由のない団体交渉拒否に当たり、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為である。 

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